スマートメーター拒否すると10年ごとに44,000円?! エネ庁がオプトアウト有料化方針を決定

 経済産業省資源エネルギー庁(エネ庁)は、スマートメーターをオプトアウト(拒否)する需要家(電力消費者)に対して、44,000円を徴収する有料化方針を決定しました。拒否をし続けると、メーターの交換(一般的には10年ごと)のたびに44,000円を徴収し続けるとのことです。経済産業大臣の諮問機関の下に置かれている委員会[1]で決定されたのですが、同庁電力・ガス事業部電力産業・市場室のT室長補佐に電話で尋ねたところ、上部機関で改めて審議する予定はなく、市民からパブリックコメントを募集する予定もなく、これで決定ということです。有料化開始後は、一般送配電事業者[2]の約款[3]に、追加料金を取ることが盛り込まれるとのことです。電磁波により健康影響が出る需要家や、30分ごと(今後はもっと細かく)の電力仕様量情報を知られたくない需要家に不当な金銭的負担を課すものであり、到底容認できません。

有料化方針に4年前にも抗議

 スマートメーターのオプトアウト(拒否)については、同省の「次世代スマートメーター制度検討会」(当時)が2021年2月に示した「中間とりまとめ」に、「オプトアウトの権利を認めるとともに、選択に伴う追加コストは需要家に求めるべきという点について(検討会メンバーの)合意を得た」「具体的な手続きや金額、開始時期等について、今後その対象や方法も含めエネ庁の審議会等において議論を進める」ことが盛り込まれました。当会は、エネ庁の担当者に対して、「スマートメーターを選ぶか選ばないかは、需要家の権利だと私たちは考える。スマートメーターを拒否する人を例外扱いして追加料金をとることは納得ができない」と直接伝えました(会報第130号)。
 それから4年後、今年2月28日の委員会にエネ庁が有料化を提案する資料(以下「エネ庁資料」と言います)を提出し、そのまま承認されたとのことです。エネ庁資料はウェブサイトで公開されています[4]。

今年度からの「第2世代」で電波が増える

 スマートメーターは、第3次エネルギー基本計画(2010年6月閣議決定)に、原則としてすべての需要家に導入することが盛り込まれ、2014年から設置が始まりました。エネ庁資料によると、低圧部門(家庭や小規模事業者)のスマートメーターについては、一般送配電事業者10社のうちの1社である沖縄電力のエリアにおいて今年度末に設置が完了することをもって、全国で設置が完了する予定です。
 スマートメーターは需要家の30分ごとの電気使用量データを電力会社へ送信します。ほとんどのスマートメーターは電波で送信します。もっとも普及している通信方式は、近隣のメーターどうしで通信してバケツリレー式にデータを受け渡しするものです。したがって、電波を送信する頻度は30分より1回よりはるかに多くなります。国はこの電波の強さは国の指針を下回っているから健康影響はないと言いますが、現実にスマートメーターを設置された後に体調を崩し、アナログメーターへの再交換などの対応によって体調が回復したという事例は少なくありません。
 そして、今年度からは、次世代(第2世代)スマートメーターへの交換が開始され、2030年代早期までに原則すべての需要家に導入することが、第7次エネルギー基本計画(今年2月18日閣議決定)に記されています。従来のスマートメーターは30分ごとの電力使用量データを電力会社へ送っていますが、第2世代では一部の需要家について5分ごとの電力使用量データも送るため、スマートメーターの通信頻度が従来より増え、電波も増えます。電磁波で体調を崩す方々にとっては、より脅威になるのです。

スマートメーター拒否は4万件

スマートメーター拒否件数=エネ庁資料から

 全国のスマートメーター設置台数8150万台に対して、設置拒否件数は、約4万件(約0.05%)に達しています(2023年度末)。スマートメーターの設置数が多く、他のエリアより早期に設置が完了した東京電力パワーグリッドのエリアでは、特に拒否件数が多くなっているとともに、設置完了後も継続的に拒否が増加しています(グラフ)。エネ庁も、一般送配電業者も、スマートメーターを拒否できるという案内はしておらず、マスメディアもスマートメーター拒否について、ほぼ報道していません。にも関わらず、拒否が4万件もあることに、エネ庁や電力事業者は正面から向き合うべきです。
 なお、エネ庁資料では、現在スマートメーターを拒否している需要家をオプトアウト「状態」と呼んでいます。有料化開始をもって正式なオプトアウト「制度」の開始と位置づけているようです。
 需要家がスマートメーターを拒否したときの“問題点”として、エネ庁資料は、以下のことを列記しています。
 まず、一般送配電事業者に、通信部外しなどの工事や、検針員による検針など、拒否していない場合には必要のない業務が生じます。
 また、東日本大震災のときはスマートメーターではなかったので、電力不足への対応として地域ごとに計画停電させましたが、スマートメーターが普及した現在以降においてこのような有事があった場合は、スマートメーターの遠隔操作機能によって各家庭等のスマートメーターの設定を変更し、使用できるアンペア数を下げて電力使用量を抑制することによって、計画停電をせずに電力不足に対応することが想定されています。この時、スマートメーターを拒否をした需要家は遠隔による使用制限を受けることなく電気を利用できるので不公平だと、エネ庁資料は述べています。

10年間で44,000円の根拠

 エネ庁資料は、オプトアウト1件当たりの追加コストは10年間で12万~26万円程度と試算。これは、①オプトアウトの申込受付処理、②通信部取り外し工事、③検針、④オプトアウトの料金請求、⑤オプトアウト終了時の復元工事、⑥検針のための移動-の各業務にかかる費用を一定の仮定のもとに算出、合計した金額です。
 26万円は、需要家へ請求する金額としては、さすがに高額すぎるし、それを月割りで請求する場合でも、10年分を一括で請求する場合でも、一般送配電事業者側の大幅なシステム改修が必要になります。
 そこで、エネ庁は、オプトアウトで発生する実費の全額ではなく、その一部を金額一律の「事務手数料」として請求することを提案しました。すなわち、上記の各費用のうち⑤⑥は対象となるコストの特定が困難であるため、①~④についてを対象とし、しかもメーター交換期間の10年間分ではなく、入居期間が比較的短い単身世帯の賃貸での平均入居期間である3年間分について請求するというものです。この考え方だと、電力各社によって44,000~84,000円程度になるので、低い方に合わせて全国一律44,000円にしたとのことです。

オプトアウトの受付方法

 エネ庁資料によると、オプトアウトは、需要家が契約している電気小売事業者がOKの場合のみ行うことができ、一般送配電事業者が需要家に直接請求書を送付。オプトアウトの追加料金を需要家が支払った後に、オプトアウトに係る工事(通信部外しなど)を行います。

有料開始は2028年4月1日

 エネ庁資料は、すでに「オプトアウト状態」となっている需要家が存在することから、オプトアウト制度の開始までには経過措置期間を設けることが必要であるとし、開始日を3年後の2028年4月1日としています。同日時点でオプトアウト状態にある需要家には事務手数料を請求し、現在拒否している需要家であっても同日までに拒否を中止し遠隔検針等を受け入れれば、事務手数料の負担を求めない、としています。

アナログメーターは認めない?

 需要家がスマートメーターのオプトアウトを希望した場合の具体的な対応策として、①旧型計器(誘導型=アナログメーター)への取り替え、②スマートメーターの通信部を外すという二通りの対応が選択肢となり得えますが、現在は各一般送配電事業者の判断や在庫状況等により対応が統一されていない、とエネ庁資料は述べています。そして、主要な計器メーカーにおいてアナログメーターの新規生産がなされていないことを理由に、オプトアウト制度導入後については、②の対応に統一するとしています。ただし、スマートメーターの仕様変更等が発生した場合には、通信部の取り外しに限らずより効率的な方法に見直すこととする、としています。

車椅子の障害者は駅員に追加料金を払え?!

 米国では、電磁波過敏症である需要家からオプトアウトのための追加料金を徴収するのは「障害を持つアメリカ人法(ADA)」に違反すると需要家が裁判所で主張した結果、電力会社がオプトアウト料金をこの需要家へ返還したという例があります(会報第130号参照)。障害者である電磁波過敏症の方へオプトアウト料金を請求するのは、車椅子の障害者が電車の乗降の手助けを駅員にしてもらうときに追加料金を支払え、というのと同じであり、時代に逆行しています。
 また、30分ごとの電力使用量データを、一般送電事業者は当たり前のように取得していますが、このデータはプライバシー情報であり、そもそも一般送配電事業者は需要者からデータを提供していただいている立場のはずです。データを提供したくないという理由でスマートメーターを拒否する需要家から追加料金をとるのは、論理が転倒しています。第2世代スマートメーターでは5分ごとの使用量というさらにプライベートな情報も電力会社へ提供されます。
 オプトアウトによって生じる追加費用をオプトアウトした需要家が支払わないと、オプトアウトしていない需要家もその費用を負担することになり不公平だと、エネ庁は言います。しかし、電気という生活に欠かせないインフラを担う事業者は、どのような事情を持つ需要家へも、あまねく公平に電気を供給する義務があります。山奥の“ポツンと一軒家”であっても、ふもとからそこまで延々と送電線を引くのが大変だからと、追加料金をとることはあり得ません。このことはだれよりも、エネ庁自身がよく知っているはずです。オプトアウトする需要家から追加料金をとることは、閣議決定されたエネルギー基本計画という国策に従わない者への見せしめのように映ります。
 有事の際にオプトアウトをした者だけが電力供給の制限を受けないのは不公平とのことですが、10年に1度あるかないかの場合の「不公平」に目くじらを立てることと、日常的な体調不良から需要家を守ることの、どちらが重要でしょうか。
 そもそも、スマートメーターには「Bルート」という家庭内の電気機器などと通信するための機能がもれなく内蔵されており、その分、スマートメーターの価格は割高になっています。このBルートは、ほとんど利用されていません。2019年末までのBルートの申込率は0.06%に過ぎません[5]。2019年末は約5年前という古いデータですが、それ以後に爆発的に普及したという話も聞きません。Bルートを普及させたいという国や電力会社の一方的な思惑のために、不必要に高いメーター価格を全ての需要者が負担させられていることのほうが、スマートメーターを使えない、拒否したい方々との「不公平」より、よほど問題ではないでしょうか。Bルート機能はオプションにして、Bルートを使いたい需要家から追加料金をとることにしたほうが、よほど公平です。
 有料化方針を撤回させるため、皆様とともに取り組みたいと思います。【網代太郎】
 
[1]総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会
[2]電力小売自由化により、旧来からの電力会社(東京電力、関西電力など全国で10社)以外の事業者が電力を小売できるようになった。しかし、送配電(検針を含む)は地域ごとの10社(東京電力パワーグリッド、関西電力送配電など)独占のまま。この10社のことを一般送配電事業者という
[3]約款とは、事業者が不特定多数の顧客などと同じ契約をする際に用いる定型的な契約条項のこと
[4]第86回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会
[5]三菱総合研究所「次世代スマートメーター導入に向けた論点について」2021年2月18日

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