(ここに示された文章は、<『ムー』2002年11月号 緊急レポート 文=中野雄司>より、電磁波問題市民研究会が抜粋したものです)


<あなたを蝕みつづける電磁波被曝の恐怖>

文明の発展とともに、生活の周りを埋めていく電気製品。
だが、便利さと引き換えに、そこに新たな危険が生じている。
それは、われわれの健康を脅かす電磁波の恐怖だった!

発ガン率が2倍に!衝撃の新事実発覚!

 その新聞記事が発表されたのは、本年8月末のこと、おりしも日本列島は、記録的な猛暑に襲われ、日本中がうだるような熱気にあえいでいた。が、記事の内容は、読む者の背筋にいきなり冷水を浴びせかけるものであった。真夏だというのに、心の寒暖計は一気に急降下させられたのである。
記事の一部を紹介しよう。
「高圧送電線や電気製品から出る超低周波の電磁波(平均磁界0.4マイクロテスラ以上)が及ぶ環境では子供の白血病の発症率が2倍以上になる、という調査結果が、国立環境研究所などによる初の全国疫学調査の中間解析の結果で出ていることがわかった。電磁波と発症の因果関係は明確ではないが、世界保健機関(WHO)などは昨年、電磁波で小児白血病の発症が倍増するという同じ結果を発表している。今後、日本でも欧米並みの電磁波低減対策を求める声が出る可能性もある・・・」(8月24日付「朝日新聞」より)
 なんと白血病の発症率が2倍以上に!
 戦慄的な調査結果である。

 これまでモヤモヤとした形でしか語られてこなかった電磁波の恐怖が、ついに白日の下にさらされた。電磁波が人体に及ぼす恐るべき影響が、科学的な数値として認められたのである。
 しかも、その数値は、わが国の公的な機関によって認められたものだということに注目してほしい。これまで、電磁波が人体に及ぼす影響については、言を左右にして口を濁しつづけてきた国が、ここに至ってついにその危険性を認めたという事実は限りなく重いといわざるをえない。
 だが−−この調査結果がスムーズに、すなわち国民の健康の安全を願って積極的に公表されたものなのかというと、どうも違っているようなのである。

「これは朝日新聞の見事なスクープなんです。というのも、科学技術庁(現・文部科学省)は1999年度から2001年度の3年間に調査を終了していたのに、結果をすぐ発表しなかったんですよ」
 意外な事実を語ってくれたのは、電磁波問題市民研究会事務局長の大久保貞利氏だ。
「もともと日本は電磁波に関する疫学調査はやりたくなかったんです。ちゃんとした数字は出したくない。というのも、これまで国は電磁波が健康へ影響を及ぼすことをずっと否定してきたという経緯があるからです。
 しかしWHO(世界保健機構)が国際的な調査の一貫として日本に勧告を出してきたので、しぶしぶやらざるをえなかった。
 で、仕方なく調査してみると、案の定、白血病のリスクが2倍になるという恐ろしい数字が出てきた。こいつはマズイ、と(苦笑)。
 実際、中間解析結果なら、もっと早く発表できたはずです。それなのに国は怠ってきました。8月24日に朝日がスクープ記事を出すまで、私たちも知らされることはなかったわけですから」
 これが事実だとすれば、なんともやりきれない気分に陥ってしまう。私たちの健康に重大な影響のある事実さえも、国民の目から隠そうというのか。国や官僚の隠蔽体質は、そこまで根が深いものなのか・・・。

生活の場にあふれる強力な電磁波

 とはいえ、いたずらに落ち込んでばかりもいられない。重大な事実が明らかになった以上、私たちはまず、自分たちの手で身を守らねばならないのだ。
 私たちの周囲にあふれかえる恐るべき電磁波の影響がら、どうすれば逃れることができるのだろうか。いや、その前に、まず白血病の発病リスクが2倍になるという0.4マイクロテスラ(4ミリガウス)の電磁波とは、どのようなものなのかを知る必要がある。
 さらに問題は、平均的な日本人の生活の場において、私たちはどのくらいの強さの電磁波に囲まれて暮らしているのか、ということだろう。
 が、これがまたややこしいのだ。「平均的な日本人は・・・」などと、おいそれと十把一絡げにできるものではない。
 たとえば、住宅と送電線との距離。あるいは近くに変電施設があるかどうか。また家庭内における家電製品の数や種類・・・電磁波の強度が変化する要因は数限りなくある。
 さらに電磁被の強さは、その距離の2乗に反比例するという特殊性も考慮に入れなければならない。
 たとえば、発生源から1メートルの距離で1ミリガウスの電磁波が計測されたとしよう。半分の50センチに近づくと、これが4倍になるので4ミリガウス。そのまた半分の25センチの距離に近づくと、さらに4倍の16ミリガウス。以下、半分に近づくごとに32、64、128ミリガウスとその電磁波は急カーブを描いて強度を増していく。
 つまり、同じテレビを見る場合でも、画面から30センチ離れている人と1メートル離れている人とでは、浴びる電磁波の強さは約10倍近くも差が出てしまうことになるわけだ。このわずがな距離の差が、大きな変動値となってしまうのである。
 ただ、それでもひとつだけはっきりいえることがあるとすれば、それは、新聞記事で取り上げられた「4ミリガウスの電磁波強度」など、日常生活のなかではごくごく微弱なレベルにすぎないということだ。
 参考までに、一般的な家電製品の電磁波強度の計測例を一部紹介しておこう。

●テレビ=1メートルの距離で2.3ミリガウス
●電子レンジ=50センチの距離で14.6ミリガウス
●電磁調理器=30センチの距離で29.3ミリガウス
●パソコン=50センチの距離で1.9ミリガウス
●電気毛布=密着状態で7.7ミリガウス
●蛍光灯=15センチの距離て16ミリガウス

 もちろんメーカーや機種、さらには計測器によっても値は大きく変動するので、あくまでも参考例として見てほしいのだが、いずれにしてもこれらの数値を見る限り、4ミリガウス前後の電磁波など、私たちは日常的に浴びているということになる。
 にもかかわらず−−4ミリガウスという微弱なレベルの電磁波で発ガンリスクが2倍以上になると、国立環境研究所はいう。これは、ある意味べらぼうな数字である。そんな極端な調査報告が本当に信用できるものなのだろうか?
 いや、実は恐ろしいことに、世界的に見れば、これはごく当たり前の数字だったのである。
 今回の報道で大きな話題になったのは、これまで危険性を認めようとしなかったわが国でさえ、認めざるをえないところまできてしまったということにすぎない。
「4ミリガウス=危険領域」というのは、すでに世界の常識だったからである。
 再び大久保氏に話を伺う。

「今回の4ミリガウスで発ガンリスクが2倍という数値はかなり信用できるものだと思います。というのも、昨年の3月に英国の放射線防護局(NRPB)が同じような専門委員会を設け、同じような調査を行ったのですが、そのときの結論が、奇しくも今回と同じ4ミリガウスで発ガンリスクが2倍という数字でした」
 しかも、この調査委員会のチーフとして腕を振るったのば、リチャード・ドール博士。疫学調査においては文句なしに世界一の権威として認められている人物だ。
 たしかにイギリスと日本。遠く離れた国で調査サンプルも違っているのに、ほぽ同じ結果が出たということは、かなり信憑性の高い数字といわざるをえない。
「このドール博士の調査結果を受けて、WHOの下部機関である国際ガン研究機関(IARC)は、2001年6月に、極低周波電磁波の危険ランクを2B(発ガン可能性あり)というランクに位置づけました。しかもこの決定は参加国10カ国21名の専門家、全員一致で決められたのてす」
 ちなみに、2Bより上のランクにはPCBやホルムアルデヒドなどの2A、ダイオキシンやアスベストなどのが並ぶ。
 いわば発ガン危険番付において、電磁波はまだ三役入りしたばかりというところ。しかし、上位との差はほんのわずかだ。今後の調査・研究次第で、大関や横綱にまで昇りつめる可能性を秘めているかもしれないのだ。

地中に埋められた変電所の恐怖

 そもそも、電磁波が人体に及ぼす危険性が社会に広く認識されるようになってから、まだ日が浅い。もちろん、専門家・研究者の間では1970年代からその危険性は指摘され、さまざまな研究・調査が行われてきた。
 が、一般の人々が危険性を認識しだしたのは、ごく最近といってもいいだろう。
「社会に与えたインパクトという意味では、有名な「メドウ通りの災厄」事件が大きかったのではないでしようか」
 と語るのは医学博士の中原英臣教授である。
「この事件は、米コネチカット州ギルフォードという町のメドウ通りに住んでいた17歳の少女が、ある日突然、脳腫瘍で倒れたことから始まります。しかし、少女を襲ったこの悲劇も、実はさらなる恐るべき災厄の前触れでしかなかったのです・・・」
 中原教授の説明によれば、そのときからメドウ通りに暮らす人々に、次々と悪夢のような事件が降りかかかる。
 少女が倒れた翌年、別の女性が脳腫瘍で死亡。さらに9歳の男の子が脳腫瘍となり、視神経の悪性腫瘍で失明する若い女性もいた。
 ひとつの家族に集中して悲劇が見舞ったケースもある。ウォルストン家では48歳の父親が脳腫瘍にかかる。祖父も脳腫傷で死んでいる。娘は13歳で膝に腫瘍ができる。妻は腕や足にはい腫ができ、頬にも腫瘍ができた。
 また、脳腫瘍にならないまでも、ほとんどの住民は慢性的な頭痛に悩まされていたという。
「この異常事態に着目したのが、世界で初めてアスベスト公害を告発したことで有名なジャーナリストのポール・ブロダー氏でした。彼はメドウ通りにある変電所と高圧送電線に疑いの目を向けます。ちょうどそれ以前から変電所にかかる電圧が急激に高まっていたのです。ブローダーはメドウ通りの電磁波を測定してみました。その結果、なんと驚くべきことに、そこでは20〜100ミりガウスもの強い電磁波が測定されたのです」
 ポール・ブローダーは自ら調査した結果を「メドウ通りの災厄」というタイトルの長い記事にまとめ、1990年7月の「ニューヨーカー」誌に発表した。
 この記事の反響は凄まじいものがあった。全米各地で、変電所や送電線の近くで暮らす人々から、科学的な調査を求める声が上がったのだ。たとえば、カリフォルニア州のモンテンシドユニオン小学校では、なんと普通の学校と比較して子どもたちのガンの発生率が100倍にものぼることが明らかになった。恐ろしいことに、この小学校は変電所に隣接していたのである。
 もちろん、現在では、私たちも変電所や送電線がなんとなく危険そうだということは、ボンヤリとではあるが認識している。できれば、その近くにはあまり近寄りたくないと思っている。
 が、問題はそう簡単ではない、と中原教授は指摘する。
「問題は目に視えない危険が増えているということです。最近では、変電所は地下に設置されるケースが多いからです。実際、東京23区内では40パーセントの変電所が地下に設置されているのです。電磁波は地面やコンクリートを通り抜けていきますから、私たちは知らないうちに、地面の下から相当な電磁波を被爆している可能性があるというわけです」
 中原教授によれば、最近では、寺院や教会の下に変電所が建設されるケースも増えているという。等価交換て、地上の建物を建て直す代わりに、地下に変電所をつくらせてもらうというケースだ。
 しかも恐ろしいことに、そうした寺院や教会の中には、幼稚園を経営しているところがある。
これは怖い話だ。
 また目に視えない危険性ということでは、さらにやっかいなものが登場してきた。いま都心を中心にものすごい勢いで増殖している無線LANの恐怖である。
 無線LANとは、持ち運びできるパソコンとホットスポットと呼ばれる中継墓地を結び、高周波の無線でインターネット接続できるという仕組みだ。いってみれば携帯電話と中継基地局の間を飛び交う電磁波を数十倍に出力を上げ、さらに特定のエリアにギュギューッと圧縮したようなものと考えてもらえばいい。
 NTT各社(東日本、西日本、ドコモ、コミュニケーション)、KDDI、JR東日本、ヤフーBBなど大手から、独立系のベンチャ−企業まで十数社がいっせいにサービスを始めようとしているのである。

街中で電磁波が人々に降りかかる

 もちろん、無線LANの利便性はいうまでもないし、利用者にしてもその危険性を認識して利用するのならかまわない。問題は、そこを訪れた一般の人々が、何も知らないまま高出力の電磁波を浴ぴせがけられてしまうケースが発生するということなのだ。
 実際のところあなたは、現在、ホットスポツトがどこに設置されているかご存じだろうか。
 それは想像以上に多岐にわたる。たとえばターミナル駅、ホテル、オフィス街、さらにレストラン、コーヒーショップ、ファーストフード店・・・。
 この事業は、ビジネスとしてはいわば黎明期にあたる。そのため、各社とも少しでも多くのシェアを得ようと、猛烈な勢いでホットスポットを広げつつある。
 とくにターゲットになるのは若者が集まる場所て、それは絨毯爆撃のようだともいっていい。
 そう、放課後、友だちとたわいないおしゃべりを楽しんでいる高校生たちが、知らないあいだに強力な電磁波を被曝している可能性もあるのだ。
 同様のことは、携帯電話についてもいえる。場所を問わず電波を飛ばし、より良好な受信状態を得るための強力な中継局の設置は、そのまま街中に電磁波があふれかえることを意味している。
 また、その性質上、直接耳にあてて使用される携帯電話器は、それ自身が強力な電磁波の発生源であるということも忘れてはならないだろう。
 もちろん、筆者とていたずらに危険性を煽るつもりはない。
 実際のところ、電磁波の危険性にしても、そのすべてが明らかになっているわけではないからだ。
 しかし、少なくともこれだけははっきりといえる。電磁波の危険性とは、つまるところ被曝量x被曝時間の問題なのである。
 被曝量ということでは、電磁波の発生源がら少しでも遠ざかれば、危険は大きく減少する。時間については、電磁波を浴びている時間を毎日わずかでも滅らすことで、年間を通してのリスクはかなり軽減するような基本的な危険回避の正しい知識を持つことこそが、なによりも重要なのだ。無知もいけないが、危険を煽るだけの偏った知識も危険であり、科学的な態度で電磁波と向き合うべきなのである。
 そして次に必要なことは、国や電力会社に対して、情報公開を求めていくことだろう。
 冒頭で紹介したように、この国の官僚たちはいまだに隠蔽体質から完全に脱してはいない。
 それを打ち破るためには、私たち国民自身が自らの身を守る強い意志を持ち、国に対して情報の公開を求める声をより大きなものにしていく必要があるのだ。
 あなたの住んでいる街の名前が新たな日本の○○通りの災厄にならないようにすること−−そのためにはは、ひとりひとりが電磁波の危険性について、正しい知識を身につけていく以外に方法はないのである。


<中継基地局からの電磁波規制と高周波の規制値について>
スイス:4.2マイクロW/cm2(電力密度)または4.0V/m(電場強度)
イタリア:10マイクロW/cm2(ただし自治体は2.5マイクロW/cm2
ロシア:2.4マイクロW/cm2または3.0V/m
中国:6.611W/cm2または5.0V/m
ICNIRPl:450マイクロW/cm2
日本:1ミリW/cm2(1000マイクロW/cm2)
ザルツブルク:0.1マイクロW/cm2(オーストリア;提案中)
フオローゲン州:0.001マイクロW/cm2(オーストラリア;提案中)

携帯電話の電波による電磁波については、各国が規制を設けている.注目してほしいのは、日本におけ る基準数値の甘さだ。見て明らかなように、ひと桁どころか、単位そのものが異なっていることがわかる。 私たちは常に、これだけ強い電磁波にさらされているのだ。


<主な家電の電磁波の強さ>
エアコン:20ミリガウス
カラーテレビ:20ミリガウス
電子レンジ:200ミリガウス
携帯電話:200ミリガウス
ヘアドライヤー:70ミリガウス
ビデオ:6ミリガウス
掃除機:200ミリガウス
ホットカーペット:30ミリガウス
電気こたつ:100ミリガウス

ある計測による、おもな家電の 電磁波の強さ。文中でも触れてい るように、測定状況によって数値 は異なるので、あくまでも目安と して見てもらいたい。しかし、家 庭のなかで無数の電磁波が飛び交 っていることは間違いないのだ。


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