電気学会「電磁界報告書」の問題点

荻野 晃也 1999年7月22日

 98年10月30日の日付で、電気学会「電磁界生体影響問題調査特別委員会」(以下「特別委員会」)から、「電磁界の生体影響に関する現状評価と今後の課題」との表題の230ページの報告書(以下「学会報告書」)が出版された。その後の99年1月13日にもなってから、プレス発表を行っている。「電磁界の実態と実験研究で得られた成果をもとに評価をすれば、通常の居住環境における電磁界が人の健康に影響するとは言えない」との結論であり、電気学会誌(99年5月号)でも委員長の関根泰次・東京理科大教授(東大名誉教授)が紹介し、電力会社も大喜びでその結論を宣伝に使用している。購入して読んでみたのだが、「電気学会って一体どんな学会なのだろうか」と複雑な思いになったのである。「特別委員会」には2つの作業部会があり、第一部会の主査が宅間薫・京大(工)教授(電気教室)がなっているのだが、このような教授が電磁波問題に関連している事など、私は今まで全く知らなかった。第二部会の主査は上野照剛・東大(医)教授であり、委員長の関根教授は学術会議会員・電気学会会長の経験のある大ボスなのだそうだから、電気学会上げての「学会報告書」なのであろう。
 98年10月から99年3月にかけて、米国ではラピッド計画の米国環境健康科学研究所(NIEHS)・最終報告書(以下「N最終報告書」)を巡ってロビー活動が激しさを増していた時の事でもあり、「学会報告書」の要約はきっと米国にも知らされた事だろうと思う。電気学会には「国際活動特別委員会」があり、委員の中には「電磁波はこわくない」の著者である田中祀捷・電中研理事もいるからだ。
 電力学会が「特別委員会」を発足させたのは、95年12月である。報告書の作成作業と並行して、「電磁界の健康影響に関するシンポジウム 」を97年7月11日(第1回・東京)から開催している。第2回(98年1月23日・東京)、第3回(98年7月16日・大阪)第4回(99年1月29日・名古屋)、第5回(99年7月13日・広島)と開催し、安全宣伝に必死なのである。98年6月末にNIEHS作業グループの報告書(以下「グループ報告書」)が発表になったが、その直後の第3回シンポジウムでどのように議論されるのか興味があったので出席してみた。電気学会の体質や作成中の報告書の内容を知るのに最適だと思ったからでもある。研究状況を関根教授が、「電磁界の健康影響について」を武部啓・近畿大教授(京大名誉教授)が講演し、第二部の質問コーナは司会が宅間教授で、回答者には笹野隆生・電中研主任研究員、多気昌生・東京都立大教授(現)、宮越順二・京大(医)助教授などが参加していた。
 武部教授の講演は、「電磁波が危険だ」との出版物が「こんなに沢山ある」とリストを見せ(勿論、小生の本も入っている)、TV朝日の「ザ・スクープ(95年3月放映)」ではこんな間違いを放映していると指摘し、誤訳のビデオが反対派のバイブルのように出回っているのが問題だと批判していた。確かにミスではあろうが、全体の流れで考えればそんな大きな相違とは私には思えないのだが、武部教授にとっては我慢が出来ない事だったらしい。何度も武部教授の「ザ・スクープ」批判を聞いている私だが、98年9月14日のチューストンで開催された第1回「グループ報告書」公聴会でも同じ事を陳述しているのには驚いてしまった。私から見ると、全米科学アカデミー・研究評議会報告書(96年10月)や米国立ガン研究所報告(97年7月)などが日本のマスコミなどで、「影響がない」かのように誤報道されている事の方がより重要だと思うのだが、武部教授がそれらについて批判した事は聞いた事がない。疫学研究を紹介したのも武部教授だが、ヒロシマの被曝者のガン発生や塩・摂取による胃ガンの増加などの話しをした後で、「Prudent Avoidance で塩の摂取を止めますか」とまで発言するのには驚いてしまった。「塩の多量摂取が健康に悪い」ことは常識になっているからこそ「摂取を減らす」との Prudent Avoidance を行っているのである。「電気の使用を止めよう」というのではなく、塩と同じように減らすことが可能であるにもかかわらず、「安全だ」との建て前で平気で被曝をさせ続けている事が問題なのである。第2部の解説コーナで「グループ報告書」の質問に答えていたのは笹野氏であった。国際ガン研究機構(IARC)の分類法に従って「グループ報告書」が作成されたのだが、「分類2B(可能性あり)」の中には「わらび、コーヒ、DDT、ガソリン排気ガス」などがあり、その分類に今回「電磁場」が含められたのだ。「分類2A(可能性が高い)」には「紫外線」があり、「分類1(ガンの原因)」には「アスベスト、ダイオキシン」があるが、それらに比べると「2Bは大した事がないのだ」と言わぬばかりの発言であった。「100%明らかに証明されたわけではない」ことは、私も言っていることなのだが、これだけ危険性を示す研究がある以上は、送電線下に家の密集しているようなこの日本こそ率先して「慎重なる回避(Prudent Avoidance)」が必要なのである。「明か」になってからでは遅いからだ。
 会場からの質問で、電力会社の人から「(グループ)報告書に困っている。例えばガウス・ネットワークなどが利用しているからだ。それについてはどう答えたら良いのか?」との質問があったのだが、司会の宅間教授は「そのような質問を想定して、笹野さんに答えて頂いたし、武部さんの話しにもなっている」と答えるのみだった。彼らも困っていて、電力会社の一番知りたい事に「答える事すらできないのだなー」と思ったことである。それではまずいと思ったのだろうか、多気教授が回答に立ち「NIEHSの中には疫学者が多い」「疫学には意味がないとは言わないが、生物学的データではネガティブなものが増えている。私は疫学はあいまいだと思うし、尺度の取り方も高い値が出る。しかし疫学者からすれば(危険性が)あり得ることになる」と述べていた。環境ホルモンでもわかることだが、現在ほど「疫学の重要な時はない」と私は確信しているし、IRACも疫学を重視している研究機構なのである。「疫学を軽視する」多気教授が日本の代表として国際会議などに出席しているのだから驚いてしまう。それだからこそ郵政省などから重宝がられているのであろうか。多気教授に続いて宮越助教授も発言し、「報告書の出る1週間前にフロリダ(のBEMS国際会議)にいた。その時の感想だが、EMF(電磁場)のHealth Hazard(健康被害)研究は終わったように思う。これからは Medical Application (医学応用)の方へ行こうとの報告が多かったので、私は逆に驚いた」と述べていた。(荻野注:99年6月のBEMS国際会議では多数の影響論文が発表されている)
 秋には完成されるはずの「学会報告書」の方はいつまでたっても発表にはならなかった。 99年になって報告書が出版されたらしい事は知ってはいたが積極的に読もうとの興味も湧かなかった。しかし、問い合わせがあったことから購入して読んで見たのである。「グループ報告書」のことがどのように書かれているのかにも興味を持ったからでもある。
 要約の最初のページに「正しい知識を広めることも重要であるとの認識から、平成10年7月までに3回のシンポジウムを開催した」と書かれているので、きっと6月に発表された「グループ報告書」のことについても書かれているに相違ないと思って読み進めたのだがそうではなかった。「本報告書の校正中に、RAPID計画を主管している米国国立環境衛生科学研究所(NIEHS)が、RAPID計画ワーキンググループの報告書を発表した。この中で、磁界は人に対して発がん性の可能性があるかもしれないとしており、NIEHSは公聴会を開催するなどして、広く意見を聴取した後に集約する予定である。当委員会としても、今後、内容について十分検討していく予定である」と書かれているだけで、別な箇所にも「1998年末には、米国連邦政府に対して、これらで取りまとめられた報告書が国立環境健康科学研究所から提出される予定になっている」としか書かれてはいないのである。「健康衛生科学研究所」なのか「環境健康科学研究所」なのか小生も翻訳に迷っているのだが、電気学会も迷っていると見えて両方を記載している。とにかく、第3回シンポジウムに出席していた小生としては「グループ報告書」の評価がまったく書かれていない事にガッカリしたのであった。
 集録検討された参考論文は98年3月末までのものらしく、6月末は校正中で、「学会報告書」の発行が98年10月(30日)で、記者会見をして声明文を発表したのが99年1月 13日である。このスケジュールから考えると、「学会報告書」は「N最終報告書」を意識しながら作成された日本からのロビー活動の一環であったようにしか思えないのである。官僚などが審議会で審議し報告書を作成するときに行う事なのだが、米国での経過などを横目で見ながら(いわばカンニングをしながら)、答申などにまとめる事をするからだ。「学会報告書」もその流れと大変良く似ている。「グループ報告書」が自分達の結論と大変に良く似た内容の場合はそのことを大々的に引用し、困る内容の場合は「今後の検討課題」にして先延ばしをはかるわけである。発行が10月になっていながら、プレス発表が99年1月13日と2ヶ月以上も遅れている事も、その様な流れで考えれば良く理解できるであろう。12月末に発表されると予想していた「N最終報告書」を参照した上でプレス発表をしたいと思ったのではないか。プレス声明文が異常なほどの疫学批判で占められていることからもそのように推察することができる。なぜなら「N最終報告書」のドラフトが12月に発表されており、通産省や電力中央研究所などは入手していたことだろうし、少なくとも米国電気産業協会(NEMA)は入手していたのだから、NEMAに参加している日本関連企業にも入っていたはずだからである。そのドラフトでは、疫学研究が重視されておらず、動物実験や細胞研究を中心として「確固たる悪影響はない」との結論になっていて、電力会社などが大喜びする内容のものだったからだ。そうであったからこそ、プレス声明文は、「学会報告書」の内容以上に疫学研究批判を展開していたのではないだろうか。しかし、99年6月15日に発表された「N最終報告書」ではドラフトで無視されていた疫学研究が大幅に復活し、「発がんの可能性あり」との「グループ報告書」とほぼ同じ様な表現となったのである。そして、「低減化の継続」などを含めた勧告すら行われたのである。
 所で、「学会報告書」の内容は
   第1部 要約
   第2部 各種環境における電磁界の実態と評価
   第3部 電磁界の生体影響に関する研究の評価と課題
の3部構成のものである。その中で重要なのは第3部であることはいうまでもない。その第4章では、細胞を用いた「イン・ビトロ(試験管内)」実験および動物を用いた「イン・ビボ(生体内)」実験が紹介評価されており、前者では「シグナル伝達」「DNA・遺伝子・タンパク合成・突然変位」「染色体異常」を、後者では「がん」「生殖・発育」「神経行動」「神経内分泌」などを評価している。第5章では主に「疫学」を評価している。「イン・ビトロ」「イン・ビボ」の研究紹介・評価の方が参考論文数も多く、結論として「再現性ある結果も得られていない」「可能性は無視出来るほど低い」「無視できるものと見なすことができる」「有害な影響を与えているとは考えにくい」といった特別委員会の評価が随所に現れている。この文章を読みながら、これではすべての研究が100%同じ結果にならない限りは「可能性すら認めない」ままで「安全である」との結論にするつもりなのかと思うほどの内容である。そして、ラピッド計画での再現性ある研究として話題になった。リバディの研究が信用できないものだとしても、他にも沢山の危険性を示唆する報告があるからだ。「学会報告書」には、評価された研究のまとめが最後に付録としてリストされているので、その評価の要約結果を読んで私がまとめたのが次表である。高磁場被曝のものも含まれてはいるが、それらの研究の結果として「何らかの影響が報告されたもの」を、表では「影響あり」に含めている。これを見ればわかる事だが、「影響あり」と分類される研究の方が多いのである。

   「イン・ビトロ」「イン・ビボ」の研究結果のまとめ
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付録   研究対象    評価件数(日本)  影響あり  影響なし
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 1  カルシウム代謝    18(0)    11     7
 2  DNA・遺伝子など  125(6)   78    47
 3   発がん       22(1)    15     7
 4   生殖・発育     43(2)    25    18
 5   神経行動      17(0)    11     6
 6   神経内分泌     21(6)    14     7
 7   免疫機能       5(0)     3     2
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 第5章で評価されている「疫学」も基本的には「影響は明かではない」という評価で統一されている。しかし、どこを探しても「明かである」条件が何なのかは「明かではない」のである。人間への影響が問題であるならば、人間を対象にした「疫学研究」が最も重要なはずなのに(私はそのような考えだが)、「学会報告書」ではその点が極めて曖昧なままなのだ。書かれている文章の多くは、「・・・欠点があることが指摘されている」「不適切であることも指摘されている」「関連性がないことを述べている」といった欧米の研究論文からの引用を中心とした評価になっている所が多く、特別委員会自らの評価では「結果に一致性が見られず・・・関連性があるとは言えない」「関連性を示すような証拠はない」と述べているに過ぎない。疫学研究の多くで、危険性を示唆している事を委員達も認めざるを得ないはずであって、それだからこそ「一致性」「関連性」といった言葉で、「完全な証拠ではない」「明らかに証明されてはいない」と結論しているのである。しかし、電磁波の人体への影響の「完全なる証明」とはなにであるかを述べてはおらず、今までの疫学研究の知識の延長で話を進めるだけなのだ。また私が重要だと思っている疫学研究の引用の仕方も、おかしなものである。電磁波被曝がなぜ小児白血病の原因となるかと言う「メカニズム」が明らかになっていない事は確かだが、それを理由にすると「がんのメカニズム」が明らかになるまでは「電磁波に危険性はない」と言う事になってしまう。
 今までの電磁波被曝研究で、メカニズムと小児白血病との橋渡しを狙ったたった一つの研究(95年)があることを特別委員会は知らなかったのであろうか。その研究は、米国・国立労働安全健康研究所のボウマン博士らの研究であり、ロンドン博士やピーター博士(南カリフォルニア大)も共同研究者である。地球の静磁場によってカルシウム・イオンが影響を受けるというエイディ博士(カリフォルニア大)の75年の発見が、その後60Hz電磁波被曝でも推察された事から、「電磁波被曝+カルシウム漏洩+小児白血病」の相関を調べる研究へと進展したのである。その論文は「生物電気学会誌(バイオエレクトロマグネテックス)」に発表されたのだが、驚くべき内容であった。ロンドン博士がロスアンゼルスで調査した小児白血病の増加率が1.69倍に増加しているとの91年の研究を更に詳しく調べたのである。その結果、カルウシウム漏洩の起き易いような地球磁場に1日の50%以上をすごしている子供の小児白血病は実に9.2倍(95%信頼区間で1.3〜64.6)にもなっていたのだ。1日の80%以上の場合では「無限大(∞)」となっているのだが、これは統計的に考えても無理などで紹介するだけにとどめる。この論文のことは、私も講演会などで良く紹介するのだが、驚くべき事に「学会報告書」には全く触れられてはいないのである。末尾にある「参考文献リスト」には掲載されているにもかかわらず、一切無視しているわけだ。この研究は米国・電力研究所と国立労働安全健康研究所から資金援助を受けた研究であり、委員の中に入っている電中研の笹野氏の知らないはずがない。特別委員会のメンバーが、「インチキ論文であり評価する価値がない」と判断したのであれば、大喜びでコメントをしたはずだ。「困る論文」「知られたくない論文」として無視する事に決めたのであろうか?それとも読まなかったのであろうか?
 これ以外にも、「学会報告書」に紹介されている疫学研究で不思議だと思う紹介箇所が幾つもある。その内の2つについての批判をしておくことにする。米国立ガン研究所のリネット(Linet)論文とドイツのミカエリス(Michaelis)論文である。付録・8では代表研究者の名前をアルファベット順に並べてあるので、その所をそのまま引用する。

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   研究者      曝露評価        (小児)白血病
                         RR   95%CI
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  Linet(1997)   磁界測定値(≧0.20μT)    1.2  0.9〜1.8
           磁界測定値(0.4〜0.499μT)  3.3  1.2〜9.4
           磁界測定値(≧0.50μT)    1.4  0.5〜1.6
            ワイアーコード       0.9  0.5〜1.6
  London(1991)   ワイアーコード       1.7  1.1〜2.5
           磁界測定値(≧0.27μT)    1.7  0.8〜3.6
  Michaelis(1997)  磁界測定値(≧0.20μT)   3.2  0.7〜14.9
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(荻野注:1μT=10mG、RR=相対リスク、95%CI=95%信頼区間)

これを読んで私はあぜんとした。私も小児白血病の疫学研究結果のリストを講演会などで良く示すし、本などにも掲載している。その場合は、発表年代順で示し、RRやオッズ比などをすべて「増加率」とし、95%CIは省略して、重要な代表値のみを示すことにしている。私のリストを「学会報告書」と同じように書くと下表になる(London論文は除く)。

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   研究者      曝露評価        (小児)白血病
                         RR   95%CI
  −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
  Linet(1997)   磁界測定値(≧0.30μT)   1.72  1.03〜2.86
           磁界測定値(0.4〜0.499μT) 6.41  1.30〜31.73
  Michaelis(1997) 磁界測定値(≧0.20μT)   3.2  0.7 〜14.9
           磁界測定値(≧0.20μT)   11.1  1.2〜103.7
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「学会報告書」を読まれた人はきっと、多数の偉い委員達の作成した「学会報告書」の方が正しくて、私の方が間違えていると思われるのではなかろうか。しかし、残念なことにそうではないのだ。リネット報告で比べて見ると、まず「磁界測定値(0.4〜0.44μT)の場合」のRRの値が大きく異なっている事に気づかれるであろう。この相違は引用しているRR値がアンマチッド分析なのかマッチド分析なのかの相違なのだ。米国立ガン研究所は、当初から電磁波による小児白血病の増加には否定的な見解であり、今までの疫学研究が磁場強度を測定しておらず交絡因子を正確に分離していない欠点があると批判していた。そして、患者群と対照群との間の交絡因子を制御一致させて電磁場の影響を見ようとするマッチド分析がこのリネット論文のそもそもの狙いだったのである。色々と補正などを加えたマッチド分析の方がより正確なはずなのだが、期待に反してリネット論文では逆にマッチド分析の方が高い値を示したのであった。「学会報告書」の数値はアンマッチド分析結果であり、私の方はマッチド分析結果を示しているのである。磁界測定値(≧0.2μT)の場合のマッチド分析結果は(小生は掲載していないが)、1.53であり、「学会報告書」の1.2よりも大きくなっている。一方、小生が示している磁界測定値(≧0.3μT)の場合のRRの値はアンマッチド分析結果である。なぜならこの被曝評価の場合のマッチド分析RR値をリネット論文は示していないからである。マッチド分析をすると、2.0以上の大きな値になる可能性があり、それで分析結果を示さなかったのではないかとすら思える。
 私の指摘の正しさは、98年4月に発表された国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の報告書(邦訳が4月7日の東京で開催された国際シンポジウムで配布された)に「0.2μTのカットオフポイントで、アンマッチドとマッチド分析で、それぞれ1.2と1.5の相対リスクが得られた。0.3μTのカットオフポイントで・・・アンマッチドの相対リスクは1.7であった。・・・磁界と白血病リスクの間のポジティブな関連性に示唆的な結果である」とリネット論文の事が紹介されていることからも明らかだ。ICNIRPの疫学分野の責任者はカロリンスカ研究所(スウェーデン)のアールボム博士であり、邦訳の責任者が委員でもある多気教授なのである。4月7日のシンポジウムに邦訳を印刷配布したのであるから、3月中には原論文の内容を少なくとも多気教授は知っていたはずである。
 このリネット論文のことは、日本のマスコミ、例えば「週間文春(97年7月31日号)」で、「電磁波とガンは無関係」との見出しで特集されたし、朝日新聞(7月22日号)では「磁場‘推定無罪’」と報じられ、「磁界測定値(≧0.2μT)」の場合のアンマッチド分析結果のみが報道され、「磁界測定値(≧0.3μT)」の場合や「磁界測定値(0.4〜0.499μT)」の場合のRRは紹介されず、それどころか「磁場が大きい方が患者数はやや多かったが、統計的に意味のある差はなかったという」とまで書いている。これらのマスコミに対する批判は、「噂の真相(97年11月号)」にジャーナリストの平澤正夫さんが詳しく書かれているので、それを参照して欲しい。
 また、ミカエリス論文についても「学会報告書」と「私のリスト」では大きな相違がある。「磁界測定値(≧0.2μT)」のRR値は同じだが、私の方には11.1倍もの大きな数値が掲載されているからだ。この値は4才児以下の幼児については、このような異常に大きな値が得られた事が本文中に書かれているので、私はそれを「重要な代表値」だと判断して紹介しているわけだ。一方、「学会報告書」ではその数値のことはどこにも書かれてはいないのである。多くの委員はそれを「無視した」のが、「論文を読まなかった」のかのどちらかなのであろう。いずれにしろ、今回の「学会報告書」の疫学研究の評価では、ここに述べたような「電磁波の危険性」を過小評価をしようとの意図的な評価箇所が多すぎるのである。

[以上]


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