厚生労働省および総務省との応答

日時:2002年5月13日(月)午後1時半〜3時
場所:衆議院第二議員会館会議室
出席者
<厚生労働省>
伏見環;医薬局安全対策課安全使用推進室長
小坂暁子;医薬局安全対策課安全使用推進室技官
山本博之;健康局総務課事務官
<総務省>
志賀康男;総合通信基盤局電波部電波環境課課長補佐
山野哲也;総合通信基盤局電波部電波環境課生体電磁環境係長
田辺光男;総合通信基盤局電波部移動通信課課長補佐
<住民側>
電磁波問題市民研究会;2名
中継塔問題を考える九州ネットワ−ク;2名
香川の電磁波問題を考える会;2名
国際電磁波予防協議会日本支部;1名
衆議院議員秘書;1名


[厚生労働省に対して]

<厚生労働省(以下「厚労」と略す)の説明>
本日は先般の「小沢和秋衆議院議員他一名の質問に対する答弁書」の中で当省に係わる所についてお答えする。

(盗難防止装置と心臓ペ−スメ−カ−誤作動問題)
<厚労>
厚生労働省医薬局が2002年1月発行した『医薬品・医療用具等安全性情報』No.173で「盗難防止装置及び金属探知機と心臓ペ−スメ−カ−等への影響」について記事化し医療関係者に注意するよう情報提供している。日本には約20〜25万人の心臓ぺ−スメ−カ−をつけた人がいる。心臓ペ−スメ−カ−は心臓機能が低下している人に心臓近くに小さなバッテリ−を埋め込みそこから線が出ていて心臓に人工的な刺激を与えて動かす仕組みだ。2001年6月に80代の女性が図書館の盗難防止装置でペ−スメ−カ−がリセット状態になった報告があった。これはその女性が足が悪くゆっくり盗難防止装置を通ったため起きたとみられる。また海外でも2000年11月にペ−スメ−カ−が出力停止した報告があったことから事業者に自主点検の指導を行なうとともに患者や医療機関にも注意を促した。盗難防止装置は商店や図書館、空港のゲ−トに取り付けるが美観の観点から取り付けてあるのかないのかわからないののもある。患者には盗難防止装置や金属探知機のそばで立ち止まらないとかもたれないよう注意し、警備の人や医療関係者にもそうしたことのないよう知らせるようにしている。
<住民>
その冊子はどの位の部数を発行したのか。
<厚労>
1千部だ。学会・医師会・薬剤師会や特定の医者それにホ−ムペ−ジでも出ている。
<住民>
その位では周知に不十分だ。周知徹底して欲しい。それと盗難防止装置や金属探知機と埋め込み型心臓ペ−スメ−カ−の関係に限定しているが、海外では人体への影響も同時に心配されている。成人は腰部分に電磁波を浴びるが子供は頭部を直撃するので心配されているのだ。ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の基準値を超える電磁波が出ているがいままで問題にされてこなかった。
<住民>
それと図書館などで職員が座っている位置で1200mG(ミリガウス)も電磁波浴びているがほとんど知らないで何時間も浴びている。ゲ−トの中では最大4800mGも出ている。ぜひ労働者の健康問題として省として実態調査をしてもらいたい。
<住民>
さらに、無線通信がブロ−ドバンド化の流れで多用されつつあるが、非熱作用の観点から検討してもらいたい。とくに盗難防止装置も無線通信も電磁波過敏症の人の観点も含めて検討してもらいたい。
<厚労>
担当のちがう分野の指摘もあるが、もちかえって検討する。

[電磁波問題市民研究会よりの注釈]
ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)の基準値は「60mA/m2」だが米ユタ州のガンジ−博士の研究だと5歳児の脳に98.9mA/m2 の誘導電流が流れるという。


[総務省に対して]

(電磁波の人体への健康影響に対する基本姿勢について)
<総務>
総務省ではマウスを使った実験研究等をしているが、総務省の扱う電波領域としての電磁波については、基準内の範囲なら人体に好ましくない影響はないと考えてる。しかしながら国民の健康にかかわる問題なので調べていきたいと考えている。
<住民>
マウス実験をしているというが、微弱な電磁波を長期間浴びたことによる影響をみるには動物実験より疫学調査のほうがふさわしい。こうした電磁波の非熱作用の影響の観点が総務省は弱い。
<総務>
携帯中継基地局アンテナから発射される電磁波の規制基準は電波法に基づく技術的な基準で混線が起こらないようにするとの観点からつくられている。国際的ガイドラインに沿っているし基地局近くで浴びることがまずい範囲は柵を設置し強制的に防ぐよう措置されている。WHOが研究すすめているがプライオリティ(優先性)の高いものは日本でもやっているし国際的にも協調していく。
<住民>
IT化をすすめていこうという立場の総務省が、一方でそのために起こる電磁波の人体への影響とくに非熱作用を基準とした対応の姿勢をほとんどもっていない、ということが問題なのだ。

(予防対策について)
<住民>
WHO(国連・世界保健機構)のブルントラント会長は自身が携帯電話使用で頭痛になったこともあり、電磁波について予防原則を考えるべきだという個人見解をもっていることが報じられている。フランス・ドイツ・イギリス等でもいろんな動きが出ている。WHOの動きに合わせるのでなくIT化を率先してすすめていく立場の日本として「問題が起こる前」に疫学調査等を実施し対応していく責務が総務省にはあるのではないか。
<総務>
疫学調査は総務省でもしている。その点で世界に貢献していると考えている。予防的措置については「国際ガイドラインは科学的根拠に基づいてつくられている」との認識であり、WHOも予防的措置はしないよう各国に言っている。しかしWHOが厳しくしろ、というのであれば日本もそうする。
<住民>
WHOのEMFプロジェクトの共同責任者マイケル・レパチョリが予防策に後ろ向きな見解をもっているのは事実だし、WHOは全会一致を旨としており突出したことはしにくい組織であることも承知している。WHOのスタンダ−ド基準はゆるやかだしWHO勧告も強制力はないが、ドイツ放射線防護局のようにWHOに上乗せした予防的基準(リミット)を打ち出している国もある。今、総務省が実施している疫学調査はWHOにせっつかれて始めたものだ。そうではなく世界に冠たる日本の総務省として、疫学調査にしても予防策にしてもWHOに先駆けて対策をとるべきではないのか。現状のやり方だと日本は世界に置いてきぼりをくらうのではないだろうか心配だ。ブルントラント会長の発言はいまは個人的立場でしかないが今後の方向を示唆するものととらえたほうがいい。ドイツ放射線防護局は「なぜ予防策が必要か」の理由として、健康被害への影響が今後どう出るかは意見は分かれる、だからこそ予防策が必要だと言っている。この考えこそ大事なのだ。
<住民>
私は2000年に開かれた携帯中継基地局問題を扱ったザルツブルグ国際会議に参加した者で私自身電磁波過敏症になった。私の住む沖縄県はいまIT革命の最先端を走ろうということで第三世代携帯電話のアンテナがいくつもつくられている。小学校の近くでもつくられている。こんなことをしていては子供に悪影響が出るだろう。皆さん方のお子さんだって同じことが起こりえる。スウェ−デンでは国民の2%が電磁波過敏症だろうといわれている。スウェ−デンは早くからケ−タイが普及したためだ。いまから対策をとらないと取り返しがつかなくなると心から懸念する。

( エネルギ−吸収比(SAR)値について)
<総務>
携帯電話本体から出る人体への影響を防止する上でSAR(エネルギ−吸収比)の値が問題になる。日本と米国は若干値が違う。米国は1.6W/kgで日本は2.0W/kgだ。日本のほうが国際基準に近い。このSAR値は強制規格でこれを上回った機種は製造できない。SAR値の公表は業界の自主性にまかせているので個々の機種での公表は必要ないと考えている。
<住民>
米国と日本ではSAR値について考えに大きな違いがある。米国は生体組織1g当たりの値だが日本は組織10g当たりの値だ。1gと10gでは実質1gの方が約3倍厳しい値になる。だから米国の1.6W/kgと日本の2.0W/kgでは米国のほうがはるかに厳しい値になる。それと個々の機種ではSAR値は公表しないというが、欧州では携帯電話のパッケ−ジや説明書にSAR値が書かれている。ユ−ザ−は自分のケ−タイのSAR値が知りたいのであって一般的に知りたいのではない。個々に表示することでSAR値にも関心が生まれるのだ。
<総務>
SAR値に関しては、米国はCTIA(携帯電話通信業連盟)、欧州はMMF(携帯電話メ−カ−フォ−ラム)、つまり業界団体が自主的に公表している。日本メ−カ−も欧州で販売する場合は公表している。日本国内でも事業者が自主的に公表するかどうか、時期はいつ頃か、どうようにするか、をいま話し合っている段階だ。私たち総務省は電波を安全に使っていただくのが仕事であり、業界の恣意的な要求は一切受け入れていない。業界に聞かれれば欧米のSAR値の公表について教えるし、WHOの基調は入れるようにしている。しかし強制力はない。とはいっても世界的流れは関係してくるのはたしかだ。
<住民>
米国では携帯電話をスピ−カ−フォンでとったり、その前はイヤホンを使うよう指示している。イヤホンにするとSAR値は20分の1になるという。日本でもイヤホンは売っているが普及しないのはその必要性を知らないし感じないからだ。欧州では若者は性器にケ−タイ近づけるなとか、固定電話をなるべく使え、とか勧告しているからケ−タイの問題点も国民が知るようになるのだ。日本が欧米に比べて遅れているのは国民の目覚めが遅いため声が弱いのか、それとも国の姿勢が固いためなのか、あなたたちをどう考えているのか。
<総務>
私たちとしても非熱効果まで考えているし、LAN(無線LAN?)などは非熱効果の研究して検討している。
<住民>
それは携帯電話本体のことでしょう。携帯中継基地局から発射される電磁波について非熱作用は全然考慮していない基準しかつくっていないじゃないですか。

(基地局建設トラブルについて)
<総務>
先程も言いましたが、電波法に基づく基準は混線が起きないようにとの観点からつくられた技術的基準である。工作物(鉄塔)建設は建てる側(携帯会社)と住民の問題であると総務省は考えている。しかし周辺住民に建てる側がしっかり説明するのは大切なことと私どもも考えている。個別地域から来る苦情や陳情について企業にしっかり伝え、平和裏に解決して欲しいと企業にお願いしている。しかし行政の恣意性が批判され透明性が求められている(規制緩和のこと)時期なので行政指導しにくいので、あくまで企業にはお願いしかできない。
<住民>
九州では基地局建設の相談が30ヵ所以上来ている。いままでのを含めれば40ヵ所にもなる。Jフォンは解決している所もあるしauは凍結している。ところがドコモだけは強引で、総務省の今回の答弁書には「住民と話し合うよう指導する」としているがドコモは全く住民と話し合わない。建設途中でわかったというのが6ヵ所ある。NTTの渡辺担当部長は新聞で「地権者と契約する前に周辺住民に打診したら計画はすべてつぶれる」と言っている。福岡県三瀦町や熊本市楡木地区や別府市春木地区のトラブルはそうしたドコモの姿勢が原因で起こっている。三瀦町などは農村地区で別に建設場所はあるのに住民の意見は聞き入れない。そして住民が反対すると工事妨害で訴える。楡木などは小学校から120〜130mと近いためお母さんたちが「説明会開き、双方の専門家を呼び意見を聞こう」と提案してもこれをドコモは蹴る。それで抗議行動をとるとドコモは30人も動員しうち10人はビデオカメラを持ってきて住民を映す。そして工事妨害で訴えてくる。これは他への見せしめとして脅しにかかっているとしか考えられない。
<住民>
香川県の高松市ではJフォンがJR予讃線のすぐ脇に住民に知らせず鉄塔を建てた。Jフォンは住民に説明した証拠として署名・捺印した名簿を出しているが、実際は説明していない住民の名まで名簿に載っている。勝手に載せたんです。また「鉄塔から100〜200mの付近は危ないが鉄塔近くの人は危なくない」とJフォンは言っている。そうなるとこんどはその人たちが不安になるがそこは説明の対象外としている。
<住民>
Jフォンのような行為をする事業者は業務停止できないのか。トラブルの未然防止策をとる気はないのか。
<総務>
事業者の業務停止はできない。しかし皆さんの話を聞いていて虚偽や同意もとらない、とは一体事業者はなにをしているのかと思わざるをえない。そういうことのいよう住民と話し合えと言っているのだが。だが先程も言ったように規制緩和の流れのなかで統一のガイドラインは行政としてはできない。
<住民>
法的なことはともあれ事業者のやり方は人道的・道義的に許されるのか。私は熊本市御領地区だが、御領では5年間鉄塔問題で訴訟してきた。賛同者は1575人で、いままでに使った金は四百万円、いろいろ含めれば九百万円にのぼる。反対しているのは老人が中心である。自分のためではない。子供たちや孫たちのことを心配して立ち上がっているのだ。強引に建設しようとするセルラ−(現au)に対し住民が阻止行動に出て衝突し、骨折者など4人がケガをした。400m先に山がありそこに建てればいいのに金がかかると学童通学路に鉄塔建てた。道路があって工事しやすいからだというのが彼らの言い分だ。事業者の横暴さがトラブルの原因だ。
<住民>
重要なのは2点だ。とにかく建設前に周辺住民に説明し話し合うことと、建ってしまった地域の苦情処理を扱う窓口をつくることだ。未然防止策が大事なのだ。
<総務>
いろいろうかがった。行政としてできることとできないことがあるが、住民と事業者は話し合いをし平和裏に解決すべきという考えは同じだ。


会報第17号インデックスページに戻る