ダラス環境医学治療センタ−調査報告(上)

□あたたかいカンパに感謝します
 2003年11月23日〜28日、米国ダラスにある「ダラス環境医学治療センタ−」の現地調査に行ってきました。その節は会員の方々から多額のカンパをいただきまして誠にありがとうございました。
 アポイントは取っていましたが、ほとんど突撃取材に近く「当たって砕けろ」の気持で現地に行きましたが、結果として親切に応対していただき収穫の多い調査であったと自負しています。

□ダラスという巨大商業都市
 ダラスはテキサス州の内陸部に位置する人口119万人の都市です。人口規模で全米第9番目です。石油ビジネスで発展した巨大商業都市で世界一の大企業エクソン社の本社があります。アメフト最強チ−ム、ダラス・カウボ−イの本拠地であり町のシンボルは先端が球状になっているリ・ユニオンタワ−です。
 しかしダラスを有名にしたのはなんといっても1963年11月22日に起こったケネディ大統領暗殺事件です。犯人オズワルドが銃を撃った場所である教科書倉庫ビルの6階は「シックスフロア博物館」としてケネディ暗殺資料館として公開されています。実際は3方向から銃撃があり真犯人は謎とされている事件です。私がダラスに着いた日は2003年11月23日でその前日がちょうど暗殺40周年でした。
 ダラスの町は広く、私たちが滞在したホテルは都心に近い所ですが訪問先のダラス環境医学治療センタ−は町の北部にあり、高速道路を使っても片道40分かかる距離でした。レンタカ−を借りましたが何本も走っているフリ−ウェイ(高速道路)は片側4車線でさらにサ−ビス道路が2車線あり圧巻です。見知らぬ町で慣れぬ左ハンドル運転はデインジャラスで時々肝を冷やす場面があり、同乗の通訳さんもスリルを堪能したことでしょう。

□緑の多い低層の病棟
 ダラス環境医学治療センタ−周辺は病院地区でいくつも病院が集まっている地域にあります。ダラス環境医学治療センタ−は「EHC−D」つまり英語名でEnviromental Health Center-Dallas、といいます。直訳すれば「ダラス環境保健センタ−」ですが民間病院であり環境医学のパイオニア医療機関なので「ダラス環境医学治療センタ−」と訳したほうがふさわしいです。
 病院地区には高いビルの病院もありますが、ダラス環境医学治療センタ−のある建物は低層の2階建てで緑地や駐車スペ−スもたっぷりでした。2階建ての病棟はいくつかの医療機関が同居するスタイルで日本ではあまりみない方式です。過敏症のようなメンタルケアも必要な分野では低層の建物や緑地が多いことはとても重要な要素といえましょう。

□センタ−の概要
 ダラス環境医学治療センタ−は1974年に心臓外科医のウイリアム・J・レイ博士によって米国環境医学財団の協力の下、設立されました。
 スタッフは60人以上で10人の医師の他に栄養学者・専門技術者・カウンセラ−・看護師・サポ−トスタッフ等から成っています。
 環境医学とは「健康と病気の関係に環境要因が大きく影響を及ぼす」と考える医学です。現代社会において、多くの病気は家の中や職場に存在する様々な物質が原因として関与する、と環境医学は捉えます。物質には自然界の物質もあれば合成化学物質もあります。私たちが食べる物・飲む物・吸い込む物・身に着ける物・触る物、等ほとんどが過敏症患者に悪影響をもたらす引き金役となる可能性があります。それら健康に問題を起こす物質(誘発物質)を日々の生活から完全に排除することは不可能です。そこでダラス環境医学治療センタ−(EHC−D)は、患者にとって問題を起こす誘発物質はどれで、その誘発物質をどうコントロ−ルすればいいのかを患者たちが自ら知り、対処するのを手助けすることがなにより大切、というのがEHC−Dの方針です。

□院長のレイ博士について
 設立者で院長のウイリアム・J・レイ(William J Rea)博士は68歳で、ケネディ暗殺事件の時同じオ−プンカ−に乗っていて銃撃されたコナリ−・テキサス州知事の銃弾摘出手術に加わった経歴をもつ心臓外科医です。環境医学は米医学界の主流とはややはずれた分野です。レイ博士が花形の心臓外科部門から環境医学にシフトしたのは彼自身が化学物質過敏症に罹ったことと、多くの過敏症の患者と接した体験が大きく影響しています。従来の西洋医学のやり方では対処できない場面を経験したことがレイ博士を新しい環境医学の道へ歩ませたのです。
 受付待合室に「1994年オ−ルタナティブ医学優秀パイオニア賞受賞」「2002年IWES(平等と正義のための国際女性連盟)最優秀男性賞(マン・オブ・イヤ−)」等のレイ博士の賞状が飾られていました。

□多様な過敏症症状
 電磁波過敏症は化学物質過敏症と症状は酷似しており併発しているケ−スが多いのが特徴です。
 症状は頭痛・慢性的感染症・めまい・関節炎・静脈洞炎・筋肉痛・花粉症・消化不良・湿疹・じんましん・下痢・便秘・大腸炎・疲労・変則的発作・息切れ・むくみ・喘息・うつ・血管炎・気管支炎・心臓不整脈・学習障害・精神障害・記憶力低下・不眠症・知覚障害・胸の痛み・まひ・胃痛・皮膚障害・心因性のあざ、等と多様です。

□趣向をこらした施設設備
 EHC−Dはユニ−クな外来設備であることが知られています。
 外来の過敏症患者を不快にさせないためすでに汚染物質としてわかっている物質は極力排除する建築設計がとられています。
<家具>素材は汚染物質の放出が最小となるような分子の分解度が低いものでつくられているものを採用。具体的には金属か木です。プラスチック製や合成のものは不使用。
<床>テラゾ−という、セメントに砕いた大理石を混ぜたモザイク仕上げの素材を採用。
<椅子>金属または木。
<戸と窓>ガラス。
<壁と天井>不活性の磁器タイルで表面加工されています。また床や壁には鉄が内部に張ってあり、電磁場をカットするようにしてあります。
<施設全般>施設のすべての部分で、花粉・かび・EMF(電磁場)正イオン効果・空気中のラドンガスなど身体によくない物理的要因を除去する設計が取り入れられています。
<照明>白熱灯を多用しています。蛍光灯を使う場合は鉄をまぶしたガラスケ−スで保護し電磁波カットに努めています。白熱灯でも鉄をまぶしたガラスを保護用に被って使っています。
<空気>空気清浄器で濾過した空気で換気しています。
<水>濾過器を通した水を使います。

□過敏症発症のメカニズム
 私たちの身の周りには様々な誘発物質が存在し心と体の健康を害する要因として作用します。このような誘発物質に対し私たちの身体は体内の自律神経や免疫機能や解毒機能が誘発物質に適応して健康を維持させようと振るまいます。しかし人の適応能力には限度がありそれを超えた量の誘発物質が体内に入りこむと身体が“悲鳴”をあげて拒否反応を示します。それが過敏症症状なのです。
 誘発物質(要因)には物理的・化学的・生物学的、と三つに分類されますが電磁波は物理的な負荷に入ります。それを図解して示されてあります。
 身体全体の負荷(ト−タル・ボディ・ロ−ド)許容量は人によって様々でどのくらいの量で過負担(オ−バ−ロ−ド)となり溢れ出るかは誰にもわかりません。「私は過敏症でない」と思っている人がいつ発症するかは“神のみぞ知る”です。
 過敏症を特殊とみる見方は皮相的です。電磁波問題は特殊な問題ではないのです。

□EHC−Dの治療のしかた
 ダラス環境医学治療センタ−(EHC−D)の治療方針は「人間は一人ひとり皆違っている。ある人の病気の原因や症状は他の人とまったく異なっているので患者に関して生化学や栄養学や環境の観点から評価し、患者一人ひとりの特徴点を情報として蓄積し、その患者に合った治療プランを作成し治療にあたる」というものです。
 これは言葉で表現するほど簡単なことではありません。「3時間待ちの3分診療」と言われるほど大きな病院では長く待たされて実際の診察はあっという間です。これでは患者を一人ひとり丁寧に診ることなどできません。だが過敏症患者の場合、化学物質過敏症にしても電磁波過敏症にしても「どんな化学物質が反応するのか」「どんな周波数の電磁波で反応するのか」「複合汚染のどんな場合に起こるのか」一人ひとり皆ちがうのです。したがって対処方法も皆違って当然です。
 EHC−Dは、まず外来患者が初診で来ると医師は患者の病歴をさかのぼって問診とカルテで知ることから始めます。
 次に患者に対し全身の身体検査を行い、ケ−スの応じて尿検査・血沈速度のCBC(血球計算値)・甲状腺と腎臓の検査・免疫グロビン(ヘモグロビンの蛋白質成分)・T&Bリンパ球パネル、ビタミン、ミネラル、アミノ酸の分析・便検査・抗体抗原複合測定検査・動脈図・血管血流検査・肺機能検査・スキャン、等の検査をして誘発物質の特定化を行ないます。
 また、花粉・かび・食物・金属。ウィルス・テルペン(植物精油中に含まれる芳香のある液体)・すす・化学物質、の対する過敏症があるかどうか判定するための皮膚検査も希望によって行ないます。
 こうして徹底した検査と分析と過去の病歴を踏まえてその患者に合った治療プランが作られます。その際、その内容を患者にも伝え患者が自分の状態を客観的に知るようにさせます。

□具体的治療は
 まず、すでにわかっている有害物質の排除が大事です。重金属や農薬等を生活周辺から排除することです。EHC−Dの設備ははこうした配慮がなされていますが、肝心なのは自宅や職場での配慮です。これは患者自身が自覚することが大事なのでそのこともあって、患者に医師は検査結果等を伝え患者自身の自覚を促すのです。
 次に、患者の症状を引き起こす引き金となる誘発物質の合理的な回避です。誘発物質には化学合成物質もあれば自然界の物質もあるので完全排除はできません。だから合理的回避が必要なのです。
 電磁波過敏症患者の場合は、患者宅に医師が出向き過度の電磁波環境にないか調べ電磁波発生源から離れるなり使用抑制の指導がされます。
 次に食餌療法です。病気と栄養の関係は深く、栄養バランスが悪いと病気になりやすくなります。栄養補給品の摂取も大切です。それからオステオパシ−触診でいわばマッサ−ジ療法、免疫療法、外科手術、薬物療法も採用されています。免疫療法とは対症療法でなく誘発物質を根本的に排除するため誘発物質や因子を含む特別なワクチンを患者に接種し免疫システムを強化することで過敏症状を緩和させようという治療方法です。
 外科手術や薬物療法は必要な場合であって、EHC−Dとしてはなるべく外科手術や薬物療法に頼らないで済むような処置を目指しています。心臓外科のレイ博士がたどりついた環境医学の真骨頂をみる思いです。運動も大事でセンタ−にも運動器具の置いてある部屋がありました。
 エネルギ−バランス回復のため東洋医学の気功療法や心理学カウンセラ−の採用ありは解毒療法としてサウナ風呂も有効だということです。
(次号につづく)


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