東京都多摩市永山図書館の盗難防止装置による電磁波健康障害問題

□労働組合主催の学習見学会
 2004年7月22日、自治労東京都本部主催の学習見学会「第2回労働安全講座〜自治体職場と電磁波障害〜」が多摩市消費生活センターで開かれた。当会事務局長を講師にして、まず電磁波問題について学習を行い、引き続き同消費生活センター内にある多摩市立永山図書館の労働現場を見学した。自治労東京都本部とは自治体職員の労働組合である自治労(組合員は日本最大規模で百万人を超す)の東京都内の地域本部のことである。

□盗難防止装置で職員が体調不良に
 多摩市立永山(ながやま)図書館では、2001年10月19日に盗難防止装置を導入した。盗難防止装置とは、出入り口に設けたゲートで貸し出し処理をしていない本を磁気で探知し警告ブザーを鳴らす仕組み。本には特殊な金属テープ(バーコード付き)が張ってあり貸し出し・返却の際に、カウンターで職員がテープの磁気を消去・付加をする。つまりカウンターで貸し出し処理する際に磁気を消し、返却されれば再度磁気を付加する。したがって、カウンターを通らないで本を持ち出そうとするとゲートから発信する電磁波が反応し警告ブザーが鳴って“不正”を見つける。言い換えると盗難防止になるので、この装置は本屋やビデオショップ等でも導入されている。
 この場合、電磁波を浴びるのは、図書館に本を借りにくる市民(ゲートで浴びる)と、カウンターで磁気の消去と付加の作業をしている職員である。被曝量は被曝時間が長い職員が圧倒的に多い。
 この装置が稼働してまもなく、従事職員は「気分が良くない」等の症状を訴えた。

□33人中19人が頭痛・動悸等を訴える
 その後不調を訴える人は続出し、稼働後1ヵ月も経たない2001年11月1日段階の職場聞き取り調査で、職員33人中19名が頭痛や動悸等を訴えた。1ヵ月も経っていないのに、半数以上が健康障害を訴えるとは異常である。本来なら原因解明まで装置はストップすべきである。
 ところが、多摩市当局は「産業医及び磁界測定結果から、(1)無視できる数値であり直接の影響は認められない。(2)職員の不安要因を取り除く。」という報告をした。行政当局にしても産業医にしても、電磁波に対しては驚くほど無知である。

□手の箇所で7000ミリガウス
 2002年3月15日に、当局は「カウンター照明設備改善、空調運用改善、電磁波防御エプロン配布、ローテーション改善による連続作業時間改善」をしただけで、システムを再稼働した。
 電磁波防御エプロンとはOAエプロンのことだが、これは電場には有効だが極低周波磁場にはまったく効果がない。他の“改善点”も、肝心な電磁波対策としては補助的な方法でしかない。
 返却作業では、瞬間値で手の部分で4600ミリガウス〜7000ミリガウス、腰の部分で改善前は300ミリガウスあった。いまでも、常時10〜30ミリガウスある。
 これでは職員の不安は解消されない。多摩市教育委員会は2004年4月1日に、「体調不良と電磁場の因果関係は断定できないが不安感を考慮して、ばく露が少なくなるように具体策をとる」として、(1)貸し出し時は、電磁場の影響のない機種に全面切り替える、(2)返却時(これが最も強い)には、手動による外部スイッチを導入(装置から離れた所で作業できる)、(3)ゲートは同じ市内の関戸図書館において磁界強度を調整する(関戸図書館でも問題になりとくにここではゲートで電磁波が高いので低くした)、(4)連続作業時間は1時間を目処(交替する)、という具体策を実行した。

□過敏症になった職員も複数いる
 学習会では、従事していて電磁波過敏症になり、つらい症状に苦しんでいる女性職員が涙ながらに電磁波の恐さを訴えた。別の女性職員は電磁波過敏症発症が原因で退職したという。
 ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)のガイドラインでは職業人で5000ミリガウス(防護処置を前提)、一般人で1000ミリガウスを上限としている。しかし、ICNIRPは姿勢が企業寄りと批判されている組織であり、電磁波の熱作用しか認めず、電磁波の非熱作用は考慮していない。
 体調不良を訴えている事実を基に、現実の対策はとられるべきなのである。
 WHOの下部機関であるIARC(国際がん研究機関)は3〜4ミリガウスで小児白血病リスクが2倍以上という疫学調査を基に「極低周波磁場のヒトへの発がんリスクは2B(可能性あり)」とした。それからしても、とんでもない大きな被曝量である。
 なお、職員の一人は北里研究所病院の医師から「被験者は、特定の変動磁場の負荷に対して、脳循環血流量が変動することが確認された。よって被験者は、変動磁場に対して、何らかの過敏性を有する可能性が示唆された。」とする所見を得ている。

 労働組合が電磁波問題に取り組むことは極めて重要である。それは労働環境によっては過度の電磁波を被曝する可能性が高いからである。たとえばパソコンで仕事をする人、送電線のメンテナンスをする人、携帯電話を頻繁に使わざるを得ない人、電源装置の近くで仕事をせざるを得ない人、等々である。被害は常に弱い人がら現われるのは、どの環境問題も同じだ。


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