学習講演会:すみだ新東京タワ−問題

 「すみだ新東京タワ−」に関しての学習講演会が、2004年10月22日(土)午後1時半から東京都墨田区の京成線・東武線・地下鉄半蔵門線の押上(おしあげ)駅近くの「すみだ女性センタ−」で開催されました。
 新東京タワ−建設予定地は、墨田区の押上・業平橋駅周辺地区6.4ヘクタ−ルの地です。以前は巨大な操車場があった跡地が、今は空き地になっており、そこにタワ−建設が予定されています。会場の「すみだ女性センタ−」はその近くにあります。
 当日の講師はこの問題に詳しいジャ−ナリストの本田誠さんです。
 高さ600メートル級の世界一高い新東京タワ−からは、強力なデジタル・マイクロ波が周辺に照射されます。住宅密集地帯に24時間電磁波が照射されることによる人体への影響は未解明な段階です。「本当に安全だ」という保障はありません。またアナログ型テレビからデジタル型テレビに2011年から強制的に変更しようとしていますが、 「本当にデジタル化は必要」なのかについて納得のいく説明は国民にされていません。そのあたりを、本田さんは豊富な資料を使ってじっくり説明されました。

<本田誠さんの講演内容>

なぜ高さ600メートルのタワ−が必要なのか?
 推進側の言い分はこうだ。「現在の東京タワ−をデジタル型に発信装置を変えても従来のアナログ放送視聴地域だけならばカバ−が可能だ。しかし、携帯テレビや携帯電話端末でデジタルテレビ放送を受信しようとすれば、高層ビルの影響を受けやすいので、333メートルの東京タワ−では限界である。少なくとも450メートルの高さが要求される」。つまり携帯端末(カ−ナビや携帯電話)でテレビを見るために新東京タワ−が必要なのだという。
 もう一つの理由は、「新しいランドマ−クとして観光効果がある」というものだ。大きいことはいいことだ、高いことはいいことだ、の発想で果たしていいのだろうか。もはや「高いだけでは集客効果は生まれない」という声が出ている時代だ。東京人の何人が東京タワ−に登りたいと思っているのか調査したことがあるのだろうか。

どこに建てるの?
 新タワ−の総事業費は約500億円。東京の下町・墨田区の押上(おしあげ)・業平橋(なりひらばし)駅周辺地区である。そこは旧操車場跡地で、6.4ヘクタ−ルの敷地だが、周辺は住宅や小型商店が密集している典型的な下町風景である。
 現在世界一の高さのカナダ・トロント市にあるCNタワ−は、五大湖の一つであるオンタリオ湖に近く、周辺に一般住宅はあまりない。現行の東京タワ−も芝公園や東京プリンスホテル・増上寺・オフィス街が周辺を固め、やはり「一般住宅密集地」とは異なる。それに較べて、今回の予定地はあまりにも不適地といえよう。
 また、隅田川と荒川に挟まれた「江東デルタ地帯」は、関東大震災と東京大空襲で多くの犠牲者が出た災害被害を受けやすい地域だ。地盤は極めて弱く、近未来に東京直下型地震が襲ったら大被害が出ると予想されている地域である。豊島区役所が、墨田区内に新東京タワ−建設候補が内定した際に「よりによって、なにもあんな地盤の弱いところにつくらなくても」と批判したのは、やっかみもあるが、ある意味で本質を衝いた意見である。

いつまでに建てるのか?
 2011年(平成23年)にアナログテレビ放送を終了させ、全面的にデジタルテレビ放送に移行させる計画からすれば、それまでに新東京タワ−を完成させて、デジタル波を発信させねばならない。
 そのためには、工期が約3年半かかるとみても、2007年には工事着工が必要となろう。しかも、その前に環境アセスメントやその他の手続きが必要なので、逆算すれば2005年度内には最終決定がされねばならない。現在は最終第一候補でしかないからだ。

いくらかかるのか?
 新タワ−の総事業費は約500億円。東武鉄道が主体となって負担するのであろうが、候補地に内定する2週間前に、東武伊勢崎線・竹の塚駅(足立区)近くの手動式遮断機のミスで、踏切り中の2人が死亡するという痛ましい事故があった東武鉄道だ。「タワ−建設に500億円も出すなら、その前に安全対策にカネを回せ」という批判が出てもおかしくない。
 また新タワ−建設だけでなく、デジタルテレビ放送化にともなって、テレビ局自体の設備投資が約50億円かかり、「アナアナ変換」という現行システムからの移行必要経費が約2000億円必要になると試算されている。そして、なによりも、一般の人はデジタル対応テレビの購入、もしくは、デジタル変換機器の取り付けが求められ、その金額は膨大な額に達する。
 「新しい市場は暴力的なまでに強引につくっていく」のが巨大資本の手口だ。レコ−ドがまだ使えるのにCDに替えてしまうのと同じやり方で、背景には、デジタルテレビの新市場開拓が狙いと見られる。

電磁波を24時間浴びることによる影響はどうなのか?
 デジタルテレビ波の人体への影響に関する疫学研究はまだ出ていない。疫学研究には10年単位のデ−タ蓄積が求められるからだ。
 そこで、既存のアナログ型テレビ波を使っている東京タワ−周辺の疫学研究デ−タが本来なら参考になるはずだ。しかし、日本では疫学調査をやろうとしないので、そのようなデ−タはない。そこで、外国の疫学デ−タを使わざるをえない。
 そのデータをまとめたのがホッキング論文だ。ホッキングはオ−ストラリアの最大通信会社の顧問医師をしていた人で、シドニ−郊外の放送タワ−周辺の電波と健康障害に関する疫学研究を行なった。対象は14歳以下の子供で、期間は1972年〜1990年の19年間であり、放送タワ−から12q離れて住んでいる子供と4q以内に住んでいる子供の健康状態を比較した。結果は「小児急性リンパ性白血病発症リスクが2.74倍で有意」と出た。
 ホッキング論文で扱った放送タワ−は、東京タワ−の10分の1の出力である。シドニ−の例と東京タワ−周辺をそのまま重ねるのは乱暴だが、リスクの可能性の予測を否定することもまた乱暴である。
 デジタル波はアナログ波より人体に有害であるとする研究結果は、いくつも出ている。デジタル波形はギザギザの歯形なので、正弦波のアナログ波より生体に食い込みやすいのでは、というのが根拠の一つだ。

景観の問題を軽視するな
 下町の庶民が住む住宅密集地帯に、高さ約600メートル(一説によれば610メートル)もある雲をつくようなタワ−が、景観として似合うはずがない。パリのエッフェル塔はパリ万博の目玉として建設されたが、その後、ドイツや英国やベルギ−など、いわゆる中欧諸国では、同じようなタワ−は建設されていない。景観や街並を重視しているからである。
 エッフェル塔建設以降にそれより高いのを建てたのは、日本(東京タワ−)、カナダ(トロント・CNタワ−)、中国(上海・オリエンタルパ−ルタワ−)、ロシア(モスクワ・オスタンキノタワ−)といった、発展途上であるか歴史が浅いとされて、「ヨ−ロッパの田舎国」と見られている国だ。東京タワ−が建設された1958年当時の日本は発展途上段階だし、ロシアは「ヨ−ロッパの田舎」といわれている。
 世界でもっとも美しい都市といわれるチェコのプラハやオ−ストリアのウィ−ンに、グロテスクな超高層電波塔はない。

地域住民はどこまでこの計画について知らされているのか?
 墨田区の押上・業平橋地区は、新東京タワ−誘致に名乗りをあげてからわずか4ヵ月で建設第一候補に決定した。地域住民はこの決定を本当に支持しているのだろうか。百万人署名や2万人集会を開き誘致に熱中した「さいたま市旧大宮地区」のような動きは、ここではみられない。電磁波問題や景観問題などについての疑問や意見も出るはずがない。(それはどの候補地でも同じだが)。
 世界保健機関(WHO)の「予防方策フレ−ムワ−ク」では利害関係者(ステ−クホルダ−)である市民・住民も計画段階から参加させるべき、としているが、そうした配慮はそこには全くない。

本当にデジタルテレビ放送は必要なのか
 デジタルテレビ放送になればチャンネル数は飛躍的に増え、地域情報や高齢者・障害者向けあるいは双方向番組などが可能にはなる。しかし、自治体が出資しているケ−ブルテレビの地域番組はどこも赤字で、撤退が検討されているという現状だ。番組の質の低下が深刻化しているテレビ界の実状からすれば、チャンネル数の飛躍的増加は決してプラス材料ではない。強引に切り替えることでデジタルテレビ需要を作り出すのが狙いとしか思えない愚策だ。


会報第37号インデックスページに戻る