<海外情報>

(翻訳:TOKAI)

国際保健機関(WHO)・高周波研究会議報告

□はじめに
 国際保健機関(WHO)国際電磁波プロジェクトは、1997年に電磁波(EMF)の健康への影響について世界的レベルで調査研究を進めるため研究計画(Research Agenda)を展開することにした。こうして1997年以降、この「研究計画」は定期的に検討と改良を重ねてきている。
 「研究計画」の高周波(RF)分野の大幅手直しは、2003年3月に行なわれた。これは特別専門家委員会の勧告に基づいて行なわれたものである。この大幅手直しにより、どういう研究調査が今後必要なのかについてニ−ズ調査を実施しているので、手直しの方向については認識されている。すでに2003年3月以降、3つの特別ワ−クショップが開催されて、高周波分野にはどんな研究が今後必要かについて決定した。この3つのワ−クショップは、特別専門家委員会の勧告に基づき、2005年に一つに統合された。それが現在の「高周波研究計画」である。
 専門的なワ−クショップからは、子供の「脳がん」と「認識機能」について集中的に研究する必要がある、と指摘された。またEHS(電磁波過敏症)に関するワ−クショップからは、EHSと電磁波の関係に関する研究ではなく、「EHSとはなにか」について研究するよう指摘された。それは、これまでの研究結果では、電磁波とEHSの因果関係を本質的に示す証拠がまだ無いからである。携帯基地局の健康影響に関する研究の優先度は高くない。長期間の電磁波曝露についての研究デ−タを集める方法がまだ困難なため、ガンの影響等へのデ−タは不十分であり、根拠を示す段階に無いからだ。
 高周波の健康リスク評価に役立つ研究をする上で、研究者たちがこのWHO高周波研究計画を利用するよう奨励されている。大規模な研究計画がより効果を持つために、研究機関に資金提供している政府や企業が、WHO研究計画を共同利用することが奨励されている。共同研究は、重複の無駄を避け、健康リスク評価の重要性を高めるための研究を、タイムリ−に推進するのに役立つからだ。
 高周波研究計画は、高周波の健康リスク評価づくりに貢献する研究なので、とても注目されている研究計画と位置付けられている。健康リスク評価のための研究、つまり「疫学調査」「動物をヒトと携帯電話システムとメカニズムに関する実験室研究」はおのおの重要であり、研究結果は継続的に開催される会合に提出される。人間の健康に関するテ−マをダイレクトに扱う「疫学研究」や「人に関する実験室研究」の他に、細胞実験や動物実験も因果関係や生物学的説明をする上で重要だと認識されるべきだ。線量測定は別途考慮される。線量測定はすべての研究にとって重要である。
 社会科学に関する研究テ−マは、この研究計画で初めて扱われる。これは一般の人たちが電磁波リスクを理解する上で必要なことだし、高周波と健康問題に関する情報提供のためにも必要なことだ。
 それぞれのセッション(会議)において、継続中の研究についての簡単な要約が求められる。それは実験室研究や疫学研究の計画や分析を行なう上で他の参考になるからだ。各々の研究活動は以下のような優先度が与えられる。

【優先度が高い研究】
 科学情報がまだ不確実だが、その不確実さを克服するのに必要な健康リスク評価に焦点を当てた「知識ギャップ」埋めるような研究。
【それ以外の研究】
 健康リスク評価にとって有益な情報となりうる高周波曝露影響の度合いを示すのに役立つような研究。

□疫学研究(疫学調査)
 疫学研究(疫学調査と同義)は健康リスク評価にとって極めて重要である。高周波の健康影響に関する多くの疫学研究が現在進行中である。以下に紹介する。

 「インタ−フォン研究」は、携帯電話と頭部がん及び頚部がんが関係するかどうかを判断するための重要デ−タを取るための研究。症例対照研究は、脳腫瘍なめずらしい病気の研究に力を発揮する。ちなみに脳腫瘍は13ヵ国の30歳〜59歳を対象にした場合、人口にして数百万人になるが、そのうち約6600百人が発症している。こうしたタイプの研究は、めずらしい病気に対して比較的低コストで曝露経過や交絡因子等の詳細な情報を集めるのに統計学上、力を発揮する。しかしながら、あらかじめ定めた目標終点妥当かどうかについては検討段階にある。
 こうした症例対照研究における制約を解消するためには、大規模なコホ−ト研究が有効だ。コホ−ト研究では幅広い健康調査目標点を対象とした研究が可能だ。(たとえば脳がんやその他のがん、神経組織退化病などだ)。さらに、コホ−ト研究では、様々な研究活動を通じてもたらされる新しい調査目標内容(エンドポイント)を新たに設定することも可能だ。また新技術のもたらす健康影響もタ−ゲットに含むことも可能だし、影響の追跡も可能だ。(新技術とはデジタル、3G、新しい変調パタ−ンなどだ)。だから、これからのコホ−ト研究は新技術の影響を監視したり、症例対照研究が持ちやすいリコ−ルバイアスや選択バイアスの排除にも貢献するであろう。
 疫学研究を計画する場合は、対象が少ないというリスクや複数の国で異なった曝露パタ−ンの与える影響を評価する上で、統計学の力を最大限に発揮するために国際的な調査協力を追求すべきである。研究においては、単にガンだけをエンドポイント(終点、調査目標)にするのでなく、ガン以外もエンドポイントとすべきだ。(具体的には神経組織退化病や睡眠障害のような慢性病だ)。すべての電磁波発生源からの曝露量についても特別に配慮すべきである。

□ヒトと動物の研究
《ヒトの研究》
 ヒトに対する実験研究は、高周波の影響を実験用パラメ−タ−(媒介変数)を使って調べる研究である。しかしこの研究方法は急性短期の影響しかみることはできないという制約を持つ。
 最近行なった研究および進行中の研究は以下に示す。
《動物の研究》
 動物研究は、倫理上ヒトの研究が出来ないケ−スにおいて行なう。実験条件は厳密に管理可能で、特に慢性的電磁波曝露の面で利点がある。
 最近の研究は以下に示す。
□細胞研究とメカニズム
《細胞研究》
 生物組織(tissues)や生きている細胞(living cell)や細胞から離れた体系(cell-free systems)に関する研究は、健康リスク評価においてサポ−ト的役割を果たす。細胞モデルシステムは機械的仮説を説明するテストをする上でとても大きな役割を持っている。また細胞モデルシステムは、高周波電磁波の曝露が既知の生物学的行動因子として相乗的効果を持っていることを調べる上で、とても大きな役割を持っている。こうした研究は、動物研究や疫学研究の最適デザイン化にとって極めて重要なことである。(たとえば、細胞研究は高周波電磁波曝露の反応を明確に証明する力をもっているし、新しい高周波信号(電磁波)の研究に使われる)。
 最近完成あるいは進行中の研究(遺伝毒性や細胞消滅等)はいくつかあるが、たいてい「影響なし」と報告されている。また曝露種類や影響が増大する条件は様々であるため、デ−タの比較はむずかしい。最近論争中の研究結果の多くは現在再現テスト中の遺伝毒性研究のものと関係している。
 遺伝物質やたんぱく物質に関するワ−クショップにWHOは共同スポンサ−となっているが、そのワ−クショップは2005年後半、フィンランドで開かれた。生物学的反応がEMFのような環境ストレス要因によって引き起こされる際、遺伝物質やたんぱく質どのように関わるかについて、様々な研究方法がそのワ−クショップで言及された。だが、そうした研究方法はまだ開発段階にあり、リスクを評価したり予測するにはまだ不十分である。でも、そうした研究方法は、EMFによってタ−ゲットとなった分子(遺伝子やたんぱく質)が影響されたどうか確かめる研究ツ−ルとして使えるし、研究仮説を作る上でエンドポイントとなる分子を確定する際の研究ツ−ルとしても使える。

《メカニズム》
 健康影響をもたらすことと関係することがメカニズムとして検証されているのは、熱作用と、電流あるいは電場でもたらされる誘導刺激作用だ。これ以外のメカニズムは存在するが、健康影響をもたらす証拠までは確認されていない。
 メカニズムに関する実験計画は継続中のものが2〜3ある。その研究の一つは、高周波電磁波に反応する生物学的成分は存在し、その成分の高周波シグナル検波は連続的ではなく、極低周波電流を生むこともある可能性を探求するというものである。もしこのようなことが中枢神経で起こるのであれば、これは大きな意味をもつ。(この研究はブラッドフォ−ド大学とメリ−ランド大学および英国健康保護庁で実施中)。また別の研究は、細胞レベル下のカルシウムイオンの動きを見るものである。また、多くの分野で最近理論的関心が出てきている。その理論的関心の中には、ラジカルのペアメカニズムを通じて、高周波電磁波がフリ−ラジカルの集積に影響を与える可能性とか、高周波電磁波が分子振動を刺激する可能性とか、高周波電磁波がたんぱく質構成を変化させる可能性とかが含まれる。

□線量測定(ドシメトリ−)
 すべてのタイプの実験研究について専門的な線量測定で研究内容が裏付けられることは、研究のデザインと解釈の正確性・厳密性を期する上で重要である。
□社会的問題
 携帯電話通信技術による高周波電磁波の健康影響に対する不安は一般的に存在している。こうした不安はリスク管理(マネジメント)や、科学的な健康リスク評価(アセスメント)に影響を及ぼす。理に適ったリスク管理(マネジメント)には、高周波電磁波への不安はどのようなものであるかについてしっかりとした調査に裏付けられた社会的研究を行い、その社会的研究によって導かれた科学的リスク評価と認識を基にした証拠が必要である。
 数は少ないがいくつかの研究は、高周波電磁波のリスク認識とリスクコミュニケ−ションについて扱っている。それらの研究はすでに発表されているが、リスク管理の影響力やリスクコミュニケ−ション戦略について調査している。具体的には、意見対立の解決法や個人レベルでどの位高周波電磁波についてリスクを感じているか、といったことだ。さらに言及すると、リスクランク付けや予防原則のような政策の影響力あるいはリスク認識における社会的・心理的要因についても調査している。
 研究内容を以下に示す。

【電磁波問題市民研究会の解説】
WHOは2008年に予定されている高周波の環境健康基準(Environmental Heath Criteria)づくりに向けて本格的に研究を奨励している。WHOは高周波のリスクが不明だからこそ、こうした研究を進めているのである。携帯電話会社の「安全論」は軽薄すぎるといえよう。


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