マンション基地局設置には住民の全員合意が必要

札幌地方裁判所の判決でソフトバンクが敗訴

□画期的な判決
 北海道札幌市のマンションに、ソフトバンクが設置した携帯電話基地局について「管理組合の多数決で決められる問題でなく、マンション住民全員の同意が必要」であるとした画期的判決が、2008年5月30日に札幌地裁で出されました。

□経緯
 このマンションでは、携帯電話基地局を屋上に設置する賃貸契約を、2005年11月にソフトバンク(当時はボ−ダ−フォン)とマンション管理組合との間で結びました。屋上に基地局アンテナ(高さ8メートル)と電源設備を設置し、ソフトバンクが管理組合に賃貸料を支払うという、10年間の契約でした。
 この契約を結ぶ1ヵ月前の2005年10月に、管理組合は臨時総会を開き、組合員全員77人中59人(76、6%)の賛成で設置案が可決されました。しかし、臨時総会に参加したのはわずか12人で、あとの人は委任状や議決権行使書を提出しただけです。このマンションはリゾ−ト型マンションですので、常時の居住者は数人しかおらず、多くの住民には基地局とは何かの説明もなく、一部の理事の意向で、この基地局建設は進められていたのが実態です。議決に不満を持つ住民が調べたら、賛成票は45票で「共有部分改変に必要な表数(4分の3)」に達していないことが判明しました。この件に関して、ソフトバンクは、「基地局設置は特別議決事項ではないので4分の3は必要なく、過半数で良い」と主張しています。

□再度の臨時総会で建設反対を可決
 2006年2月に、基地局建設に反対する住民の要求で、臨時総会が開かれました。その臨時総会では、理事を除く大半の住民が、基地局設置反対の票を投じ、併せて契約を強行した理事の責任が追及されました。そのために、当時の理事全員が総辞職し、変わって反対派の人が新理事に就任し、その場で契約の白紙撤回も採択されました。
 新理事は、当時のボ−ダ−フォン北海道支社に対し、「契約白紙撤回」と賃料の返還を提案し、何回か交渉をしました。 こうした住民側の方針転換で、基地局設置工事は中断していましたが、ボ−ダ−フォンは管理組合の要求に応じるどころか、2006年10月16日、「工事妨害禁止」を求めて、管理組合を訴えたのです。その判決が2008年5月30日に出たのです。
 判決文では、「本契約は、建物を目的とした賃貸契約であり、かつ、その期間も10年に及ぶから、原則として、区分所有者全員でこれを行なう必要があるところ、本件でそれを満たしていないことは、争いがない」として、区分所有者全員の賛成が必要であるとしています。
 被告側(住民側)弁護人である馬場正昭弁護士は「マンションの管理者は共有部分の管理行為は行なえるが、共用物の処分行為は行なえない。管理組合ができることは、一定の管理行為に限定されていると考えるべきだ」とコメントしています。
 今回の裁判で住民側は「電磁波健康影響を争点にせず、契約の効力を争点にする」方針で臨みました。判決文では、「電磁波による人体への影響が科学的に裏付けられているかどうかはともかくとして、それを問題視して本件設備等の設置に反対する人間が一定数存在していることは明らかであり、このような点からすると、本件設備等の存在が、各区分所有者建物の市場価格に影響を与える可能性も否定できない」と触れており、住民側の方針の適切さを表していると思います。
 2008年6月13日に、ソフトバンクは予想どおり控訴しました。逆転判決されないように、全国的な運動で、この画期的な判決を守っていく必要があります。


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