<海外情報>

米上院で専門の医師が携帯電話リスクを証言

 2009年9月14日に、米上院で開かれた携帯電話に関する健康影響特別委員会公聴会で、数人の著名な国際的研究者が証言を行ないました。ここで全文掲載したのは、その中の一人である、イスラエル・テルアビブの大学シ−ガル・セデスキ−(Siegal Sadetzki)博士の証言です。博士はWHOのインタ−フォン計画(13ヵ国による携帯電話と脳腫瘍に関する症例対照共同研究)のイスラエル研究責任者で、携帯電話で耳下腺腫リスクが高まるとなっており、この研究結果が引き金となり、イスラエル政府は携帯電話電磁波に予防原則適用政策を行なっています。翻訳はジャ−ナリスト・植田武智さんにお願いし、小見出しは当会がつけました。

□証言者は疫学と公衆衛生の専門医師
「この重要な公聴会で証言できることを光栄に思います。(携帯電話電磁波問題は)公衆衛生上に極めて重要な問題です。」
「私は、疫学と公衆衛生にかかわる医者です。テルアビブ大学ガ−トナ−研究所のガンと放射線疫学部の部長です。研究者である一方で、保健省長官の顧問も務めています。現在、NIHやECなどが資金提供している、脳腫瘍の共同研究に携わっています。」
「この10年間、携帯電話に関連する脳腫瘍のリスクの研究に参加しています。インタ−フォン研究と呼ばれる共同研究のイスラエルでのチ−フです。現在進行中のケ−タイと子どもの疫学調査の“モズキッズ”のイスラエルのチ−ムリ−ダ−でもあります。」

□ケ−タイで耳下腺腫リスクが高まる
「2008年に、インタ−フォン研究の一環として耳下腺腫のリスクの疫学調査を発表しました。比較的長期利用者で、ケ−タイを使う側の腫瘍が増えることを示唆する結果でした。(その結果から)イスラエル政府は予防原則を適用しました。」
「シンプルで低コストな予防手段を勧告しました。シンプルで低コストであることが(予防原則に基づく手段としては)重要なのです。産業界の賢い技術者であれば、簡単に解決策を見つけられると思います。」
「対策とは、スピ−カ−やイヤホンを運転時に使うハンドフリ−キットを使い、また電波の状態が悪い場所ではケ−タイの使用を減らす、といったことです。」

□子どもには特に配慮必要
「子どもには特別の配慮が必要です。発ガン作用に特に敏感だからです。同様のガイドラインは、他国でも発表済みです。フランス、フィンランド、カナダなどです。」
「私たちの結果は、脳腫瘍や聴神経腫瘍などの他の研究結果とも合致しています。ケ−タイを使っている側の腫瘍リスクが、10年以上の使用で増えていることを示しています。しかし、その解釈については科学者の間で論争中です。」
「結果が本当なのか、疫学調査の方法の問題点によるものなのか、についてです。学問上、疫学調査上の問題は興味深く、結果を疑う姿勢は大事ですが、一方、今出ている結果は尊重すべきです。」
「疫学デ−タの限界を示す重要なポイントを説明しましょう。」

□脳腫瘍には30〜50年調査必要
「ガンの研究には最低で10年間の観察が必要ということです。脳腫瘍の場合、30年から50年必要です。」
「たとえば、1945年に起きた広島、長崎の原爆の場合、生存者の間で脳腫瘍が初めて報告されたのは、50年後の1994年です。白血病は50年代、他のガンについては60年代に報告されていましたけれども。ケ−タイが広まり始めたのは90年代中頃からですから。」
「ほとんどの研究は10年足らずのもので、影響を観察するには不十分です。少なくとも皆で合意できることは、さらに研究が必要であるということです。」

□アメリカの医学研究に期待する
「アメリカは常に医学研究のリ−ダ−でした。この問題を最優先課題にすれば、さらなる発展が期待されます。これまでの研究を元に、学際的、国際的な努力が不可欠です。過去の経験から学ぶことは重要です。」
「現在40億人の人たちがケ−タイを使っています。子どもたちも含まれます。個々人へのリスクは小さいとしても、大きな損害につながることになります。」
「確かな答が得られるまでの間、公衆衛生上の措置が必要です。特に子どもたちに。」

□予防策は車の事故対策と同じ
「被害予防の方法は、他の技術にも既に採用されています。車の運転などです。私たちは皆、クルマを使いますが、事故のリスクは減らそうとします。シ−トベルト、エアバッグ、速度制限、年令制限、車検などの法規制があります。それらと全く同じです。」
「ケ−タイの技術は有益なもので既に普及していますが、しかし問題はケ−タイを使うべきかどうかではなく、どのように使うべきかです。それほど困難なことではないと思います。」
「この公聴会によって、この分野での研究が振興されることを期待します。さらに、ケ−タイの安全な使い方について、対策が取られることを期待します。」
「この公聴会に誘ってくれたデボラ・デ−ビス博士に感謝します。また、この問題に関心を持って頂いて感謝します。」
<電磁波問題市民研究会のコメント>イスラエルは、パレスチナ問題を抱えており、ゲリラ攻撃対策のため、固定電話のためにケーブルが事実上建設できず、無線電話や携帯電話が普及しています。そのために、携帯電話を長期間使用している人が世界と比べても多く、それだけに、携帯電話電磁波リスクに敏感です。イスラエルで電磁波研究が盛んなのは、そうした政治的背景があるためです。


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