ICNIRPに批判的な研究者による新たな国際委員会「ICBE-EMF」 現在の国際指針値では市民を守れないことを示す論文

山口みほさん(久留米大学非常勤講師、電磁波研会員)

 電磁波の国際指針値を定めているのが「国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)」です。ICNIRPは世界保健機関(WHO)の協力機関に位置づけられていますが、ICNIRP自体はWHOのような国連機関ではなく、ドイツに登録された非政府組織(NGO)に過ぎません。多くの国が自国の電磁波規制値として、この国際指針値を採用しています。日本の規制値も(国際指針値よりやや緩いですが)ほぼ同じです。日本だけでなく、欧州を含む世界中の多くの国々の市民が、ICNIRP国際指針値と同じである自国の電磁波規制は緩すぎる、と批判しています。
 日本の総務省はICNIRPを「中立の非政府機関」だと紹介しています[1]が、実際は産業界からの資金で研究を行っている利益相反の研究者が多いこと(会報第125号参照)や、ICNIRP委員らが関係する研究ばかりを根拠に指針値を決めていること(会報第137号参照)などから、ICNIRPは中立ではないと批判されてきました。
 昨年、各国の研究者らがICNIRPに対抗して、新たな委員会「電磁波の生物学的影響に関する国際委員会(ICBE-EMF)」を発足させました。そして今年10月、同委員会による論文「FCCおよびICNIRPによる高周波放射の曝露限度決定の基礎となる健康上の前提は無効であると科学的証拠は示す:5Gにも波及」が学術誌『Environmental Health』に掲載されました。米国の環境団体「環境健康トラスト(EHT)」のウェブサイトに掲載された、論文発表についてのニュース[2]を、山口みほさんが翻訳してくださいました。

[1]総務省「携帯電話基地局とわたしたちの暮らし」
[2]MAJOR NEW PAPER BY INTERNATIONAL COMMISSION ON WIRELESS  TECHNOLOGY PRESENTS CASE FOR REVISION OF HUMAN EXPOSURE LIMITS AND CALLS FOR IMMEDIATE MORATORIUM ON 5G


ワイヤレス(無線)技術に関する国際委員会による新たな主要論文、人体曝露限界値の改定と5Gの即時モラトリアムを求める

「Environmental Health Trust(環境健康トラスト、EHT)は、世界トップの環境科学者たちが、時代遅れの無線放射線基準を独立した立場から再評価するよう呼びかけるという、この有望な新展開に感激しています」「コロンビア特別区連邦巡回控訴裁判所は、『EHT等対FCC』(裁判)において提出された記録を検討した結果、FCCが2019年時点での関連する科学全体を考察していなかったことを明らかにしました。裁判官たちが指摘するように、記録を真剣に検討し、これらの時代遅れの基準を見直す必要性を裏付ける証拠があります」と、EHTの会長であるDevra Davis(デブラ デイビス)博士は述べた。

ワイヤレス技術は、人の健康や環境に対する危険性の評価が適切になされていない
新しい査読付き論文で、規制値改訂の科学的根拠を提示

 アリゾナ州ツーソン-2022年10月18日-電磁界の生物学的影響に関する国際委員会(ICBE-EMF)は、現在の無線による高周波放射(RFR)への曝露制限の安全性に異議を唱え、独立した評価を求めている。
 本日『Environmental Health』に掲載された「Scientific evidence invalidates health assumptions underlying the FCC and ICNIRP exposure limit determinations for radiofrequency radiation: implications for 5G(FCCおよびICNIRPによる高周波放射の曝露限度決定の基礎となる健康上の前提は無効であると科学的証拠は示す:5Gにも波及)」は、米国連邦通信委員会(FCC)と国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が、これらの機関が主張しているところの閾値-人間の曝露限度を定めるためにそれらが用いた閾値-を下回る曝露で健康に悪影響を与えることを記録した何百もの科学研究を、無視または不適切な形で棄却してきた事を論証する。携帯電話が普及する前の1980年代の科学に基づくこの閾値は間違っており、この閾値に基づく被曝限度では、無線データ通信による非電離放射線への曝露から労働者や子ども、電磁波過敏症の人々、一般市民を適切に保護できないと、本稿の著者等は主張する。
 「多くの研究が、低強度のRFR(無線周波放射)への曝露に伴う酸化作用、及び、心筋症、発癌性、DNA損傷、神経障害、血液脳関門の透過性増大、精子損傷を含む重大な悪影響がある事を実証してきた」と、委員会(ICBE-EMF)議長で元米国環境健康科学研究所国家毒性プログラム(NTP)の上級毒物学者であるRonald Melnick(ロナルド・メルニック)博士は説明する。「これらの影響を考慮して、ガイドラインを改訂し、健康を守る事が出来るようにしなければなりません。さらに、5Gミリ波は体内への侵入が限定的であるため安全であるという仮定は、健康影響研究の必要性を退けるものではありません。」
 スウェーデンのÖrebro(エーレブロー)大学病院[1]の元教授で、非電離放射線に関する100以上の論文の著者であるLennart Hardell(レナート ハーデル)博士は、付け加えて次のように述べている「携帯電話の放射線に関する多数の強固な人体研究により脳腫瘍のリスクが増加する事がわかっており、これらは動物研究で見つかった同じ種類の細胞の発がん性の明確な証拠によってもサポートされている。」
 委員会(ICBE-EMF)は、より低い被ばく限度を設定するために、過去25年間に得られた知見に注意を払い、科学的証拠に基づく独立した評価が必要であると考えている。また、委員会(ICBE-EMF)は、これ以上5Gネットワークを展開する前に、健康研究を完了させることを求めている。
 委員会(ICBE-EMF)の常務理事であるElizabeth Kelley(エリザベス・ケリー)は以下のように述べた:「電磁界、生物学、健康に関する2000以上の論文を発表している240人以上の科学者が署名した請願書「the International EMF Scientist Appeal(国際電磁波科学者アピール)」のアドバイザー達から、ICBE-EMFは依頼された。(ICBE-EMFの)委員たちは、公衆と環境の健康を保護するこのアピールの勧告を公に支持している。」

主要文献
2022年10月18日付プレスリリース
ファクトシートのダウンロード
論文「FCCおよびICNIRPによる高周波放射の曝露限度決定の基礎となる健康上の前提は無効であると科学的証拠は示す:5Gにも波及」をダウンロード
論文:「無線周波放射(RFR)のFCCおよびICNIRP曝露限度に関する欠陥のある前提条件」をまとめた15分のスライドプレゼンテーションをご覧ください 

報道
ヤフーニュース ICBE-EMFが提出:ワイヤレス技術は、人の健康や環境に対する危険性の評価が適切になされていない
(略)

電磁界の生物学的影響に関する国際委員会について
 2021年に設立されたICBE-EMFは、the International EMF Scientist Appeal(国際電磁界科学者アピール)のアドバイザー達によって委託されました。当委員会(ICBE-EMF)は、非電離放射線の有害な影響から人間や他の種を確実に保護することに献身しています。私たちの主な目的は、査読済みの科学的研究に基づいて勧告を行うことであり、それには、安全を確保するための数値的な被曝ガイドラインを確立する事が含まれ、また、さらにその先を目指すものです。ICBE-EMFは、300GHz以下の電磁界の生物学的影響や健康影響に関する研究に携わる、或いは携わって来た科学者、医師、関連専門家による、多くの学問領域にわたるコンソーシアムで構成されています。
 論文と著者の背景についてはwww.icbe-emf.org/activities/をご覧ください。
 ICBE-EMFについてのさらなる情報はこちらへ。 

[1]インターネットの記事を見ると、Örebroは、片仮名表記では「エレブルー」や「オレブロ」となっています。スウェーデンの発音に近い表記について、東京のスウェーデン大使館に問い合わせたところ、速水望氏より「オリジナルに一番近いのはエーレブローです」との回答を頂きました。

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