暮れの12月24日、突然速達文書が届く
暮れも押し迫った2025年12月25日、岡山県倉敷市に住む原口恵子さん(会員・仮名)の母宅に分厚い速達文書が岡山地方裁判所倉敷支部から届きました。開けてみると、「計器交換妨害禁止の仮処分命令申立書」と題する文書の束でした。本文は4ページで、あとは添付資料で構成され、全体で約80ページに及ぶものです。
相前後して原口さん宅にも、ほぼ同じ内容の速達文書が岡山地方裁判所から届きました。
内容は、「債権者(中国電力ネットワーク)が土地に立ち入り、スマメに交換することを妨害してはならない。債務者(原口恵子さん又は母)が門扉を施錠する方法により、立ち入りを妨害すれば、裁判所執行官に施錠を解かせることができる。その際の費用負担は債務者が負う」という命令を裁判所が出すことを求めるものです。
計器交換妨害禁止の仮処分命令申立書
令和7年12月22日
岡山地方裁判所 御中
債権者代理人弁護士 (3名連記)印
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
仮処分による保全すべき権利 託送供給等約款に基づく計器交換
妨害予防請求権
申立ての趣旨
1 債権者は、自ら又は第三者をして、債権者が別紙物件目録1上の土地に立ち入り、別紙計器目録記載の各計器を交換することを妨害してはならない。
2 債務者が、自ら又は第三者をして、別紙物件目録1記載の土地上の門扉を施錠する方法により、債権者の立ち入りを妨害した場合には、債権者は、岡山地方裁判所執行官に債務者の費用で、前記門扉の施錠を解かせることができる。
との裁判を求める。
申立ての理由
第一 被保全権利
(省略)
第二 保全の必要性
(省略)
原口さんと母は別々に住んでいて、それぞれ中国電力ネットワーク(以下中電ネット)のスマートメーター(以下スマメ)への交換に反対し、アナログメーター(以下アナメ)のままがんばっていました。
原口さん母娘は、ずっと中電ネットとスマメ化を巡って争っていましたが、母宅については2024年9月17日、原口さん宅については同年9月24日、中国電力(株)倉敷営業所から、「使用電力協定について(ご連絡のお願い)」「①今年前月の使用電力量、②今年前3か月の平均月使用電力量、③前年同月の使用電力量、のうち一番安価な使用電力量を協定させていただきたいと思います」の内容で協議が成立した、とする文書が届きました。これでスマメ化は阻止し解決したと思っていました。
中国電力(株)と中電ネット(株)の関係は、「発電事業者(電気を生み出す会社)と小売電気事業者(電気を販売する会社)」が中国電力(株)で、「送配電事業者(電気を電線等の送配電網を通じて需要者【ユーザー】に届ける会社)が中電ネット(株)です。つまり、小売電気事業者である「中国電力(株)」とは料金支払いの件で合意したが、電力メーターを所管する送配電事業者である「中電ネット(株)」とは合意していないので、中電ネットが原口さん宅と母宅に対し、スマメ交換を強制する仮処分命令を出すよう地方裁判所に申し立てた、というわけです。
出頭日は年明け早々というひどさ
この「仮処分命令申立事件」について、裁判官が意見を聞く日は、母の場合は「2026年1月8日」、原口さんの場合は「2026年1月13日」という急な設定です。年末年始のあわただしさで、債務者側(原口さんと母)が十分な準備ができないことを想定した債権者側(中電ネット)の卑劣なやり方であることは明らかです。
原口さんから年末の12月25日に当研究会に相談が来ました。普通に生活している人にとって裁判所から「仮処分命令申立書」が届けば、それこそ晴天の霹靂です。しかし、このような中電ネットの脅しに何もせず屈すれば、電力会社側は嵩(かさ)にかかって攻めてくるでしょう。当研究会は時間的制約で十分な対応ができませんでしたが、知り合いの弁護士のお力をお借りし、別紙のような「答弁書」を作成しました(次頁からの囲み)。裁判所への出席は本人たちの負担が大きすぎるので、書面での対応にしました。
中電ネットの主張
中電ネットの主張は、①託送約款で、正当な理由がない限りユーザーの敷地に立ち入り業務をを実施することを承諾してもらっている、②計量法で有効期間は10年と定められている、③債務者(原口さん)はスマメでなくアナメの交換を求めるが、アナメは生産していないし在庫もないから、通信部を外して交換する、と提案している、④債務者(原口さん)はスマメの交換工事と土地立ち入りを承諾していないが、その理由として電磁波による健康被害、プライバシー侵害への懸念がある、と推測される。しかしスマメは法令基準以内の電波しか発しておらず、電波は外部に漏洩する可能性はないし、取得情報を適切に管理しているので、プライバシー侵害のおそれはない。債務者(原口さん)の懸念は根拠がないので、託送約款でいう「正当な理由」はない。⑤債務者(原口さん)の懸念は科学的根拠がないし、それでも懸念が生じるというのなら、通信部を外せば解消される。⑥むしろ電気の供給をストップせざるをえないより、スマメの交換のほうが債務者(原口さん)にとって利益になる、というものです。
中電ネットの申立書の問題点
中電ネットの申立書は事実に反するだけでなく、いくつも問題点があります。
第一に、ユーザーが電気を事業者から購入し、その電気使用量に応じて料金を支払うことで、電気事業は成り立っています。原口さん母娘は、スマメの導入に反対していますが、電気使用量は支払っています。従って中電ネットには具体的な損害は発生していません。仮処分命令が必要になるには、「権利を保全しなければ回復できない損害が発生する」場合です。そのようなリスクは今回のケースで発生していません。
第二に、中電ネットは「託送供給等約款」に基づく計器交換妨害予防請求権が存在すると主張していますが、仮に計器を交換する権利が生じているとしても、それがユーザー側の生命・身体の安全、プライバシーの保護など「平穏な生活を営む権利」と衝突する関係の場合は、ユーザー側の人格権が優先されるべきです。
第三に、中電ネットは「電磁波による健康被害は、通信部を外せば問題なくなる」と主張しますが、通信部を外してもスマメからは若干電磁波が出ます。そのため通信部を外しても健康被害が発生していて苦しい、という訴えが当研究会には複数きています。しかし「通信部を外しても苦しいから元のアナメに戻してほしい」と訴えるユーザーに対して、電力会社側は「一度替えたものは、元に戻しません」と頑なに拒否します。だから、ユーザーは通信部を外して対応する現在のやり方に不信を感じ反対しているのです。
第四に、計量法を理由に中電ネットは10年に1回、スマメに替える根拠にしていますが、計量法には計器を正しく計測できる計器に替えろとはいっても、スマメに替えろという文言は一切ありません。しかも、計量法の計器に関する規定は、取引の安全を保護するものであり、契約の当事者間で有効期限について別途合意が形成されている場合にまで使用を強制されるものではありません。そして合意が形成されている場合、罰則が適用されることはありえません。
第五に、2024年12月11日に、中電ネット岡山ネットワークの高原誠課長と電磁波問題市民研究会は交渉しましたが、その際、高原課長は「スマメを強制する法律はない」ことを認めました。またそれまで「アナメは製造していないし、中古の在庫もない」と再三再四主張していたのに「探したら在庫品ありました」と発言し、交渉に出席していた会員にその後アナメを取り付けました。在庫品がまったくない、という電力会社の主張は信用できません。
第六に、スマメを強制する法律はないことは、資源エネルギー庁の担当課長補佐が2018年4月25日の当研究会主催の院内集会で認めました。同じ院内集会で東京電力パワーグリッドのスマメ推進室マネージャー(課長相当)も同じく認めました。なによりも、中電ネットの岡山ネットワークの課長も「第五」で紹介したように「スマメを強制する法律はない」ことを認めました。中電ネット内の課長も認めているのに、今回のような中電ネットのスマメ交換強制を要求する仮処分命令申立書は道理に反します。
第七、資源エネルギー庁は「全国でスマメを拒否する世帯は4万件を超えている」としています。他の4万件以上の人には仮処分命令申立をしないで、原口母娘に対して行うというのは、法の下の平等原則に反する行為であり、卑劣です。
不当にも地裁が仮処分決定
母については2026年1月8日に岡山地方裁判所倉敷支部から、原口恵子さんについては2026年1月13日に岡山地方裁判所から、債権者(中電ネット)の申立てを認め「仮処分決定」がなされました。原口さんの仮処分決定の内容は以下です。
今回の事案に対して
1 今回の地裁の「仮処分決定」は債権者(中電ネット)の申出を全面的に受け入れたもので極めて不当なものです。
2 年末年始という生活者にとって多忙な時期を選び、債務者(原口さん母娘)が反論する十分な準備ができないことを予想した、卑劣な行為です。
3 裁判所が指定した日時に、専門家である弁護士が用意できず、有効な反論ができなかったことは裁判所の決定にマイナスに作用したことは否定できません。かといって、原口母娘が裁判所で相手の弁護士と争うことは難しいといえます。
4 電磁波の法令基準(電波防護指針)以下で健康被害が生じている事例や、スマートメーターで30分ごとにデータを集めることがプライバシーの侵害になること、を丁寧に主張する準備が時間的にできなかったことは悔やまれます。
5 本事案でわかったことですが、2022年10月7日に広島地方裁判所福山支部で、同様の仮処分決定が出ており、中電ネットは勝利した前例がありました。この時の経験が大きかったといえます。
6 今後どのような姿勢で相手が出てくるか(今回はあくまで特殊なのか否か)は、わかりません。今後も同じようなケースが出る場合、参考になるのは2024年4月11日に、相手弁護士から「やむを得ず仮処分の申立てをすることもありますので、ご承知おきください」という事前通告があったことです。同じようなケースが起きた場合、弁護士を確保し、財政面では全国にカンパを要請するなどの取り組みが求められます。【大久保貞利】

