千葉県鴨川市 電磁波過敏症で悩む住民が必死に戦い、携帯基地局撤去

知らぬ間に建ったソフトバンク携帯鉄塔

自宅の200m先に突然
 千葉県鴨川市は、房総半島の先に位置し、黒潮流れる太平洋に面した、冬も温暖な地域です。鴨川シーワールドのある待ちとしても知られています。
 そこに住むTさんは、10年来の電磁波過敏症に苦しんできました。電磁波を浴びると、頭痛、眼痛、肩や首のこり、耳鳴り、不眠、便秘、腹痛、倦怠、等々の症状が出るのです。
 そんなTさん家族にとんでもない事件がふりかかりました。自宅の200m先に突然、ソフトバンクの携帯電話中継塔が建ったのです。そして、2007年6月29日から電波が発信されました。

予想どおり体に異変
 電波発信後3~4日経つと、予想どおりというか、頭痛、眼痛、肩・首の凝り、耳鳴り等の症状を感じました。「あ、始まったな」と思っていたが、なんとパートナーの女性も「頭が痛い」「首が凝る」「目が痛い」「お腹が痛い」と言い始めました。それまえ彼女には電磁波過敏症の症状は表れず、Tさんの症状については「気のせいじゃないの」という反応しかなかったのです。

地主は始めはつれなく、やがて…
 そこで、中継塔の建った土地を提供した地主のYさんに電磁波過敏症の症状を訴えましたが、はじめはなんのことやら、という感じで受けとめられました。
 しかし段々と体の苦痛がひどくなるので数日後、再び地主宅を訪ねると、Yさんから、「Tさん、携帯塔はなにやら危ないらしいね。懇意にしている電気屋さんが言うには『半年に1回、白血病の検査をしなければならなくなるよ』と言っていたよ」と話しかけてきました。そこで、Tさんが「携帯塔を撤廃するようソフトバンクに言いましょうよ」と誘ったら、Yさんも「白紙撤回だな」と応じてくれました。

ソフトバンクと4回も交渉
 しかし、相手のソフトバンクも一筋縄ではいきません。7月から10月まで4回も交渉することになりました。ソフトバンクの言い分は「携帯電話塔から発信される電磁波は住民の健康に影響ない」というもので譲りません。でも、冷蔵庫やトランス、家電製品から出る極低周波電磁波は小児白血病を引き起こすことは認めました。以前はそれすら認めなかったのですが、極低周波は危険だが、高周波は安全、という論法をとったようです。
 しかし、極低周波電磁波が小児白血病を引き起こすならば、携帯塔から出る高周波電磁波だってなにか引き起こすと考えるのがふつうですよね。

電磁波ジプシ-になって
 電波が発信されて1ヵ月は自宅で我慢しました。でも日々症状が悪化し、このままでは「殺される」と直感し、脱出しようと決意し、友人宅に避難し以後4ヵ月間、自宅に戻れませんでした。
 ソフトバンクは地主とだけしか交渉しないという態度でしたが、Tさんたちの電磁波過敏症症状の説明を克明にメモっていました。おそらく、電磁波による健康被害の実例をいろいろ知っているんだとその時思いました。それに、電磁波過敏症になった住民からの裁判が起こっているし、『電磁波過敏症』(緑風出版)にもいろいろ実例が載っていますし。

ついに11月27日、電波ストップ
 こんな苦しい避難生活が続く11月27日、地主のYさんが朗報を持ってきてくれました。「Tさん、携帯塔の電気ストップしているよ。自分の目で確認したら」と、Yさんはわざわざ避難先の友人宅まで知らせに来てくれたのです。
 これで、あの頭を締め付けてくる不愉快な“孫悟空の環”から解放されるのです。その後、ソフトバンクは電波発信ストップだけでなく、現在では鉄塔そのものを完全撤去しました。ようやく、自宅に戻れる日が来たのです。

撤退させた3つの理由
 Tさんは、ソフトバンクの携帯電話中継塔を撤去させた理由は次の3つだと分析しています。
 (1)絶対に引かない。塔から電磁波が発信されるかぎり、この場で生けていけない。どうなるかわからなくても闘う、という生きる姿勢と、友人たちの直接的または精神的支援が支えとなった。
 (2)地主のYさんも電磁波の危険を直感し、「白紙撤回」を主張したこと。地主が携帯塔を撤退してくれたら、ソフトバンクは拒否できないとのことでした。つまり、途中でも契約破棄できるということ。
 (3)ソフトバンク社内では、契約違反として違約金をとるとか、訴訟しようという意見もあったようだが、そんなことをしたら、この地域でソフトバンクは今後携帯塔を建てられなくなる、と世論形成をする覚悟を持ち、その意志をソフトバンクに伝えたこと。
 今回の鴨川市のケースは、Tさんから「研究会の本を読んだおかげで勝ちました」というお礼が来て知りました。実際の報告はもっと長いのですが紙面の都合で事務局責任でまとめました。【大久保貞利】

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