電磁界情報センターの正体


 電磁界情報センターのウェブサイトには「私たち、電磁界情報センターは、電磁界ばく露による健康影響に関する正確な知識が国民に正しく伝わっていないことから生じる問題の解消に資するためのリスクコミュニケーションの増進を目的とした中立的な常設機関です。電磁界に関する専門的知識を有する国際的にもトップレベルのリスクコミュニケーションセンターを目指して活動していきます。」と書かれています。しかし、この前の記事に書いた通り、まったく「中立的」ではありません。

経産省、超低周波磁場への予防的措置を拒否
 同センターができた経緯は、以下の通りです。
 電磁波による健康影響への関心の世界的な高まりを受け、世界保健機関(WHO)は1996年に国際電磁界プロジェクトを発足させました。同プロジェクトは発表されている論文の検討を行い、2007年6月に「環境保健基準(以下「EHC」と言います)」を発表しました。その中で「日常的な、慢性的な低強度(0.3~0.4μT以上)の商用周波数磁界(筆者注:50Hz、60Hzの超低周波磁場)への曝露が健康リスクを生じるということを示唆する科学的証拠は、小児白血病のリスク上昇についての一貫したパターンを示す疫学研究に基づいている」「この証拠は因果関係があると考えるほどには強くないが、懸念を残すには十分に強い」という見解が示され、「曝露を低減するための非常に低い費用の予防(プレコーション)的方策を実施することは合理的であり、是認される」と勧告しました。
 当時、日本には超低周波磁場の規制値はありませんでした。経済産業省はWHOの上記の動きに合わせて「総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会電力安全小委員会」の下に「電力設備電磁界対策ワーキンググループ(以下「WG」と言います)」を2007年4月に設け、磁場の規制について検討することとしました。
 当会(電磁波問題市民研究会)などの市民団体は、長期曝露から健康を守るために超低周波磁場を0.4μTで規制するよう、WGへ要求しました。
 しかしWGは、EHCの内容のうち、超低周波磁場と小児白血病について「因果関係があると考えるほどには強くない」の部分のみを強調する報告書を2008年6月にまとめました。報告書は、短期曝露について国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が1988年に定めていた100μT(50Hzの場合)、83μT(60Hzの場合)という国際指針値と同じ数値を日本の規制値にすることを提言しました。しかし、長期曝露による慢性的な健康影響については、曝露規制を盛り込みませんでした(その後、国際指針値の改悪(2010年11月)に合わせて、2011年3月、日本の規制値はWG報告書よりもさらに緩い200μT(50、60Hzとも)と定められました)。

「リスクコミュニケーション」の曲解
 WGの報告書は、長期曝露への規制を盛り込まなかった一方で、次のように書き「中立的な常設の電磁界情報センター」設置を提言しました。

 マスメディアは、安心な情報よりも、危ないという情報(リスク)を強調して流す傾向があり、結果として、専門家や行政の認識とは異なるリスク情報が国民に届いてしまうとの意見がある。(略)リスクに関する情報の提供に当たっては、電磁界曝露による健康影響については、専門家と国民一般の間で、また、国民の中でも性別、年齢等の違いにより、リスク認知度にギャップが存在していると推定される。そのため、利害関係者のリスク認知のギャップを埋める努力が非常に大切となる。
 また、本ワーキンググループにおいて、一般の人々が家電製品からの電磁界や、送電線を始めとする電力設備からの電磁界にどれだけ曝露されているのか(略)電磁過敏症に対処するにはどうすればよいのか、など、不安を抱える人々に正確な情報提供を行う必要があることが指摘された。(略)電磁界の健康リスクに関する正確な情報が国民に届いていない現状を踏まえれば、このような状況を是正するため、電磁界の健康リスクを中心とする様々な情報を収集し、例えば、最新の知見や日常生活における曝露状況等の情報について双方向のやりとりをきめ細かく行い、不安や疑問を持つ人々との信頼感の構築を目指すリスクコミュニケーションの増進を目的とした、中立的な常設の電磁界情報センター機能の構築が必要である。

 以上を読めば分かる通り、電磁波について正確な情報は専門家が持っているが、それが国民一般に伝わっていないため電磁波に不安や疑問を持つ人々がいる、だからリスクコミュニケーションが必要である、というのがWGのリクツです。
 しかし、WHOなどが言っている「リスクコミュニケーション」の正しい意味は、すべての利害関係者(電磁波の場合は、電力会社、住民、行政、科学者、市民団体など)による話し合いによって、それぞれのリスクについて、どの程度の対応を取るのか(あるいは取らないのか)を決定することです。超低周波磁場のEHCにも「各国当局は、すべての利害関係者による情報に基づいた意思決定を可能にするために、効果的でオープンなコミュニケーション戦略を実施する必要がある」とあります。
 WG報告書が示した“専門家が無知な市民に正確な情報を教えてやる”という考え方は、リスクコミュニケーションの曲解です。
 WG報告書の提言に基づいて、電磁界情報センターは2008年7月、財団法人電気安全環境研究所の内部組織として設立されました。同センターの目的(正確な知識が国民に正しく伝わっていないことから生じる問題の解消に資するためのリスクコミュニケーションの増進)は、WG報告書が示した考え方と同じです。すなわち、同センターが掲げる「リスクコミュケーション」はWG報告書と同様、偽物のリスクコミュニケーションなのです。

コミュニケーションができない電磁界情報センター
 その点をハッキリさせようと、当会も参加して当時活動していた「電磁波から健康を守る全国連絡会」(以下「連絡会」と言います)は2009年1月27日付の同センター宛て公開質問状の中で、以下の通り質問しました。

 電磁界情報センターのウェブサイトには、「私たち、電磁界情報センターは、電磁界ばく露による健康影響に関する正確な知識が国民に正しく伝わっていないことから生じる問題の解消に資するためのリスクコミュニケーションの増進を目的とした中立的な常設機関です。」と示されています。「電磁界ばく露による健康影響に関する正確な知識が国民に正しく伝わっていないことから生じる問題」とは、どのような問題でしょうか? 具体的にお示しください。

 同センターは同年2月17日付で、以下の通り回答しました。

 「原子力安全・保安部会 電力安全小委員会 電力設備電磁界対策ワーキンググループ報告書」でもいくつかの問題が指摘されていますが、電磁界情報センターでは、特に、電磁界の健康影響などに関心のある人の個別ニーズに応じたきめ細かな情報提供ができているのかどうかという問題意識を持っています。

 連絡会は同年3月18日付で、以下の通り再質問しました。

 (略)私たちは、貴センターが言うところの「電磁界ばく露による健康影響に関する正確な知識が国民に正しく伝わっていないことから生じる問題」とは具体的にどのような問題なのかを質問したのであり、第1回回答でご回答いただいた“貴センターの「問題意識」”を質問したのではありません。
 そこで、質問にお答えいただきますよう、再度求めます。

 同センターは同年6月23日付で、以下の通り回答しました。

 平成21年2月17日付『「電磁界情報センターに係る公開質問状」へのご回答』で回答いたしましたとおりです。

 以上の通り、同センターは、市民団体からの質問に答えるだけの、ごく簡単なコミュニケーションすらできない組織であることが確認されました。さらに高度な(正しい意味での)リスクコミュニケーションなど、できるはずありません。

電力会社などのカネと人で運営
 電磁界情報センターの収入のほぼ全額が「活動趣旨に賛同いただける賛助会員からの会費」です。「2018年度予算執行結果」によると、収入は約1億1600万円にも上ります。連絡会は上記の公開質問状の中で、以下の質問も行いました。

 「運営の中立性」を確保するためには、センターの活動資金の提供元に係る情報について、その「透明性」等の確保も必要と思われます。そこで、センターの収支予算、および、収入のうち現時点での賛助会費の提供元別内訳(「電力会社:合計○○円、個人:合計○○円」等、プライバシーを侵害しない範囲で)について、それぞれお示しください。

 同センターの回答は以下の通りでした。

 収支予算書及び収支決算書は、財団法人電気安全環境研究所のホームページ上で公開されております。なお、賛助会費の個別内訳につきましては、回答を差し控えさせていただきます。

 現在、同センターのウェブサイトには、以下の通り記載されています(2023年11月16日付記:現在は削除されています)
 団体名は公開を前提として募集していないためお知らせいたしかねますが、商用周波(50ヘルツ、60ヘルツ)電磁界に関係する企業・研究機関様などからご入会いただいております。

電磁界情報センターの過去のウェブサイト(インターネットアーカイブ2020年4月19日保存より)

 

 つまり、主に電力会社などが活動資金を出していることが分かります。
 発足当時、同センターの大久保千代次所長以外のスタッフは、電力会社からの出向者でした。現在のスタッフについては確認していないので不明です。いずれにせよ、電力会社などからの資金で運営されている以上、「中立的」な活動は期待できません。

運営委員会のチェックは機能せず
 同センターは「センターの運営の中立性や透明性を担保し、組織の社会的信頼を確保するため、運営に関する重要事項について、広く見識を有する学識者、消費者代表、マスメディア関係者により構成される『運営委員会』でチェックされる仕組みを設けている」と説明しています。
 前述の通り、連絡会の質問に対して同センターがまともな「コミュニケーション」を取らなかったことについて、連絡会の有志団体が見解を求める公開質問状を各運営委員あてに2010年1月7日付で送付しました。
 各委員を代表して渡邊昌委員長から同年2月19日付で回答がありました。その中には「必ずしも十分なコミュニケーションが行われているとは言えない面もあると考えます」と、同センターを批判するかのような文言もありました。しかし、この件について、その後、何か進展があったこともなく、運営委員会はお飾りである可能性がうかがわれました。

市民や看護師、薬剤師らへ布教活動
 同センターは「中立」でもなければ、「リスクコミュニケーション」機関でもないうえ、前の記事で見た通り「正確な知識」を国民に「正しく伝」えてもいません。
 同センターはまた、設立当初こそ、電磁波による健康影響の可能性を指摘する市民(当会の大久保貞利事務局長、NPO法人市民科学研究室の上田昌文代表理事)や、EHS発症者も診療する坂部貢医師をシンポジウムに招くなど、中立性を偽装するかのような活動をしていました。しかし近年はそういうこともなく、全国各地に大久保所長やスタッフを講師として派遣する活動を盛んに行っているようです。自治体から後援を得て独自に開くセミナーや、看護師や薬剤師などの学会で行うセミナーが目立ちます。同センターのウェブサイトによると最近では、日本看護科学学会学術集会(12月1日)、日本産業看護学会学術集会(10月27日)、日本看護学会看護管理学術集会(10月23日)、日本薬剤師会学術大会(10月13日)、全国大学保健管理研究集会(10月10日)でセミナーを開催した(または開催予定)とあります。同センターが中立であるという宣伝を信じているからこそ、学会で招かれたり、自治体が後援しているのでしょう。
 皆さんが住んだり働いている自治体や、所属している団体などが、同センターから講師を招いての学習会を開いたり後援する計画を知ったときには、同センターは決して中立でないという「正確な知識」を関係者へ伝えると良いでしょう。【網代太郎】

関連記事

 化学物質過敏症(MCS)、電磁波過敏症(EHS)の診療、研究を行う医師や研究者も多数会員になっている日本臨床環境医学会の第28回学術集会が6月、都内で開かれました。第1日の冒頭、大久保千代次・電磁界情報センター所長が「教育講演」の講師として登壇し、EHSはノセボ効果(後述)によるもので電磁波曝露のせいではないなど持論を展開しました(会報119号既報...
Verified by MonsterInsights