奈良県平群町のメガソーラー計画 県の指示で工事ストップ

「裏の谷磨崖物地蔵尊立像」が削られた跡=「平群のメガソーラーを考える会」のウェブサイトより)

 奈良県平群(へぐり)町の大規模太陽光発電所(メガソーラー)建設計画を巡り、事業主が2019年に県に提出した許可申請書類に一部誤りがあったとして、県は6月22日、工事の停止を指示する行政指導をしました。そのため、建設工事はストップしています。既に始まったメガソーラー工事を都道府県が止めたのは、極めて異例です。
 このメガソーラーに反対する同町の住民ら980人が3月8日、工事差し止めを求めて奈良地方裁判所に提訴していました(会報第129号既報)。
 住民らは森林伐採による土砂災害などのほか、メガソーラーと変電所を結ぶ22,000Vの高圧送電線が町民の生活道路であり子どもたちの通学路である町道の地下に約3kmにわたって埋設する計画のため、超低周波電磁波による健康影響も心配しています。
 このメガソーラーの事業主体は「共栄ソーラーステーション合同会社」ですが、これはペーパーカンパニーで、実際の事業主は「エバーストリーム・キャピタルマネジメント」(以下「エバー社」と言います)というアメリカの投資会社です。
 エバー社はかつて、宮城県にメガソーラーを建設する際、環境アセスメントを逃れるために脱法行為を行ったと報道されています[1]。それによるとエバー社は、75ha以上開発する太陽光発電所に県条例で義務づけてられていた環境アセスメントを回避するため、二つの別会社を作り、敷地を63haと27haに分けて県に開発許可申請を出しました。

事業主が許可申請書類の数値をでっち上げか
 平群町の件の許可申請書類の「誤り」は、単なるケアレスミスではなく、意図的にウソを書いた疑いが濃いことを、森林ジャーナリストの田中敦夫さんが報告しています[2]。それによると、開発地からの放水ルートの斜度がすべて18度になっていることに、住民の一人が気づきました。水路の斜度が一律なのは不自然なうえ、18度は車が走ることも厳しいほど急です。そして、そこを流れる水の速さは秒速30m超と設定していて、時速に直せば100km超となり、津波より早く水を流せることになっています。その速度で流れることにしないと十分な排水ができないから、意図的に斜度や流速などの数字をでっち上げた可能性が出てきたのです。
 さらに計画書を精査していくと、添付しなければならないさまざまなデータや同意書もそろっていないことが判明したそうです。
 住民がこれらの情報を県へ伝えたことが、県による工事停止指示につながりました。
 工事がストップしている現場を田中さんが歩いてみたところ、極めて乱暴な工事が行われていて「もろい花崗岩質の山を大規模に削って形を変えてしまっていたし、谷筋に土砂が投げ込まれている。表土を剥ぎ取った部分も広く、少しの雨でも崩れかけていた」とのことです。さらに、室町時代に巨石に彫られたとみられる「裏の谷磨崖物地蔵尊立像」が工事によって削られていました。事業者は「移転させるため石仏部分を岩から剥がして保存している」と説明していますが、「保存」されている石仏は公開されていないので、その説明が本当かどうか現時点では不明とのことです。【網代太郎】

[1]半田修平「太陽光発電普及のウラで見えてきた「環境規制」の盲点」現代ビジネス2018年9月13日
[2]田中敦夫「奈良県が止めたメガソーラー計画の現場から見えてきたもの」ヤフーニュース2021年8月27日

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