ユニセフの報告書 世界の4分の1の国で学校内の携帯電話使用を禁止

学校内の携帯電話使用を禁止している国の割合。ユニセフの報告書「教育におけるテクノロジー」より

 イギリスの教育大臣が学校内での携帯電話使用の禁止を検討していることが10月に報道されましたが、国連児童基金(ユニセフ)が今年7月に公表した報告書「教育におけるテクノロジー:だれのためのツールか?(Technology in education: A TOOL ON WHO SETERMS?)」によると、世界中の約4分の1の国で、学校内の携帯電話を法律または政策によって禁止しています。この報告書は、教育へのデジタル技術導入の現状と課題について幅広く論じており(残念ながら電磁波影響についての記載はなさそうですが)全部で500頁以上あります。このうち、子どもへの健康影響と、学校での携帯電話禁止について述べた部分のみを紹介します。大きな字の小見出しは、訳者が追加しました。[ ] は訳注。【訳・網代太郎】


スクリーンへの露出は子どもの幸福に影響する
 子どもたちがスクリーンに費やす時間の長さは、教育や保健の専門家だけでなく、保護者にとっても関心が高まっている。(略)
 最近の研究では、さまざまな領域で悪影響が報告されている。さまざまな国や地域で行われたスクリーン時間に関する89の研究をレビューしたところ、すべての年齢層で[コロナ流行前と比べて]スクリーン時間の増加が記録されているが、小学生の1日の増加時間が最も大きく(1時間23分)、次いで成人(58分)、青年(55分)、5歳未満の子ども(35分)となっている。この増加は、食生活(食事の自己管理など)、睡眠、精神衛生、目の健康に悪影響を及ぼした。
 イギリスでは、11~16歳の40%が背中や首の痛みを経験し、15%の親が、ノートパソコン、タブレット、コンピューターの使用が原因である可能性が高いと答えたという推計もある。12のシステマティックレビューの結果に基づく報告書によると、スクリーン利用時間の増加と、健康的でない食生活、エネルギー摂取量の増加、肥満の顕著な指標との間に関連があることがわかった。1日2時間以上のスクリーンタイムは、抑うつ症状の増加、教育成果の低下、睡眠と体力の喪失と関連している。11~24歳の子供と青少年は、1日あたり約2.5時間をコンピューターに、3時間を携帯電話に、2時間をテレビに費やしていた。

スクリーン時間が長いほど幸福度が低い

 米国の2~17歳の若者の大規模なサンプルを分析したところ、スクリーン時間が長いほど幸福度が低いこと、好奇心、自制心、情緒の安定性が低いこと、不安が高いこと、うつ病の診断と関連することが示された。これらの関連性のいくつかは、幼児よりも青年の方が大きかった。
 カナダ・アルバータ州の2441人の母子を対象とした幼児期の発達に関する研究では、生後24カ月と36カ月の子どもにおけるスクリーン時間のレベルが高いほど、それぞれ36カ月と60カ月の時点での発達の結果が悪くなることが明らかになった同様の結果は、3~5歳の子ども52人を対象とした研究でも報告されており、脳スキャンを用いて、それぞれの子どものデジタルメディアの使用状況に応じた脳の構造を分析した。それによると、メディアの利用が多いほど、皮質の厚さと脳溝の深さが低くなることがわかった。この2つの特性は、言語発達、読解力、複雑な記憶の符号化、共感、表情や感情表現の理解といった社会的スキルに関連している。
 専門家は、公的介入とスクリーン時間の制限を求めるようになっている。6~18歳の子ども25000人を対象とした12件のコホート研究と15件の横断研究を対象としたメタアナリシスでは、近視のリスクを低減するために屋外活動を促進する公的介入を主張した。米国カリフォルニア州の学校の6年生2組を対象とした実験的研究では、自然キャンプに行き、いかなる種類のデジタル機器の使用も禁止された生徒の方が、デジタル機器に時間を費やし続けた生徒よりも、人間の感情を解釈する能力が大幅に優れていることがわかった。

中国はデジタル機器の使用時間を授業全体の30%に制限

 スクリーンタイムのリスクにもかかわらず、厳しい規制はほとんどない。中国では、教育省が、デジタル機器を教材として使用する時間を授業時間全体の30%に制限し、電子宿題に費やす時間は1日最大20分としている。また、ガイドラインでは、生徒は30~40分の教育用スクリーンの使用後、10分間目を休めるべきであるとしている。政府もゲームに週3時間までという厳しい制限を設け、ゲーム会社に一定の責任を課している。ゲームでは、すべてのユーザーが実名で登録し、政府発行の身分証明書を使用することが義務付けられている。
 韓国では最近まで、15歳までの子どもが夜間にビデオゲームをすることが禁じられていたが、この規定は2011年の青少年保護改正法に明記され、2021年に廃止された。
 米国ミネソタ州の教育省は2022年、公立の保育園や幼稚園の生徒は、教師の関与なしに単独でスクリーンを使用してはならないとする法律を可決した。
 スクリーン時間のガイドラインや推奨は存在し、多くの場合、保健当局の管轄下にあるが、それに従うかどうかは親次第である。世界保健機関(WHO)の「身体活動・座位行動ガイドライン」は、1~5歳の子どもの座りがちなスクリーンタイムは1時間未満を推奨している。
 オーストラリアでは、「子どものための24時間運動ガイドライン」で、2歳未満はスクリーンタイムなし、2~5歳は1日1時間以内、5~17歳は1日2時間以内(学業は含まない)の座位レクリエーション的スクリーンタイムを推奨している。しかし、未就学児の17%から23%、5歳から12歳の15%しか、このガイドラインを満たしていない。
 厳しい制限を課すのではなく、協議を推奨している国もある。カナダでは、カナダ小児科学会によるガイドラインで、4つの原則(最小化、軽減、配慮のある使用、健康的なスクリーン使用のモデル化)が強調され、親子にとって大きなストレス源となりうるスクリーン時間の制限から脱却しようとしている。
 同様のアプローチは英国でも見られ、英国王立小児科小児保健大学は、親が対話を通じて子どものスクリーン時間を管理できるようにするためのガイドラインを発表している。
 2020年、ルクセンブルクの国民教育・児童・青少年省と「ビーセキュア(BEE SECURE)イニシアチブ」は、合理的なスクリーン使用に関する保護者の認識を促進するため、キャンペーン「Screens in the Family」を立ち上げた。

いくつかの国では、学校での電話やその他のテクノロジーの使用を禁止している
 データ・プライバシー、安全性、福利厚生に対する懸念が、学校、特に低年齢の生徒によるいくつかのテクノロジーの使用に関する論争に根拠を与えている。学校でのスマートフォンの使用について議論になっている。ベルギー、スペイン、イギリスの研究は、学校での携帯電話の使用を禁止することで、特に成績の低い生徒の学業成績が向上することが示している。
 本報告書の分析によると、世界全体では、ほぼ4カ国に1カ国が法律や政策でこのような禁止措置を導入している。特に、13%の国が法律で、14%の国が政策で携帯電話を禁止している。禁止は中央アジアと南アジアでより一般的である。
 2011年、バングラデシュは教師による教室での携帯電話の使用を禁止した。2017年には、学校と大学の生徒と教師の両方が教室に携帯電話を持ち込むことが禁止された。
 タジキスタンの教育法第25条では、初等学校、職業学校、中等学校において、生徒による携帯電話の使用は禁止されている。ウズベキスタンでは、学校に入るときはすべての機器の電源を切ることが法律で定められている。
 オーストラリアのニューサウスウェールズ州教育省は、2018年に公立小学校で携帯端末の使用制限を実施した。タスマニア州とビクトリア州では、すべての公立学校の生徒に対して携帯電話の使用が禁止されている。しかし、オーストラリアで1070人を対象に行われた世論調査によると、回答者の3人に2人が、学校での携帯電話の使用を全生徒に禁止するのではなく、携帯電話の安全な使い方について生徒を教育するデジタル・セーフティ・プログラムの実施を「強く支持する」または「ある程度支持する」と回答した。半数以上が全生徒への禁止を「支持する」「どちらかといえば支持する」と回答し、37%が11年生と12年生のみ学校での携帯電話の使用を「支持する」「どちらかといえば支持する」と回答した。
 フランスでは禁止されているが、特定の生徒グループ(障がいのある生徒など)や「教育的」な目的でスマートフォンを使用する場合は例外とされている。ラトビア、メキシコ、ポルトガル、スペイン、スイス、米国のほか、オンタリオ州(カナダ)、スコットランド(英国)でも全面的または部分的な禁止措置が取られている。しかし韓国では、完全禁止は通信の自由など学生の基本的権利を侵害するとする意見もある。
 ブルキナファソでは、2018年の命令により、中等学校内での携帯電話やアクセサリーの使用が禁止されている。授業や試験のために許可された機器以外の使用は禁止されており、違反が繰り返された場合、生徒は一時的または恒久的に退学処分となる。コートジボワールでは、大臣令で学校での携帯電話の使用が禁止されており、2018年の命令では試験中のデジタル通信媒体の使用が禁止されている。ギニアでは、2021年の決定で、学校でのスマートフォンやその他のインターネット接続機器の使用が禁止されている。
 特定のアプリケーションを教育現場で使用することを禁止している国もある。その理由は、アプリケーションが動作するために不必要なユーザーデータを収集する際に、プライバシーに関する懸念が生じるからである。(略)

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