「電磁波の生物学的影響に関する国際委員会(ICBE-EMF)」が「電磁波過敏症(EHS)は、緊急の対応を必要とする人道的危機です(Electromagnetic Hypersensitivity (EHS) is a humanitarian crisis that requires an urgent response)」と題する声明を7月に発表しました。ICBE-EMFは、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)に対抗して、各国の研究者らが発足させた団体です(会報第139号参照)。ICNIRPが定めている国際指針値は、ヨーロッパを含む多くの国が自国の電磁波規制値として採用しています(日本の規制値も国際指針値とほぼ同じ)が、ICBE-EMFは、ICNIRPの指針値ではヒトの健康は守れないと主張しています。なお、ICNIRPはWHOと協力関係にあるものの、国連機関ではなく、ドイツのいちNGOに過ぎません。
ICBE-EMFによる声明を紹介します。【網代太郎。訳も】
電磁波過敏症(EHS)は、緊急の対応を必要とする人道的危機である
ICBE-EMFは、非電離放射線の有害な影響から人間およびその他の生物を保護することに尽力しています。 特に懸念されるのは、子供、妊婦、および電磁波過敏症(EHS)を含む慢性疾患を持つ人々です。EHSの増加は、人為的(人間がもたらした)電磁界の急速な拡大に起因すると考えられます。EHSの症状は、携帯電話、DECT方式のコードレス電話、Wi-Fi/Bluetooth対応のコンピュータ、Wi-Fiルーター、スマートメーター、基地局アンテナ、電気自動車、送電線、家庭用電気製品など、低強度の電磁界にさらされることによって発生する可能性があります。
生物はすべて、化学伝達物質と電磁場の両方を利用しています。広く使用されているEMF(電場および磁場)は、自然界に存在するものとはまったく異なる新しいものであり、低レベルとされるものであっても、通常の生物学的機能に混乱を引き起こします。
EHSは複数の器官に影響を及ぼす身体的反応であり、その症状は人によって異なり、解剖学的および生理学的な違いによるものです。症状には、睡眠障害、疲労、頭痛、めまい、動悸、耳鳴り、皮膚発疹、化学物質過敏症、視覚、感覚、および気分障害などが含まれます。米国障害者評議会の2022年健康公平性フレームワークでは、「電磁波過敏症は、ワイヤレス通信や電気技術、および非電離放射線の他の発生源に関連しており、心臓、呼吸器、神経系、およびその他の身体に有害な反応を引き起こし、生命を脅かす可能性がある」と認識しています。
EHSに関連する苦痛や障害は、多数の社会、科学、医療機関によって認識されています(WHO、2004年)。欧州委員会の欧州経済社会評議会(EESC)による2019年の報告書「デジタル化:ヨーロッパの課題」によると、EHS患者数は日々増加しており、新しい推定によると人口の3~5%が電磁波過敏症であり、これは1300万人のヨーロッパ人がこの症候群に苦しんでいることを意味します。この症候群には電気過敏症、Wi-Fi症候群、マイクロ波症候群、電磁波過敏症など、さまざまな名称があります。これらのテクノロジーが拡大し続ける限り、EHSの発生率も増加するでしょう。
これらの曝露の多くは意図しないものであり、もはや避けられない状況です。その結果、仕事や就学を失い、家族や友人と離れ離れになり、医療サービスを受けられず、公共の場へのアクセスが全面的に制限されるといったことが起こります。こうした生活の広範な混乱が放置され、改善されないことは、非人道的であり、深刻な問題です。
私たちの深刻な懸念:EHSは深刻化する人道上の危機です
欧州環境医学会(EUROPAEM)は、EHSの症状は、現在多くの政府が支持している曝露限度値よりも桁違いに弱い低強度の曝露に反応して発生していると報告しています。現在の曝露限度値ではEHS患者を保護することはできず、このグループに対する適切な登録や支援を促進する専門医療情報や研修もありません。政府の規制当局は、健康被害の訴えを調査し、政策を更新して、人々の健康と福祉だけでなく、植物や動物、それらの生息地も確実に保護すべきです。医療に対する認識が低いことから、EHSのほとんどの症例は認識されておらず、誤診されています。不適切な治療により、医療資源が浪費されています。
ICBE-EMFは、複数のタイプの科学的証拠と個々の症例報告を詳細に検討し、電磁波過敏症の科学に貢献してきました。私たちの目標は、EHSが世界中の公衆衛生機関によって正式に電磁波という外的要因による障害として認められ、EHSの障害を負った人々のニーズがより広く認識されることです。そうすれば、彼らはより安全な住宅、医療、教育、雇用、機会、公共の場へのアクセス、公平なアクセスを得られるようになります。このような認識は、一般の人々の関心を高め、研究への資金提供を促し、電磁界曝露制限値の引き下げを求める声が強まることにつながるはずです。EHS患者は、居住、就労、通学、公共施設へのアクセスに際して、低電磁界のスペースを利用できるようにする必要があります。低電磁界の生活必需空間は緊急に確立される必要があります。EHS患者の症状を軽減するためだけでなく、EHSの発生率を広く低減するためにもです。