今年4月から障害者への合理的配慮が義務化されました[1]が、鉄道車両内の優先席付近で混雑時に携帯電話を使わないよう、駅員さんに乗客らへ直接声かけをしてもらったという事例を教えてくださいましたので、紹介します。
都内在住のAさんが、10月10日に行われた電磁波研のオンライン定例会でご報告くださいました。
Aさんは電磁波過敏症ではありませんが、化学物質過敏症であり、電磁波被曝によってこれ以上体調を悪化させたくないことなどから、鉄道を利用する時には、優先席付近に乗車するようにしています。携帯電話利用のルールとして、東日本の鉄道事業者は、それまでの「優先席付近では携帯電話オフ」を2016年10月に緩和し、「優先席付近では混雑時には電源オフ」にしてしまいました(会報第97号参照)。
Aさんは、優先席付近で携帯電話を使っている人がいると、使用をやめるか席を移動するよう注意する取り組みを長年にわたって行ってきました。素直に受け入れてくれる乗客がいる一方、トラブルになり暴言や暴力で対応され警察沙汰になったことも複数回あったそうです。
メトロと京急でやってくれた
そこで、駅員から乗客に声をかけてもらった後にAさんが乗車すること(Aさんは「露払い」と表現しました)を思いついたそうです。
今年4月以後のいつだったか定かではないとのことでしたが、東京メトロ(メトロ)丸ノ内線の新宿駅で、乗る前に「駅事務室」に寄って頼んだら、駅員さんがホームまで来てまず自分が乗りこんで、優先席付近の方に携帯電話をオフにするか、席を移動するよう注意してくれて、Aさんが後から乗車しました。
また、京浜急行電鉄(京急)の羽田空港駅で、複数の駅員がいる改札口で頼むと、駅員の一人がホームまで一緒に来てメトロと同様にやってもらったとのことです。
「頼むときは丁寧に、そして私よりも優先するお客さんや、やるべき仕事が他にないことを確認しながらお願いした」とのことです。「この2社に対してなら『すでにやってもらっている人がいますよ』と言えば(Aさん以外の人でも)拒否されないのではないか」とAさんはおっしゃいます。同時に「当然駅員の都合もあり、時間がややかかっても待つ姿勢も大事」とも指摘します。
Aさんがオンライン定例会で報告したことと、その後、追加してお尋ねしたことを、一問一答の形で再構成して以下に掲載します。【まとめ・網代太郎】
--駅員さんには、具体的に、どのように言ってお願いしたのでしょうか?「自分は電磁波の影響が心配なので」「障害者への合理的配慮として」というようなことは、おっしゃったのでしょうか?
Aさん そもそも私は特にこの2社には電話、改札、駅事務室で苦情(優先席付近でのルールが守られていないこと、注意放送がほとんど入らないこと、駅員も注意をしないことなど)を何十回から何百回も伝えていることがベースにあります。京急は「今の時間はケータイのルール違反が多いので露払いしてくれますか」などと伝えると、京急の駅員さんはけっこうお客本位なので、すぐに上長に確認し先導してくれました。
東京メトロの方は、丸ノ内線新宿駅の駅事務室はあまり行ったことがなかったところでした。ヘルプマークもつけているし、「これからの時間帯は人が多いし、ケータイのルール違反が多そうなので、先導してくれますか」と言ったら、あっさり「いいですよ」という感じ。ポスター(前頁)で乗り降りが心配な方にヘルプすると言っているので、断るわけにはいかないでしょう。
あまり「自分は電磁波の影響が心配なので」「障害者への合理的配慮として」などとたいそうなことを言わなくてよいと思います。私が言うのは「ルールで決めていますよね」「身体の影響で避けていますので」程度です。特に聞かれたら、私の身体のことや、電磁波には少なくとも発がん性がありうることやいろいろな障害が出ることは言います。
東急もしてくれるかも
--メトロと京急以外の事業者について、何か情報をお持ちですか?
Aさん 私はまだ頼んだことはないですが、東急電鉄(東急)が「乗降時に介助をご希望のお客さま向け『事前受付サービス』」を行っています。前日の17時までにネットか電話で予約する必要があります。
https://www.tokyu.co.jp/information/list/Pid%3Dpost_52666.html
電話 0120-323-109(10~17時)
予約の締め切りが早いので大変かもしれません。しかし先日、東急のお客様センターで京急などの状況を話したところ「(事前の予約がなくても)乗る前に駅事務室・改札などで言えば対応できる場合もある」と言っていました。
都営地下鉄に質問したところ「個別配慮はしない」と回答が来ました。残念でしたが、せめてもの要求として「以前よりも放送の頻度が著しく低くなっていることを正し、駅員の対応をきちんとするように」と伝えておきました。
JR東日本は、ある駅で駅員に言うと「何それ?」というような反応でしたね。
乗った後は自分から声かけ
--「露払い」をお願いするうえで、その他に何か補足しておっしゃいたいことなどはありますか?
Aさん 乗車時に「露払い」してもらっても、次の停車駅以降に乗ってくる客へは、自分で声かけをする必要があります。京急の羽田空港駅の隣の羽田空港第3ターミナル駅では大量の客が乗ってきます。自分で声かけをすると、観光の外国人は、私のヘタな英語でもほとんど理解してくれて、むしろ日本人がなかなか理解してくれていません。コロナ禍で「ソーシャルディスタンス」が浸透したためか、コロナ禍以前よりはだいぶマシになりましたが。
何年か前からは、電車に乗るときの多くは赤いヘルプマークを鞄につけ、胸にメッセージカードをぶら下げています。メッセージは変わりますが、このところは「ケータイのルール守らなければ記録して通報します」と、やや強い表示にしています。大きさは小さいけれど、声かけをしなくても、これを見ただけで優先席付近から移動してくれるお客もいます。
ヘルプマークは、何回か警察沙汰までなったとき、複数の警察官から「あなたは絶対つけていたほうがよい」と、アドバイスされました。ヘルプマークを付けている方も、必ずしも電磁波を気にしているわけではないので、つけている方と口げんかになったこともあります。多くの方は、お互いの事情は尊重しましょうという姿勢ですが。
また、私は「席は譲っていただく必要ありません。ケータイを避けているだけですから」と絶えず言っています。席が空いてるときは座りますが、座るべき方が乗車してくると、遠くでも声かけをして譲ります。ただし「ケータイを切らないなら、こちらは利用できません」と言います。
きちんと放送を
Aさん 「優先席付近では混雑時には…」という放送を、関東ではあまりしなくなっていることが、結局は問題なのです(ただし、東武鉄道、京成電鉄は、自動的に注意放送が入る)。車内、ホーム、コンコースでがんがん放送すべきと、各事業者へ意見を言っています。関西へ旅行に行った時、関西の鉄道事業者は、おおむね律儀に放送していました。
[1]2021年に障害者差別解消法が改正され、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されました。この改正法は2024年4月1日に施行されました。ここでいう「障害者」とは、障害者手帳を持っている人だけではありません。障害のある人にとっての社会的なバリアについて、個々の場面で障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合には、事業者は、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な対応をすることとされています。(政府広報オンライン)
[編注] 電磁波過敏症の方も、この法律でいう障害者に含まれます。