電磁波とホルモンと乳がん

 著者・シェリル・セルマン(Sherril Sellman)は自然療法学博士で自然療法学や精神治療学者として国際的に講演している。【大久保貞利・訳も】


 ホルモンは生命の営みの調整役
 ホルモン(Hormones)は効能性の高い物質である。ホルモンは内分泌腺でつくられ、極微量で大きな効果を与える。ほとんどのホルモン(エストロゲン・プロゲステロン・テストステロン・インスリン・メラトニン等)は、10億分の1とか1兆分の1という小さな単位の量だ。そんな極微量のホルモン量で、身体の生理的変化を生む。ホルモンはすべての生命の営みの調整役であり、ホルモンバランスの維持は健康維持にとって肝要である。ホルモンバランスとホルモンリズムはとてもデリケートで、ほんのわずかなホルモン変化で身体の基本システムを制御する機能が変調をきたす。
 私たちの現代生活スタイルは、ホルモン機能の最善化を脅かす存在といえる。現代生活スタイルがもたらすストレス・有害物・質の悪い食事・睡眠不足・薬物は「環境ホルモン要因」(環境ホルモン=内分泌撹乱化学物質)として作用することは知られている。しかし、それら以上に環境ホルモン作用をもつものがある。それは電磁波(EMF)であり、携帯電話や様々な電源あるいは電気器具から発生する。

電磁波-21世紀型スモッグ
 「東洋哲学が数千年間ベースにしてきたこと」を現代医学は立証している。それはなにかというと、人間の身体は基本的に整合性持つ、とても敏感な電気システムを形成しているということだ。そして「生体電磁場(biofield)」として知られるように・身体自身からも電磁場は発生する。
 地球自体もそうだが、すべての自然界の物質は電磁エネルギーを放射する。自然界で存在する電磁周波数(the electromagnetic frequency)は、生命体と調和する周波数になっている。
 一方、人工的に作り出された電磁波(EMF)の量は、2世代前に存在していた電磁波量の1億倍から2億倍も増えている。起きている時も寝ている時も、私たちは常に人工的に作り出された電磁波を浴び続けている。
 自然界に存在するエネルギー場に対して、外部から発生する人工的な電磁波(EMF)が常に干渉するということは、結果として、人間自身が持つ生体電磁場にダメージを与えることにつながる。具体的には、生理学的にアンバランスが生じ、特に細胞膜が硬化する現象を生む。こうした現象は、老廃物を体外に排出しにくくさせたり、栄養物を体内に摂取しにくくさせる。その結果、DNA改変や細胞突然変異といった、フリーラジカルダメージを生む。このような重大な身体内のアンバランスが、ホルモン生産や神経プロセスに悪影響を与える。

人工電磁波は様々な悪影響をもたらす
 身体内へのこの大量な人工的エネルギー(訳注:電磁波)の侵入は、身体システムを混乱させ、老化を促進し、血糖値を高め、脂質を高め、血圧を高くし、神経伝達物質を撹乱させる。そして、中枢神経や心臓血管や免疫システムに障害を与える。
 『クロスカレント(電磁波公害)』の著者で研究者であるロバート・O・ベッカー博士は、私たちの身体や免疫システムは送電線・携帯電話・レーダー・マイクロ波・衛生通信・ハム通信・コンピュータ・VDT・電気器具・Wi-Fi(訳注:無線LANのこと)等の発生源から出る、人工的電磁波のため悪影響を受けると主張している。ベッカー博士は、昔は安全と思われていた非電離放射線が、がん・先天性欠損症・うつ病・LD(学習障害)・慢性疲労症候群・アルツハイマー病に関係していると考えている。

メラトニン・乳がんと電磁波の関係
 おそらく、電磁波(EMF)曝露による最も重大な影響の一つは、ホルモンシステムへの影響であろう。
 松果体(pineal gland)は脳内中央部にあり、エンドウ豆一粒大の大きさで光を感知する器官だ。松果体は昔は不要な器官と思われていたが、現在では、最も重要な器官ではないかと思われている。松果体はメラトニン・ホルモンをつくる内分泌腺だ。
 最近の研究で、メラトニンが生理学的プロセスにコントロールとして関与したり、あるいは直接影響する範囲がいかに広いか、ますますわかってきている。たとえば、一つには、メラトニンはサーカディアン・コントロール(起床睡眠サイクルの支配)に関与する。二つには、メラトニンはフリーラジカルを効果的に破壊する役割を持ち、そうすることでDNA合成や細胞分裂を促進する。三つには、メラトニンはエストロゲン(女性ホルモン)の放出を司り、乳がんの増殖を抑制する。四つには、メラトニンは乳がんだけでなく他のがん防止の役割をもつが、それは免疫システムのキラーリンパ球が持つ細胞毒性能力を増殖させるからである。五つには、メラトニンは免疫力を高めたり、ストレスが原因で起こる免疫力低下を阻止する。
 2001年に、日本の国立環境研究所の石堂正美が、商用周波数EMF(訳注:50ヘルツや60ヘルツ極低周波電磁波)を照射した乳がん細胞が、メラトニンの効果で成長を再開することを実験で立証した。その実験で、石堂は、磁場が細胞の信号システムを破壊することを発見した。細胞の信号システムとは、細胞間の信号伝達ネットワークで、外的環境にどのように細胞は反応すべきかを、この信号システムで判断している。この実験で、石堂は「EMF曝露でメラトニンが減少すると、乳がん・前立腺がん・メラノーマ(黒色腫瘍)・卵巣悪性腫瘍等のがん細胞が増殖する」ことを解明しようとした。

極低周波でメラトニンは抑制される
 家庭で使用される、50ヘルツや60ヘルツの極低周波電磁波とあまり変わらない周波数電磁波で、メラトニン・ホルモンが抑制される事実は、いまでは知られている。もし、あなたがコードレス・フォンの充電器やデジタル時計や不備な状態の電気配線の近くで寝ているのならば、持続的にEMFを浴びることで、夜の間にメラトニンは作られにくくなる。
 乳がんとEMFの因果関係を認める研究はどんどん増えている。ボストン大学公衆衛生学部のパトリシア・コーガン博士は、大型コンピュータから出る磁場を勤務中に浴びる女性労働者の乳がん発症率は43%も高いと報告している。実際、電気関係の仕事に就く女性労働者(電気工・電話設置作業者・送電線関係者・電気技師等)は、乳がんで死亡するリスクが高い。この事実は、EMFがメラトニンを抑制する事実と直接的にリンクしている。
 だが、EMFと乳がんの関係は、なにも女性に限ったことではない。これまでにEMF曝露量が多い男性に、乳がんが増加することを示す研究が5つ出ている。電話線工・電話交換機関係者・電力会社関係の男性労働者は、乳がん発症率は6倍に上る。

電磁波の環境ホルモン性
 実験生理学者のチャールズ・グラハムは、磁場が別の二つのホルモンに影響を与えることを示す研究を行なった。それは磁場がエストロゲン(女性ホルモン)を増加させ、一方でテストステロン(男性ホルモン)を減少させるという研究内容だ。テストステロンの減少は精巣がんや前立腺がんのリスク要因となる。グラハムは、多くの環境ホルモン(内分泌撹乱化学物質)より、EMFのほうが「内分泌撹乱要因」の定義にふさわしい、と考えている。それは、他の環境ホルモン物質よりEMFのほうが、実際のホルモン以上にホルモンのように振るまって影響を与えているからである。
 タモキシフェン(Tamoxifen)は閉経後の乳がん治療薬で、乳がん再発防止用として一般的な薬だが、EMFを曝露されるとがん細胞の増殖を抑制する能力が失われる。このタモキシフェンの乳がん抑制能力を失わせる効果をもたらす電磁波量は12ミリガウスだが、この程度の量はヘアードライヤーや電気掃除機や大きなモーターをもつ電気製品(たとえば冷蔵庫)等、普通の電気器具で出る電磁波量だ。
 神経伝達物質はホルモンの一種だが、セロトニンやドーパミンがこれにあたる。神経伝達物質は気分、とくにうつ気分に大きな影響をもつ。セロトニンやドーパミンの量の増減とEMF曝露量とに相関関係があるとする証拠が存在する。
 また、EMFはアドレナリンを増やす。アドレナリンは気分高揚や闘争心を掻き立てるホルモンで、副腎でつくられる。『電場』の著者であるB・ブレイク・レビットは「持続する慢性ストレスは身体の構造的システムにとって有害である。構造的システムとはたとえば生殖システムである。意識に上らない程度のストレスでも生殖能力に影響したり血圧を高めてしまう。血圧が高いと心臓病や心臓鼓動に関係するし、免疫機能を抑制する。昼間、時々使うコードレス・フォンのような短時間のEMF曝露でもホルモン量は乱降下する。

携帯電話の問題点は
 携帯電話は身体に二重の不利益をもたらす。携帯電話アンテナから6~8インチ(15~20センチ)の範囲に、羽を広げたような形でマイクロ波は放出される。そのため、携帯電話から出るマイクロ波は脳内に直接侵入し、BBB(血液脳関門)を通過したりDNA損傷を引き起こす。またマイクロ波は、フリーラジカルをつくったり、脳腫瘍の原因にもなる。脳下垂体(master gland)は脳内にあるので、ホルモン信号発信の混乱撹乱は、携帯電話が原因となっている可能性がある。
 さらに、携帯電話には生体電磁場や生体エネルギー場に干渉する(妨げる)、生体と競合するエネルギーを発生する電気回路機構がある。このような生体を撹乱させたり、周囲に広がる電磁波は多くの生理学的プロセスに障害を与える。携帯電話をズボンのポケットに入れたり、ベルトに付けていると、携帯電話の電磁波のためその周辺の細胞や器官は大きな影響を受ける。特に下腹部は影響を受ける。ある研究では、携帯電話の影響で、すでに精子量は30%減少しているとしている。女性がベルトの携帯電話を付けていると、女性の生殖器官もリスクを受けるであろう。
v  これらの警告を生かすには、「携帯電話の電磁波によって起こる危険性をもっと広く伝えること」が必要である。電磁波防護策をしていない携帯電話はしている携帯電話より300%も脳への電磁波量が多い。ブルートゥース技術(訳注:無線LANのこと)は特に危険だ。

携帯電話対処の3つの方法
 携帯電話電磁波を防御するには、3段階の方法がある。理想的には3段階すべての防御策を取り入れるといい。
 第1段階策は、できるだけ電磁波曝露量を減らすことだ。良い方法として、携帯電話を使うときは中が空洞のエアチューブ・ヘッドセットを使うことだ。
 第2段階策は、電磁波の影響を最小化することだ。
 第3段階策は、身体システムを強めることだ。そのためには健康的でオーガニックな食事をとり、バランスある生活スタイルを取り入れることが大事だ。さらに、解毒効果のあるサプリメントを摂取すると身体の免疫システムが強まり、フリーラジカルダメージと闘うことができる。具体的にはメラトニン(訳注:米国では市販されている)・Nーアセチルシスティン(粘液溶解剤:気管支・肺疾患に用いる)・SAMe・リポ酸・緑茶・リコピン・コーエンザイムQ10(補酵素)・アセチルーLーカルニチン(筋肉中に塩基性成分として存在し、脂肪酸がミトコンドリアの膜を通過する際に関与する)・セレニウム(非金属元素)・ビタミンA・ビタミンC・ビタミンE、等である。
 携帯電話は、その人が使うにせよ拒否するにせよ、今後も普及し存在する。こうした状況にあって、私たち一人一人にとっての責任は、自分と家族と子供たちのために「身を守る」ことと「先を見越した方法をとる」ことだ。


 (訳注)フリーラジカルとは、不安定な状態の原子や分子であり、強い酸化作用をもっている。たとえば、酸素は2つの電子をもっているが、電子が一つ不足した状態のフリーラジカル酸素は、安定した状態になろうと、近くの分子から電子を奪おうとする。反応性に富むフリーラジカルを、生体は異物消化等でうまく利用もするが、過剰なフリーラジカルは様々な細胞障害をもたらす。

原文:Sherrill Sellman “Hormones, Breast Cancer EMFs and Cellphones” Volume 28, No. 1 TOTAL HEALTH

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