電磁波の健康影響の研究から 「電磁界医学学会2021」で報告した研究者らを中心に

山口みほさん(久留米大学非常勤講師、電磁波研会員)

 前の記事で、米国の医師が免許更新に必要な生涯教育の単位を取れる電磁界についての学会をご紹介しましたが、今年の学会に関する記事を試訳しました。「電磁界医学学会2021(The EMF Medical Conference 2021)」のウェブサイト内のブログ記事で、今年1月28日から31日にかけて開かれたこの学会に先立ち、この学会で報告する医師、研究者らとその研究成果などが紹介されています。
 [ ]は訳注です。

「ラジオ周波数放射線(高周波電磁波)は神経毒性を持つ:ケーススタディ」
Wireless Microwave Radiation is Neurotoxic: Case Study
2020年11月21日
筆者:クリスティー・マットソン(Kristi Mattson)医学博士

屋上に基地局が22あるオフィスで症状
 55歳の男性(白人)は、不安感の増大、記憶力の低下、集中困難、胸痛、耳鳴り、深い疲労、空吐き[嘔吐物は出ないがオエーッとなる]や嘔吐を伴う吐き気、耳や首、背中に日焼けのような赤みや炎症が出る皮膚火傷、及び視力低下を訴える。これら全ての症状は平日に悪化し、週末に和らぐ。彼の自宅は電気スマートメーターとWi-Fiを取り外すことによって(無線マイクロ波放射から)保護されている。この患者が働くオフィスビルは、屋上に5Gアンテナ(複数)を含め、アンテナが22本立っている。彼は当初、ロラゼパム[抗不安薬]で治療を受けたが、症状は続いた。彼の机の所でRFR(ラジオ周波数放射線=高周波電磁波)を測定すると、380から897μW/m2という値だった。RFRのこれらのレベルは、自宅での測定値である10μW/m2の安全なレベルを明らかに上回っている。10μW/m2は
FCC(連邦通信委員会)(の安全基準の)レベルよりも低い。オフィスのオーナーは如何なるシールドの設置も許可してくれないので、患者は自宅勤務を要望したところであるが、そうすれば良くなるだろうと期待されている。なぜなら、これは明らかに電磁波過敏症(electromagnetic hypersensitivity=EHS)、或いはマイクロ波病と言われる症例だからである。電磁波過敏症へと繋がる、EMF(電磁界)或いはRFR曝露の症状には、頭痛、意識不鮮明、記憶力の低下、不安と鬱、疲労、耳鳴り、吐き気、皮膚発疹、不眠症、胸痛、律動異常、不妊及び視覚変化が含まれる。
 EMF曝露で見られる生理学的変化には、酸化ストレス、血液脳関門(BBB)の透過性の増加、気分に影響を与える神経伝達物質の変動、連銭形成(赤血球の積み重なり現象)につながる赤血球接着、血糖値の上昇、心臓の動悸、ナトリウムポンプや電位依存性カルシウムチャネルの働きに関わる細胞膜の変化、並びに特定の癌のリスクの増加が含まれる。これらの変化は、多くのEMF科学者によって報告されている。その中にグンナー・ホイザー医師、シンディ・ラッセル医師、ベアトリス・ゴロン医師、ロナルド・メルニック博士が含まれるが、彼らは皆、電磁界医学学会2021の教授陣である。

消防士に多い癌は電磁波が原因の可能性
 消防士達がEMS(electromagnetic sensitivity=電磁波過敏症)の症状を報告した為、国際消防士協会は、2004年8月に、消防署を携帯電話基地局として使用する事に反対する決議を採択した。カリフォルニア州の消防署は現在、カリフォルニア州法(AB57-2015)により、携帯電話基地局設置から免れている。サミュエル・ミルハム(Samuel Milham)博士は、消防士に多く見られ、勤務中に遭遇する燃焼生成物に含まれる発癌物質のせいだと言われている癌のリストを概説する記事を発表した。この癌のリストは、EMF及びRFRに晒された労働者において増加した癌のリスト(脳腫瘍を含む)と重複の度合いが非常に大きい。これが示唆するのは、これらの癌の幾つかは、煙の吸入よりも、寧ろ無線放射線被曝によって増加した可能性が高いという事である。

電磁波過敏症発症者に脳の変化
 ワイヤレス放射線被曝は、他の神経毒と合わさって、累積効果、相加効果、相乗効果を引き起こす。神経毒性学者として名高いグンナー・ホイザ―(Gunnar Heuser)博士は、EMS或いはマイクロ波病の患者10人についての研究を発表する。この10人は全員、機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)による脳スキャンの検査結果が、同じような異常を示していた。従来のMRI[fMRIではないMRI]脳スキャンでは、殆どの場合、顕著なものは見られなかった。次のスライド(図1)は、内側前頭眼窩野においてデフォルトモード(安静時)[ネットワーク]の前方構成要素のハイパー・コネクティビティーが増大している(結合性が異常に高まっている)事を示している。

図1 患者の機能的磁気共鳴断層撮影(fMRI)の画像。グンナー・ホイザ―博士提供

 ホイザ―博士はまた、EMSを持つ人達の脳の体積変化を示し、体積が減っている事を示す。私たちの症例研究でも見られるように、EMSの患者には、機能的脳スキャンで調べると、神経毒性による脳の変化が見られる。現段階では、治療は、潜在的危険因子や疾患の治療と共に、(電磁波からの)回避や防御にかかっている。「EMF医学学会2021」は、EMS患者及びEMF関連疾患のその他の症状を示す患者の回復力を高める為に、EMF及びRFRから防御する技術と、エビデンスに基づく栄養補給の方策を提示する。

カビが電磁波過敏症のリスクを高める
 カビマイコトキシン[カビ毒]は神経毒性であり、この病気の患者はEMSを発症するリスクが高くなる。メアリー・アッカーリー(Mary Ackerley)博士はこの学会でカビの病気について議論する。外傷性脳損傷、心的外傷後ストレス障害、複数の化学物質過敏症、化学物質への暴露、及び、アルツハイマー病、自閉症、パーキンソン病などの神経疾患はすべて、電磁波過敏症、或いはマイクロ波病のリスクが高くなる。
 シンディ・ラッセル(Cindy Russell)博士は、発達中で傷つき易い子供の脳が、どのようにワイヤレス放射線の悪影響を受けるか、記録を示して明らかにする。子供のEMF曝露は、記憶に影響を与える海馬、皮質、及び大脳基底核の脳細胞の損失を引き起こす可能性がある。酸化ストレス、注意欠陥多動性障害、発話遅延、及び精神神経的影響が、頭痛、睡眠障害、疲労、気分障害、不安、吐き気、集中力の低下、及び読解力の欠如に伴って見られる。

マットソン博士

この記事の筆者について
 クリスティ・マットソン博士は、1979年にアリゾナ大学医学部を卒業し、ニューヨーク州クーパーズタウンのメアリー・イモジーン・バセット病院でインターンを経験した。1983年、UMKC(ミズーリ大学カンザスシティ校)のトルーマン医療センターで救急医療のレジデンシー(研修期間)を終了。UMKCで救急医療の准教授を勤め、また「ゴッパート家庭医療プログラム」でも准教授を勤めた。彼女は現在アリゾナ州ツーソンで、複数の化学物質過敏症、マイコトキシン症(カビ毒症)、電磁波過敏症の患者に焦点を当てて、環境による疾病に取り組んでおり、この学会のモデレーターを務めている。

EMF Medical Conference 2021. All rights reserved.[許可を得て転載しています]


<編注>
 小見出しは原文にはなく、電磁波研会報編集者が追加しました。
 文中の「380から897μW/m2」「10μW/m2」は、単位を変えると、それぞれ「0.0380から0.0897μW/cm2」「0.001μW/cm2」になります。

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