Aさん(東京都、電磁波研会員)
2021年9月、東京都板橋区の景観形成重点地区でもある住宅地に、事前の説明もなくKDDIが携帯基地局2本を設置しました。小規模マンションの4階部分に、ある日突然立った基地局に驚いた私達住民は、関係者から説明を聞き、稼働停止を申し入れました。電磁波問題に詳しい専門家の方を呼んで数回の勉強会を開催、区議への陳情や板橋区長への訴え、KDDI本社への署名の提出など、できる限りのことをしましたが半年後には基地局が稼働されてしまいました。その後KDDIと撤去を求める話し合いを2回開催し、住民一同、即時停止と撤去を訴えましたが、それはできないとの回答が返ってきました。
このKDDI基地局については、昨年8月の基地局問題院内集会でもご報告しました。
基地局を設置した側に撤去をいくら申し入れても難しいと判断した私達は、その後、アンテナが設置されているマンションの管理会社と話し合いをするため、管理会社を相手取り東京地方裁判所に民事調停を申立てました。裁判所は日程を2回設定したにも関わらず、相手側は出頭せず終わりました。民事調停は、いくら申立人が話し合いたいと思っても、相手側が調停の場に来なければそこで終わりとなり、それ以上のことはできません。賃貸用マンションに基地局がいったん設置されてしまうと、住民側はまともに話し合うこともできないのです。
しかしながらそれから1年、やはりこのままではおかしいと思う地元住民有志4名(その他住民10名が賛同者として連名)が、今度はKDDIに対して真っ向から話し合いをしたいと、昨年(2023年)12月25日、東京地裁に民事調停を申し立てました。そこにはKDDIによる一方的な基地局設置への不安や怒り、電磁波に対する疑問の数々が丁寧に書かれています。マンションの管理会社の担当者と話した際、「基地局設置の全責任はKDDIにある。KDDIが撤去するというならこちらは撤去してもらって構わない」と言っていました。そのことからも、ぜひKDDIには今回の民事調停に出席してほしいと思っています。
調停申立書(抜粋)
調停の相手 KDDI株式会社
第1 調停の趣旨
相手方は(略)(以下、本件マンション)の4階ベランダにKDDI株式会社が設置した携帯電話通信基地局(以下、本件基地局)の稼働を停止し、撤去すること。
第2 当事者
申立人は、本件マンションの周辺に住む住民4名である。その他に、申立人ではないが、本件申立に次の住民が賛同の意を表明し、本件基地局の撤去を求めている。
第3 調停に至る経過
第4 調停申し立てのための事実関係及び参考資料
4-1 ステークスホルダーに関する具体例
4.1.1 JISZ26000(社会的責任に関する手引き)の地域住民がステークスホルダーに含まれていること。および、健康問題に関わる電磁波の影響についての記載があること。
4-2 KDDI環境マネジメント等、環境に関する具体例
4.2.1 環境マネジメントに関して
KDDIグループはISO(国際標準化機構)14001要求事項である内部環境調査を実施しており、サステナビリティ(持続可能)企画部より監査委員を選んでいる。
4.2.2 KDDI環境憲章(抜粋)
(1)基本概念
KDDIグループは、かけがえのない地球を次の世代に引き継ぐことができるよう、地球環境保護を推進することがグローバル企業としての重要な責務であるととらえ、環境に配慮した積極的な取り組みを会社全体で続けていきます。
(2)行動方針
①当社の事業活動が地球環境に及ぼす影響を定置的に評価し、環境保全活動の効果的な仕組み作りと継続的な改善に努めます。
・環境関連事項、条例等の規制、および要求事項の遵守
・社内外への適切な情報の開示によるコミュニケーションの促進
・環境に調和した豊かな社会に向けて、企業市民として社会・地域における保全活動に貢献します。
4.2.3 環境法規制の遵守(抜粋)
各種環境法規制の遵守
・KDDIは事業活動の環境に与える被害を未然に回避または低減するため、環境法規制はもとより、各自治体の条例や地域との協定などの遵守も徹底しています。
・KDDIでは2021(令和3)年度環境法令に対する違反はありませでした。また、有害物質の漏えい、流失などの環境汚染事故の件数もゼロでした。
〈関連した法規制〉
・都民の健康と安全を確保する環境に関する条例・施行規則(地域温暖化対策法)
・お取引先さまとの協働
4-5 電磁波の測定について(経過と結果報告)
4.5.2 測定結果
4.5.3 結果から分かること
①本件基地局稼働後の電磁波強度は稼働前の約100倍程度増加した。
②一日の電磁波の強度変化は携帯電話などの端末の使用状況によって変化すると考えられる。
⑤1年6カ月にわたって自主測定をしてきた結果、電磁波の強度は家の外側(窓際)で高い。測定場所は本件基地局から水平距離で約15m離れているが、本件基地局が発する電磁波の強度は稼働前よりはるかに高い。ただし、室内でも強度が大きくなるケースも確認されており、電磁波の伝搬は複雑であると考える。
⑧自主測定の中で、極端に高い値が測定されることがあった。年間で独自に換算すると1000回を越える数になる。電磁波の強度としては100μW/cm2に近いものから総務省の規制値600~1000(μW/cm2)の数値に近いものまで計測された。(※一度3000μW/cm2を越える値が記録されている)瞬時の最大値であるが、この事実はどのように分析されるものなのか。このような現象は技術的に起こり得るのか。(略)このように高い強度の電磁波を間欠的にでも長時間浴びることによる健康への影響は発生しないのか。まるで人を使った実験のような感覚を持つ。
第5 KDDI株式会社への調停項目、内容に対する見解および質問・要求事項
5-2 上記事項を踏まえた質問および要求項目
①本件基地局建設にあたり、近隣の住民に対してチラシ1枚で実施を予告した事に対して、KDDI株式会社として建設前の説明責任は適格であったか。会社の経営方針やステークスホルダーおよび法令や条例、JIS規格取得企業等を踏まえての回答を要求する。
②本件基地局の稼働前に実施した電磁波測定結果の文書報告ができなかったことや稼働日時を地域住民に連絡しなかったのは、KDDI株式会社の決定事項なのか。これらのことは社会的な説明責任から逸脱していないのか。回答を要求する。
③なぜ稼働前に住民への説明会を実施しなかったのか。なぜ既成事実を優先したのか。本件マンションの管理組合との合意のみで本件基地局の建設準備が済んだと判断したのは、JISZ26000取得企業として逸脱していたのではないか。回答を求める。
④地域住民からの説明会開催の要求に対して、当初、質問や意見のある住民には個別に対応する旨を伝えてきたが、なぜ住民に対する説明会を設置前に事前に実施しなかったのか。回答を要求する。
⑤地域住民の要請で本件基地局稼働後、KDDI系列会社による2回の説明会が実施された。その中で、事前に地域住民からの要望で実施した電磁波強度の測定結果が報告された。「数値は総務省の規制値を大幅に下回っており人体には安全である。」という回答があった。「そのため、現状では本件基地局の稼働停止や撤去はしない」という会社側の結論が述べられた。「もし、本件基地局によって健康被害が発生した時は真摯に対応する。」という旨の発言はあった。しかし、住民から「稼働後、血圧の上昇した。」との報告があった。電磁波との因果関係は確認できていないが、会社側からの見解は何もなかった。また、地域住民の中には電磁波防護用の高価なカーテン等を購入して安全確保を自主的に行っている事例も報告されたが、この件についても会社側からは何の見解がなかった。法令遵守していれば健康や安全は確保されるものなのか。もし、電磁波の可能性がある健康被害が発生したら、具体的にどのように対処していくつもりなのか。回答を要求する。
⑦地域住民による本件基地局撤去要求の署名活動で集まった277名分の署名用紙を代表者がKDDI本社に提出した。提出後の会社側の対応について知りたい。KDDI株式会社及びそのグループ会社にはコンプライアンスに関する審議会やグループ企業倫理委員会等の組織がある。署名を受理した後、会社として倫理委員会が活用されたのか。回答を要求する。
⑨JISZ26000をKDDI株式会社及びグループ会社が取得し、遵守して会社経営をしているのであれば、本件基地局周辺の住民は当然ステークスホルダーに該当している。該当しているのなら、電磁波の健康被害の可能性を含め、本件基地局の稼働が問題ではなかったと断言できる根拠を本件基地局設置から現在に至るまで、JISZ26000やKDDI側のステークスホルダーの規定に沿って説明することを要求する。KDDI株式会社の環境アセスメントや環境憲章において、本件基地局を設置するにあたり、地域住民に対してどのような配慮をしてきたのか説明を要求する。
⑬加賀一丁目、二丁目は地区の景観形成重点地区に指定されており、住環境の街並み景観を乱さないなどの条例がある。また、景観デザインガイドラインの項目にあるアンテナ、電波塔を設置する方の欄には、具体的に周囲を緑化するなどして目立たないようにすることが図で記載されている。板橋区への建築申請時は口頭のみで許可されたと聞いているが、景観等が現在でも問題ないと考えているのか。また、本件基地局の周囲を樹木等で緑化する措置を未だに実施しないのはなぜか。回答を要求する。
⑭KDDI株式会社として、本件基地局が設置されたことによる健康被害について、「総務省のばく露基準値を大幅に下回っているので健康被害は発生しない」という見解を住民説明会等で回答しているが、電磁波の人に対する熱作用を確かめるために行う6分間の測定値だけで、日々マイクロ波やミリ波を浴びている住民の健康への影響を確認することができるのか。また、本件基地局稼働に伴う影響は、身体的のみならず、精神的、経済的など多くの要素に影響している。特に子どもなど身体的、精神的に成長段階にある者や精神的に過敏な者にとっては、日々憂うつになったり、ストレスが溜まり続ける可能性がある。例えば、窓一つ開けるたびに目の前に威圧的なアンテナがあったり、日々騒音に悩まされていたら、どのような心境になるか。そして、最も重要なことは、マイクロ波の健康への影響の問題があるにもかかわらず、集団健康調査などが実施されていないことである。他の地域も含めて健康被害が発生した事実は本当にないのか。この件については、立憲民主党おばた健太郎区議会議員も健康調査の実施について、KDDI側に強く申し入れている。電磁波による健康被害の実態および集団健康調査について、実施したことがあるのか回答を要求する。
⑮住民に対する説明会で、住民から本件基地局の稼働後に血圧の上昇など体調不良の訴えがあったことに対して、KDDI株式会社として把握しているのか。また、基地局から発する電磁波との因果関係の有無などを確認しないのか。例えば、地域の健康調査を継続的に実施するような取り組みを考えているのか。回答を要求する。
⑯KDDI株式会社の総合研究所では、電波全般と人の健康との関係について、継続的な研究がなされてきたのか。特に5Gや6Gなどの最先端技術と健康被害との関係についての研究が行われているのか。回答を要求する。
⑰本件基地局周辺の電磁波の強度について、地域住民の自主的な測定で、稼働前より約100倍前後増加している結果がある。総務省の電磁波の規制値内であり人体への健康被害は起こらないという再三の説明を受けている。しかし、総務省の測定の方法は、6分間の平均値、最大値であり、毎日微弱であっても継続して電磁波を浴びている者に対しての規制値がないのが現状である。このことで、健康被害が発生しないと断言できる証拠となる研究結果の提示を要求する。
⑱地域住民による電磁波強度の測定値の周波数帯域は、KDDI株式会社が認可されている3G~5Gの領域と確認している。ただし、周波数が10GHzを越えるミリ波・マイクロ波については測定器の性能上含まれていない。よって、実際には測定値の平均値や最大値はより大きな値であると考えられる。KDDIエンジニアリング株式会社で測定した結果と比較すると、全般的に自主測定の方が高い値が測定されている。機器の精度や測定方法などの違いによるものなのか。専門家の回答を要求する。
⑲本件基地局から発生している電磁波の強度変化は、ユーザー(負荷)の増減などに関係があると考えられるが、この出力の変動は自動的に行われているのか。また、規制値に近い、あるいは超えるような強い電磁波が測定されることがある。原因について回答を要求する。また、KDDI株式会社は本件基地局稼働後、定期的に基地局周辺の電磁波強度の測定を行わないという。なぜ測定をしないのか。回答を要求する。
⑳本件基地局が稼働を開始して一年9カ月が経過した。地域住民にとって多くの健康面や生活面での不安やストレスは増加傾向にある。この間、地域住民や地域で活動する複数の議員諸氏の協力で多様な取り組みをしてきた。成果は大いにあったが、未だに稼働は続いており、健康不安の解消や景観の改善もできていない。そこで、本件基地局の稼働の中心的にあるKDDI株式会社と調停を行うことが最も適切な事と判断した。この件について、貴社としてどのように捉えたのか。回答を要求する。
第6 結論
本件マンションに設置されたKDDI株式会社携帯電話の本件基地局について、2021年6月の設置工事から現在に至る約2年間を振り返ると、まさに地域住民を無視した大手企業本位の進め方の強引さが目に余る。本件基地局が、マンションオーナー(管理組合)とKDDI株式会社のみで協議で推し進められ、地域住民を無視した事実は、到底容認されるものではない。本件基地局が稼働し24時間365日電磁波を浴びている地域住民の中には、健康被害を訴える者も出ている。それにも拘らず、原因調査をすることもなく、本件基地局から放射する電磁波が原因ではないと言い切る会社側の姿勢は、社会的な責任に反した行為と受け止められる。電磁波の自主測定の中でも法令規制値を超えるような強い電磁波が測定される事実を設置者としてどのように受け止めるのか。地域環境を全く考えず、景観など二の次にして設置し、本件基地局に威圧感を感じている近隣の住民の精神的なストレスは日増しに大きくなっている。チラシ一枚で事を進めたKDDI株式会社の行為はJISZ26000等法令遵守にも逸脱したものであり、説明責任においても重大な過失があると判断する。本件マンション管理組合との本件基地局設置の契約の解約を進めると共に、本件基地局の稼働を即時停止し、撤去することを要求する。