ドイツ電磁界規制改正 市民団体から批判

永瀬ライマー桂子さん(ドイツ在)

 ドイツの電磁界規制(26.Bundesimmissionsschutzverordnung、通称26.BimSchV)が改正され、2013年8月23日に施行されました。1997年にこの法律が施行されて以来、今回が初めての改正。電磁波利用が広まりつつある中、現在の技術に見合わせた改正が望まれていました。
 今回の改正の主な点は、0Hzから100GHzまでの周波数帯をカバーするようになったこと、規制対象が商業利用される施設から軍事用レーダーをのぞくすべての施設に広がったこと、そして2015年以降、220kV以上の送電施設を住居の上に新規架設することの禁止、です。
 これに対して、ドイツの環境団体および市民団体からは、電磁界からの防護には不十分、という批判が続出しています。その大きな理由に、今回の改正で基準値が変わらなかったことがあげられます。1997年の施行以来、弱い電磁界が健康に影響を及ぼし得ることを示す研究が発表されてきましたが、このような研究結果は引き続き認められませんでした。これには、ICNIRPのトップにドイツ出身のRüdiger Matthes氏がいることが、少なからぬ影響を与えていると考えられます。また、無線LANやDECT式ワイヤレスフォンなど、出力10w以下の高周波送信機器が引き続き規制対象外になっていることも、批判の理由の一つです。
 今回、居住用建物上の送電施設新規架設が禁じられたことについて、日本では好意的に評価されているようですが、ドイツの環境団体や市民団体の評価は辛口です。なぜ、新設のもののみ規制され、既存の施設は規制対象にならないのか、と批判しています。また、直流設備に関しては、「経済的に実現可能で、技術的に可能な限り電磁界を低くする」という、予防原則に則った内容が盛り込まれましたが、これについてもドイツの環境・市民団体は不満足で、「もっと拘束力のあるものに」と要請しています。
 また、高周波施設の設置が計画されている地方自治体は、早期に建設計画について意見表明および討論の機会を得る、という項目が追加されたことについても、日本では評価されているようですが、ドイツの環境・市民団体からの積極的なコメントは見あたりません。これはおそらく、目新しくないからでしょう。ドイツではすでに2001年の時点で、環境大臣が、中継基地用地の選択プロセスに、住民側の代表として地方自治体を参加させることを提案しました。これを受けて、プロバイダは自治体と規則的に情報交換をし、基地設立計画を事前に知らせ、協調しながら用地を決定する旨で合意しています。
 今回の改正の大きな目的は、携帯通信からの防護というより、むしろ、いかに住民を電磁界から防護をしつつ、現在計画されている送電線網の拡大を実現させるか、ということにありました。この送電線網拡大計画の背景には、ドイツの脱原発政策があります。海に面し地形が平坦なドイツ北部では、再生可能エネルギーの発電がさかんですが、ドイツ南部では原発を停止すると電力が不足します。ドイツ中の原発を停止させるには、ドイツ北部で作られた「緑のエネルギー」をドイツ南部に運ぶための、送電線網の拡大が必要です。今回の改正は、脱原発するなら送電線が増える、というジレンマを抱えたドイツの、苦心の策と言えるでしょう。

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