行政審判所が電磁波過敏症の13歳女子生徒の学校対応などを義務付け 英国で「世界初」

 英国の電磁波過敏症(EHS)の13歳女子生徒が学校に通えるようにするため、自治体へ対応を義務付ける決定を英国の行政審判所が出しました。この決定についての報道発表文を出した医師・研究者グループは「行政機関に電磁波の少ない教育設備を用意することを法的に義務付けた、世界初のケース」と述べています。
 英国では、障害を持つなど特別な支援を必要とする子どもやその保護者は、その子のための「EHC計画(Education,Health,Care Plan)」を自治体に作らせて、その計画に基づいた支援を受けられるよう、特定の学校へ要求する権利があります。EHC計画は教育だけでなく、医療、福祉領域でも横断的に活用され、転居の際には自治体をまたいで引き継がれ支援が継続するそうです[1]。

英国のEHC計画の策定プロセス[1]

 自治体はEHC計画を作るよう求められたとき、上の図のような手順で、その子にEHC計画が必要かどうかを検討します。
 英国では、行政による処分など(決定)に不満がある場合は、行政審判所へ不服申立てができます。日本の行政不服審査法に基づく審査請求と似た制度です。日英とも、裁判よりも手続が簡単で結論が早く出る仕組みとして位置づけられています。
 日本は処分庁(決定を出した役所)の最上級庁(大臣、知事、市町村長など)へ審査を求めますが、上級庁がない場合は処分庁へ審査を求めます。自治体には上級庁がないので、自治体(市長)による処分に不満の場合は、同じ市長へ審査請求します(例外あり)。
 これに対して、英国の行政審判所は司法省に属しており、行政から比較的独立した制度になっています。「第一層審判所」と「第二層審判所」の二審制になっています[2]。
 女性生徒側は納得できる自治体の決定を得られず、結果的に計2自治体に対して何度も不服申立てを行うことになりましたが、イースト・サセックス州を相手取って訴えて最終的に勝利した第二層審判所の決定によると、今回の経緯の概要は以下の通りでした。
 女子生徒は電磁波過敏症で、特に無線LANに敏感でした。そこで、学校教育に電磁波が少ない環境が必要だとして、2017年8月にEHC計画の策定を求めました。しかし、策定の最初のプロセスであるEHCアセスメントすら不要だと自治体当局は判断。女子生徒側が不服申立てを行い、第一層審判所は2018年7月、アセスメントを行うよう当局へ指示しました。審判所に従って当局はアセスメントを行いましたが、そのうえで2019年2月、既存のサポートで対応できるのでEHC計画は必要ないと決定しました。女子生徒側が不服を申し立て、2019年11月、第一層審判所は当局の決定を取り消しました。その後約2年間の経緯について報道発表文は触れていませんが、2021年になって子ども側は、これまでとは違う自治体を相手取って第二層審判所へ申立てを行い、勝利しました。
 そして今年8月、女子生徒はようやくEHC計画を獲得することができたのです。
 EHC計画によって、この生徒へ具体的にどのような支援がなされるのか、報道発表文には記載がありません。また、そもそも、EHC計画なしには女子生徒が学校に通えなかった理由、たとえばWi-Fiのない教室の用意を求めたが学校が拒否したというようなことがあったのかなど具体的なことは書かれていません。女子生徒のプライバシーを守るために、あえて具体的な内容を公表しなかったのかもしれません。
 報道発表文を出した「PHIRE」は、電磁波の健康影響に関する教育の改善を目指す医師、専門家らによるグループだそうです。英国に拠点がありますが、他国からも参加しています。携帯電話と脳腫瘍の疫学調査をリードしているスウェーデンのLennart Hardell(ハーデル)や、電磁界医学学会2021(会報第135号参照)の講師の一人であるErica Mallery-Blythe(マレリーブライズ)もメンバーとなっています。
 以下、この報道発表文[3]の一部をご紹介します。文献リストを含む全文は、原文をご覧ください。【網代太郎・訳も】

[1]お茶の水女子大学ヒューマンライフイノベーション開発研究機構「Q&Aシリーズ 発達障害LD・発達性協調運動障害・チック障害編」
[2]友岡史仁・日本大学法学部准教授「イギリスにおける行政救済法等に関する調査研究」
[3]Education Health Care Plan (EHCP) awarded (Aug 2022) for UK child on the basis of Electromagnetic Hypersensitivity (EHS).

報道発表文(プレスリリース)

プレスリリース2022年8月
報道関係者問い合わせ先:phiremedia@protonmail.com
電磁波過敏症(EHS)を理由に英国の子どもの教育保健介護計画(EHCP)を獲得(2022年8月)
両親、子どもからの声明、および3回の審判所審理の抜粋を以下に掲載します

 このたび、EHSの子どもたちを学校が受け入れるために、両親が二つの自治体に対して5年にわたる法的闘争を展開し、勝利した。両親は第二層審判所で勝利し、この決定は先例となった。これは、EHSの子供を受け入れるために、行政機関に電磁波の少ない教育設備を用意することを法的に義務付けた、世界初のケースだと考えている。
 このご家族は、お子さんのプライバシー保護のため、匿名を希望されているが、この決定により、他のEHSのお子さんや大人の方々のより良い未来につながることを願っている。
 両親は、以下の通り述べている。
 「今回のプロセスを経て、現在の制度における家族の扱われ方について、衝撃的な事実を目の当たりにすることになりました。このような斬新で政治的な領域に挑むのは簡単なことではないと認識していましたが、そのハードルは私たちの予想以上に高かったです。私たちの娘は、どんな子供も経験する必要のない悲惨な目に遭わされました。それでも、ようやく正義が果たされ、娘が健全な環境で教育を受けられるようになることを願っています。私たちは、娘がいかに前向きであり続けたかを誇りに思っています。現在、英国では、EHSの子どもたちが学校に通えず、家庭学習グループでさえ、Wi-Fiや携帯電話の普及によりアクセスできないことがあるため、深刻な孤立状態にある子どもたちがいることを私たちは知っています。これらの被曝により、深刻かつ衰弱した形で悪影響を受ける子供がいることを法的に認めることは、デジタル時代のすべての生徒にとって学校をより健全なものにし、深刻な影響を受ける人々にも平等な機会を与えるための第一歩です」。
 その女子生徒は、他のEHSの子どもたちに自分の考えを伝えたいと、以下の通り述べている。
 「私は13歳のEHSの女の子です。Wi-Fiや他の種類のEMF(電磁場)にさらされると、時々、頭痛や不眠症などの症状が出ます。これらは非常に深刻になることがあります。これを読んでいる人は、自分もこのような症状を経験しているかもしれませんし、自分もこの病気かもしれないと思い始めているかもしれませんし、この病気の存在すら疑っているかもしれません。私も、実際に体験していなければ、そう思っていたかもしれません。EHSは私の人生に劇的な影響を及ぼしましたが、皆さんが思っているような形ではありません。もちろん、行けない場所や持っていないものはありますが、ほとんどの点で非常に『普通』の生活を送っています。メールやスカイプは長時間使わなければ有線で友達にメッセージを送れるし、学校もWi-Fiや携帯電話のない環境になったから通えるようになりました。もっと重症のEHSで、ほとんどの人が当たり前にやっているこれらのことができない人もいるのです。その方々の苦しみは大変なものですが、そのような方でも電磁波の少ない環境であれば回復することができると信じています。私は、多くの人が感じられないものを感じ、察知することができます。これは私の健康を守ってくれるものであり、スーパーパワーだと思っています。もちろん、眠れなかったり、学校に行けなかったりするときは、そう感じないこともありますが、好調なときは、ある意味すごいことだと思っています。以前、私が通っていた学校はWi-Fiを入れていたため、学校に行くことができませんでした。しかし、私たちの状況がどんなに奇妙でクレイジーであっても、人々は私のために戦い、私を慰め、私を迎えてくれたのです。その人たちは私の家族であり、友人であり、先生であり、時には見ず知らずの人たちでした。彼らは私のためだけでなく、EHSを持つすべての人のために戦ってくれました。彼らは、私たちがもっと必要とする人たち、心を開いた人たちなのです。すべての人に、感謝しています。もしあなたがEHSの患者さんで、健康を維持するのに苦労していたり、学校や職場に行くことができなかったりしても、あきらめないでください。この病気に対する人々の意識は高まっていますし、今は何も変わらないように思えても、すでに変わっているのです」。

決定文の詳細(日付順)
2018年決定文(第一層審判所)より抜粋
 「我々は以下の通り結論した。両親が提出した多くの証拠より、障害が存在し、子どもXXXは2010年平等法第6条による障害の定義、すなわち、日常的な機能に対する実質的な長期的影響を有している」
 「イングランド公衆衛生局による認定は問題ではなく、2010年平等法は、いかなる医療委員会による認定にも言及していない」
 「イングランド公衆衛生局はEHSを認めていないが、総合的に障害を認める信頼できる証拠がある」
 「したがって、EHSの存在を示す十分な世界的証拠と信憑性があり、病歴聴取で使われた医療調査の形式は完全に適切で倫理的であり、両親、家族、その他の医療専門家から得られた証拠は総合的に、子どもXXXが電磁波による悪影響を受けるというものであった。その影響は、明らかに軽微なもの、些細なものを超えていた」
 「子どもXXXは聡明で能力のある子どもであり、障害があっても通常の日常生活を容易に営むことができることに問題はない…両親、とりわけ子どもXXXによる生活の描写は、生活への影響が非常に大きいことを示している」

2021年11月決定文(第一層審判所)より抜粋
「2018年、審判所は、両親の障害者差別であるとの主張とXXXの査定拒否に対する訴えを検討した際、XXXは障害を有していると判断した。それらの知見は私たちを拘束するものではなく、私たちはXXXが障害を有するかどうかについて、私たちに提出された議論と証拠に基づいて新たに決定した」
 「私たちは、平等法が規定する障害をXXXがもっていると判断した」
 「総合的に考えて、両親が言うように電磁波に敏感な人がいることがわかる」
 「私たちは、XXXの症状は電磁場が原因であると総合的に判断した」
 「私たちは、XXXが電磁場に対する過敏症による障害を持っていると判断した」
 「XXXのEHSに対する感受性が、平等法の基準を満たしていることに疑いの余地はない」
 「XXXは体調が悪化しないために電磁波が少ない環境が必要である」

2022年決定文(第二層審判所)より抜粋
 「審判所は、子どもが平等法第6条と第20条(2)(b)の定義における障害者であると判断した。私はその分析を受け入れ、採用する」
 「本規定によれば、この児童の問題は、次の点にある。(a)教師とではなく、プログラムを通して行われるコミュニケーション(6.28項)、(b)コンピュータの使用を妨げたり、じゃまするセンソリーニーズ(sensory needs)(6.34項)。コンピュータとそのプログラムの利用は、今や学校での教育のあり方に不可欠な要素となっている。その利用は、もはや周辺的なものでもなんでもない」
 「電磁波の問題は、子どもの生活全般に影響を与え、通常の日常生活を制限するものである。これは、学校でも、家でも、社会に出たときにも当てはまる。学校では、コミュニケーションやコンピューターの使用に関する彼女の問題は、学校で無線LANを使用したことが直接の原因である。唯一の解決策は、学校内で提供されなければならない。他の場所で同じことをする必要があるかもしれないが、他の場所には移せない。この問題を回避し、その結果を克服するために、他のどのような対策が有効なのか、私にはわからない。これは、単に体調が悪くて集中できないといったケースではない。二人の教育心理学者の証言があり、二人とも、彼女とその両親の症状の説明は信用できると述べている。審判所は、彼らの証拠も受け入れ、彼女の症状は『発症すると衰弱する』ものであり、その症状は『1学年の間、教育を受けられなかった』ほどであったと述べている。これらの症状は、学校という環境に特有のものではなかった。しかし、そのような環境下で発生した場合、教育を提供するための手段を学校が選択したことに起因している。そのような状況では、教育を効果的にするために何らかの規定が必要である。
 これらの理由を総合して、私は、その子が特別な教育的措置を必要とすると判断する。私の分析では、どの要素も決定的なものではなく、個々の要素に特別な意味を持たせていない」
 「決定は、『地元当局は、子どものためにEHC計画を作成し、維持することを義務付けられる』である」

電磁波の健康影響に関する背景
EHSについて
 EHSは、人体への電磁波曝露に伴う頭痛、睡眠障害、めまい、動悸、皮疹、多感覚障害などの身体的症状によって特徴付けられる全身の病的状態である。一般人でも比較的高い被曝量であれば、同様の症状が見られることがある。
 この反応のメカニズムとして、「ノセボ反応」(曝露に対する恐怖によって引き起こされる症状)を示唆する人もいるが、この説明は科学的な精査に耐えるものではない。EHSは、盲検条件下での身体反応であることが証明されており[1,2](その場合、ノセボ反応の可能性は排除される)、バイオマーカーも特定されつつあり[3]、反応を説明できるメカニズムも解明されてきている[4-7]。
 複数の国際的な医師団[8-17]、科学委員会[18-29]、政府機関[30-40]から、被曝量を減らすようにとの助言があり、さらに、EHSの診断と対処に関するガイドラインも査読されて発表されている。これらのガイドラインは、人工的な電磁波を避けることが医学的対処の主軸であることを明確にしている[41-43]。EHS患者に対する障害や補償のケースは、様々な国で勝ち取られてきており、今後も拡大していくだろう。一部の弁護士グループは健康への悪影響を確信しており、Wi-Fiやその他の無線による傷害に対する民事訴訟が「勝訴しなければ報酬なし」ベースで提供されており[44]、保険引受業者は関連するリスクを「高い」と見なしている[45,46]。

査読付き科学論文における、電磁波曝露に関連する医学的疾患
 EHSの発症に加えて、非電離放射線への曝露に関連するリスクとして、査読済みの科学文献には、発がんリスクの増加、細胞ストレス、有害なフリーラジカルの増加、遺伝的損傷、生殖器系の構造・機能変化、学習・記憶障害、神経障害、ウェルビーイング(幸福、健康)への全般的な悪影響が記載されている[47]。
 発がんの増加に関するヒトの疫学的証拠が増えつつあり、動物実験による発がん性の「明確な証拠」によって裏付けられた。その中には、広く信頼されている「国家毒性プログラム」(米国)[48,49]とラマッツィーニ研究所(イタリア)[50]による世界最大規模の研究も含まれている。国際的にも、携帯電話の放射線による腫瘍の賠償を勝ち取る事例が増えており、このような因果関係を証明する裁判が続いている[51]。
 何百もの専門家による査読付き科学論文が、現在の安全指針を下回る強さの電磁波に反応して生物学的な悪影響が発生することを実証している[52]が、放射量は増加し続けている。

ここ英国の被曝を減らすための医学的・科学的な取り組み
 数々の国際的な宣言(上記参照)に加え、2年前には英国に拠点を置くPHIRE(Physicians’ Health Initiative for Radiation and Environment)が英国生態医学会(BSEM)と共同で「2020年非電離放射線(NIR)合意声明」を発表している。
 Erica Mallery-Blythe博士(PHIREの創設者であり、2020NIR合意声明の起草者である)は、次の通り述べている。
 「私たちは、ここ英国でも、また海外でも、EHS患者に対する厳しい不公平が増えつつあるのを目の当たりにしている。環境病に関する医学教育は概して改善が必要ですが、EHSに関してはほとんど行われていません。その結果、EHS患者はしばしば誤診され、効果がなく、健康被害をもたらすことも多い不適切な治療に、時間、労力、費用を浪費しています。医学教育が改善され、一般市民の意識が高まり、非電離放射線被曝に対する生物学的根拠に基づく正当な安全基準が設けられるまでは、EHS患者が直面する脅威は拡大し続けるでしょう。これは緊急事態であり、迅速に対処しなければなりません」。
 この文書は、世界中の環境医学協会によって署名され、何千人もの国際的な医学博士を代表している。この広範囲に及ぶ差奥を受けた文書は、経験豊富な臨床医や、広く出版され尊敬を集めている科学者など、以下のようなこの分野の専門家によって支持されている。

  • Anthony Miller(アンソニー・ミラー)教授。著名な医師、予防医学の専門家、様々な科学・保健当局の科学顧問、世界保健機関(WHO)国際がん研究機関(IARC)の元上級疫学者、上級科学者。
  • Yuri Grigoriev(ユーリ・グリゴリエフ)教授。非電離放射線防護に関するロシア国内委員会会長。WHO「電磁波と健康」国際諮問委員会メンバー。WHO「電磁波と健康」諮問委員会メンバー。連邦医学生物物理学センター非電離放射線の生物学と衛生学。連邦医学生物物理センター放射線生物学と非電離放射線の衛生研究所主席研究員。RAS放射線生物学科学評議会副議長。
  • Devra Lee Davis(デブラ・リー・デイビス)教授。環境健康トラストの創設者兼代表。ヘブライ大学ハダサ医学部(イスラエル・エルサレム)、オンドクズ・マイス大学医学部(トルコ・サムスン)の客員教授。
    前職:ピッツバーグ大学癌研究所環境腫瘍学センター創設ディレクター、米国科学アカデミー国家研究会議環境学・毒性学委員会創設ディレクター。米国科学アカデミー国家研究会議、保健福祉省保健担当次官補上級顧問。
     また、クリントン大統領により米国化学物質安全・有害性調査委員会の委員に任命された。米国国家毒性プログラムの科学顧問委員会。

(以下略)

 

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