デジタル教科書はダウンロード版でも提供を 文科省と話し合い 署名787筆を提出

中西泰子さん(こどもの学習環境を守る会、兵庫県)

 来年度から導入されるデジタル教科書で、国が提供するのはクラウド版だけであるとの国の方針について、電波による通信がより少なくなるダウンロード版の提供を求めて、中西泰子さんが署名運動を始めたことを、会報前号でお伝えしました。会報前号を読者の皆様へ送付する際に署名用紙を同封することによって、当会も中西さんの活動を支援しました。
 中西さんはご自身が電磁波過敏症で、署名を提出するために東京へ行くことは難しいとのことでした。
 また、署名提出にあたって、文部科学省の担当者と話し合いたいとの中西さんからのご相談に対して、当会報編集長の網代は、文科省に直接お願いしても話し合いの実現は難しいと思うので議員に協力を求めるよう、中西さんへアドバイスしました。網代は、大河原雅子衆院議員(立憲民主党)ら電磁波問題にご協力いただいている国会議員の名前を複数、中西さんへ伝えました。
 中西さんは検討の結果、署名は郵送で提出することとし、第一次分として7月20日に発送しました。それに先立つ同月12日、大河原議員のお取りはからいのもと文科省の担当者とズーム(オンライン)で話し合いをすることになりました。文科省からは中嶋光穂・修学支援・教材課長補佐、佐々木葵・教科書課長補佐、中川覚敬・教科書課長補佐の3名が参加。話し合いの模様について、中西さんにご報告いただきました。
 拝読すると、文部科学省は「(デジタル教科書がいやなら)紙の教科書を使えば良い」と繰り返していますが、自らデジタル教科書を推進しているのに、どこか他人事のようにも見えます。そうであれば、子どもの状況に応じてデジタル教科書を使わなくて良いことを、文科省として各教育委員会などへはっきりと通知すべきでしょう。


 署名にご協力いただき、誠にありがとうございました。
7月19日時点で787筆の署名をいただきました。たくさんのお手紙や、資料、切手などを送って頂き、皆様の温かいお心に感謝しております。本当にありがとうございました。
 提出に際しまして、私はミリ波で体調を崩すので、ミリ波の多い東京には行けず、文科省に直接お渡しできないので、郵送させて頂きました。そして事前にズームで文科省の方とのお話し合いを大河原まさこ議員にセッティングして頂きました。環境ジャーナリストの加藤やすこ様、元九州大学/久留米大学非常勤講師の山口みほ様、太宰府市議会議員の笠利毅様、元教員の竹田菜緒様、小学生のお子様のお母様の東麻衣子様のご協力をいただき、ズームに臨むことができました。
 まず、こちらからの署名の趣旨などをお話しさせて頂き、海外のガイドラインや、最新の研究論文、ある学校での測定結果とこどもたちへの影響、実際困っているこどもさんの親御さんの対策や測定値、ご自身がES(電磁波過敏症)、CS(化学物質過敏症)の方の壮絶な体験談をお話ししていただきました。
 話し合いの内容を文科省からの回答を中心にご報告させて頂きたいと思います。

クラウド版の一部にオフライン機能

 文科省:デジタル教科書は活用状況を見ながら段階的に導入することを予定しております。いろいろある教材へのアクセス、学習支援ツールとの連携を図るためにも、文科省としてはクラウド版である必要があると考えております。一方で、デジタル教科書を学校の外で利用する際に常に通信環境が整っているわけではないことがあり、非通信環境下でも閲覧ができるようなオフライン機能というものに利用ニーズがあることを承知していまして、今、デジタル教科書を実際に提供している発行者さんが作っているものになりますが、そういったものの中にはオフライン機能というものを既に有しているものも存在しています。引き続きデジタル教科書の円滑な利用に向けて、こういった状況も文科省としてはしっかり見定めて注視していきます。
 加藤:これまで電磁波の影響について考慮したことがあるのか、そういった症状をお持ちのお子さんへの配慮として、どのようなことが可能だと思われますか。
 文科省:デジタル化と言いますか、クラウドバイデフォルトを政府全体で進めている状況ですので、文科省として受け止めるというよりかは、まず政府全体で考える話ではないかと思います。その上で文科省としては、これまで政府の方針に則った政策を進めてきている状況でございます。その中で、今私がお答えできる範囲で、教科書のことになるのですが、無理にデジタル教科書を使えっていう話ではそもそもないので、紙の教科書で今文科省は質の保証をしている状況なんですね。ものによってはデジタル上で見るよりも、紙で見た方が学びやすい子も存在しているので、その子の実態に応じて子供が紙かデジタルかを選択できたらいいかなとお話を聞いて思ったところでした。
 加藤:周りでデジタル教科書を使われていればその空間に過敏症の子は入れないんです。例えば、CSの子供さんのために、コピー版教科書を渡したり様々な対応をされていますよね。それと同じように個別対応で、その子だけ紙版の教科書を渡せばいいという状況ではなく、教室全体を安全な環境にするには、全員がクラウド版を使うか、有線環境で接続するかという対応が必要になると思うのですが。
 文科省:先程申し上げたような非通信環境でも閲覧できるオフライン機能というものが、電磁波の話じゃなくても、今ニーズがあると承知していまして、実際にそういうニーズを受けて、発行者の方でもオフライン機能というものを備えているところもございます。教科書って、国が作っているものじゃなく、民間事業者が作ったものをお配りするというもので、民間事業者さんの方でそういった機能を今つけられているところが、出てきているところでございまして、クラウド版だから電磁波で絶対ダメって話じゃないのかなと今お話しを聞いて思っています。クラウド版の良さは、クラウド版だとどの端末でもいけるので、自宅の端末でも自分の書き込みが見れたりするとか、もしくは、教科書って訂正申請ていうのが続いていって、紙の場合だと別途、紙が来たりするんですけど、これをダウンロード版に切り替えると、もうそれをいじることはダウンロードなので、できないという状況下になってしまうのですが、クラウド版だと訂正申請があったものをすぐ訂正データに差し替えができるメリットがあったりするので、クラウド版にオフライン機能があるってことで、対応ができるような気がお話をお聞きして思ったところでございました。そもそも今、紙の教科書がありますので、紙の教科書で学びをしっかりやっていくことで、もう十分対応ができるお話なので、教科書課だとそういう話になるかなと思っていたところでございます。有線でやっている自治体さんのご紹介がありましたけど、有線でやっていれば、そもそもクラウド、ダウンロード関係なく、クラウド版でいいのかなというのが、一義的にはありますというところでございます。

文科省「Wi-Fiの電源を切ることは必要」

 中西:子供が小学一年生で入学するとき、有線を導入してください、アクセスポイントにスイッチをつけてくださいとお願いしましたが、結局答えは、診断書がないから対応できませんだったんです。個別対応と言った時に、文科省の方から、私たちみたいな子供に対しては、こういった必要な環境があれば、診断書がなくても整えていただけるよう、文科省の方からご指導いただきたいと思うのですが、それはどのようにお考えでしょうか。今まさにWi-Fiで学校に行けていない子どもさんが出ているんですが、そういった子どもさんには早急に有線の環境を作っていただけたら、学校に行けるようになる子も出てくるので、具体的なものとして、有線をお願いしたいと思うんですけど、どうでしょうか。
 文科省:今Wi-Fi環境で様々な被害が出ている現状聞かしていただきました。我々としましても学校教室でWi-Fiは一義的には便利でがありますが、それをもとにやはり児童生徒に色々な悪影響が出るというのは、本末転倒なのかなっと思っておりますので、先程の事例として紹介いただきました、電磁波をシールドする防護布であったり、スイッチを設けこまめに電源を切るという対策っていうのは、可能な限り児童生徒の学校生活を送れるためには必要になってくるのではないかなと思っております。
 中西:教科書が長時間Wi-Fiを使用するデジタル教科書になったとき、実際どのぐらいの高周波の測定値があるのかは測られたことはありますか。
 文科省:測定したかどうか今はわかりかねます。文科省として決めたというよりは、政府全体での方向で、クラウドバイデフォルトでいきましょうという話なので、それに沿って対応していることになるかと思います。教科書がずっとWi-Fiと繋がっていると時間が長くて、という話があったかと思いますが、まず学校現場で教科書ってずっとその時間中、開かれているっていうものでもないのかなっていうのと、もう一点は今の端末でデジタル教科書をクラウド版で使っていても、ブラウザにキャッシュと言って、記録がちょっと残るんですね。例えば今オンラインミーティングのWi-Fiが切れても、この画面とか今もう既に開いているホームページって突然プッと切れるのじゃなくて、表示され続けるって感じなんです。授業の中で教科書を使う場面ってだいたい2ページぐらい、見開き1ページをその日やりますってみたいなとこなので、仮に今のままだったとしても、授業の最初にデジタル教科書をみんなで開いておいて、Wi-Fiを閉じてそのページを見続けることはできるのかなっていうところと、そもそも紙の教科書があるので、デジタルを使わなければいけないところだけデジタルを使って、あとは紙でみたいなことでも、やりようはできるかなと思っていました。
 竹田:元教員の立場からすると、ちょっと一瞬Wi-Fiをつけてみんなダウンロードしてしまいましょうね。あとは消すよとか、その都度その都度1人の子のためにするっていうのは、ESを知らない普通の教員に分かってもらうまでの戦いが本当に大変だと思うので、ESの子どもに配慮をしようっていうのは保護者が泣くような思いで言うんじゃなくって、文科省の方からESの子どもに配慮をお願いしますって通達を出していただきたい。そうすれば教員側もこういう配慮をしなくちゃいけないんだなってわかるので。
 加藤:学校によっては、廊下にWi-Fiのアクセスポイントを設置して、それを2つ3つの教室で併用するということが行われています。例えばそのクラスで見たからWi-Fi切りますってわけにはいかないんです。他のクラスの状況もいちいち確認して接続したりするっていうのは難しいと思うんですよ。ですので、初めから有線環境にするか、使用時間をきっちり制限するか、もう一つは今はどれほどES、CSの子供がいるのか、そして、子供がどういった状況に苦しんでいるのかっていうのをまず現状調査すべきでないかと思います。
 文科省:そうなってくると、うちは無理にデジタル教科書を使えって話ではまずないって事案なんですね。それは子供の学びに応じた話なので、紙の教科書でやっていただいて、家で有線で家庭学習において、安全な環境下で、英語だったら音声を聞きましょうっていうお話なのかなっとお話を聞いて思っています。ご意見としては今回かなり丁寧にご説明いただき、しかも実際に症状を抱えた方々の生の声とか実際に保護者のお話も聞けたので、お話の中身としては、ご意見として受け止めさせていただけたかなと考えております。
 山口:「個人個人でデジタル教科書を使わない選択をすればいいでしょ」、では済まないんですよ。教室に入れなくなったり、学校に行けなくなったりするのですから。私もですが、ESになった人たちが、同僚にも、学生さんや生徒さんにもいてどんどん増えているんですよ。それに、ESの人だけの問題ではないです。電磁波の影響と気づかないままに記憶力、思考力がものすごく落ちている人が大勢います。学校に伝えたけれど、「デジタル化は国の方針ですから」、の一点張りで検討しようともしない。私は科学的論文を必死になって翻訳して、日本臨床環境医学会の査読に通って、出版されて、証拠があるんです。勘違いじゃなくて、学生さん、生徒さん、みんなの問題なんですよ。ここは文科省の方がこどもを守るという観点から、私達と一緒になって訴えて下さらないと、私達がいくら言ったって、「それは国の方針ですから」で終わりなんですよ。自分たちでやって下さいと言われても、どうしようもない状況なんです。私たちは120%やっています、だから文科省も120%助けて下さい。
 加藤:OECDが2015年に発表した調査でも、学校でPCを使った授業をやる国ほど、成績が落ちているということが発表されました。デジタル化による弊害というものにも目を向けて、子供の学びを守っていくという姿勢が必要なのではないかと思います。ハーバード大学のマーサ・へルベルト博士が、発達障害との関連性も指摘しています。環境中の電磁波は、子供の精神学的、神経学的に発達に悪影響を与えている可能性があるから、そういう問題がある子どもには、有線の環境を与えなさいということを求めています。総務省は国の指針値以下なら安全ですって言うと思います。あそこは業界との癒着がとても密ですから、大本営発表なんですよ。大本営発表を信じて、このまま子供を傷つける状況を続けるのか、それとも舵をきって、子供も教師も保護し、学校環境を求めていくのかっていうところを、文科省だけでは難しいかもしれないけど、まず、そういった視線から取り組んでいただければと思います。先日発表された文科省さんの初等教育局GIGAスクール構想の現状についてという資料の中で、小学校長、中学校長の5~6割が、目や心身の健康に支障が生じる懸念が強いと答えていますけれども、これについて具体的に健康調査をやられるご予定はあるのでしょうか。
 文科省:教科書課で申し訳なくなってきているんですけど、GIGAスクールの方でもガイドブックを作っていて、端末と目の距離が近ければ近いほど、正直デジタルだけでなく紙もそうですけど、視力っていうのは悪くなる傾向が当然あるので、端末と目の距離を空けましょうとかっていう話は国としても、しっかり周知をしているところになります。
 加藤:健康面の配慮について、例えばブラインドやカーテンを閉めて、照明の調節をしましょうとか提言されていますよね。そこに電磁波への対応ということで、加えていただくことは可能でしょうか。Wi-Fiのアクセスポイントに近い子供ほど、被害をうけるんですよ。そう言った状況をなくすために例えば教室のレイアウトを見直すだとかいろんな対応が考えられると思うんですよ。イスラエル教育省のように制限時間を設けるとかそういった取り組みとかはガイドラインとしてまとめて健康への配慮の一環として、学校に配布するということはできますか。

文科省「紙の教科書を使えばいい」

 文科省:政府全体の方針性としても、目と端末の話っていうのは、大人も含めて、注意していく必要があるということになっているのかなと思います。今回のWi-Fiの話っていうのは、文科省ということではなくて、国全体の政府全体の学校のことも含めた方向性の話だなとして思ったりして、ご意見としてもちろん文科省がお話承ってますので、しっかりと受け止めさせていただきたいと思うんですけれども、教科書っていう観点でいうと、紙の教科書を使っていただきたいというお話なのかなと思っています。一応紙の教科書っていうのは、法律上使用義務が課せられてて、公教育の質の担保という感じで紙の教科書を使って授業をしましょうとなっているんですけれども、一方デジタル教科書は使用義務がかかっていないんですね。それは当然紙があっての上でのデジタル教科書というところなので、デジタル教科書を必ず使えという法律はないというところになっていますので、クラウド、ダウンロードというところよりは、紙の教科書をそれであればぜひ使っていただきたいお話になるかと思いますし、有線になれば、クラウド版でも差し支えないってお話だと思っていますので、有線でネットでクラウドに繋げれば、クラウド版だからダメということにはならないかと思っておりましたので、クラウド、ダウンロードというお話よりは、紙の教科書をご使用いただいたほうがいいかなと思っております。
 笠利:紙が基本というお話でしたが、有線であれWi-Fiであれ、デジタル教科書自体これからのものなので、今日の話を教科書を作る会社さんに是非伝えて欲しいと思いました。あと、教科書を実際に教室で使うのは先生方なので、大学など先生を養成するところにもお話をつないでいただいて、現場の皆さんが少しでもこういうことに配慮できるようなこと、教科書課の範囲でもやっていただけるかなという印象を持ちました。あと、私はいま市議会にいるのですけれども、私のまちではこの話を教育委員会にして、校長会と保健室の先生には、まずは周知を図るという対応をしてもらっています。是非教科書課でもやれることをやっていただきたいなと思いました。
 中西:今回有線でやってもいいのではとおっしゃってくださいましたよね。
 文科省:まず紙の教科書でどうですかというところが大前提です。
 中西:デジタル教育基盤特別委員会を傍聴させていただいたのですが、そこの中でこれからの方針を決めていくとお伺いしています。その中で、クラウド版をとても推していく勢いを感じました。完全クラウド化とおっしゃっていました。今は紙の教科書が法律で決まっていますが、いずれデジタルに変わることを一番危惧しています。これから大学までの間ずっとそれでいけるという保証と、もし求めた場合に、有線の環境を整えていただける保証をこの場でお願いしたいと思います。
 文科省:文科省といたしましては、政府全体の方針に則って、我々も政策を展開していく立場でもございますので、その辺りは政府全体の方針を見ながら議論をしていくというお答えしか現時点でできませんので、大変恐縮ですが、そこはご理解いただきたいた上で、今日いただいたご意見というのは、担当者レベルで、共有させていただくということかなと思っています。
 中西:個別対応の件で先程の有線のことがお話に出していただいたので、文科省の方が、診断書がなくってもそういった子供たちに対応しますっていうことをおっしゃっていただくことが、私たちの子供が学校に通えることになるかと思うんです。
 文科省:そこも政府全体の方針の中で我々もお答えする立場ですので、今ちょっとここで有線とか無線かっていうのを文科省の方針として、お答えするのは難しい立場だということはご理解いただきたいです。

 予定していた時間を10分ほど過ぎてしまったので、ここでこのお話し合いは終わりました。後日、デジタル学習基盤特別委員会委員の方や、衆参文科委員の方、デジタル教科書の出版社の方、一般の方を対象に子供たちの現状を知っていただくための会をズームで催すことになりました。これからまた、方針を考えていきたいと思っていますが、ひとまず署名の一次提出を無事させていただいたことと、どのようなお話し合いが行われたかのご報告をさせていただきました。
 初めは、電磁波関係のお知り合いも少ない中、どう署名をお願いしたらいいのか途方に暮れていましたが、東麻衣子さんが電磁波問題市民研究会の方々にご紹介くださり、ご協力を賜り、1ヶ月ほどの間でしたが、787筆ものご賛同を得ることができました。これからもまた、このご縁を大切に、子供たちのためにどうしていったらいいのか、考えていきたいと思います。みなさま、ご協力を賜りまして、本当にありがとうございました。

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