スマホと衛星の直接通信サービスを開始 KDDIと国は情報の開示を

 KDDIと沖縄セルラーは4月10日から、衛星とauスマートフォンの直接通信サービス「au Starlink Direct(auスターリンクダイレクト)」の提供を開始しました。普通のスマホと衛星との直接通信サービスの提供は、日本初です。地球上から携帯電話の「圏外」がなくなるわけなので、電磁波過敏症の方々はたいへん心配されていることと思います。地上から340kmもの高さにある衛星からの電波はとても弱いと考えられるので、過敏症の方も現状では心配しなくて良さそうですが、衛星からの電波が地上ではどのくらいの強さになるのかは、過敏症の方に限らず気になるところです。しかし、その数値は公表されていません。KDDIや国は、市民へきちんと情報公開すべきです。

「空が見えれば、どこでもつながる」

KDDIのウェブサイトより

 auの人口カバー率は99.9%超ですが、日本全土の面積カバー率は約60%とのことです。人工衛星との直接通信により、残りの約40%でも「空が見えれば」通信が可能となるとKDDIはアピールしています。地上の基地局がカバーするエリアでは、衛星との通信はできません。auユーザーは当面無料で利用できるそうです。可能なサービスはテキストメッセージ送受信(SMSなど)、テキストメッセージアプリを経由しての現在地の位置情報共有、アンドロイドスマホのGeminiによる調べもの、緊急地震速報・津波警報・国民保護情報(Jアラート)受信で、通話はできません[1]。今年夏以降はデータ通信にも対応するとのことです[2]。6月5日までに63機種・800万台以上のスマホで利用可能になるそうです[3]。
 au Starlink Directは、イーロン・マスク氏が率いる米国スペースX社による衛星通信サービス「スターリンク」を利用しています。地上からいつも同じ空の位置にあるように見える静止衛星(高度3万6000km)より低い位置にある衛星なので、静止衛星よりも高速な通信が可能ですが、「静止」していないため地球を取り囲むように数多くの衛星を打ち上げて、それらの衛星を一体的に運用しています。このような仕組みを「衛星コンステレーション」と言います。au Starlink Directが利用しているのは、スペースX社が打ち上げた衛星のうちスマホ専用の600基で、将来的には7000基近くまで増やすそうです[4]。

問い合わせを無視したKDDI

 衛星からの電波は地上ではどの程度になるのか、当会は昨年6月と8月の2回にわたって問い合わせましたが、KDDIからの回答はありませんでした(会報第150号参照)。KDDIは市民と向き合う姿勢がない困った企業であるようです。ちなみに、来年からの衛星直接通信サービスを計画している楽天からは「技術的な詳細は、現在検証中の内容が含まれるため、回答を控えさせていただきます」との回答がありました。

総務省“安全は確認しているが中身はナイショ”

 KDDIに無視されたので、総務省に「au Starlink Directの衛星からの電波の強さは何μW/cm²なのか。電波防護指針を満たしていることをどのように確認しているのか」と質問しました。電話に出た基幹・衛星移動通信課のSさんは「スターリンクは米国の免許で電波を出しているので、総務省は審査をしていない。地表面での電波の強さは公表されていないが、国際的な調整を満たしているので、問題がないことは確認している」と答えました。国際的な調整とは何かと質問したところ、国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)が審査を行っている、という説明でした。審査内容は一般に公表されておらず、関係者だけが見られるとのことでした。総務省は関係者なので見られるのかと尋ねたら、そうであるとのこと。「お上を信じなさい」と言うがごときの非民主的な総務省の説明でした。
 衛星とスマホの直接通信は楽天モバイルが米スペースモバイルと組み、2026年第4四半期のサービス提供開始に向けて準備を進めています。ソフトバンクの宮川潤一社長とドコモの前田義晃社長もそれぞれの決算会見で「来年中にサービス提供する」という意向を示しています[4]。国と事業者は電波の強さなどの情報を開示すべきです。【網代太郎】

[1]KDDIニュースリリース2025年4月10日
[2]衛星とスマートフォンの直接通信サービス「au Starlink Direct」発表会見レポート2025年4月14日
[3]KDDIニュースリリース2025年5月13日
[4]「KDDI、衛星・スマホ通信で1年先行 乗り換え需要は」日本経済新聞のウェブサイト2025年5月16日

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