BSテレ東で4月23日に放送された『いまからサイエンス』という番組に、ワイヤレス給電の研究で世界トップクラスだという京都大学生存圏研究所教授の篠原真毅氏が登場しました。電波利用を推進する立場の研究者が何を考えて何を目指しているのか、分かりやすく伝えられていて、興味深く視聴しました。番組の中心テーマは、静止衛星で太陽光発電した電力を地上へ電波で送電する宇宙太陽光発電です。これは、施設を生活空間から隔てれば周辺住民などへの電磁波による健康影響は防げそうです(従業員や自然環境への影響の懸念はあります)。一方で、篠原氏は「電気が空気のようになる世界が夢」だと述べ、給電のための電波をWi-Fiのように工場内や生活空間にばらまくビジネスにも関わっているようです。本当にそのような世界になれば電磁波過敏症の方はますます生きづらくなり、新たに健康影響が出る方々も増えていくことが懸念されます。

ワイヤレス給電とは
そもそもワイヤレス給電とは何かについて、篠原氏は次のように説明しました。電気と電波は親戚のようなもの。コンセントからきている周波数50Hzとか60Hzの電力は、1秒間に50または60回波が揺れていますが、波の動きを速くして数億Hzぐらいに変換して金属に流すと自動的に空間へ飛び出す。それが電波。電波はエネルギーで、分かりやすい例が電子レンジ。ワイヤレス給電の場合はさらにもう1回周波数を変換して電波を電気に戻す。交流送電システムを開発した発明家ニコラ・テスラも約150年前にワイヤレス送電を実験しましたが、電波が広がってしまう性質を克服できず、当時はうまくいきませんでした。
宇宙太陽光発電とは
宇宙太陽光発電は、3万6000km上空の静止衛星軌道上で太陽光発電を行い、電気をマイクロ波のビームに変換して、ビームの方向をコントロールできるフェーズドアレーアンテナから地球へワイヤレスで送信します。届いた電波を受信して電気に変換するために地上に設ける装置を「レクテナ」と言います。レクテナ1基で約100万kW、地上にある大きめの発電所と同等の電力を供給できるそうです。
送電アンテナは直径2km、レクテナは直径2.5km。とても巨大ですが、3万6000kmの上空から見ると、とても小さなピンポイントへの送信となります。篠原氏らはまず、上空7kmの飛行機から地上のスポットへ正確に送電する実験を昨年12月に長野県諏訪市で行い、成功したそうです。NASAや中国でも研究していますが、7kmという長距離で成功しているのは日本だけとのこと。次は高度450kmぐらいの人工衛星から地上へ送電する実験を計画しているそうです。
課題は巨大にすること
篠原氏は実現への課題として、人類が数km単位の巨大な施設を宇宙空間に設置した経験がないことを挙げました。エネルギービームを作るためには理論的に直径がkm単位の送電アンテナを作る必要がありますが、国際宇宙ステーションですら全長150mもありません。そのような巨大なものを宇宙空間へ運ぶには、ロケットを何十回も打ち上げなければならず、現状ではコストに見合いません。しかし宇宙利用が進んで技術も進めばコストは下がるだろうと篠原氏は述べています。
ゴミが当たって穴だらけになっても動く
宇宙空間に設置した送電機や太陽電池の耐用年数を、篠原氏は約30年と見積もっています。数kmという巨大サイズなので、宇宙デブリ(ごみ)がぶつかりやすいですが、送電アンテナも太陽電池も小さな装置の集合体なので、デブリがぶつかって穴だらけになっても、しばらくは動作すると篠原氏は言います。また、それぐらい巨大なものを宇宙に設置する技術が開発されていれば、それを修理する技術も開発されているだろうと、楽観的に述べていました。
篠原氏は、将来の人類の宇宙進出を見据えていて、巨大な宇宙太陽光発電システムを宇宙に設置できる技術を獲得すれば、人類が月や火星へ移住するステップにもなるとの見方も示していました。
篠原氏は、米中も目標としている2050年の宇宙太陽光発電実現は可能であるとの見解でした。宇宙太陽光発電は、技術によってマイクロ波という名前の新しい資源を作ることができるので、資源がないと言われている日本に向いている、と熱弁していました。
世界で初めて電波による送電を認めた日本
日本では2022年の電波法の省令改正(令和4年総務省令第38号他)により、電波で離れた場所へ送電する「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」が解禁されました(会報第133号参照)。電波をエネルギーとして利用できると法令で決めたのは、日本が世界で初めてであることを、私はこの番組で知りました。
工場内のセンサーを電池なしで動かしたり、病院や施設で人のバイタルセンサー(呼吸数、心拍数、血圧、体温等などのデータを取得)を電池なしで動かすといったビジネスが始まりかけていて、篠原氏も京都大学発のベンチャー企業に関わっているそうです。
出演者が「充電器がいらなくなるというとですか?」と尋ねると、篠原氏は「充電器どころか、私の夢は、電気が空気のようなる世界」と述べました。Wi-Fiのような装置を部屋の隅に置いて、そこから常時出る電波で室内の電子機器が自動で充電されるため、空気と同様、大事だけれども普段は存在を意識しなくなるものに電気もなることが、篠原氏の夢だというのです。
電波の安全性は
出演者が「人体に悪そうな気もしちゃうんですけど、どうですか?」と訪ねると、篠原氏は「電波はあまり強いと温まるが、普通に使っている範囲では人に危ないレベルまでに強くできないし、世界的な安全基準が決まっているので、それはベースで守る。それだと電気が足らないというユーザーについては、人を検知したら必ず止めるとか、人がいない所だけで使うとか」すれば問題ないと、篠崎氏は述べました。電磁波への人体への影響は熱作用だけだと、篠原氏も信じてるのでしょうか? しかも、人に当たったらすぐに止めることができれば、電波防護指針を超える強さの電波利用もOKだとも受けとめられる説明に、恐ろしさを感じました。
また、出演者が、上記のようなワイヤレス送電のビジネス利用について「グーグルが乗っかってきそうじゃないですか?」と話を振ると、篠原氏は「グーグルに呼ばれて2、3回行ったが、安全性を気にしていた。日本で法律を変えた後は行っていないので、もう1回行ってみたいとは思っている」と述べました。現代資本主義の覇者たるグーグルが電波の安全性について留意しているのだとすれば、ある意味、さすがだなと思いました。【網代太郎】
