電磁波過敏症を分子生物学の視点で研究 フランスで新たな試み 発症者はDNA損傷の修復に遅れ

 電磁波過敏症(EHS)を発症していると自認している26名から提供を受けた細胞で実験したところ、細胞にダメージを与えたときのDNA修復に遅延が見られたという、Laurène Sonzogni(ソンツォーニ。フランス国立衛生医学研究機構などによる共同研究ユニット)らによる論文[1]が2025年5月に公表されました。生物学データに基づいて電磁波過敏症を分子的に定義しようという新たなアプローチとして注目されています。電磁波過敏症の病態解明へつながっていくことを期待します。
 この研究では、EHSであると自己診断した26名から皮膚の線維芽細胞の提供を受けるとともに、症状などについてアンケート調査を行いました。内訳は女性20名、男性6名。年齢は平均52.4歳(39~69歳)でした。

研究の全体構成。論文より

EHS全員の細胞でDNA損傷修復メカニズムが遅延

 発がんなどにつながりかねないDNAの重篤な損傷である「二本鎖切断」が細胞で起こると、それを修復するためにATM(Ataxia Telangiectasia Mutated)というタンパク質が細胞質から核に移動して働きます。EHS発症者から提供を受けた細胞にエックス線を照射したところ、26名全員の細胞で、このATMの移動が遅れる現象が確認されました。著者らがこの論文中で参照している別の論文[2]によると、ATMの遅延は全人口の5~20%で、放射線に抵抗性を持つ人々(全人口の75~85%)に比べて、放射線治療後にがんまたは神経変性疾患を発症する可能性が高いとしています。
 著者らは、この遅れを示す人々が「必ずしもEHSを患っているわけではない」が、今回の研究で被験者が26名と少ないとは言え全員に遅延が見られたのは「偶然の結果ではあり得ない」とも述べています。

EHS発症者に二つのパターン

 発症者へのアンケートでは、質問Aで、電磁波を発生するもの(テレビ、携帯電話、携帯電話基地局、家電、テレビなど)について、0(無反応)から5(極度の痛みと不快感)までで回答してもらいました。質問Bでは、電磁波を発生しないもの(食物、衣類、医薬品、香水、音など)について同様に尋ねました。さらに、電磁波に曝露前および曝露中の症状(質問C、D)についても、同様に尋ねました。
 著者らはこのアンケートを解析し、また、皮膚への細胞実験も組み合わせて、EHS発症者は次の二つのグループに分けられることを示しました。

LBGR(低背景・高反応型)グループ

①質問Aについて、UHF未満の周波数への曝露では症状や不快感のレベルは低かったものの、極超短波 (UHF、300MHz~3GHz) への曝露では症状や不快感のレベルが高かった。
②質問Bについて、電磁波以外の要因に対して特に敏感ではなかった。
③質問C、Dについて、特に心臓や消化器系の障害、気分の不安定さ、神経過敏、頭痛、耳鳴り、皮膚反応が多かった。
④細胞実験で得られた生物学的データからは、高いがんリスクと関連が示唆された。

HBLR(高背景・低反応型)グループ

①質問Aについて、UHF以下の電磁波への曝露で高いレベルの症状と不快感を示し、UHFへの曝露ではLBGRグループよりは低いレベルの症状と不快感を示した[3]。
②質問Bについて、家庭用洗剤や特定の合成繊維製品との接触など電磁波以外の要因に敏感であり、免疫不全を示す可能性があることが示唆された[4]。
③質問C、Dについて、特に疲労、睡眠障害、知的能力の低下が多かった。
④細胞実験で得られた生物学的データからは、老化リスクとの関連が示唆された。

 論文は上記のようにEHS発症者を二つのグループに分けていますが、論文にはEHSの16名がそれぞれLBHR、HBLRのどちらに属しているかの一覧表も載っていて、それによると、上記のうち①②④について、それらすべてでLBHRまたはHBLRの特徴にあてはまったという発症者は多くはないようです。現実の発症者が必ず二つのグループのどちらかに完全に属するということではなく、分子生物学の観点からはEHSは典型的には二つのタイプに分かれることを示したのだろうと私(網代)は受けとめました。

電磁波がDNA損傷の修復を邪魔している可能性

 論文は「EHSが一本鎖切断および/または二本鎖切断の制御に関連している可能性が確認された」「EHSの非常に予備的なモデルが提案された。これらの結論はin vitro細胞実験に基づくものであり、EHS患者への適用可能性を検証するにはさらなる研究が必要である」と結論づけています。予備的なモデルとは、大まかに言うと、電磁波が直接DNAを壊すのではなく、電磁波による代謝の変化等がカルシウムイオン放出等につながり、その結果、修理システム(ATM)の邪魔をすることで、DNA損傷が放置されやすくなり、その積み重ねが症状や病気につながるのだと私は理解しました。【網代太郎】

[1]Skin Fibroblasts from Individuals Self-Diagnosed as Electrosensitive Reveal Two Distinct Subsets with Delayed Nucleoshuttling of the ATM Protein in Common
[2]The Nucleoshuttling of the ATM Protein: A Unified Model to Describe the Individual Response
to High- and Low-Dose of Radiation?

[3]]UHF電波、すなわち高周波電磁波への曝露がなくても症状が出るから「高背景」(何もないバックグラウンドで症状の程度が高い)と著者らは呼んでいるものと思われる。しかし、このグループの方々は、何もないのに症状が出ているのではなく、家電やテレビからの低周波磁場に反応して症状が出ている可能性があるのではと筆者(網代)は論文の著者らに尋ねてみたいと思う
[4]上記[3]と同様に、高背景グループの方々は、化学物質等に反応して症状が出ている可能性があるのではと筆者は思う

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