二宮町が携帯基地局条例策定基地局設置前の説明を義務化

 神奈川県二宮町は、携帯電話基地局の設置などに際して、事業者が近隣住民へ事前説明を義務付けることなどを定めた条例を9月12日に公布しました。携帯電話基地局の設置と改造について近隣住民への事前説明を規定した条例は、これまで、同県鎌倉市、宮崎県小林市でも制定されています[1]。知らないうちに自宅などのすぐ近くに基地局の設置工事が始まったという、全国的に頻発しているトラブルを相当程度防ぐ効果が期待できます。

全会一致で可決

 「二宮町携帯電話基地局の設置等に係る紛争の予防と調整に関する条例」は町が提案し、9月6日の本会議で全会一致で可決しました。来年2025年4月1日に施行され、同年5月31日以降に着工する基地局が条例の対象になります。
 この条例の主な内容は、以下の通りです。

  • 事業者は、携帯電話基地局の設置又は改造(以下「設置等」と言う)をしようとするときは、近隣住民に説明を行うとともにその意見を聴き、紛争の防止に努めなければならない。
  • 事業者は、近隣住民から説明会の開催を求められたときは、これに応じるよう努めなければならない。
  • 近隣住民の中に学校等の土地所有者等が含まれるときは、当該施設の管理者の意向を尊重するよう努めなければならない。
  • 事業者は、新たに携帯電話基地局の設置等をしようとするときは、当該工事に着手する日の60日前までに、当該工事の計画書を町長に提出しなければならない。
  • 事業者は、説明会を開催するときには開催予定日の7日前までに近隣住民に対し、その日時及び場所を書面をもって周知する。
  • 事業者は、近隣住民に説明したときは、説明の結果を記載した報告書を規則で定めるところにより、町長に提出しなければならない。
  • 紛争になったとき、自主的な解決に努めても解決に至らないときは、調整を町長に申し出ることができる。
  • 町長は、調整のため必要があるときは、紛争当事者に対し、協議の場への出席を求めて意見若しくは説明を聴き、又は資料の提出を求めることができる。

 近隣住民への説明を義務付けるなど、鎌倉市の条例と共通する内容が多いです。住民側から説明会を求められた場合、鎌倉市条例が開催を義務付けていることに対し、二宮町条例では開催は努力義務となっています。
 二宮町条例による近隣住民の定義は、基地局からの水平距離が基地局の高さ2倍に相当する範囲内の土地所有者等(前頁の図のイ)ですが、マンションなどの建築物に基地局を設置する場合は、基地局からの水平距離が基地局の高さ2倍に相当する範囲内であって、かつ、その建築物の敷地に隣接する土地所有者等(図のア)と規定されています。この定義は、鎌倉市条例と同じです。

昨年の6月議会で陳情採択

 条例の直接のきっかけとなったのは、同町の村上梅司さんら18名が昨年5月に町議会に出した陳情です。村上さんは二宮町内の稼働後の基地局を2基も撤去させた住民運動を率いた方です(会報第144号参照)。二宮町の隣の大磯町に住んでいたときに自宅のすぐ脇に基地局が設置され、娘と自分に健康影響が出た村越史子さん(会報第140号参照)も陳情に加わりました。
 村上さんらが提出した「携帯基地局設置について設置・変更手続き条例の制定を求める陳情」は、「携帯電話基地局から発せられる電磁波による健康被害が報告されています。近隣市町でも、携帯電話基地局が隣地に設置され、居住者がたいへんな思いをされている例や引っ越しを余儀なくされるというケースが生まれています。全国では事業者と居住者のみならず、居住者と携帯電話塔を設置した土地所有者などの間で紛争となるケースも生まれています」「5Gへの切り替えが進むことによって、その特性から健康被害の発生や、近隣住民の心配がさらに拡がることが想定されます。しかしながら、国が定める基準を越えて、電磁波の強さについて自治体独自に規制することができないため、地域住民の安心を保障し、地域での紛争を未然に防ぐために、基地局の新規設置や変更について事業者からの事前説明会開催が必要です」と述べています。その上で、「町内のすべての携帯電話基地局の新規設置や変更にあたっては、事前申請とし、町民から要望があれば、携帯事業者による町民に対する事前の説明会開催を義務づける条例を速やかに制定すること」を求めました。
 陳情は同年6月定例会で審議されました。まず、同月5日の総務建設経済常任委員会で、村上さんと村越さんが陳情の趣旨説明を行いました。それも踏まえて同委員会で審議し、賛成多数で採択すべきと議決。同月13日の本会議でも、賛成多数で採択されました。

陳情に賛成・反対の議員による討論

 ネット上で公開されている議事録によると、このときの本会議では、陳情を不採択にすべきとの意見の議員から、以下の趣旨の発言がありました。

  • 新たな通信網が設置しにくい地域は、サービス提供が遅れるか、通信難地域となり、安全・安心な効率的なデジタル社会から取り残されることにもつながりかねない。
  • 携帯基地局などの設置に対しては、現在でも町職員が個別に対応するとのことであり、条例ではなく、要綱や規定で十分。
  • 行政も事業者もお互い国民の生活向上、福祉の向上のために仕事をしているとの敬意を表し、お互いの立場を尊重した協定をまずは探るべき。

 一方、採択すべきとの意見の議員からは、以下の趣旨の発言がありました。

  • 企業の建設物について周辺住民に説明をすることは、最低限の社会常識。
  • 基地局は普及している施設なので、電磁波の特色を皆がよく知り、折り合いをつけていくことは妥当。
  • 健康被害について、先進諸国の研究機関が発表しており、リスクをしっかり認識した設置方法が研究されるべき。
  • いわゆる過敏症は、健康な人でもある日突然なることがあるため、予防的配慮が非常に重要。住居の近くに建てる場合が増えている状況から、国が追いつかない法整備に対し、自治体が住民の立場で条例をつくることに賛成。
  • 事業者の判断次第で事前に近隣へ十分な説明の義務もなく基地局が設置されていく現状は、町民の安全・安心な暮らしを守るためには変えていかなければならない。
  • 健康被害に対する心配がぬぐえない中では、近くに電磁波の発生源が新たにつくられることを事前に知らされることは住民の権利の1つである。

電波の基準値の見直しを求める陳情も採択

 昨年6月議会に、基地局の事前説明を義務付ける陳情とは別に、村上さんらは「国・県は、携帯基地局からの電磁波の強さ(電力密度)の基準値の見直しを進めること」を求める陳情も同時に出していました。こちらは委員会では反対多数で不採択になったものの、本会議では一転して賛成多数で採択されました。
 昨年、陳情を二つとも採択し、今年、条例を可決した二宮町議会。陳情に賛成した議員らの発言からは、この問題を深く理解してくださっていることが分かります。しかも、陳情に反対した議員らからも「電磁波は安全だと総務省が言っている」というような国任せの発言は見られず、陳情の趣旨はきちんと受け止めていることがうかがわれました。このような二宮町議各位の理解を促したのは、村上さんら町民の皆さんの基地局撤去運動などの取り組みだったことは想像に難くありません。ご自身と家族の苛烈な経験について委員会で話した元大磯町民の村越さんも、町議各位を後押ししたことと思います。【網代太郎】

[1]一定以上の高さがある基地局を対象に、ビルなどと同じ「中高層建築物等」として規制を行う条例は他の自治体でも制定されている(会報第134号参照)。

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