臨床環境医学会の報告

 第33回日本臨床環境医学会学術集会が6月21~22日、都内で開かれました。電磁波に関係するものを中心に、一部の発表をご紹介します。
 今回は2日目に、同学会の「環境過敏症分科会」による「環境過敏症分科会シンポジウム」が行われ、環境過敏症(化学物質過敏症、電磁波過敏症)に関する発表のほとんどが、そこでまとめて行われました。

子どもの香害と過敏症に関する全国調査

 環境過敏症分科会シンポジウムでは11人の方々が登壇しました。
 日本臨床環境医学会環境過敏症分科会と室内環境学会環境過敏症分科会との共同研究として「子どもの『香害』および環境過敏症状に関する全国調査」が行われており、その中間報告を、3人の研究者が分担して行いました。

電磁波過敏症ありは小中学生の3.6%、香害による体調不良は10.1%

 まず、永吉雅人さん(新潟県立看護大学)が、調査の概要と地域別の集計について報告しました。
 調査期間は2024年5月~2027年3月と設定。対象は未就学児(幼稚園・保育園・こども園の園児)、小学生、中学生。園長・学校長の許可が得られた園・学校の保護者へ調査依頼書(電子版)を配布し、調査協力の同意が得られた保護者によって調査票へウェブ回答をしてもらいました。
 これまで、北海道、宮城県、茨城県、東京都、埼玉県、新潟県、山梨県、長野県、兵庫県の9都道県の14万7114名に調査票を配布しました。
 永吉さんは、このうち小学生と中学生の8012名について、都道県ごとに集計しましたが「地域診断はしたくない」とのことで、都道県名は匿名にして発表しました。各都道県の合計では、人工的な香りによる体調不良(香害)があると答えたのは10.1%、化学物質過敏症があると答えたのは19.4%、電磁波過敏症があると答えたのは3.6%でした(この頁の表)。
 香害と化学物質過敏症については、小学校低学年、小学校高学年、中学生と、学年が上がるにつれて割合が上昇しましたが、電磁波過敏症は、小学校高学年が一番高い割合でした。都道県ごとの集計を見ると、香害は、割合が低い都道県と高い所とで3倍ほどの差があり、また、電磁波過敏症は全体として低い数値ですが、やはり3倍ほどの差がありました。永吉さんは、実施地域に偏りがあるので今後も継続していきたい、と述べていました。

子どもの香害被害の半数以上は教育現場で

 明治大学の寺田良一さんは、未就学児についての回答も含めた1万0071名を対象に、教育現場における問題に焦点を当てた分析について報告しました。
 香害の被害があると回答したのは8.3%(未就学児2.1%、小学校低学年6.8%、小学校高学年11.2%、中学生12.9%)。症状が出た場所は「園や学校」が4.4%、「交通機関」が3.2%など。症状は、腹痛、頭痛、筋肉痛、鼻水・鼻づまりなどがありました。香害被害全体の8.3%に対して、園や学校で症状が出るのが4.4%であることは、半分以上の子が園や学校で被害を受けているという意味だと寺田さんは説明しました。そして、教室の中の環境は重要であり、学校などの公の場では、フレグランスフリーや、ケミカルバリアフリーの推進が政策的に必要だと指摘しました。

中学生の約半数が手の届く範囲にスマホを置いて寝る

 東北大学大学院歯学研究科・尚絅学院大学の北條祥子さんも、1万0071名のデータを対象に、症状を引き起こすものなどについて解析しました。
 化学物質過敏症状ありは16.3%で、たばこ、排ガス、柔軟剤、ガソリン、芳香剤に対する症状が多くありました。未就学児から中学までを比べると、年齢が上がるにつれて増加する傾向がありました。
 医薬品に対する過敏症状ありは3.0%で、抗生物質、ワクチン、歯科材料、麻酔薬で症状が出るとの回答が多かったとのことです。年齢が上がると増加する傾向がありました。
 食物に対する過敏症状ありは10.6%で、卵、くるみ、乳製品、食品添加物が多かったとのことです。性別や年齢で、差が見られなかったそうです。
 電磁波の発生源に過敏症状があるのは3.0%で、携帯電話・スマホ、パソコン、テレビ、照明器具が多かったです。男子が女子より多く、小学校高学年までは年齢とともに増えますが、中学生になると減りました。
 平日にスマホを使う時間を尋ねると、年齢とともに増えて、中学生では3時間以上を使う子が多くなっていました。中学生の5%程度は7時間以上使うと回答したとのことです。
 寝る時にスマホをどこに置いているかについて「寝室以外」「寝室の手の届かない範囲」「寝室の手の届く範囲(枕元以外)」「寝室の枕元」「スマホを持っていない」の選択肢を示して尋ねたところ、スマホを持っている子どものうち、「寝室以外」は未就学児~小学生が6~7割、中学生が約4割で、中学生で少なくなっていました。「寝室の枕元」は未就学児~小学校が1割以下でしたが、中学生は約3割。「寝室の手の届く範囲(枕元以外)」も中学生が約2割で、未就学児~小学校より高い割合を示しました。合計すると、中学生の約5割が、寝る時に枕元などの手の届く範囲にスマホを置くと答えました。

小児(15歳以下)の化学物質過敏症

 環境過敏症分科会シンポジウムで、国立病院機構高知病院小児科の小倉英郎さんは、2010年9月から2024年8月までに診療した15歳以下の小児の化学物質過敏症(MCS)発症者40人についてまとめました。MCSは米国立衛生研究所(NIH)主催のアトランタ会議の「1999年合意」に基づいて診断、電磁波過敏症はMCSと類似した症状が電磁波曝露で起きて電磁波を回避すると改善される場合に診断しました。
 高知県在住の患者が多いですが、東京都や鹿児島県などからも受診に来ているそうです。初診時の最少年齢は0歳11カ月で、2例ありました。小児のMCS患者はほとんどの場合、親もMCSであるため、我が子のMCSに気付くようです。成人のMCS発症者は女性が多いことに比べ、小児では男女はほぼ同数であるため、男性は成人になるまでに治る症例があるのか、女性は成人になってから発症する人が多いのか、おそらく後者だと思うが今後の検討課題だと小倉さんは述べました。
 成人のMCS発症者は、MCSの重症度を評価するために国際的に使われている問診票「QEESI(クイージー)」で重症度を調べられますが、小児用のものはないので、小倉さんは日常生活や保育園・学校の対応の違いによって重症度を分類しました。普通学級に行ける子は軽症(12人)、支援学級でマンツーマン対応をして外出時には活性炭マスクが必要というような子は中等症(18人)、支援学級に通学して自宅でも活性炭フィルターの空気清浄機が必要な子は重症(8人)、支援学級もほどんど行けず日常生活に多大な障害があるような子は最重症(2人)とのことです。
 発症の契機となった化学物質曝露でもっとも多いのが衣類の残留香料付き柔軟剤・洗剤で32.5%。この場合に典型的なのは、学校が始まって2、3週間したころ、ある日突然、教室に入れなくなるそうです。今、ほとんどの家庭は香料が強い柔軟剤などを使っているので、子どもたちの衣服からの化学物質に教室で毎日曝露されて発症したと考えられます。それからシックハウス(12.5%)、農薬散布(7.5%)、耐震工事(5.0%)、香料(整髪剤や香水。5.0%)、近隣の新築(5.0%)、教科書・教材のインク(5.0%)が多かったそうです。
 症状は、頭痛が77.5%と最多で、頭痛、下痢は成人にも見られますが小児の方が多いとのことです。成人にはまれな頻尿、遺尿が特徴的とのことです。

電磁波過敏症の合併率は成人より多い

 電磁波過敏症の合併率は35.0%。成人の場合は小倉さんの症例では24.1%で、統計的有意ではないものの、小児のほうが合併率が高いという集計結果でした。
 発達障害の合併率が15.0%で、一般の小児より合併率が高そうに見えますが、MCSの症状が発達障害のように見えることもあるなどと指摘。
 アレルギー疾患の合併が82.5%と極めて高率で、多い順で、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、花粉症。アレルギーとMCSは別の疾患ですが、化学物質曝露がアレルギーを悪化させると従来から言われており、また、アレルギーによる炎症が腸管や皮膚などで起こると化学物質が侵入しやすくなる可能性も否定できない、と小倉さんは指摘しました。
 MCS小児発症者への学校側の対応は、要望中も含めて55%が特別支援学校・特別支援学級による対応となっています。一方、普通学級に在籍していても長期欠席や保健室対応を余儀なくされている子もいるので、特別支援学級による対応を検討していだきたいと、小倉さんは訴えました。

脳脊髄液漏出症患者の電磁波過敏の実態

 環境過敏症分科会シンポジウム以外の発表から、脳脊髄液漏出症(脳脊髄液減少症)患者の電磁波過敏の実態について、2人の方々が発表をご紹介します。

電磁波過敏と地震過敏に密接な関係

 横浜薬科大学の中里直美さんは、2017年以降、この学会で、脳脊髄液漏出症患者の多くが、化学物質過敏や電磁波過敏の症状を訴えていることを、繰り返し発表しています。今年は、「電磁波過敏反応」と「地震過敏反応」の関係に注目しての発表でした。
 中里さんが国際医療福祉大学熱海病院に在籍していた2016年10月~2019年8月に、同病院の薬剤師が院内問診票を作成しました。この院内問診票と、MCSの重症度を評価するために国際的に使われている問診票「QEESI」とを、同じ患者に対して使用したところ、過敏症かどうかを判断するためのスコアがよく相関しているので院内問診票は信頼できる、と中里さんは報告しました。QEESIは質問項目がたいへん多いため、より簡易な院内問診票は患者にとって負担が軽いというメリットがあることも述べました。
 同病院に入院した脳脊髄液漏出症患者271名(女性170名、男性101名)を対象に、院内問診票で調査。電磁波過敏反応重症者と評価された87名(全体の35.7%)のうち、化学物質過敏反応重症者は77名(88.5%)でした。逆に、逆に化学物質過敏反応重症者と評価された127名(全体の50.8%)のうち、電磁波過敏反応重症者は77名(60.6%)。両反応の合併率が高いことが分かりました。
 電磁波過敏反応重症者と、地震過敏反応重症者の症状を比較すると、電磁波過敏反応重症者が地震過敏反応重症者である割合(72.5%)も、地震過敏反応重症者が電磁波過敏反応重症者である割合(75.3%)も、ともに7割を超えていて、電磁波と地震には強い関連があることが示唆されました。
 「地震過敏反応」とは、どういう症状なのかについて、中里さんは以下のように説明しました。「早い人は地震発生の何日か前から、だいたいは半日か2、3時間前から体調が悪くなり、そして(患者によっては“予想通り”)地震が発生し、地震後、しばらくしてから体調が回復することが多い。『地震が予知できる』とか『携帯電話が鳴る前に着信が分かる』と言う患者がよくいますが、これらは決して予知能力ではなく、例えば携帯電話は鳴る前に電磁波が強くなると言われているのでその強い電磁波に反応して症状が出たり、地震発生前の地磁気の変化が体調不良に関連している可能性があることに、中里さんは言及しました。

脳脊髄液漏出症患者の電磁波過敏の一症例

 横浜薬科大学の鈴木高弘さんは、中里さんと同じ、脳脊髄液漏出症患者271名の中から、特徴的な症例の紹介を紹介しました。
 症例は20代女性で、初回入院時には電磁波過敏、化学物質過敏反応は示しませんでした。数カ月後、再び脳脊髄液が漏れて入院。退院の約3カ月後に電磁波過敏が、さらに2カ月後に化学物質過敏反応が現れました。突如として症状が出ましたが、化学物質曝露は特にありませんでした。脳脊髄液漏出症患者には過敏反応が現れやすいことを本人に前もって知らせていたため、症状の出現は防げなかったものの、未知の疾患にかかったというパニックは防げたと、鈴木さんは述べました。
 この患者が書いたコメントとして「テレビなど家電でイライラする」「パソコンが集まっている部屋では、頭痛や体に鉛が乗っているようで立っていられない」「テレビで頭が痛くなる」「パソコンでめまいがする」「MRI検査時に腕から肩にかけて激しいしびれ」「MRIの後、数日全身痛で動けなかった」「IHヒーターはとても使えない」「自分が地震探知機だと思ったのは、この病気になってから」「電磁波過敏は、脳脊髄液漏出症の発症後から」「食べられない食品がどんどん増えていく」などを紹介しました。

電気機器の近くで身体電圧が上昇

 鈴木さんはまた、EHS問診票で基準値を超過した電磁波過敏症発症者20名のうち、95%が「強い静電気反応がある」と回答していることに着目。電化製品による帯電を調べるため、健常な成人1人に対して、身体電圧測定器で測定した結果について報告しました。パソコン部屋の外では0.55Vでしたが、無線LANを使ったパソコンの前に座ると6Vに、パソコン操作を開始すると7.3Vから次第に13.1Vまで上昇しました。アースをすると、座った状態で0.17V、操作すると0.55Vでした。冷蔵庫の近くや、電気器具に囲まれた場所でも、上昇したとのことです。鈴木さんは、こうした身体電圧の上昇が患者の体調悪化などの一因になっているかもしれないと述べました。【網代太郎】

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