2007年4月3日
総務大臣様
生体電磁環境研究推進委員会御中
電磁波間題市民研究会
代表 野 村 修 身
第24回生体電磁環境推進委員会最終会合における報告への批判
2007年3月26日、総務省は「生体電磁環境推進委員会最終会合における報告について」と題する「報道資料」を発表しました。これは当日開催された「第24回生体電磁環境研究推進委員会(最終会合)」(委員長:上野照剛九州大学特任教授)の委員会報告の要旨提出を受けて発表されたものです。
その報告要旨は電磁波問題に関わっている市民団体として看過できない内容のものですので、私たちは別紙のような批判書を抗議の意志も含めて貴省および生体電磁環境研究推進委員会全メンバーに対し提出いたします。
1「現行電波防護指針値」は子供への影響に関しても妥当としている点
総務省管轄の電波防護指針値は電磁波の「熱作用」を根拠にしたものです。しかし、近年研究が進むにつれて、熱作用を起こすレベルよりはるかに低い電磁波レベルで様々な生体への影響が出ることが明らかになってきています。また、子供は大人より細胞やDNAが傷つきやすく感受性が強い(more sensitive)こともいろんな研究で明らかになってきています。英国のスチュワート委員会(携帯電話問題独立専門家委員会)が出した「16歳未満の携帯電話使用抑制勧告」もそうした研究結果を尊重したからに他なりません。こうした最近の研究成果(非熱作用影響)を現行電波防護指針値が反映していないことは明白です。それなのに「(電波防護指針値は)子供を含むあらゆる人々を対象としており、指針値は妥当である」としているのは、誠意ある態度とは言えません。
2「長期間電波ばく露で脳腫瘍発生に及ぼす影響は認められない」としている点
今年2月21日、「インターフォン研究」(国際共同症例対照研究)の一環として行った生体電磁環境研究推進委員会による研究結果が発表されましたが、その内容は「携帯電話使用と聴神経鞘腫(脳腫瘍の1種)との間に有意な関連性は認められない」というものでした。しかしいま諸外国で問題になっている10年以上の長期間携帯電話使用者のリスクについては「我が国では、10年以上の定常使用は非常に稀で1症例(1.0%)及び8対照(2.4%)のみでした」とそのサンプル数の少なさを正直に述べています。たしかにその稀な数においては「有意な増加傾向は認められませんでした」が、こんなわずか1症例でもって、とても「長期間電波ばく露で脳腫瘍発生に及ぼす影響は認められない」と宣言できるはずがありません。むしろこれまで発表された各国のインターフォン研究では「10年以上の長期間使用で脳腫瘍リスクが高まる」とする研究結果が優勢であることが明らかになっています。それからしても「長期間で影響認められない」という見解発表は尚早すぎます。
3 電磁波過敏症で「間違った情報の氾濫を防ぐ周知広報の強化」としている点
電磁波過敏症に対するWHOの見解は「電磁波過敏症(EHS)は症状は確かに存在しているので認知するが、EHSの症状が電磁界曝露と関連するような科学的根拠はない」というものです。総務省が共催となっている「電波の安全性に関する講演会」(2007年2月6日・東京グリーンパレス)で宮越順二弘前大学教授も「電磁波過敏症としてWHOは認知している(科学的根拠はないが)」と語っています。それなのにこの報告要旨では「WHOの見解では、電磁波過敏症の症状が電磁界ばく露と関連するような科学的根拠はない」として、意図的に「WHOがEHSを認知した」事実に触れず、「間違った情報の氾濫を防ぐための周知広報の強化」につなげています。これは不適切な表現というより、悪意すら感じる姿勢です。また生体電磁環境研究推進委員会メンバーに一人も電磁波過敏症を診察した医師もいないのにこのような判断しているのは不遜です。
4 予防原則に現行電波防護指針は対応していない点
予防原則とは「たとえそのリスクの科学的証明が不十分であっても、防護対策を施すべきだ」という「転ばぬ先の杖」的な積極的な姿勢を必要とする考えです。電磁波で言えばオーストリアのザルツブルグ市のような日本の電波防護基準よりはるかに厳しい基準を求める考えです。よくも「現状の電波防護指針は予防的措置として十分妥当である」などと言えたものです。現行電波防護指針はとても予防的措置といえる中身ではありません。
5 リスクコミュニケーションの欠落の点
リスクコミュニケーションについて、報告要旨は「総務省主催で、行政及び専門家から国民や事業者に向けた講演会を実施してきたところである」と述べています。ところが「3」の項でも言及した2007年2月6日の「電波の安全性に関する講演会」は約190名が参加しましたが、そのうち「一般市民の参加は数名程度」(当日受付の係の説明)でしかありませんでした。ほとんどが背広族でした。それは講演会の開催を一般新聞で広く告知せず、業界新聞や行政担当者中心にしか告知していないための当然の結果です。しかも開場からの質疑時間は10分程度しかなく、とても開かれたリスクコミュニケーションの場ではありませんでした。本来のリスクコミュニケーションは「送電線や配電線や変電所あるいは携帯電話中継基地局の設置計画を事前に周辺住民に周知し、戦略アセスメントを導入し、利害関係者を広く参画させ計画を進めていく」ような方法で実現します。
6 独立専門家委員会を設置し、国民の知る権利に答え、真の予防原則に立った新しい電磁波防護基準設定の検討こそ急務だ
これまでの生体電磁環境推研究推進委員会のメンバーは行政や事業者の方を向いている人で固められています。そうではなくて英国の独立専門家委員会のように「企業寄りの研究に従事していない」行政からも企業からも独立したメンバーによる専門家委員会に衣替えすべきです。そうでないと国民・市民の信頼は勝ち得ません。