5Gなど新たな電波利用に対応 電波防護指針改定作業始まる

 第5世代通信システム(5G)をはじめとした、新たな電波利用の進展に対応するための、電波防護指針の改定へ向けた動きが進んでいます。電波防護指針は、日本における電磁波の法規制の根拠になっているものです。もともと放送・通信用の高周波電磁波(電波)が電波防護指針の対象でしたが、電波利用の進展により、より高い周波数(超高周波)や、低周波と高周波の間の周波数(中間周波数)についても対応する必要が出てきています。
 総務省の生体電磁環境に関する検討会 先進的な無線システムに関するワーキンググループが今年、報告書「先進的な無線システムに関する電波防護について」をまとめました(会報前号でもご紹介しました)。
 同報告書は「第1章 先進的な無線システム等の新たな電波利用動向」の中で、新たな電波利用の「最新動向」として、具体的に以下を列挙しています。

○ワイヤレス電力伝送(WPT)=充電器からモノへ無線で電力を送る技術
 ・電気自動車用 79~90kHz
 ・スマホ,タブレット等用
  6.765~6.795MHz
 ・ノートPC等用 425~524kHz
○第5世代通信システム(5G)=次世代携帯電話など
 3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯
○60GHz帯無線システム=超高速無線LANであるWiGig(ワイギグ)など
○車載レーダ=自動運転用など
 22~81GHz

 そして同報告書は「第4章 新たな電波利用に向けた防護指針」の中で、上記の新たな電波利用に対応した電波防護指針の在り方として、6GHzより高い周波数についての基準策定を、主な課題の一つに挙げています。
 日本の電波の規制値として、比較的知られているのは「200~1000μW/c㎡」(周波数により異なる)です。これは電磁界強度指針と呼ばれ、主に携帯電話基地局や放送局などに適用されます。電磁界強度指針の単位(μW/c㎡など)は、電力密度の単位です。
 この他に、電波放射源から人体までの距離が近い(10~20cm以内。周波数によって異なる)場合は、局所吸収指針が適用されています。主に携帯電話、スマホなど向けの指針値で、全身平均SARが0.08W/kg、局所SARが任意の組織10g当たり2W/kg(四肢は4W/kg)などと定められています。局所吸収指針の単位(W/kg)は、SAR値(人体が電波にさらされることによって単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量)の単位です。
 局所吸収指針は現在、6GHz未満までの電波についてしか決められていません。なので、28GHz帯の電波を発信する5G携帯電話や、60GHzの無線LANを使えるスマホになどの場合に適用べき「6GHzから300GHzまでの周波数において、電波放射限より10cm未満における指針値」は「ない」と同報告書は指摘しています。
 同報告書はまた、電波防護についての海外の主要機関である、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)や、米国電気電子学会(IEEE)などは、3~10GHz以上の高い周波数の電波は体内へ深く浸透せず皮膚付近で吸収されるため、日本のようなSAR値ではなく入射電力密度で規制していることを指摘。そして、現在進められているICNIRP国際指針値の改定作業に合わせて、日本の電波防護指針を改定することが望ましい、としています。
 同報告書はまた、現在検討されているICNIRP国際指針値の改定版では、パルス波による非熱的影響や、聴覚効果を考慮していないとして「電波防護指針でも同様の対応が望ましい」と述べています。
「高周波領域」指針値の検討開始
 同報告書を受ける形で、総務省の情報通信審議会 情報通信技術分科会 電波利用環境委員会 電波防護指針の在り方に関する検討作業班は、2月20日に約3年半ぶりとなる会議(第7回)を開き、「高周波領域における電波防護指針の在り方」についての検討を開始しました。
 第7回会議の配布資料によると、ICNIRPは高周波指針値の改定案を今年6月以降に公表する予定です。ICNIRP案公表を受けて、同作業班は電波防護指針の改定案を作成。上の委員会に報告し、今年夏ごろからのパブリックコメント募集を経て、今年秋ごろに情報通信審議会へ電波防護指針改定について一部答申するというスケジュールになっています(図1)。

図1 電波防護指針の在り方に関する検討作業班の「スケジュール(予定)」(第7回配布資料より)

 会報前号でも指摘しましたが、60GHzの無線LANであるWiGigの電波を放射するスマホなど(実際にはWiGig搭載スマホはまだ発売されていません)を体のすぐ近くで使うと計算上、現在の電磁界強度指針(電力密度)の77倍にもなってしまいます(図2)。作業班は、電波の利用の推進を所掌事務とする総務省に置かれていますから、人の健康を優先して電波を規制する方向ではなく、反対に、新たな電波利用に支障が出ないことを主眼とした指針を策定することは目に見えています。非熱効果を考慮した予防原則の考えを取り入れていない(人の健康を守れない懸念がある)現行の緩い電波防護指針は、改定によって、ますます緩くなるのでしょう。

図2 総務省電波環境課「生体電磁環境に関する検討会先進的な無線システムに関するWG ワーキンググループの検討事項及び進め方について」2016年9月15日

 なお、同作業班のメンバーの中には、ICNIRPのメンバーが複数います(表参照)。総務省(国)とICNIRPが足並みを合わせながら指針値を改定していくのでしょう。【網代太郎】


(表)情報通信審議会 情報通信技術分科会 電波利用環境委員会
電波防護指針の在り方に関する検討作業班 構成員
 牛山 明 厚生労働省 国立保健医療科学院 生活環境研究部 上席主任研究官
 上村 佳嗣 宇都宮大学大学院 工学研究科情報システム科学専攻 教授
○小島 正美 金沢医科大学 総合医学研究所 プロジェクト研究センター 環境原性視覚病態部門教授
 佐々木謙介 国立研究開発法人情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁環境研究室 研究員
 寺尾 安生 杏林大学 医学部 生理系専攻 教授
 西方 敦博 東京工業大学 工学院 准教授
 日景 隆 北海道大学大学院 情報科学研究科助教
○(主任)平田 晃正 名古屋工業大学大学院 電気・機械工学専攻教授
 増田 悦子 公益社団法人全国消費生活相談員協会 理事長
 宮越 順二 京都大学 生存圏研究所 生存圏開発創成研究系 特任教授
 森松 嘉孝 久留米大学 医学部 環境医学講座 准教授
○渡邊 聡一 国立研究開発法人情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁環境研究室 研究マネージャー
△(オブザーバ)多氣 昌生 首都大学東京大学院 理工学研究科 教授
○はICNIRPのメンバー △は元メンバー(ICNIRPのウェブサイトなどから筆者作成)


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