電磁波の生物学的影響についての30年間以上の論文 超低周波・静電磁場の87%、高周波の79%が「影響あり」

 ワシントン大学名誉教授のHenry Lai(ヘンリー・ライ)博士は、1990年から2024年1月までの34年余に発表された、電磁波曝露による生物学的影響に関する研究論文をまとめました。ライ博士によるまとめについては、会報第126号でも紹介しており、その更新版となります。電磁波問題について情報発信しているウェブサイト「Electromagnetic Radiation Safety」を主宰しているJoel M. Moskowitz(ジョエル・M・モスコウィッツ)博士による解説をご紹介します。原文はhttps://www.saferemr.com/2018/02/effects-of-exposure-to-electromagnetic.html。なお、一般的に生物学的影響があることは、ただちにヒトへの健康影響があることを意味しません。しかし、生物学的影響が多数報告されているのであれば、当然、ヒトへの影響を真剣に検討する必要があります。【訳・網代太郎】

ライ博士=ワシントン大のサイトより

1990年から2024年1月までに発表された査読付き研究の大部分は、無線周波数放射線(高周波電磁波、RFR)、超低周波(ELF)、および静電磁場(EMF)への曝露による有意な悪影響を発見している

 ワシントン大学名誉教授であり、Electromagnetic Biology and Medicine誌の名誉編集者であり、電磁界の生物学的影響に関する国際委員会の名誉委員であるヘンリー・ライ博士は、高周波電磁波、超低周波電磁波および靜電磁場への曝露による生物学的影響に関する研究の要約をまとめた。1990年から2024年1月までの期間をカバーする彼の要約集は、査読付き研究の包括的なコレクションとなっている。
 ライ博士の報告によれば、高周波や超低周波への曝露が酸化作用やフリーラジカルを発生させ、DNAを損傷することを示した研究が圧倒的に多い。さらに、遺伝的、神経学的、生殖学的な結果を調査した研究の大部分は、有意な影響を認めている。高周波に関する1500以上の研究の79%、超低周波および静電磁場に関する900以上の研究の87%が、有意な影響を報告している。このコレクションには約2500件の研究が含まれている。これらの研究の要約は、以下のリンクをクリックしてダウンロードすることができる。
 2011年、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、高周波放射線を「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」(グループ2B)と分類した。IARCは、過去10年間に発表された専門家による研究のほとんどが、高周波が遺伝毒性を引き起こすという有意な証拠を発見したため、2024年までに高周波について再検討する予定であったが、この再検討は延期された。IARCは、利益相反のない電磁波の専門家を招集すれば、高周波を「ヒトに対しておそらく発がん性がある」(グループ2A)または「ヒトに対して発がん性がある」(グループ1)に分類し直す可能性が大きい。携帯電話やその他の無線機器は、静電磁場や極低周波電磁波も発生させる。超低周波は、高周波が2Bへの分類を受ける10年前に、IARCによって「ヒトに対して発がん性がある可能性がある」(グループ2B)に分類されている。

結果の概要(2024年1月)

高周波電磁波(RFR)
 1997年以降に発表された354件の高周波による酸化影響(またはフリーラジカル)研究のうち89%(n=316)が有意な影響を報告している。なかでも、SAR(比吸収率)が0.40W/kg以下の研究86件のうち95%(n=82)が有意な影響を報告した。0.40W/kgは、米国連邦通信委員会(FCC)と国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が高周波曝露規制の根拠としている有害性の閾値4.0W/kgの10分の1である。
 1990年以降に発表された高周波による遺伝的影響に関する研究466件のうち70%(n=328)が、有意な影響を報告している。遺伝的影響に関する研究のうち、遺伝子発現に関する研究144件については79%(n=113)が有意な影響を報告している。
 2007年以降に発表された高周波についての神経学的研究435件のうち77%(n=333)が有意な影響を報告している。
 1990年以降に発表された高周波による生殖・発育に関する研究335件のうち83%(n=280)が有意な影響を報告している。有意な影響を報告した研究のうち、56の研究ではSARが0.40W/kg以下の曝露が用いられ、37の研究ではSARが0.08W/kg以下であった。

超低周波(ELF)と静電磁場
 1990年以降に発表された316件の超低周波/静電磁場の酸化的影響(またはフリーラジカル)研究のうち91%(n=286)が有意な影響を報告している。
 1990年以降に発表された344件の超低周波/静電磁場の遺伝的影響に関する研究のうち84%(n=288)が有意な影響を報告している。遺伝的影響に関する研究の中には遺伝子発現に関する研究177件があり、その95%(n=168)が有意な影響を報告している。。
 2007年以降に発表された超低周波/静電磁場による神経学的研究345件のうち91%(n=315)が有意な影響を報告している。
 1990年以降に発表された87件の超低周波/静電磁場による生殖・発育に関する研究の75%(n=65)が有意な影響を報告している。

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