網代太郎(電磁波研会報編集長)
健康影響の懸念から5Gの展開を一時停止していたベルギーのブリュッセル首都圏地域政府が5Gを開始したことを会報第145号でお伝えしました。5Gのために電磁波の規制値も緩和しましたが、ICNIRPの国際指針値よりは厳しいままであり、5Gを無警戒に推進している日本とは事情が異なります。そして、ブリュッセルと同様に厳しい電磁波規制値を採用し、5G基地局の使用停止が報じられたスイス(会報第123号参照)でも、現在では5Gが展開されていますが、電磁波による体調不良に対応する医療ネットワークを構築するなどの施策を5G開始とセットで行いました。スイスは5Gを展開してはいますが、電磁波による健康影響の可能性を一顧だにしない日本との違いは、やはり歴然としています。
スイスは、5G電波による影響を調査する必要があるとして5G基地局を使用停止していましたが、スイス連邦議会は、市民や複数の州政府の反対にもかかわらず、5Gネットワークの拡大を進めることを決定[1]。5Gの健康への影響を評価した「モバイル通信と放射線」作業部会の報告書が、電磁波の規制値を下回る電波による健康への影響は一貫して証明されていない、という見解を示したことが、その理由でした。
スイスの携帯最大手のスイスコムは、5Gの人口カバー率が99%であることや、他社よりすぐれた5Gの品質で数々の受賞をしていることを、自社のウェブサイトで誇っています。[2]
電磁波過敏症の専門医を案内
連邦議会は5G推進の決定とセットで、電磁波被曝による健康影響を監視する技術のさらなる向上、携帯電磁波に関する国民への情報提供の改善など、報告書で提案された六つの対策を実施することも決めました。その一環として、スイス連邦環境局は、電磁波過敏症など電磁波による症状に苦しむ患者に対応する新しい医療相談サービス「MedNIS」を開始しました[3]。スイスでは国民の約5~10%が電磁波過敏を訴えているそうです。
MedNISのウェブサイト[4]を見てみました(機械翻訳DeepLで読みました)。電磁波過敏症については「現在の知見では、低強度電磁場への曝露と電磁波過敏症の症状との因果関係は証明も反証もできない。研究はまだ進行中である。しかし、電磁波過敏症と自称する人々が経験する症状は現実のものであり、日常生活に悪影響を及ぼすことが多い」と書かれています。そして「電磁場に関連した症状がある場合、どうすればよいですか?」という質問に対しては、以下のように具体的なアドバイスも書いてあります。
使用していない電化製品やコードのスイッチを切り、プラグを抜くこと。発生源から離れること。安らかで規則正しい睡眠をとる。日常生活に休息とリラクゼーションのための十分な時間を確保する(呼吸法、瞑想、ヨガ、マッサージ、自然の中での散歩など)。繊維質と抗酸化物質が豊富で健康的かつバランスのとれた食事をとり、炎症を促進する食品を制限する。日常生活に定期的な運動を取り入れる。
さらに専門医の受診の仕方も案内されています。まず、かかりつけ医に相談して他の疾患である可能性を除外したうえで、MedNISの専門医を紹介してもらいます。MedNISのウェブサイトには現在、7名の医師の名前が掲載されています。
この仕組みが、過敏症の当事者の方々などからどう評価されているかについては、今のところ情報が得られていません。
ミリ波は当面使わない
なお、スイス連邦理事会は、ミリ波帯電波の5Gへの割り当てを当面見送ることを表明しました。携帯電話に対する需要と、電磁波の健康や環境への影響に対する国民の懸念のバランスをとることが目的だと報じられています[5]。
[1]telecompaper「Swiss Federal Council to proceed with 5G expansion despite concerns」2020年4月24日
[2]https://www.swisscom.ch/de/about/netz/5g.html
[3]telecompaper「Switzerland launches medical consultation service on non-ionizing radiation」2023年9月13日
[4]https://www.mednis.ch/de/elektromagnetische-felder-und-gesundheit
[5]telecompaper「Swiss Federal Council rules out mmWave allocation in near term」2023年11月22日