大磯町で携帯電話基地局条例制定を目指す勉強会

 2025年1月19日(日)、神奈川県大磯町にある大磯町立図書館大会議室で「携帯電話基地局からあなたの健康を守る 条例制定を目指す勉強会」が開催された。この会は長く大磯町などで活動を続けている「携帯電話基地局問題大磯の会」の村越史子さんらが開催したものです。
 村越さんはこれまでも会報でも紹介してきましたが、大磯町に移り住んだ後の2021年に自宅のすぐ前に携帯電話基地局が設置されました。基地局が稼働すると家族が体調不良を訴え始め、頭痛、吐き気、めまいなどがひどくなり、村越さん自身も体調が悪くなり、命の危険を感じ自宅を売却し、転居を余儀なくされました。
 このことをきっかけに、知らないうちに携帯電話基地局が突然立てられたり、基地局が改造されたりして健康被害を受けないないように、携帯電話基地局が設置される前に周辺住民に説明会を義務付ける条例を制定することを目指すための活動を続けています。
 この会は大磯町の住む人をはじめ、多くの人に携帯電話基地局の影響や条例制定の大切さを訴えるために開催したもので、携帯電話基地局の問題などに関心がある人が大磯町立図書館に続々と訪れ、会場いっぱいの50名を超える人が集まりました。
 はじめに村越さんから、大磯町でなぜ条例制定を目指すのかについて、家族が今まで体験してことや、心からのお願いなどのお話がありました。
 村越さんは携帯電話の使用に反対しているわけではありません。なくてはならないインフラであるとしつつ、知らない間に近くに基地局が立つことがないようにしてほしいと話し、携帯電話基地局設置に関する説明会があれば、皆さんお一人ひとりが「予防原則」に基づき自分と家族を守るために考えて行動する機会が与えられますと強く訴えました。

住民の陳情から条例が制定された二宮町の経緯

 続いて、すでに2024年9月に条例ができた神奈川県二宮町から小笠原陶子町会議員が条例制定までの経緯について紹介しました。
 二宮町の場合は、2022年の春に健康への影響を心配する楽天モバイルの基地局の近隣に住むMさんが小笠原町議に相談し、Mさんら18名が5月に町議会に出した陳情に始まります。
 細かな経緯は会報第150号(2024.9.29発行)を参照いただければと思いますが、Mさんをはじめ、町民の皆さんの熱心な基地局の撤去運動などの取り組みと、ご自身の過酷な経験を委員会で話した村越さんの声が、二宮町議による条例制定の後押しをしたことは間違いありません。
 小笠原町議によると、条例が制定後、携帯電話基地局の新設、更新については申し入れはないそうです。また今後の課題として「条例上、近隣の範囲を施設の高さの2倍としているが、実際には地区全体を対象とするなどが必要」や「『条例があることで町のデジタル化が遅れる』という言説への反論」などとしました。

いち早く条例を制定した鎌倉市の経緯

 続いて二宮町よりも先に条例を制定した神奈川県鎌倉市の保坂令子市議会議員から鎌倉市条例についての説明がありました。
 地域政党「神奈川ネットワーク運動・鎌倉」が2022年10月に鎌倉市内の各所を簡易測定器で計測した結果や、そこから考えられる課題などについての話に始まり、電磁波の数値や影響などについての解説がありました。
 鎌倉市の条例に関しては、条例の基本的な性格について話し、それは以下の通りです。
 1,市民と事業者との携帯電話基地局の設置をめぐる紛争を未然防止することを目的にした手続きの条例であり、「鎌倉市携帯電話等中継基地局の設置等に関する条例」と「鎌倉市建築等に係る紛争の予防及び調整に関する条例」はセットであるとのことです。
 2,携帯電話基地局に特化し、対象とする基地局の高さ要件を付していない点でも先進的な条例であるとしています。事業者が市に提出する「設置等計画書」「説明実施報告書」などは行政文書として情報公開請求の対象ですが、基地局設置場所で町や村の一区画の名で位置を細かく指定する「字」以下は開示されないとのことです。例えば「鎌倉市▓▓▓▓▓」となってしまうとのことです。ただ、その地に不案内な人にはわかりませんが、周辺住民は場所が特定できる可能性もあります。
 3,鎌倉市の条例は制定を求める陳情が議会で採択されつくられたものであることも重要なポイントです。陳情者は「予防原則に基づき、住民の健康に影響が及ぶことを未然に防ぐ」ことを条例の目的に入れるよう求めましたが、この原意は反映されませんでした。かろうじて条例第4条2(条例施行規則第2条)で、学校、児童福祉施設などへの配慮が規定されたとのことです。
 4,基地局は携帯電話会社が多くの場合、民間の土地や建物に設置するものなので、鎌倉市に基地局設置を認めない権限を持たせたり、近接住民等の合意がなければ基地局設置ができないようにする規定を条例に設けることはできないとのことです。
 5,少なくとも「知らないうちに近所に携帯電話基地局が立ってしまった」とならないようにする条例として機能させることができるし、そうしなくてはならないと保坂市議は力説しました。
鎌倉市の条例の課題と今後について
 鎌倉市基地局条例の運用面での課題について、事業者と近接住民等への周知が不十分だとしています。
 事業者は計画の概要を説明、周知し理解を得られるよう努めなければならないが、実際には資料をポスティングだけで済ましているケースも多く見られるようです。
 また「近接住民等の理解を得る」では、事業者と住民の解釈の違いみられることもあるそうです。
 条例策定時に「計画周知を事業者に義務付ける範囲の設定」に関して、基地局の地上からの高さの水平方向2倍の範囲では周知が限定的であるため、近接住民に限らず町内会住民が参加すれば計画の周知の範囲が広がると考え、「町内会長が説明会の開催を要請する」という項目を入れました。
 ところが、町内会長の要請による説明会の開催がほとんどない一方、基地局設置が計画される周辺の住民からの条例に基づかいない説明会は地域により開催されている事実があります。そこで、2024年2月の議会で条例および施行規則の一部改正が実現し、地縁団体(町内会長)の求めによる説明会を開催しない場合でも、近接住民からの要請があれば事業者は説明会を開催することになりました。
 それでも条例に基づく説明会の開催は減っているそうです。
 保坂市議はまとめとして、基地局設置を制限したり、住民の同意を得ることを事業者に義務付けたりする条例は困難だと話します。鎌倉市の条例のように紛争防止を掲げた条例であっても「住民が知らないうちに近所の携帯電話基地局が立ってしまわないようにする条例」として運用していく必要があると強調。
 何より説明会の開催が重要で、説明会が開催されるよう携帯電話基地局についての住民の関心喚起をはかっていくことが大事などと、これまでの経緯や課題について詳細にお話されました。

藤沢市でも条例制定の機運を高めていきたい

 報告会の最後として、条例制定に向けて動いている神奈川県藤沢市の状況について、当日参加予定であった藤沢市議の谷津えみ市議会議員に変わり、佐藤善さんからの報告がありました。
 佐藤さんは2021年12月に隣地に楽天モバイルの携帯電話基地局が立っていることに気づき、説明会を求めたが「説明会はしない」と回答した上に、署名を添えて「説明会を求める要望書」を郵送したところ、威圧的な大声で脅迫とも言える対応されたことなど、つらい経験を乗り越え藤沢市で活動をしている藤沢市民運動団体「電波塔を考える会・羽鳥」を主宰している人です。
 報告ではこれまでの経緯や谷津市議らとの活動や勉強会についてのお話がありました。
 最後に質疑応答と意見交換会あり、その中で大磯町在住の男性は「ここは小さな町だから、団結すれば一定期間携帯電話基地局を建てるの防ぐことができるはず」との意見を話しました。
 また、千葉県印西市から、携帯電話基地局に対する会があることを知り、車で3時間かけて話を聞きに来たという女性は「今度転居予定の家の真ん前に携帯電話基地局があり、私には小さな子どもがいます。携帯電話基地局を撤去してもらうにはどうすればいいのか」と助けを求めるようにお話されていました。
 携帯電話基地局問題は知らないうちにある日突然立ってしまって、大変な状況になるということが各地で起きています。
 村越さんは会のはじめに「(携帯電話基地局問題は)一部の人にしか起こらないことだと思われているかもしれませんが、国が携帯電話基地局からの電磁波は安全という限りは、基地局問題はどなたにも起こる可能性がある問題です」と話されました。
 さらに「私たちには周辺環境について知る権利があり、安全に暮らす権利があるのです」と続けました。まさにその通りです。
 当日はほとんどの町会議員がこの会に参加し、池田東一郎町長も遅れて来場しました。
 この会に参加して熱心にお話を聞く方々を見て、この輪が少しずつ大ききなり、行政や国を動かしていければと感じました。同時にその輪は少しずつ大きくなっています。条例ができたり、条例策定への動きがあるのはその証です。
 この国では「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有している」はずなのです。【鮎川哲也】

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