楽天、ほぼすべての5G基地局からミリ波 携帯4社中最多の設置

 第5世代移動通信システム(5G)の中で、普及が進まない「ミリ波」(28GHz帯)をどうすればビジネスなどに活用できるかについての総務省の会議[1]が2月21日に行われ、楽天モバイルは、他社の2倍以上のミリ波基地局を設置していることをアピールしました(図1)。Sub6(サブシックス=6GHz以下という意味。現在使われているのは4GHz前後)と呼ばれる5G専用電波よりも周波数が高いミリ波電波は、さらに高速に通信できる一方、電波が届く距離が短く障害物に弱い難点があります。また、これまで生活環境になかった周波数帯なので、健康影響が特に心配されています[2]。楽天は、ほぼすべての5Gの基地局にミリ波アンテナを設置しているとみられ、楽天基地局に対しては特別な警戒が必要です。

図1 総務省会議[1]への楽天提出資料より

 図1によると、楽天のSub6基地局は4,948、ミリ波は4,680と、ほぼ同数です。つまり、ほぼすべての5G基地局から、Sub6とミリ波の両方の電波が出ていることがうかがわれます。
 このことは、楽天がネットで公開している5Gのエリアマップからも分かります。図2のうち上のマップは楽天、下はドコモです。色分けの仕方が両社で異なっています。5GのSub6のエリアは、楽天は水色のところ、ドコモはピンクのところです。ミリ波のエリアは、楽天が青いところ、ドコモは「m」と表示された緑色のピンが立っているところです。

図2 楽天(上)と、ドコモ(下)のの5Gエリアマップ。東京都西東京市、東久留米市付近

楽天は住宅地にもミリ波
 ドコモは、Sub6(ピンクのところ)が面的に広がり、ミリ波(mマークの緑色のピン)は、駅前などに限られています。電波が比較的届きやすいSub6で5Gエリアの広さを確保し、最高速であってもカバーエリアが狭いミリ波は、特に通信量が多い場所にスポット的に設置していることが分かります。一方、楽天は、ほぼすべての水色のSub6エリアの中心に、青いミリ波エリアがあり、ほぼすべての5G基地局からSub6とミリ波の両方が出ている様子が見て取れます。通信量が多い駅前などに限らず、住宅地であっても、設置できる場所にはミリ波を設置しておくというのが楽天の方針のようです。
 図2は東京都西東京市、東久留米市周辺ですが、各社の5G展開の特徴が分かりやすそうな鉄道がある郊外住宅地として、たまたま選んだだけで、他意はありません。ネットでエリアマップをご確認いただければ、多くの場所で似たような傾向が確認できると思います。
 神奈川県大磯町で自宅のすぐ脇に4G楽天基地局が設置されて娘が体調を崩し、5G増設後に本人や近所の方も体調不良となった事例を会報前号で紹介しました。ご本人にお願いして楽天に確認してもらったところ、やはり、この基地局からもミリ波が出ていました。

ミリ波は使われないと分かっていながら設置
 楽天は、総務省の会議[1]へ提出した資料の中で、「4社全体のトラヒック(通信量)の中でミリ波はわずか0.01%」「(ミリ波は)ほぼ使われず、その需要も都市部にのみ集中」と、ミリ波利用の現状を指摘しています。つまり、住宅地にミリ波を設置する意味はない(設置しても使われない)ことを、楽天自身が十分に認識しながら設置しているわけです。ミリ波を被曝させられている周辺住民は、たまったものではありません。
 総務省は2019年に4社へ5G電波を割り当てた際、ミリ波、Sub6とも基地局を全国均等に設置していくことを条件にしました。しかし、安全性やニーズに応じた見直しは当然必要です。

使いずらいミリ波、韓国では電波割当取消も
 届く距離が短く障害物に弱いミリ波は、携帯電話用としては扱いにくい電波であり、世界的にもあまり普及していません。ミリ波電波が事業者に割り当てられているのは、2022年で18カ国・地域に過ぎません[3]。
 韓国ではミリ波の基地局の設置が進まず、国の当局が昨年11月、設置目標を達成できていない2社への電波割当を取り消しました。取り消した周波数帯について、国は新規参入を認める方針ですが、「既存モバイルキャリアでさえ扱いが難しかった28GHz帯での本格参入を希望する事業者が果たして出てくるのか、現時点では不透明な状況」[4]との解説があります。
 総務省は2025年度末までに5G用としてミリ波の40GHz帯、26GHz帯を新たに割り当てる予定だそうです。さらに6Gでは、ミリ波よりも周波数が高いテラヘルツ波を利用すると言われていますが、さらに扱いが難しそうです。これらの電波が携帯電話用に普及するのか、筆者は懐疑的です。【網代太郎】

[1]総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会5Gビジネスデザインワーキンググループ(第3回)」
[2]たとえば、欧州議会の「科学と技術の将来についての専門家委員会」が、高い周波数の電磁波(24~100GHz)の非熱作用については十分な研究が実施されていないと評価した(会報第132号)など
[3]総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会5Gビジネスデザインワーキンググループ(第2回)」エリクソン・ジャパン株式会社提出資料(2023年2月7日)
[4]マルチメディア振興センター「【韓国】LG U+とKT、28GHz帯割当取り消し処分決定」2022年12月5日

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