国交大臣によるリニア新幹線 着工認可を糾弾する

 10月17日、太田明宏国土交通大臣はJR東海(東海旅客鉄道株式会社)が提出した「リニア中央新幹線工事実施計画」を認め、工事に着手する認可を与えました。
 リニア中央新幹線については、すでに各方面から様々な疑問、懸念、批判が出されてきました。これに対し、JR東海はこれまできちんとした回答、対応をしてきませんでした。

電磁波公害をもたらす
 第一に、リニア中央新幹線は「超伝導磁気浮上方式」を採用しています。これは中国・上海で採用されているドイツ方式(強磁性体の永久磁石と通常の電磁石を使う方式)よりはるかに磁場が強い方式です。日本方式は人間を強力な磁場環境に曝すことによる電磁波公害をもたらします。なぜ車体1cm浮上させるドイツ方式でなく、10cmも浮上させる日本方式を採用したかというと、最大の理由は「1cmでは地震の際の対応にリスクが高い」からに他なりません。もともと地震国にはリニアは不向きであり、それを無視して人間を強力磁場環境に曝すJR東海の方式は常軌を逸しています。また、「磁界はアセスの範疇外」として、磁界に関するデータをJR東海はこれまで一部分しか公表していません。

環境への著しい負荷
 第二に、リニア中央新幹線は環境に著しく負荷を与えるシステムです。全線の86%がトンネル走行のため、中央アルプス横断による大水脈分断、残土問題、工事による騒音・事故等々、環境負荷項目は枚挙に暇がありません。環境省も6月5日に「本事業の工事及び供用時に生じる環境影響を、最大限、回避、低減するとしても、なお、相当な環境負荷を生じることは否めない」と意見書を出しました。

お粗末な事故対策
 第三に、事故対策がお粗末なことです。リニアはホームや乗車口を遮蔽構造にしています。これは強力な磁場や騒音の影響を回避するためです。しかし、いったん事故が起これば避難通路を乗客は歩かざるをえません。その時、乗客は強力な磁場に曝されます。南アルプスの最深部で事故に遭えば、地上まで1400mもあり、脱出には階段しかありません。高齢者、乳幼児、妊婦、障害者、病弱者への対応はあまりにも貧弱すぎて無責任です。

経済的に成り立たない
 第四に、資金対策を含め将来への展望が描けていないことです。JR東海は資金を全額自社負担で賄うと主張していますが、建設費約9兆円を本当に賄えるかは不明です。JR東海の柘植康英社長は会見で「最後どうにもならなければ、開業時期を調整する」と逃げの答弁をしています。最後は税金を投入する事態は容易に推察されます。冗談ではありません。すでに品川ー名古屋間の事業費は当初より約900億円も多くなり約5兆5千憶円に見直しし、見通しの甘さを露呈しています。国立社会保障・人口問題研究所の推計ではリニアが全線完成する2045年の国内人口は今より2千万人減るとしています。リニアが東海道新幹線と競合し、客を奪い合えば、JR東海の経営にも寄与しません。
 JR東海にとって、東海道新幹線は売上高の7割を稼ぎ出す「打ち出の小槌」です。その東海道新幹線が巨大地震や津波に襲われた場合、経営が揺らぐから「東海道新幹線の別線としてリニアがある」(葛西敬之JR東海名誉会長)としていますが、リニアは大地震に弱いし、北陸新幹線などの迂回ルートはまもなく完成します。リニア中央新幹線はどこから見ても批判の対象でしかありません。今回の認可を私たちは糾弾します。【大久保貞利】

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