風力発電設備が多数立地する秋田県能代市で、設備で発電した電気を変電所へ送電する送電線が市内を通り、強い磁場が出ているとの情報を地元の方からいただきました。案内していただき私(網代)が測定したところ、市民が散歩やジョギングで利用する道で30μT(マイクロテスラ)、中学校の校門前の道路で2μTを超える、強烈な磁場が出ていました。
案内してくださったのは、能代在住の中西秀則さん。中西さんは京都大学で生体電磁気学を専門とし、ウイルスや遺伝子へのエックス線の影響などについて研究されていました。子ども部屋の磁場が0.4μT以上で小児白血病のリスクが有意に上昇するという結果が出た、いわゆる兜論文[1]を読み、磁場による健康影響にも注目するようになったそうです。出身地の能代へ戻ってからは、すでに稼働していた火力発電所や、新たに設置されていく風力発電所、それらの送電線からの磁場についても、調査や研究をされてきました。当会(電磁波問題市民研究会)と協力関係にあるNPO法人市民科学研究室の今年1月のオンライン研究会に参加した中西さんから、私は初めて能代の風力発電の磁場問題を聞きました。その時から気になっていて、私用で秋田市へ行く機会ができたため、中西さんにお願いして、能代の案内をお願いしました。
海岸に30基、洋上に20基
9月21日、秋田駅からJRで青森方面へ北上して約1時間、能代市の玄関口である東能代駅で、中西さんと落ち合いました。
中西さんによると能代市には、海岸沿いの陸地に約30基、日本海の洋上に20基の風力発電があるそうです。それらの立地場所は能代市域の西端で、そこで発電した電気が、能代の市街地を突っ切って東へ向かう送電線で内陸の変電所まで送られ、変電所から仙台方面へ送電されているそうです。この市街地を突っ切る送電線から、強い磁場が発生しているというのです。
中西さんの車でまず向かったのは、能代港にある「はまなす展望台」。展望台のすぐ脇の風車は、独特の風切り音を響かせながら勢いよく羽根を回転させていました。
展望台の100段の階段を登ると、海岸沿いの陸地と、日本海の洋上に林立する風車を一望できました。その数の多さには、やはり驚かされました。
中西さんは、ご自身がこれまで測定した中で、特に磁場が高かった地点へ案内してくださいました。そこへ向かう途中、展望台から見えていた風車の近くを通り過ぎました。風車の大きさは様々ですが、特に大きいものは羽根の先端まで含めると高さ120m、高さ40階建てのビルに相当するそうです[2]。圧倒されます。
回らないと低く、回ると高い磁場
この日は幸運だったことに、結果的に、風力発電がほとんど行われていない時と、風力発電が行われている時との、送電線からの磁場を比較することができました。
午前中は、展望台脇の風車などは回転していましたが、多くの風車が回転しないか、かなりゆっくりと回転していました。この日は強めの風が吹いていました。それにも関わらず風車が止まっているか、またはゆっくりと回っているということは、電気の需要量を供給量(風力発電以外からも含む総供給量)が上回ったため、出力抑制を行っていたのかもしれません。ただし、中西さんによると、各事業者等はリアルタイムの発電状況について市民に周知していないので、実際のところは分かりません。
そして、私たちが昼食をとった後の午後の時間帯は、一転して、風車が勢いよく回っていました。

上の図は、中西さんが業者に要求して得た図面などをもとに、網代がまとめたものです。
丸紅系事業者[3]の昇圧変電所の東側(地点A)の道路脇の地面に測定器を置いて測定したところ、午前(風力発電量少)では0.38μT(3.8mG(ミリガウス))程度でしたが、午後(風力発電量多)は31.8μT程度に跳ね上がりました。この地点は、丸紅系事業者の洋上風車20基(計84MW=メガワット)、地元企業[4]の沿岸風車17基(計39.1MW)、東北電力子会社[5]の沿岸風車7基(計14.4MW)の送電線が集中している場所です。丸紅系と地元企業の送電線は、地面の下に埋設されており、東西に走る道路の南側を通っているものと測定値から推定されます。東北電力子会社は、道路北側の電柱に架かっています。
3事業者の送電線が集中している地点A、地点B(図参照)にかけて、複数箇所で計測し、午後は、21~36μT程度でした。A・B両地点を通る道路は、能代市沿岸の景勝地「風の松原」につながっていて、市民が朝夕の散歩やジョギングなどを楽しむ道路とのことです。そのような道路で、私たちの生活環境ではほとんど観測されることのない強い磁場が測定されたのです。
通学路の歩道の下に送電線
能代南中学校の校門のすぐ前の歩道(地点C)に測定器を置きました。この下に地元企業による送電線が埋設されていることが、測定値から推測されます。午前(風力発電量少)は0.3μT程度でしたが、午後(風力発電量多)は2.1μT程度という高い数値でした。この中学校のすべての生徒職員は、この歩道を歩いて登下校していると思われます。もしも電磁波過敏症の生徒がいたら、この歩道を歩くと症状が出て登校できず、不登校となる可能性もあると私は思いました。
同校前の道路の反対側(北側)には東北電力子会社の送電線が架かっています。その下で測定したところ、午後は1.6μT程度で(午前は記録を失念)、やはり強かったです。
中西さんが以前に同じ場所で測定したところ、やはり1μT前後の強い磁場を測定していました。
学校の裏の磁場は校門前の10倍
校門は能代南中の敷地の北に位置しており、その前の道路沿いに2事業者の送電線が通っているのは前述の通りですが、同校の南側にも、丸紅系事業者の送電線が通っています。農道のような未舗装の道路に埋設されているようで、道(地点D)に測定器を置いて測定したところ、午前は0.15μT程度でした。そして午後は21μT程度で、校門前の約10倍の強さでした。
この道からは、能代南中の校庭がすぐ近くに見えます。生徒が日常的に通行するような道ではないかもしれません。しかし、もし私が同校の職員や生徒の親だったら「校庭のすぐ裏は安全でないかもしれないので、長時間滞在しないように」と生徒たちに注意喚起したいです。
能代で増える不登校との関連は?
電磁波研の測定担当の鮎川哲也さんにこれらの数値を伝えました。鮎川さんによると、30μTという値はこれまでの測定で経験したことがないとのことです。2μTも、ACアダプターや分電盤のすぐ近くなど、明らかに高い場所以外では、数回した見たことがなく、変電所の近くでも4μTを超えたことはない、と驚いていました。
今回の測定値は、いずれも国の基準値200μTを下回っています。しかし、この基準値は刺激作用などの急性影響を防ぐためのもので、長期的な曝露による慢性影響を防ぐためのものではありません。兜論文を含む各国の疫学研究に基づき、世界保健機関(WHO)は「低費用の予防的措置を実施することは妥当」との見解を2007年に出しました。しかし日本の行政は、このことを軽視しています。
能代南中の校門前と校庭裏で中西さんが測定した結果については、能代南中学校側に伝えているそうです。中西さんは、同校から「この強さの磁場は、生徒たちにどう影響をしますか?」と質問され、以下の主旨の回答をしたそうです。
「日本を含む各国による疫学調査では、子ども部屋(寝室)の磁場が0.4μT以上で小児白血病のリスクが有意に上昇することがわかっている。能代南中校門前の道路や裏の道路で生徒たちは、子ども部屋のように何時間も滞在しないだろうから、生徒たちに健康に影響があると現時点では言えない。一方で、能代中周辺の数値は0.4μTよりもかなり高い。したがって、影響がないとも言い切れない。能代市では不登校や若者の引きこもりが増えている。不登校の子の中には、電磁波による健康影響を受けた子がいるかもしれない」。
中西さんからの情報提供にもかかわらず、今のところ風力発電の送電線について対策をとろうという動きはないそうです。
風力発電立地の経済効果は
中西さんは「風力発電を否定しないが、送電線をまちなかに通すべきではない。通すのであれば風力発電に反対」とおっしゃっています。
中西さんによると、おおよそで「能代市民の中で、風力発電推進派が15%、おかしいと思ったり反対しているのが5%、あとの80%は無関心」ではないかとのことです。
私が「風力発電を誘致して、能代市にどれくらい経済効果がありましたか?」と質問すると、中西さんは「行政は(経済効果の予測は発表するが、結果は)発表しないので分からない。風車のメンテナンスなどの仕事に携わる若者を増やそうと、県立能代科学技術高等学校(旧能代工業高校=バスケットボールの強豪校として有名)と風力発電産業との連携を図ったりしているが、若者の人口は減るばかりだ」とおっしゃっていました。一方で、これまでの風力発電施設建設工事に加えて、予定されていた三菱商事による洋上発電関連の受注も期待して、電気工事会社などは増えたと、中西さんはおっしゃいました。しかし、肝心の三菱商事は8月27日、能代市沖を含む洋上風力発電事業について、採算が合わないとして撤退を表明し、大きなニュースになりました。
風力発電に積極的な秋田県
秋田県では、海からの強い風が吹く沿岸部を中心に、風車の設置に適した平坦な地形が続いているとして2000年代以降、陸上風力発電の導入が積極的に進められてきたそうです[6]。
また、風が強く、遠浅の海底地形が続く秋田県沖の海域は、洋上風力発電に適しているとされ、2022年12月に国内初の本格的な洋上風力発電所(丸紅系事業者による能代沖のもの)が稼働。他にも秋田市沖で稼働し、また、能代から北隣の八峰町にかけての海域で新規の洋上風力事業が着手されました。三菱商事は洋上風力から撤退しましたが、秋田県知事は事業者の再公募を経済産業省に求めています。
秋田県の風力発電量は2024年12月現在、北海道、青森県に次いで全国3位[7]。秋田県内の風力発電設備は2025年3月現在、20kW以上のもので陸上に307基、洋上に33基[8]ですが、小規模のものを含めると、その数倍以上になるのではないでしょうか。
私は今回、能代だけでなく、男鹿市や秋田市の状況も見ました。おびただしい数の風車が密集して、異様な光景の所もありました。30年も前ですが、私は秋田に住んでいて、その自然環境が好きだったのでショックでした。5月には秋田市で、風車の羽根の落下による死亡事故も起きています。
太陽光発電も風力発電も、再生可能エネルギーで環境に良いとされ、問題点を指摘すると「原発を容認するのか」という極論を投げかけられることがあります。しかし、自然エネルギーとはいえ、効率優先で大規模化すれば、様々な問題が起きます。
電磁波汚染が隠れているかも
能代市の風力発電による磁場問題は、中西さんが調べたから明らかになりました。風車が林立している他の地域は、調べる人がいないから明らかになっていないだけかもしれません。
このことは風力発電に限りません。私たちの身近にも、気付いていないだけの問題が潜んでいるかもしれません。住民による反対運動が各地で話題になっているデータセンターも、かなりたくさんの電気を使うので、周辺地域の磁場が気になります。【網代太郎】
[1]高圧送電線などから発生する超低周波磁場と小児白血病などとの関係を調べるため科学技術庁(現文部科学省)が予算をつけ、兜真徳・国立環境研究所主任研究官が責任者となり、1999年から3年間に11の機関が参加、総額7億2125万円の費用が投じられた疫学調査。最終的に症例約310例、対照者約600例となり、これまでの諸外国の疫学調査と比較した場合、「英国の全国調査、米国の国立がん研究所の調査に次いで3番目のサイズである」とされる。しかし、文科省の評価部会による「事後評価」は、この研究に正当な評価を与えず、研究成果を葬り去った
[2]東北自然エネルギー株式会社のウェブサイトによる
[3]秋田洋上風力発電株式会社。丸紅(筆頭株主)、大林組、東北電力、コスモエコパワーなど13社が株主。そのうち秋田銀行、大森建設など秋田県内企業が7社
[4]風の松原自然エネルギー株式会社。筆頭株主の大森建設(本社・能代市)など県内9企業と能代市が出資
[5]東北自然エネルギー株式会社。東北電力が100%出資
[6]秋田県「秋田の洋上風力発電」
[7]一般社団法人日本風力発電協会「2024年12月末時点日本の風力発電の累積導入量」
[8]秋田県「秋田県内の再生可能エネルギーを利用した発電の導入状況」







