オーストリア保険災害保険機関(AUVA)携帯電磁波の非熱作用リスクを発表

 AUVAが携帯電話電磁波の非熱作用を認め、携帯電話プロバイダーを労災対象としないことを決めました。
 AUVAはオーストリア災害保険機関で、雇用主と被雇用者(労働者)の連携の下に運営されている社会保険組織です。AUVAには現在269万人の労働者と27万人の自営業者と130万人の児童・生徒・学生が加入しています。
 AUVAがカバーする範囲は労働災害や学生災害で、職場や学校での活動やその行き帰りで起こった予期せぬ傷害への保障を目的としています。また職業的疾病もカバーします。職業的疾病とは職場や学校で発生した健康傷害を言います。
 AUVAは労使双方の代表者によって運営され、総合社会保障法に従って加入者のための政策を決定します。スタッフは約4900人います。
 AUVAは単なる保険運営だけでなくリハビリテーションセンターや救急施設も運営し、医療研究も行なっています。
 このレポートは「ATHEM」というタイトルで「携帯電話電磁波の非熱作用に関する調査研究」で、「携帯電話電磁波には非熱作用がある」と結論づけています。日本では政府も携帯電話会社も電磁波の非熱作用を認めませんが、AUVAレポートの影響はオーストリア国内に限らず波紋をもたらすでしょう。
 AUVAレポートは「熱作用とは違う立場に立つ」と明言しています。熱作用とは、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)が主張する影響であり、日本・総務省の電波防護指針は、この主張を根拠にしています。言い換えれば、生体への作用や影響が、実験的にも実証されている証拠を根拠にしています。熱作用は、電磁波の作用のうちの短期間影響と急性影響です。AUVAレポートは、携帯電話からの電磁波は、脳の中枢神経システムや免疫システムやタンパク質合成に影響を与えるという研究結果を下に、電磁波の非熱作用を認めました。非熱作用は熱作用の1万分の1以下の電磁波で生体に影響を与えると言われています。非熱作用を認めれば,熱作用に基く曝露ガイドラインは根拠を失います。結論では、企業の商業的利益と公衆衛生の保護とが衝突しているとしています。日本政府は企業の利益の側に立っていると言えます。【渡海伸・訳も】

序文
 欧州内で電磁波曝露基準を巡る論争は激しくなっている。保険会社は、(携帯電話電磁波には)予測できない健康リスクがあるので、携帯電話供給者(プロバイダー)を保険対象にはしない。AUVA(「職業リスクを対象とするオーストリア災害保険」のドイツ語の頭文字)は、脳・免疫システム・蛋白質への携帯電話の電磁波影響を調査するプロジェクト研究を、ウィーン医科大学に委嘱した。そのプロジェクト研究は、タイトルが「ATHEM」というがその意味は「携帯電話周波数帯における電磁放射線の非熱作用に関する調査研究」である。そのタイトルからわかるように、電磁波の熱作用を代表する立場とは、正反対の立場にAUVAは立っている。熱作用とはICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)や多くの国の放射線防護機関が属するが、熱作用以外の作用(非熱作用)を否定する。結局のところ、このレポートの成果(結果)は、携帯電話技術に関連して長い間知られてきた、健康リスクを確認(確定)することにある。AUVAレポートからのいくつかの引用は、下記の「結果」部分で要約されている。

1.AUVAレポートの意義
 携帯電話が使われ出し普及したことは、新しい曝露タイプをもたらした。多くの人々がRF(高周波電磁波)送信機を頭にあてるということは、いまだかって決してなかった。現在の科学的データは、答え切れてない多くの問題を抱えたままなので、健康リスク問題は重大ニュースとならざるをえない。今日に至るまで、低いレベルのRF/EMF放射線曝露を受けたことによる影響効果(非熱作用の可能性)のリスク・アセスメント(リスク評価)の結論は、時々論争の種(決着ついていない)となる。(編集者注:「RF」は高周波を指し「EMF」は電磁場を指す、すなわち「RF/EMF」とは高周波電磁場を意味する)
 それ故、ATHEMはRF/EMFと生物学との潜在的相互影響という、重大な問題を研究することがねらいである。現行の曝露ガイドラインの根拠になっている、厳格な熱作用メカニズムによると、実験的研究の意義は、必ずしも病気と関連しているとはいえないことが、立証された効果(例えば脳波検査変化)は起こるはずがないという事実を示すことにある。

2.主要な結果
 AUVA研究は、以下のことを正当化した。「携帯電話放射線からの電磁場(EMF)は“(脳の)中枢神経システム”“免疫システム”“タンパク質合成”に影響を与える」。
 上記のことをのぞけば、この結果の意義としては、現行の曝露ガイドラインが依拠している熱作用だけを前提にすれば、その作用(効果)は熱作用では起こっていないという事実は相変わらず残る。このように、今回の結果から見られた作用・効果は非熱作用は存在するというより、もっと進化した証拠となる。
 平易な英語で言えば、曝露ガイドラインは、熱作用しか依拠していないので一般的に疑問なのである、ということだ。
 現行の曝露ガイドラインは、批判のある熱作用閾値より下の電磁場レベルで、反応している生体プロセスを考慮にいれていない。すなわち、ガイドラインでは健康は守れないのである。
 AUVAレポートは、ドイツ放射線防護局やICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)からは無視されている。この二つの組織は、非熱作用の存在は認めず熱作用に固執し、企業寄りの立場でいる。AUVAの作成したATHEMレポートは、携帯電話放射線は健康に悪影響を与えることを正式に認める。

結果の意味と意義
 研究コーディネーターのウィルヘルム・モスゲラー教授はこう語った。「今回の結果はいくつかの理由で重要である。国際的な調査研究機関と違った判断をしているので、今回の結果は国際的な科学論争に最新の貢献を付与する。たとえば、いくつかの科学レポート間で現存している対立を解く上でも、また以前のものよりはるかに詳しく、RF/EMFに対する細胞反応を説明してく点でも、今回の調査研究は革新的である。」

3.脳への影響
 ヒトの健康問題の調査を通じて、GSMー900とUMTSの電磁場の影響について、現行の曝露ガイドラインより常に下のレベルの電磁場を使い二重盲検式で研究がなされた。
 実際の電磁場曝露中と曝露後において、特定の脳波(いわゆる脳波図のアルファ帯域=8~13ヘルツ)が変化した。いくつかの変化は、統計学的に有意と出た。脳波によって伝達された聴覚と視覚の刺激(いわゆる誘発電位)への中枢神経系の反応は、曝露後約30分経っても変化したまま続いた。

中枢神経系への微妙な非熱作用反応
 曝露影響のいくつかは、これまでの研究と比較でき、他のいくつかの曝露影響は認められた。さらに新しい影響(効果)は、中枢神経システムに関する低レベルのRF放射線の作用メカニズムを解明するのに役立つかもしれないものとして観察された。下記の観察が見られた。

  • これまでの研究と同じく、特にアルファ帯域において、力が増加する部分でEEG(脳波計)スペクトラムの変化が発見された。
  • しかし実験中において、EEG変化が他の周波数帯域でも見られた。
  • アルファ帯域の力の増加は、曝露後最初の5分でもう始まる。
  • 曝露から50分経った後は変化はない。(編集者注:曝露はそこで止めている)。こうした変化はGSM信号よりUMTS信号のほうで際立っている。

 EEG変化はまたより高い周波数帯(非同期化された活動)で起こる。UMTS曝露での変化は統計学的に有意であったが、中枢神経系の活性化減少については誰もほとんど説明できない。これについては曝露の間、反応時間が早まることが強調されるが、反応の質面は低下して起こっているように見える。特に悪い反応はより短い時間で起こっている。
 調査研究は、携帯電話から出る低レベルマイクロ放射線曝露で微妙な中枢神経反応が起こる可能性を示している。しかし、この結果だけで健康影響や認識障害に関して結論を下すことはできない。

4.タンパク質合成への影響
(前略)

明確な再生生体影響(効果)と以前の矛盾を含んだ結果の説明
 非常にセンシティブな試験方法で培養された、細胞内での携帯電話放射線の明確な再生生体影響(効果)が発見される可能性があった。この研究プロジェクトの革新的研究結果は、携帯電話放射線曝露が反応を示す細胞内で新しいタンパク質(例えば、細胞負荷のサインのようなストレスタンパク質)生成を増加させるよう作用する。
 これまで、携帯電話放射線に関する国際的研究は、(相容れない結果を得るために)異なった細胞内のタンパク質量を調べてきた。今では、私たちは以前のような表面的な矛盾も説明できるような、耐性がありかつセンシティブな細胞の存在を実証できる。面白いのは、曝露条件下でDNA破損率が増加するのを実証した同じ細胞が、タンパク質分析でも強く影響を受けたように見えた細胞でも同じくあった。(編集者注:細胞内で現在すべてのタンパク質で発見される)。DNA破損に関して、研究で反応しているようには見えなかった細胞はほとんど変化を見せないし、タンパク質合成もまったくない。これらの研究結果は、敏感で丈夫な細胞が存在するという推測を確かなものにする。このように、研究結果は過去の(矛盾しているように見える)研究結果や今後の研究結果の理解にとって、革新的なものである。

曝露条件下でのDNA破損の可能性
 一般的に増加したタンパク質合成が観察されたパターンは、曝露によるタンパク質の不活発化を表す。このことは、自然にDNA破損(フリーラジカルで起こる)が起こる、新陳代謝による活動的細胞は十分には修復しないことを説明している。つまり、曝露された細胞内ではDNA破損は増加することになる。(編集者注;さらに電磁波曝露はフリーラジカルの一酸化窒素の形成を促進するし、結果としてDNA損傷率を高める)。

子供と若者にとって特別重要なこと
 観察の一つは、いろんな細胞の中で新陳代謝が活発な細胞は、特に強く反応する。(編集者注:新陳代謝における同化と異化のプロセス)。この細胞特性は成長細胞で特に促進され、すなわち、子供と若者で起こる。結果的に、子供や若者はこれまで述べたような影響(効果)は、平均的な人より強く出る。

非熱作用の確認
 しかしながら、放射線による影響(作用)は、必ずしも熱作用で起こるような量とは正比例しない。いくつかの細胞は、10分おきに5分曝露(間欠曝露)時、より強く反応した。このことは、非熱作用メカニズムを支持するものとなろう。それ故、この研究プロジェクトはいわゆる非熱作用の存在をより強く確認するのに役立つ。

 5.防護策と携帯電話使用
 もちろん、誰でも今回の結果から重要な教訓を学ぶことはできる。研究結果は次のことを示している;携帯電話ユーザーは慎重な使い方を通じて潜在的リスクを最小化することができる。

  • スピーカーフォン付きの携帯電話を選択しなさい。そうすれば携帯電話を耳に当てなくても済む。距離をおけば、放射線レベルは大きく減少する。最新の携帯電話は、手と耳の距離を約2メートル(それ以上)とることが可能である。また距離をとっても十分音質は良い。
  • 低いSARや放射線関連要素が低い携帯電話を選びなさい。購入する前に、インターネットで携帯電話の電磁波放射レベルは調べることができる。SAR値(特異吸収比)に加えて、放射線関連要素(connect-Radiation Factor)も大事である。この connect-Radiation Factor は、connect 実験室で調べられたものだ。
  • 電磁波変動量や受信時のピーク量、さらに実際の出力量が含まれる。もし疑問があるならば、ユーザーは connect-Radiation Factor について、最新の決定を根拠にすべきだ。一般的な情報は、ドイツ連邦放射線防護局のホームページを見られる。あるいは、スイス連邦公衆衛生事務所のホームページでも可能。多くの携帯電話の電磁波放射属性が、一覧で掲載されているリンクぺージを見るように。
  • スタンバイモードの時は、ハンドバッグの中に入れるように。特に、運転中など乗り物の中(電車や車)では、携帯電話は体から離して持ち歩け。
  • 車内では、スピーカーフォン機能やハンドセットやブルートゥース状態で使え。さらに、外部アンテナ付きのハンズフリーキットを使うと良い。車内で外部アンテナのない携帯電話を使うと、曝露はかなり増大する(車の外で使う場合と比較して)。
  • (地下室やエレベーター内のように)受信状態が悪い時は携帯電話は使うな。そのような状態では、携帯電話は基地局と繋がろうとして、出力を上げねばならないからだ。
  • 一時間に及ぶ携帯電話使用は止めろ。国際的に発表された研究やこのATHEM研究結果は、2時間から4時間の曝露後に、センシティブな細胞はDNAの変化を伴う反応やタンパク質合成率の変化が始まるし、8時間後にはこの効果が確実に起こる。
  • タンパク質合成(細胞ストレス)への影響は曝露を止めてからわずか2時間でもはや検出できないので、曝露なしで中断することは慎重にしたほうがいい。

6.軽視は続く
 電磁波は健康に悪影響があるとする、AUVAレポートのようなレポートがいくつもあるにもかかわらず、携帯電話業界による曝露基準の軽視は、ますます無責任さを増している。電磁波影響の否認は続いており、曝露基準は石に刻まれ生かされていない。したがってIZMF(ドイツ携帯電話産業の広報部門)が、2009年7月20日に発表したプレスリリースは、次のように書いている。ー「自分の症状が携帯電話放射線による電磁場のせいであると考えている患者を適切に治療するには、医師は最新かつ科学的な専門知識を有する必要がある。現在の知識状況からすれば、現行の曝露基準は生体影響閾値を十分下回るように設定されている。したがって、子供や妊婦や特に感受性の強い人でも十分対応できる基準である」と、自称慈善的会社キンデルンベルトのマチアス・オットー博士は語っているー。
 このプレスリリース内容は、ドイツ放射線防護委員会(SSK)の声明と矛盾する。SSK声明は「子供と若者に対する携帯電話放射線の潜在的リスクに関しては、現在までのところ利用できる科学的研究はない(SSK見解文“携帯電話放射線と子供”)」と言っている。
 ICNIRPは次のことを認めている。
「(ICNIRPの)曝露基準は細胞への熱増加によって起こる短期間で急性の健康影響のみ守る基準である。」(ガイドライン)。したがって、非熱生体作用は考慮に入れてない。
 CDU/CSUが提出した、議会質問書に対する2002年1月4日付けの答弁書で、ドイツ連邦政府は、次のように明確に予防的内容の否定を認めている。「基づいた現行の曝露基準は(科学的に)立証されきちんと認められており、予防原則は考慮に入れていない。」
 ドイツ携帯電話研究プログラムのプレゼンテーションで、ドイツ環境大臣ジグマール・ガブリエルは、子供への独自の影響に関する研究や解明は、依然として必要であると認めた。地球の友・ドイツ支部は、この発言に適合したコメントを出した。「多くの国民を継続的に調べて解明するには、それなりのニーズが求められるという主張は、人権に対する責任感覚の大いなる欠如を表している。」
 RF放射線と健康影響の関係を見る研究は約1500件あるが、そのうちの70%が重要な影響があるとしているにもかかわらず、携帯電話放射線は安全と分類されている。

7.結論
 オーストリア保健省は、ATHEMレポートの研究結果にすぐさま反応し、携帯電話のルールづくりへ言及し、次のような親へのアピールを行なった。「今回の勧告は子供たちに特に重要である。お父さんお母さんは、この勧告についてお子さんたちと話し合ってください。」
 この政府の対応は積極的な第一歩だ。そして、携帯電話と関係するリスクを認めている。リスクを軽視する立場からの方向転換が、ドイツでもスイスでも他の欧州諸国でも緊急に求められている。
 さらに、このレポートは、政治的リーダーたちが政治的課題を達成する上で、幅広い根拠を提供する。例えば、現行より低い(厳しい)曝露ガイドライン設定のための議会決定とか、実行性のある予防策のための根拠だ。これについては、スイスの国会議員クリスチャン・ファン・ジンゲルをが先頭になり、55名の国会議員が賛同の署名をし、新しいガイドライン設定や予防策制定に動いている。Diagnose-Funk(このレポート作成チーム)のようなグループや国会議員グループなどと、連帯する先進的な市民は増えているが、そうした市民たちは、国民各層に電磁波問題を普及させる運動を通じ、公衆衛生問題の解決に貢献しようと努めている。
 ATHEMレポートやバイオイニシアティブレポートあるいは何百という個人的科学研究のおかげで、携帯電話と関係する健康リスクに関して多くの証拠が出ている。証拠が不十分であるという問題はない。問題はまさに、政府がバックアップしている企業の商業的利益と公衆衛生の保護との衝突である。
 AUVAは次のように警告する。
「かつてないレベルの強度で、自然界にないタイプの放射線を、どこでも曝露されることは健康には有害である(harms human health)。短期間と長期間の健康悪化が予想される(preprogrammed)。政治的に有効な行動がすぐにとられなければ、特に次世代に短期間と長期間の健康悪化が表れるであろう。

原文:“AUVA REPORT: Nonthermal Effects Confirmed; Exposure Limits  Challenged; Precaution Demanded” 2009年7月21日

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