スマートメーターで健康被害 11台を交換・撤去させる

奈良県御杖村の過敏症発症者

 電磁波過敏症の小林さんが生活している奈良県御杖村の別荘地内の建物にスマートメーターが次々に設置され、小林さんは呼吸困難やめまいで立っていられなくなるほどの健康被害を受けました。小林さんは関西電力に粘り強く申し入れを行い、別荘所有者の協力も得て、別荘地内に設置されたスマートメーターのうち、11月10日までに10台についてアナログメーターへ交換させ、1台は撤去させました。

ようやく住める場所を確保
 小林さんは重い電磁波過敏症で、住むことができる場所を求めて全国を転々としました。御杖村内には高圧送電線がないという村役場から得た情報をたよりに、息子さんに実際に電磁波を測定してもらったうえで、2012年4月、村内の古い別荘地「赤目グリーンビレッジ」にたどり着きました。
 しかし、購入するつもりの別荘前の6600Vの電線とトランスに反応し、小林さんは別荘に居られませんでした。携帯電話電波が圏外である約4km離れた同村菅野長尾の、物置のような建物を紹介されて、そこで寝泊まりしました。電気どころか水道もガスもなく、床は泥だらけでしたが、小林さんは久しぶりに熟睡できたとのことでした。
 購入するつもりだった別荘の所有者が御杖村議の方で、この村議の方が関西電力(関電)に申し入れて、別荘前の電線を200Vにしてもらい、そして別荘前と近くのトランス計2台を別荘から50~100m離してもらったため、小林さんは、この別荘を購入することができました。
 しかし、山の斜面に建てられた別荘の土台が鉄骨で電磁波を呼び込みやすいためか、別荘で寝ることはできず、長尾の「物置」の隣に、寝るための簡易な家を建てました。
 その後、別荘に寝るための別棟を造り、小林さんは今年1月から、ようやく別荘で寝ることもできるようになりました。
 これに先立つ2015年4月、小林さんは他の電磁波過敏症の方々のための避難ハウスをオープンさせました(会報第96号参照)。建てた場所は、小林さんの別荘から歩いて数分の別荘地外の場所で、電気は通っておらず、携帯基地局からの電磁波はゼロに近いです。
 ところが、深刻な問題が起こってしまったのです。

「原因不明」の健康悪化
 今年春ごろから小林さんは、首や背中の左側や左腕に痛みを感じるようになり、痛みはだんだん強くなりました。6月、かがむと胸に激痛が起こる狭心症の症状が出始めました。
 試しに7月7日に長尾の家に戻ってみると、1~2日で左腕、肩、首の痛みがなくなりました。このため、小林さんは、別荘周辺に電磁波の発生源があると考えました。
 しかし、別荘や周りの電磁波を測定しても、体調不良の原因がわかりません。ただ一つ、小林さんの別荘用の電気のアナログメーターから強めの超低周波電磁波が出ていたので、これが原因だと思い込んでしまいました。小林さんの北隣の建物のメーターを測定したところ、小林さんの別荘のアナログメーターよりも超低周波電磁波は弱いものでした。実は、これがスマートメーターだったのですが、小林さんは初めて見たので、スマートメーターだと分かりませんでした。
 8月8日、小林さんは関電に電話して「メーターのことで一度来てほしい」と依頼しました。12日に担当者2名が別荘を訪れ、小林さんは、別荘のメーターを北隣の建物のメーターと同じものに替えてほしいと依頼。担当者は、それがスマートメーターであることを小林さんに告げ、小林さんはその時、別荘地内にスマートメーターがあることを初めて知りました。
 小林さんは関電の担当者に「このあたりのスマートメーターは電波を発信していますか」と質問。担当者は「コンセントレーター(メーターからの情報を集める基地局のようなもの)はまだ設置されておらず、メーターは電波を発信していない」と答えました。そこで、スマートメーターへの交換を依頼し、8月30日に交換されました。そのメーターを小林さんの夫が測定したところ、超低周波は減ったものの、念のため、強制的に電波を発信する操作をしてもらったところ、高周波電磁波が1~1.4V/m(0.26~0.51μW/c㎡)程度出ていました。スマートメーターは設置時より電波を発信しているという事実を担当者が把握していなかったため、小林さんに「発信していない」と説明し、小林さんはそれを信じてしまったのです。

ついに倒れアナログメーターに交換
 その翌々日の9月1日、小林さんが調理などをするために長尾の家から別荘へ行ったところ30分ほどで、めまいと呼吸困難が起きました。やはりスマートメーターにしてはダメだったと判断した小林さんは、「助けてください! メーターが原因で呼吸が苦しい!」と紙に書いて関電へファクスを送った後、その紙を握りしめたまま、家の外で仰向けに倒れました。立ち上がることができないほどの呼吸困難に陥っていたのです。
 その時、小林さんに別荘を売った村議の方がたまたま訪ねてきました。倒れている小林さんが握っていた紙を読んだ村議は「メーターがどうかなったのか」と尋ね、小林さんが「そうです」と答えると、村議はその場で関電に電話して「この人はここでしか生きられんのや。メーターのせいで呼吸困難で倒れている。すぐメーターを替えてくれ」と伝えました。たまたま近くで工事していたというスタッフが、なんと電話から30分後に来て、アナログメーターに交換。その早さに、小林さんもびっくりしたとのことです。
 夫に車で長尾へ運ばれた小林さんは、丸二日、起き上がれなかったそうです。
 自宅のスマートメーターで激しい症状が起きたことから、北隣のスマートメーターについて調べたところ、2014年6月に設置されていたと判明。このスマートメーターからの電磁波を浴び続けたことで、今年春から徐々に体調が悪化したのだと小林さんは今は考えています。
 9月9日、前述の担当者が別荘を訪れ、小林さんと会いました。小林さんはこれまでの経緯を説明し、北隣のスマートメーターの撤去を求めました。担当者は「建物の所有者から要請があれば応じる」旨回答。小林さんの依頼により、所有者が関電に連絡を入れ、12日にこのスマートメーターは撤去されました(この建物の持ち主が当面電気を使う予定がないため、代わりのメーターは設置されませんでした)。

同意書集めに奔走
 小林さんの別荘と北隣の建物の、計2台のスマートメーターがなくなり、小林さんの頭痛や呼吸困難は起きなくなりました。でも、別荘に居ると胸の圧迫感などが出ました。「まだスマートメーターがある」と小林さんは考え、夫が別荘地内を歩き回って調べるなどしたところ、次々にスマートメーターが見つかりました。小林さんがそれらのスマートメーターをアナログメーターへ交換するよう求めると、関電は「建物所有者の『同意書』があれば交換する」と回答しました。
 小林さんは「私は、スマートメーターの健康影響が懸念される為、アナログメーターでの存続を希望します。尚、平成35年にはスマートメーターに交換されることを承知しております。」と記載された同意書を作成しました。この文面のうち「健康影響が懸念される為」と「平成35年にはスマートメーターに交換されることを承知しております」の部分は、関電が入れるよう求めた文言とのことです。
 別荘地内に定住している方々へは手渡しで、それ以外の方々へは、法務局で別荘所有者を調べて速達郵便で同意書を送りました。同意書への署名と返送をお願いする手紙と、スマートメーターによる健康問題についての雑誌記事、電磁波研のリーフレットを添えました。さらに、まだスマートメーターに交換していない別荘の所有者に対しても、次回の交換時にアナログメーターにすることの同意書への協力をお願いしました。
 「うちはスマートメーターが必要」などとして同意書提出を拒んだ方々もいましたが、多くの方々は応じてくださいました。中には「スマートメーターの健康被害を教えてくれて、ありがとう」とお礼の言葉をくださった方もいたそうです。
 小林さんは上記関電担当者宛てに(途中から担当者所属部署の所長宛てに)何度もファクスを送り、自分の状況を伝え、アナログメーターへの交換を求め続けました(小林さんは電磁波過敏症のため電話を使えず、会えない方への連絡は主にファクスで行っています)。
 9月28日に1台、次いで10月20日に5台のスマートメーターが、アナログメーターに交換されました。小林さんは数時間ならば別荘に居られるようになりました。
 しかし、10月21日、関電担当者から「上からの指示で、これ以上のアナログメーターへの交換は難しい。現状のままで様子を見てほしい」旨の連絡が、小林さん方の留守電に録音されました。
 小林さんは抗議のファクスを何度も送りました。スマートメーターを設置された別荘地住民の一人も、メーターを交換するよう関電へ電話をしてくれました。関電が交換を渋るので、その方は「小林さんと近所付き合いするなと言うのか。小林さんがうちに来れないやろ! 俺が(スマートメーターは)イヤなんや!」と怒ってくださったとのことです。

電磁波の学習会を開催

電磁波とスマートメーターについての学習会=11月5日、御杖村・小林さんの別荘

 小林さんは、せっかく高圧送電線がない御杖村を、これ以上電磁波で汚染させたくないと考え、電磁波やスマートメーターについて村の人々に知ってもらおうと、11月4~5日、隣りの三重県名張市と御杖村とで、筆者を呼んで学習会を開催、計約30名が参加しました。学習会には、小林さんに別荘を売り、その後も小林さんを支えてきた御杖村議(現在は村会議長)の方も参加しました。
 11月10日には、さらに3台のスマートメーターが、アナログメーターに交換されました。小林さんは「今はとにかく1台でも多くのスマートメーターを撤去させたい」と話しています。
 電磁波過敏症を理解できずに小林さんへ冷たい目を向ける住民もいるとのことです。その一方で、筆者が御杖村を訪ねてみて、村議、保健師など、小林さんを受け入れ支えてくださっている村民も大勢いらっしゃることを知りました。
 長い長い“放浪”の末、ようやくたどり着いた安住の地を、小林さんから奪おうとしている国と電力会社。これを許さないためにも、国の方針を変えさせ、アナログメーターを存続させなければなりません。
 なお、電磁波・化学物質過敏症の方のための避難ハウス2棟、及び別荘地内の「センターハウス」(化学物質過敏症にもできるだけ対応できるよう内装を整えた別荘。小林さんの別荘から徒歩数分の場所にあります)の利用は、現在でも可能です。小林さんほど重度でない電磁波過敏症の方が、今年9月中旬まで滞在できていたとのことです。【網代太郎】

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