携帯基地局の近くに住むとDNA損傷のリスクが増加 インドで住民の血液を調査

 携帯電話基地局から80m以内に住んでいる人たちと300m以上離れて住んでいる人たちを比較したところ、発がんが予測される血液中のバイオマーカー(人の身体の状態を客観的に測定し評価するための指標)が統計学的有意に増加したとの論文が8月に発表されました。ミゾラム大学動物学・がん・放射線生物学研究室(インド)のZothansiama教授らによる研究です。米国の著名な医学者であり『携帯電話隠された真実』(東洋経済新報社)の著者でもあるデヴラ・デイヴィス(Devra Davis)博士が率いるウェブサイト「Environmental Health Trust」に掲載された、この論文についての解説をご紹介します。出典Study Finds Cell Tower Radiation Is Linked To Type Of  Damage In Human Blood That Predicts Cancer
 また、論文の概要もご紹介します。題名はImpact of radiofrequency radiation on DNA damage and antioxidants in peripheral blood lymphocytes of humans residing in the vicinity of mobile phone base stations.【訳・網代太郎】


携帯電話基地局の電磁波ががんを予測するヒトの血液の損傷のタイプに関連していることを研究が見出した

 携帯基地局アンテナの近く(80m以内)に住んでいる人と遠い(300m以上)人を比較した新しく発表された研究は、がんを予測するバイオマーカーとみなされる血液損傷が、携帯電話アンテナに近いところに住む人々で統計的有意に増加したことを示した。
 研究者らは、二つのグループについて高周波電磁波曝露を測定し、携帯基地局アンテナに近いところに住んでいる人々は政府の制限値内ではあったものの、かなり高い電磁波曝露を受けていることを見いだした。
 「携帯電話基地局の近隣住民の末梢血リンパ球におけるDNA損傷および抗酸化物質に対する高周波電磁波のインパクト」というタイトルの研究 (Zothansiamaら、2017)は、「Electromagnetic Biology and Medicine.」に掲載された。血液検査を通じて、研究グループは、携帯基地局に近い人々(寝室での電磁波レベルが対照群よりも高い)に統計的に有意な所見を見出した。
 曝露群は以下について統計的有意であった:
○微小核の頻度が高い。
○抗酸化グルタチオン濃度、ならびにカタラーゼおよびスーパーオキシドジスムターゼの活性の低下。
○フリーラジカル酸化の生成物である脂質過酸化の上昇。
 「今回の調査では、携帯基地局の近くに滞在して携帯電話を継続的に使用するとDNAが損傷し、長期的には悪影響を受ける可能性があることが示された。DNA損傷修復の持続は、ゲノム不安定性をもたらし、がんの誘発を含むいくつかの健康障害につながる可能性がある」と研究者らは結論づけた。

微小核
 基地局アンテナに近い所に住む人々の微小核の増加は、基地局電磁波への人体曝露の健康影響を理解する上で重要だ。微小核は染色体のダメージの結果として生成され、微小核はがんリスクの初期の生物学的指標と見なされる。微小核は、遺伝毒性因子により誘発される染色体異常のバイオマーカーなので、がんおよび種々の疾患を予測する貴重な方法として役立てることができると、これまで発表された研究は結論づけている。
 例として、2004年に発表された研究では、チェルノブイリ原子力事故による放射能曝露の結果として甲状腺がんを発症した小児の中で微小核の存在がより高いことがわかった。この研究では、放射線損傷の指標として微小核が使用された。

グルタチオン
 この研究のほかに、いくつかの先行研究が、無線放射線に曝露した後、グルタチオンまたはグルタチオン酵素活性の減少を示した。グルタチオンは、脳内の主要な抗酸化物質であり、特に脳内の毒素から細胞を保護する重要な役割を果たす。この抗酸化物質は身体の免疫系を維持する。
 さらに、公表されている研究は、グルタチオンが自閉症の病態生理学において役割を果たすかもしれないという仮説を支持している。

研究デザイン
 この研究では、曝露グループは基地局の80m以内に住む人々で構成され、コントロールグループは基地局から300m以上離れて住む人々で構成された。研究グループは、年齢、性別、食事パターン、喫煙習慣、アルコール消費、携帯電話の使用期間および毎日の平均携帯電話使用を含む様々な人口統計学的データを一致させた。参加者のうち、高周波電磁波への職業曝露はなく、電気変圧器、高圧送電線、ラジオとテレビの送信機は住宅の近く(少なくとも500m)にはなかった。サンプリングはまた、調理用電子レンジ、Wi-Fi機器、および他の主要な電磁場源を使用しない住居からのみ行われた。

政府の制限以下で高周波曝露の影響
 この研究では、二つグループの曝露を測定するために寝室の高周波の電力密度測定を行った。両方のグループについて、高周波レベルは、インド政府が高周波電磁波に対して許容する公衆曝露限度を下回っていた。インドの規制値はインド政府通信省電気通信総局、ニューデリーガイドラインに従い、0.45W/㎡(45μw/c㎡、900MHz)および0.92W/㎡(92μw/c㎡、1800MHz)で、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)の10分の1である。2012年、インド通信IT省は、公衆無線周波数基準値をICNIRPレベルの1/10に引き下げた。「インドのすべての地域でICNIRPが定めた安全限度の1/10の無線周波数フィールド(基地局放射)に対する予防的電磁界安全曝露限度を維持することにより、学校、病院、住宅、子どもたちの運動場などの特定のエリアの基準値を変更する必要がなくなる。人口密度の高い地域では、エリアを分けることが難しい」。
 この調査では、公衆被曝に関して政府が許している制限を下回る高周波曝露で重大な影響がみられた。

基地局アンテナに近接している人々へのより高い無線周波数曝露
 予想されたように、研究者が行った寝室測定では、家庭が基地局タワーに近い曝露群の寝室の高周波出力密度は、対照群と比較して有意に高かった。
 先行研究では、基地局アンテナの近くにあるエリアでの高周波曝露の増加が見られた。例えば、身体装着線量計を用いたオーストラリアの研究では、近くの基地局がオーストラリアの幼稚園の高周波電磁波への曝露を有意に増加させることが分かった。「Journal of Exposure Science and Environmental Epidemiology」に掲載された2016年の研究では高周波曝露の合計が、基地局に近い(300m以内)幼稚園児は、基地局から離れた子どもたち(300m以上)の約3.5倍の高さだった。
 携帯電話アンテナ付近の人への曝露が増加したため、いくつかの政府は子どもの曝露を減らす方針を制定している。一例として、チリの「アンテナ法」は、託児所、幼稚園、病院、診療所、養護施設を含む「敏感なエリア」の基地局アンテナとタワーを禁止している。インドでは、ジラ・パリシャド(訳注・県レベルの自治体)は、「有害な放射線」にさらされているとの理由で学校近くのすべての携帯電話塔の取り外しを命じた。ラジャスタンとムンバイでは、学校や公園の近くの携帯アンテナを制限するという政策がある。
 人権問題の専門家が環境科学・政策について2014年に出版したレビューで、クラウディア・ロダ(Claudia Roda)とスーザン・ペリー(Susan Perry)は、携帯基地局タワーの設置は、子どもにとっての人権問題であると主張した。「人権法では、子どもの保護は高いレベルの規範であり、子どもの権利に関する条約の拘束力のある文言は、大人よりも子どもに対するより高い保護基準を提供することを締約国に義務づけており、子どもが生活、発達する、または健康である権利を長期的に脅かすあらゆる分野やタイプの環境汚染は、国際的な人権侵害を引き起こす可能性がある。特に、子どもの施設や学校に近接した基地局の設置を規制する法制の欠如によって、すべての欧州諸国が批准している条約である子どもの権利条約の文言にある明らかな人権問題がどのように生じるのかについて、私たちは説明した」と述べた。

論文の概要(アブストラクト)

 携帯電話基地局から放射される高周波電磁波は、基地局の近くに住む人間に対する悪影響についての懸念を引き起こしている。したがって、本研究では、基地局周辺に住む人の培養ヒト末梢血リンパ球(HPBL)におけるDNA損傷および抗酸化状態に及ぼす高周波電磁波の影響を評価し、それを健康な対照と比較することが意図された。曝露群は、年齢、性別、食事パターン、喫煙習慣、アルコール消費、携帯電話の使用期間および毎日の平均携帯電話使用を含む様々な人口統計学的データが一致した。曝露された個人の高周波電磁波の電力密度は、対照群と比較して有意に高かった(p<0.0001)。HPBLを培養し、DNA損傷を、二核リンパ球における細胞質分裂遮断小核(MN)アッセイによって評価した。80m以内の携帯基地局の周辺に存在する曝露群(n=40)からのデータの分析は、基地局から300m離れて住む対照群と比較した場合、小核の頻度が有意に(p<0.0001)高かった。曝露群の血漿中の種々の抗酸化物質の分析の結果、対照群と比較して、グルタチオン(GSH)濃度(p<0.01)、カタラーゼ(CAT)活性(p<0.001)およびスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)(p<0.001)が有意に低下し、脂質過酸化(LOO)が上昇した。多重線形回帰分析は、高周波の電力密度と、GHS濃度(p<0.05)、CAT(p<0.001)、およびSOD(p<0.001)の低下ならびにLOO(p<0.05)の上昇との間の有意な関連を示した。

 

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