ICNIRPは内輪メンバーの研究のみに基づいて国際指針値を定めた 5G開始に備えた2020年ガイドラインを分析した論文

 ICNIRPは電磁波のヒトへの悪影響を防ぐための国際指針値を策定していて、多くの国がこの国際指針値を自国の規制値にしています。日本の規制値は、それよりやや緩いですが、ほぼ同じです。ICNIRPは5G開始に備えて2020年、新たなガイドラインを公表しましたが、基本的には従前と変わらない内容でした。このガイドラインは最新の科学的知見を幅広く反映しているのではなく、ICNIRPの内輪のメンバーによる研究などだけに基づいているとするノルウェイのNordhagen(ノルドハーゲン)らの論文[1]が、学術誌「Reviews on Environmental Health」で6月27日に公表されました。この概要(アブストラクト)をご紹介します。なお、この論文とは別に、ICNIRPについては、「委員が業界から研究費をもらっている」「委員の後任を委員が選んでいる」などの批判もあります。【訳・網代太郎】


概要
 2020年3月、ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)は、電磁界(100kHz~300GHz)への曝露を制限するための一連のガイドラインを発表した。ICNIRPは、この出版物の電磁波と健康に関する見解(通常「熱のみのパラダイム」と呼ばれる見解)が、現在の科学的理解と一致すると主張している。我々は、ICNIRP2020で参照されている文献を調査し、その背後にある著者や研究グループの構成が、このような重要なガイドラインが満たすべき要件である、幅広い科学的基盤、すなわち現在の科学的理解と一致する見解という基本要件を満たしているかどうかを評価するために、調査を行った。この要件が満たされているかどうかを評価するために、ICNIRP2020ガイドラインと附属書の参照文献の著者と研究グループの所属範囲を調査した。その結果、ICNIRP2020自体と実際に参照されたすべての付属文献は、わずか17名の研究者を中心とした共著者のネットワークから生まれており、そのほとんどがICNIRPやIEEE[2]に所属し、中にはICNIRP2020の著者自身もいることが判明した。さらに、独立した複数の委員会からのものであるとしてICNIRP2020が提出した文献レビューは、実際には、委員会のすべてにICNIRP2020のメンバーがいる同じ非公式の共著者のネットワークの産物であった。このことは、ICNIRP2020ガイドラインが基本的な科学的水準の要件を満たしておらず、ヒトの健康を守るための高周波電磁波の曝露制限値を設定する根拠に適さないことを示している。ICNIRPは、その熱作用に限定した見解により、研究成果の多くと食い違っており、したがって、特に強固な科学的根拠が必要であろう。我々の分析は、その逆であることを実証している。したがって、ICNIRPの2020年ガイドラインは、良き統治(good governance)のための根拠を提供することはできない。

[1]Self-referencing authorships behind the ICNIRP 2020 radiation protection guidelines
[2]IEEE(米国電気電子学会)規格は、米国連邦通信委員会による米国の規制値(ICNIRP国際指針値よりやや緩いがほぼ同じ)の根拠になっている

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