ハーデルらが発表 5G基地局で健康影響が出た8事例

網代太郎(電磁波研会報編集長)

写真1 事例2のオフィス兼住宅。①の男性のオフィスが基地局の真下にある「1」。②の男性のオフィスが「3」(論文より)

 自宅などの近くに5G基地局を設置されたり、5G基地局が近くにある場所に滞在した後に様々な症状が出た事例研究(ケーススタディ)を、スウェーデン環境がん研究財団のLennart Hardell(レナート・ハーデル)と、スウェーデン放射線防護財団のMona Nilsson(モナ・ニルソン)が続けざまに発表しています。ハーデルは携帯電話使用と脳腫瘍の関係の疫学調査をリードしてきた研究者として知られています。これまで発表された8件を、まとめてご紹介します。なお、事例1のみ会報第137号でもご紹介しています

事例発症者    発症の経緯基地局からの距離 主な症状     対 応     発症時
電波の
強さ
(1分間の
ピーク値
・μW/c㎡)
移転先   等の電波の強さ  
(1分間のピーク値
・μW/c㎡) 
①63歳 男性
②62歳 女性
(夫婦)
①②共通:以前から3Gと4Gの基地局がある自宅アパートの屋上に5G基地局が設置され、2021年11月に試運転開始→発症5m①疲労感、頭痛、耳鳴りなど
②めまい、不眠症、集中力・注意力の欠如、イライラ、手や腕の皮膚のほてり・発疹
①②共通:電磁波が低い別のアパートに引っ越し
①引っ越し後すぐに症状が改善
②引っ越し後数日以内に、ほとんどの症状が完全に消えるか、大幅に軽減。ひどい不眠症は完全に消えた
①②共通:基地局から5mの寝室
12月は、35.4
翌年2月は、169
①②共通:
寝室
0.003
①57歳 男性
②42歳 男性
①②共通:以前から3Gと4Gの基地局があるオフィス兼住宅のビルの屋上に、2021年11月に5G基地局が新設
①2022年4月末から、5G基地局の真下に位置する最上階の部屋でフルタイムで働く→5月に発症
②同じビルの①とは違う最上階の部屋で働き、睡眠をとっていた。5G基地局設置後すぐに発症
記載
なし
①関節痛、知覚障害、顔・腕・脚の皮膚症状、手や腕の皮膚のほてり・発疹、集中力・注意力の欠如、早期覚醒など
②歯痛、不安・パニック、不眠症、早期覚醒、抑うつ傾向など
①8月退社、5G基地局が近くにない別のオフィス兼アパートへ転居→数週間でほとんどの症状が消失。しかし、ストックホルム市内など電磁波の強い場所では関節痛と頭痛が再発
②2021年12月にオフィスを出る→歯痛、頭の圧迫感、耳鳴りはすぐに消失。さらに5Gや他の基地局が近くにない田舎に引っ越す→すべての症状が急速に消えた
①5G基地局真下の部屋
0.04~
118
②オフィス兼アパート
1.37~
61.3
①オフィス
0.0009~
0.0015
②オフィス兼自宅
0.0051~
0.23
52歳
女性
この女性は看護助手として働いている=医学の教育を受けている
自宅近くに、2022年10月に5G基地局設置→すぐに発症
飼い犬も5G基地局設置→すぐに下痢
60m頭痛、筋肉痛、関節痛、めまい、バランス障害、集中力・注意力の欠如、即時記憶喪失、疲労感、不安・パニック障害、感情の起伏、胸の圧迫感、咳、吐き気、頻尿、顔・腕・脚の皮膚症状、手や腕の皮膚のほてり・発疹、鼻血など1カ月後、5Gのない別のアパートに滞在→軽微なめまいと疲労感を除いて症状が消失
2023年1月に発症したアパートに戻る→間もなく症状が再発
飼い犬の症状も同様。
5G基地局に面した窓から220cm離れたリビングルームのソファ
3.68~22.2
0.009~
0.28
①55歳
 女性
②20歳
 男性
③19歳
 女性
(家族)
①~③共通:住居はアパートの4階。基地局のある建物2棟(ともに6階建て)は、ともに住居から通り1本を隔てた所にある(図1)。遅くても2013年から3G・4Gの基地局が、これらの建物の上で稼働していた。2021年7月中旬に住居から約50mの基地局が、2022年5月には住居から約70mの基地局が、それぞれ4G・5Gに置き換えられた
①2021年9月から睡眠障害
50m

70m
(2基)
①集中力・注意力の欠如、疲労感など
②関節痛、耳熱感・耳痛、集中力・注意力の欠如、短期記憶障害、鼻血など
③不眠症、夜間覚醒、集中力・注意力の欠如、下痢、顔・腕・脚の皮膚症状、頭痛、不整脈、光過敏、不安・パニック障害など
記載なし①寝室の窓際
32.0~120
枕元
16.0~37.4
②寝室の窓際
12.1~49.0
枕元
1.56~8.96
③寝室の窓際
3.48~16.6
枕元
3.05~5.85
記載なし
49歳
男性
同じ建物の屋上では、少なくとも2013年から3Gと4Gの基地局が稼働していたが、距離は離れていた
2022年11月に5G基地局が、男性が住むアパート通りの反対側にある建物の屋上に設置された(3階にある男性の部屋は基地局と同じ高さに位置している)→1週間後に発症
思春期の娘(研究に参加せず)も頭痛と睡眠障害を発症
20m頭痛、知覚障害、即時記憶の喪失、集中力・注意力の欠如、ドライアイなど
症状の深刻さのために命の危険さえ感じた。皿洗いをしたり、何かを持ち上げたりといったわずかな力でも胸に痛みが走った。身体はむくみ、全身にあざができた。足のむくみのため、靴が入らなくなった
高周波がかなり少ないアパートを出て別の住居へ→2023年5月までに、皮膚の問題を除けば、症状はほぼすべて消失リビングルーム
318超(測定限界超)
ベッド
14.6~
82.0
枕元
0.002~
0.004
リビング
0.002~
0.005
①39歳
 男性
②39歳
 女性
③8歳
 男子
④6歳
 男子
⑤4歳
 男子
(家族)
①~⑤共通:
2023年7月29日~8月1日、コテージに滞在
家族は2021年と2022年の夏にも同じコテージを借りたが健康上の問題は起きず。125m離れたタワーに基地局を設置している携帯電話事業者は3社あり、2021年には5Gはなく、2022年の家族の滞在中に1社が5Gを設置、2022年のサマーシーズン後の11~12月に、他の2社も5Gを設置した
125m①~⑤共通:疲労感、不眠症、夜間覚醒、早朝覚醒
①②③⑤共通:頭痛
①呼吸困難
②不整脈など
③④⑤共通:感情的になる、イライラ
③⑤共通:下痢、腹痛
④皮膚・発疹
①~⑤共通:
自宅に戻ると症状は消失したか、またはコテージに泊まる前と同程度まで軽減
①~⑤共通:
コテージの基地局側
0.9~4.34
ただし測定日は10月9日。この地域には400以上のキャンプが可能なエリアと、70以上のアパート、10以上のコテージがある。それらに利用客があふれていた夏の間は通信量が多く、電波はこの測定値よりも強かったものと考えられる
①~⑤共通:
自宅の枕元
0.02~
0.14
自宅リビング
0.07~
0.25
①82歳
 女性
②83歳
 男性
(夫婦)
①②共通:2023年2~3月に2基の5G基地局が近所に設置
①40年近く電磁波過敏症を患っている。5G基地局設置直後に症状悪化
②もともと過敏症ではない。5G基地局設置後に軽度の症状が出た
489m

538m
(2基)
①以前から電磁波過敏症があったが5G設置後に悪化したのは、知覚障害、疲労感、めまい、平衡感覚障害、光過敏など
②筋肉痛・関節痛、疲労感、聴覚過敏、夜間覚醒など
記載なし台所で16.6
リビングで
14.7
記載なし
8歳
男子
男子が通う学校の近くに約10年前から存在している基地局に、2022年から5Gが設置
男子は2021年8月に入学し現在2年生
学校に通い始めてから比較的すぐに頭痛に悩まされるように
2023年秋には頭痛が毎日起こるようになり、学校での頭痛の程度も強くなった
学校敷地まで
200m
教室まで
285m
頭痛、めまい、疲労感自宅では基本的に無症状
2023年秋以来、男子は校内で高周波を遮断する帽子をかぶり、屋外では防護ジャケットとスカーフも使用。それらを使えば頭痛は出ない
校庭
8.33~
26.7
教室
0.25~
7.65
家庭
0.002
~0.10
表1~4 ハーデルらが発表した5G基地局のケーススタディ論文の概要
健康な人が5Gで症状、電波が低ければ改善
図1 事例4の家族が住むアパートAと、2基の基地局(BとC)との位置関係(論文より)

 これら8件の研究は、5Gによる健康影響について、共通する傾向を示しています。
 まず、5G基地局が近所に出現なる前は、まったく健康だったか、または、持病がありつつも概ね健康でした。5G以前に3G、4Gが近所に存在していたケースでも、住民らは特に健康影響を感じていませんでした(以前から電磁波過敏症だった事例7を除く)。
 また、5G基地局によって症状が出た人々は、5G基地局が近所になく電波が低い環境への転居などの対応によって症状が消失または大幅に改善することも、共通しています(事例4、7は対応についての記述なし)。

典型的なマイクロ波症候群

 5Gが近所に登場した後に住民らに見られた症状は、典型的な「マイクロ波症候群」の症状だとハーデルらは述べています。
 マイクロ波症候群について、ハーデルらは事例6の論文で、以下の通り説明しています。

 マイクロ波症候群、マイクロ波被曝の影響による病気や疾患は、1960年代と1970年代に東欧諸国ですでに報告されている。被曝労働者の調査から、非熱レベルのマイクロ波(高周波)被曝が、疲労、めまい、頭痛、睡眠障害、不安、注意力や記憶力の問題などの症状を引き起こすことが示された。これらの研究および動物を用いた研究のレビューでは、非熱レベルのマイクロ波放射への曝露により「驚くほど多様な神経学的・生理学的反応が予想される」と結論付けられている。

 また、マイクロ波症候群と電磁波過敏症との違いについて、ハーデルらは事例4の論文で、以下の通り説明しています。

 マイクロ波症候群は、電磁波過敏症(EHS)…に似ている。しかし、マイクロ波症候群とは異なり、EHSに罹患している人は、他のほとんどの人が耐えられるような極めて低い曝露レベルで、過敏な症状を発症することがある。それとは対照的に、私たちが実施した四つの事例研究では、無線技術に大きな反応を示したことのない健康な人が、携帯電話基地局の近くで、高周波症とも呼ばれるマイクロ波症候群の症状を引き起こすリスクを高めることが報告されているレベルをはるかに超える被曝のために発症した。

 つまり、電磁波過敏症のように「弱い」電磁波に反応して症状が出るのではなく、過敏症でない方々にも病気を引き起こしうると研究報告されているような「強い」電磁波に曝露された結果として起こる症状が、マイクロ波症候群だ、とハーデルらは言っています。

非熱的影響は信号の変調、ピーク強度などにもよる
表5 事例2の①の男性のオフィスでの測定値。1分間測定したピーク値(論文より)。単位はμW/m2なので、μW/cm2にするには表の数値を1万分の1にする

 ただし「強い」と言っても、8件の事例で測定された電波の強さは、いずれも国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が定めている国際指針値(2GHz以上は1000μW/cm2)を下回っています。国際指針値は、欧州を含め多くの国々が自国の規制値として採用していて、日本の規制値である電波防護指針も、ほぼ同等です。しかし、国際指針値は電磁波の熱作用による健康影響だけを防ごうとしているものであり、熱作用を起こさない程度の強さの電磁波による非熱作用に対しては無防備です。マイクロ波症候群は、電波による非熱作用による健康影響であり、ハーデルらは「非熱的影響は、主に信号の変調やパルスに依存し、ピーク強度や平均強度にも依存する。パルス信号や複数の周波数への同時曝露は、より多くの影響を引き起こすため、より危険であると考えられている。観察された影響は、曝露時間とともに増加した」と述べています。
 ハーデルらが8件の論文で示している測定値は、1分間測定したうちの「最大強度(ピーク値)」です。携帯電話の電波は、情報を詰め込んで高速化するために複雑なデジタル変調をしていることから、その強さが短時間で大きく変動します。表5は、事例2の論文からの引用で、電波の強さが大きく変動し、かなり強い電波も出ていることが分かります。
 事例1では、5G基地局が設置される前、まだ3G、4G基地局しかなかった時の、この夫婦の寝室の電波の強さ(ピーク値)は0.9μWcm2でした(2021年11月)。5Gができることを知った夫婦が、自分たちで測定したのです。5Gが出来て夫婦に症状が出た後の測定では、寝室の電波のピーク値は35.4μW/cm2(同12月)、169μW/cm2(22年2月)に跳ね上がりました。5Gは、4Gまでと比べてピーク値が強く、そのために、健康影響がより多発してしまっている可能性があります。
 一方で、国際指針値は、6分間の平均値が基準値を下回っていればOKだと決めています。平均することによって、極めて強いピーク値は無視されます。しかし、電磁波の非熱効果を重視するハーデルのような研究者たちは、平均値だけではなく、ピーク値が健康影響に特に関係していると考えています。
 事例1で夫婦の寝室に169μW/cm2という極めて高いピーク値を測定したときの平均値(論文には2~5分間の平均値と記載)は、0.5~2.0μW/cm2でした。ピーク値より2~3桁も低いのです。

電磁波への感受性は個人により異なる

 ハーデルらはまた「高周波電磁波に対する感受性は個人によってかなり異なることが知られている」ことも指摘します。事例4では、寝室の電磁波が家族の中でもっとも弱かった19歳の女性が、家族の中でが最も重い症状を訴えました(家族の中では相対的に電磁波が弱かったですが、基地局の近くに住む人を対象とした他の研究で報告されている体調不良リスクを増加させるレベルは超えていたと、論文で述べられています)。この女性は、2基の基地局が設置される前から、睡眠障害、体や関節の痛み、脈拍が高くなるなどの健康問題を抱えていました。そのために、電磁波に対してより脆弱だったのかもしれません。
 ハーデルらは、一連の事例研究論文の中で、次のように訴えています。
 「(電磁波が強いところで症状が出て、弱いところで症状が消失、軽減することについて)これは、健康と5G放射線に関する誘発テストと見なさなければならない」
 「RF放射線(高周波電磁波)の病気に対して採用できる医学の倫理的・道徳的原則は、生命の尊重、人間の尊厳、自己決定、医療、正義、利益である。これらの原則は、物理学者やその他の医療スタッフの倫理にとって中心的なものである。これらの原則はすべて破られ、事実、さまざまな症状を伴うマイクロ波疾患は、医学界では病気として認められていない。これは、このトピックに関する科学的知識の欠如に基づくものである」
 「このケーススタディ(事例8)は、5Gの拡大を止め、既存の基地局を解体することが早急に必要であることを示すもうひとつの例である」

日本の5Gの現状

 さて、これまで述べたことをいきなりひっくり返す意図はまったくないことを強調しつつ、ぜひ聞いていただきたいことがあります。
 ハーデルらによると、スウェーデン都市部での5Gの使用周波数は約3.5GHzとのことですが、現状の日本では、一口に5Gと言っても、①5G用の周波数である「ミリ波(28GHz帯)」、②5G用の周波数である「Sub6(サブシックス。3.7GHz帯、4.5GHz帯)」、③4G用の周波数(700MHz~3.5GHz)を5Gに転用したり、5Gと共用している、いわゆる「なんちゃって5G」-があります(表6)。KDDIやソフトバンクの5Gは③が多いです。③は帯域幅[1]が4Gと変わらないため、通信速度も4Gと同じです。「5Gであっても、ほぼ4G並み」という基地局が少なくないのです。そして忘れてはならないのは、4G以前でも健康被害事例があることです。つまり、5Gを極端に特別視しないほうが良いということを、私は言いたいのです。身近に5G基地局ができて体調が悪化した場合、本当に5Gのせいかもしれませんし、たまたま同じタイミングだっただけで、本当は違う原因(4GやWi-Fiなどの電磁波、または電磁波以外)かもしれません。真の原因を把握したうえで、必要な対策を取る必要があります。
 もちろん、自分の家、職場、学校の近くへの5G基地局設置に反対することは、正当な行為です。時に楽天は、ほぼすべての基地局からミリ波が出ています(会報第141号参照)。ミリ波はこれまで私たちの生活環境にほとんど存在していなかったものなので、こちらは特に警戒したほうが良いと思います。
 ハーデルとニルソンによるケーススタディ論文のタイトルは、以下の通りで、すべてネット上で公開されています。
事例1 Case Report: The Microwave Syndrome after Installation of 5G Emphasizes the Need for Protection from Radiofrequency Radiation
事例2 Development of the Microwave Syndrome in Two Men Shortly after Installation of 5G on the Roof above their Office
事例3 Case Report: A 52-Year Healthy Woman Developed Severe Microwave Syndrome Shortly After Installation of a 5G Base Station Close to Her Apartment
事例4 5G Radiofrequency Radiation Caused the Microwave Syndrome in a Family Living Close to the Base Stations
事例5 A 49-Year-Old Man Developed Severe Microwave Syndrome after Activation of 5G Base Station 20 Meters from his Apartment
事例6 Case Report: Both Parents and their Three Children Developed Symptoms of the Microwave Syndrome while on Holiday near a 5G Tower
事例7 A Woman aged 82 years with Electromagnetic Hypersensitivity since Almost Four Decades Developed the Microwave Syndrome after Installation of 5G Base Stations in her Living Vicinity – Ethical Principles in Medicine are violated
事例8 An Eight Year Old Boy Developed Severe Headache in A School Close to A Mast with 5G Base Stations

[1]帯域幅は、通信に使用する電波の周波数の範囲。道路が広いと多くの車が高速で走行できるのと同様、帯域幅が広いほどより高速に通信できる。

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