基調講演「もう一つのヒバク 電磁波について」

荻野晃也さん(電磁波環境研究所所長)

 今回の催しの名前は「もう一つのヒバク」だが、ガンマ線やエックス線(放射線)も電磁波の仲間だ。ガンマ線やエックス線は発がん性が知られていたが、ここ数十年、もっと周波数が低い電磁波もどうも人間に悪いようだと言われてきたのが電磁波問題だ。

生物進化と電磁波
 私は電磁波問題は地球環境問題であると言っている。科学技術の進歩により現在は図の④のようになっていて、一番右側がまさに福島第一原発事故で汚染しているガンマ線だ。
 自然界にはシューマン共振電磁波(図③)という地球と共鳴している電磁波があり、これが脳波の分類とたいへんよく似ているので、生物の脳に電磁波が影響を与えるのではないか、何か生物との関係があると確信している。
 生物発生学では「個体発生は携帯発生を繰り返す」がテーゼだ。つまり、人や動物が生まれる過程で生物進化の過程を再現する。ヤモリやネズミのような胎児が「進化」して人間になって生まれる。
 生命の誕生はたぶん深海だろうと最近は考えられている。深海へは太陽光は届かないが電磁波は届く。電磁波が届くと地球の磁場とともにいろいろな物質がらせん状に回転する。それでDNAはらせん形なのかもしれない。
 生物が深い海から浅い海へ移動し、太陽光線を利用することによって光合成で酸素が発生してオゾン層が形成されると、オゾン層で生命が守られるようになり、生物が上陸して、酸素を利用する。酸素を利用すると、発がんなど体にいろいろな悪い問題が出る。そのために抗酸化機能を獲得した。発がんに関しては酸化ストレス、抗酸化機能の劣化が今ものすごく注目されている。放射線でも電磁波でも一緒だ。免疫機能にも影響を及ぼす。
 台湾の鉄筋汚染アパートの放射線分布をNHKに頼まれて1993年に測定した。コバルト60のガンマ線の測定だったが、この部屋は、大まかに言えば、現在の福島の屋外の放射線強度に相当した。そのアパートの疫学調査(1983~2005年、対象者6242人)では、乳がんと白血病が増加していた。
 スウェーデンのトンデルさんという方がチェルノブイリ汚染地域での発がんについて論文を発表した(1988~1996年、約100万人対象)。わずかであれ汚染の危険性を示していた。トンデルさんは電磁波過敏症のお医者さんでもあり、3年前に大阪で講演していただいた。今年2月には福島市で講演されている。

低線量被曝の問題
 ナショナルジオグラフィックという英語の雑誌の記事には、日本人は温泉で放射能の強い温泉を飲んでいて、不思議な国民だと書いている。
 エックス線は体に悪いが、病気が見つかるから使うことを選択している。しかし、オックスフォード大学の研究によると、日本のがん発症の3.2%は放射線診断が原因と推定され(『読売新聞』2004年2月10日付)、この数字は先進国の中では突出している。日本でがんで死ぬ人は年間35万人なので、ざっと計算すると1万人はエックス線で発がんしている可能性がある。
 被曝量100ミリシーベルト以下は影響があるかどうかが議論になっているが、こういう議論は電磁波もまったく一緒。あるレベル以下の影響はなかなか分からない。このなかなか分からないところが今問題になっている。
 太陽の光も危ない。太陽の光に耐えられる生物が進化して生き残っただけ。人間は太陽の光にいろいろな免疫機能を獲得することで生きのびたが、そういう免疫機能を持たない人たちも、原因は分からないが、だいたい日本には100人おられる。しかし、太陽光からは逃げられない。自然放射線も逃げられない。自然放射線のレベルなら安全と言うが、日本の自然放射線で発がん死している人は、私の推定では数万人はいると思う。
 電子レンジのマイクロ波の強度が半分になる物質の厚みは、氷だと10m、水は1cm。水にものすごく吸収されるから、電子レンジで物を温めることができる。電子レンジに水と氷を入れてチンしても氷は全然溶けない。電磁波の不思議な性質の一つだ。
 ドイツの論文によれば、エックス線を当てた場合と、携帯電話の電磁波を当てた場合に、細胞が同じように崩れる。
 太陽から来る電磁波のうちマイクロ波は地球上ではたいへん弱い。しかし、マイクロ波が携帯電話の普及などにより異常に増えてきたのに、生命は耐えられるのか。皆さんがお持ちの携帯電話を月に置いて発信させると、宇宙にあるどんな電波星よりも強くなる。
 宮田幹夫先生(北里大学名誉教授)は「身体は電気で働くから、電磁波の影響を受けないわけではない」とおっしゃっているが、名言だと思う。人間などの体はわずかな電気で動いている。たとえば、カエルの手を切ると、電位が変わらず再生されない。サンショウウオは、電位が変わって再生する。再生能力が落ちていくと、発がんしやすくなる。ミミズは再生能力があり発がんはほとんどしない。人は再生能力が落ち発がんしやすい。
 送電線や配電線周辺での小児白血病についての論文が六十いくつかあって、ほぼ危険だということが世界中確定していると言って私は良いと思う。

高周波電磁波の影響
 携帯電話と精子についての論文も60以上ある。2009年の論文では、ラットを携帯タワー近くに置いて調べた論文で、精子の頭の奇形の率と電波の強さが相関していた。
 精子をやられると、男の子は早く死んでしまう。日本の胎児死は男の子が増え続けて、女の子の2.2倍ぐらいに。ドイツやアメリカではほとんど変化していない。この原因はきちっと調べられていない。
 去年の初めと9月にPET(陽電子放射断層撮影)で脳を調べた論文が出された。携帯電話を使っていると脳にグルコースが減る所が見つかった。逆に、携帯電話を使うと脳のグルコースが有意に増えるという論文も出された。PETや遺伝子操作などの最近の技術で危険性の原因を調べることが可能になりつつある。
 過去の論文の発症率をもとに、将来は電磁波過敏症の発症率が50%になると推定した論文がある。今年3月に発表されたポーランドの論文では携帯基地局周辺で頭痛が50%だったので、もしかしたら推定通りになるかもしれない。
 福島の原発事故で、てんやわんやしている時に経済産業省は法律を変えて、送電線などの規制値を200μTに引き上げた。電力会社は大喜びをしている。零.数μTで白血病が増えるという論文がいっぱいあるというのに。
 危険性が確定するまで待つわけにはいかないということで、ヨーロッパを中心に予防原則で規制を厳しくしている。日本ではこういう感覚がまったくない。
 ケネディ大統領の教書に書かれ、米国消費者基本法に入れられた「消費者の権利」(安全である権利、知らされる権利、選択できる権利、意見を反映される権利)。これがまったくないことは、福島原発事故を見ても明らかで、本当に日本は困った国だと私は思っている。
 社会的責任に関するガイダンスISO26000が一昨年11月に発行された。予防的アプローチとして、ノイズ、におい、光線汚染、電磁波、放射線が入った。要するに予防原則思想で対処しようと決心していることがISO26000の背景だと思う。
 これから拡大する可能性があると気にしているのが、スカイツリー、リニア中央新幹線、スマートグリッドのメーターだ。
 高峰真弁護士から昨日見せてもらったスイスのパンフレットによると、驚いたことに2005年の段階でスイスではすでに、携帯電話基地局の電波の起こりうる影響(発がん分類の2A相当)に頭痛とかが入っている。
 基地局問題はほとんど知られていないが、これからも日本中に発信していかなくてはならないと思う。【まとめ・網代太郎】

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