携帯電話使用のための10の予防策

国際的専門家委員会勧告に基づくピッツバーグ大学がん研究所としての勧告

最近の研究分析
 携帯電話から発生する電磁場(ElectroMagnetic Field)には、潜在的にヒトへの健康リスクがあるとみなされるべきだ。広く行き渡った技術である携帯電話やコードレス電話の生体影響に関して、結論的データを得るには、まだ多くの時間が必要である。
 ヒトの研究は、携帯電話が安全であるとも明確に危険であるとも、どちらもまだ示していない。しかし、電磁場に曝露を低減すべきであることを、増大しつつある証拠は示している。ところが、この重要な問題についての研究は継続中だ。
 メーカーは、携帯電話やワイヤレス電話から電磁放射線(electromagnetic radiation)が出ていると報告している。EMF(電磁場)は、成人の脳より子供の脳により深く浸透するようだ。幼児は、脳の大きさが小さくかつ脳細胞が柔らかいので、より影響を受けると推定できる。

  1. 携帯電話のEMFはとりわけ子供の脳浸透するとみられる。
  2. 生きている細胞は、一般的な基準、すなわち組織1グラムあたり、出力しきい値(1.6ワット/キログラム)を下回るレベルで、携帯電話(800~2200メガヘルツ)周波数帯のEMFによって影響を受ける。特に、血液脳関門への浸透増大やストレス蛋白質の合成増大にも、EMFは影響を与える。

 少なくとも10年間携帯電話を使用し続けている人を対象とした、最も新しい研究では、携帯電話を当てている側の脳がんと特定の良性腫瘍(聴神経)に、相関関係があることが示されている。
 しかしながら、現在まで実施された携帯電話に関するヒトの疫学調査では、結論に至っていない。最近における携帯電話使用の増大でもって、長期間使用による健康影響の評価を下すことはまだできない。曝露とがんの関係が十分確立し、リスクが非常に高い場合であって、たとえば、タバコと肺がんのようなケースでも、同じような研究条件(たとえば10年未満の喫煙歴の人のように)ならば、リスクは15年から35年後に出てくるので、がんの増大リスクを立証することは、不可能でないにしても難しい。

10の予防策
 ヒトへの携帯電話EMFの発がん影響に関しては、決定的な証明がないため、(タバコやアスベストのような)防止策(preventative measures)の必要性を主張することはできない。長期間の観察に基づく、さらに決定的なデータが見越して、携帯電話ユーザーに対して、重要で慎重でシンプルな予防策(measures of precaution)を共有することが、現段階のデータから私たちができることだ。いくつかの国や国際的報告書などで、そのような様々な提案がすでになされている。そのような予防策は、すでにがんに苦しんでいる人や病気の進行を促進する外的要因を避けようとしている人には、重要なことのように思える。

  1. 緊急時を除いて、子供には携帯電話を使わせない。胎児や子供は器官が発達段階なので、EMF曝露の潜在的影響を非常に受けやすいように思われる。
  2. 携帯電話を使う時は、出来る限り携帯電話を身体から離すようにする。EMFの強度は2インチ(訳注;5センチメートル)離れると4分の1になり、3フィート(訳注;90センチメートル)離れると50分の1になる。可能ならばスピーカーフォン・モード(注;携帯電話を手に持たず通話できる方法)や無線ブルートゥースを使いなさい。そうすればEMFは百分の1以下になる。付属品のヘッドセットも曝露を低減させるであろう。
  3. あなたの携帯電話から出るEMFが他の人を曝露させてしまうような所、つまりバスの車内のような所では、携帯電話の使用は避けよ。
  4. 携帯電話を常に身に付けることは避けよ。夜中、枕の下やベッド脇の小机のような、あなたの身体の近くに携帯電話を置くな。特に妊婦は注意せよ。また、EMFが携帯電話から放出しない状態である、フライトやオフラインのモードにしておけ。
  5. 携帯電話を身に付けなければならない時は、キーパッド(訳注;操作パネルのある表側)を身体側に向けて、裏側を身体の外側に向けておくのが望ましい。そうすれば、携帯電話の厚さにもよるが、曝露を低減するのに役立つ。
  6. 電磁波の生体への影響は、曝露時間と直接関係するので、連絡をとったり数分間通話するなど、限定して使え。長電話の場合は、コードレス電話でなく固定電話を使え。コードレス電話は携帯電話と同様の技術なので、EMFを出して使うものだからだ。
  7. 携帯電話がつながる時に電磁波が多く出るので、(それを避けるため)正しく使え。携帯電話が相手と繋がるまでは、携帯電話を耳に当てないこと。こうすれば、耳の辺りで放出されるEMFを少なくできるし、曝露時間も少なくできる。
  8. 送受信電波が弱い時や高速で移動している時は、携帯電話をなるべく使うな。たとえば車や電車内の場合だ。移動中だと携帯電話は新しい中継アンテナと繋がろうととして何回も発信する。そうなると、自動的に携帯電話は出力を最大にしようとする。
  9. 可能ならば、通話よりテキストメッセージ(訳注;電子メール)を使え。曝露時間は減るし、身体からも離れる。
  10. 携帯電話はSAR値が最も低いものを選べ。(訳注;SAR=特異吸収比、身体に吸収される磁場強度の尺度)。メーカー毎の機器の最新のSAR表は、インターネットの「携帯電話SAR表」で検索できる。

結論
 携帯電話はすぐれた発明品であり、社会的に重要な発展をもたらした。社会は、もはや携帯電話なしでは回らない。専門家委員会メンバーは、誰一人として携帯電話を使うのを止めないし、止めようとも思わない。メンバーには、16年間脳がんを患っているダビッド・サバン・シュライバー(David Servan-Schreiber)博士もいる。しかしながら、私たちユーザーは皆、携帯電話の生体への影響に関する最近の科学データを基に、予防策(precautionary measures)をとる必要がある。とりわけ、すでにがんを発症している人はとらねばならない。
 さらに、メーカーやサービス・プラバイダーも、また責任を負わねばならない。リスクができるかぎり低い機器や装置を提供したり、常にリスクを最小にする方向で技術開発をしていくことは、彼らの責任である。メーカーやプロバイダーはまた、ユーザーの健康保護と両立するような方法で、機器を使うようユーザーに勧めるべきである。
 1980年代早期、アスベスト鉱山のオーナー達は、亡くなった労働者の家族によって起された訴訟の結果、破産に陥った。その2~3年後、最大のアスベスト会社の中心的経営者だった、ジョンズ・マンビルは、長年にわたってアスベストの危険性に警告を鳴らす医学データや科学者たちと、企業側の立場で闘ってきたことから教訓を学んだ。懺悔からして、彼は以下の結論に至った。公衆に対して大きく警告すること、有効な予防策を確立すること、医学的研究を一層進めること、それらが実行されれば、命は救えたであろうし、おそらく、利害関係者や企業やアスベストのためにも役立ったであろうと。
 私たちは携帯電話会社に対し、適切な研究が行なわれるために、携帯電話使用歴に個人がアクセスできるよう要求する。
 それが今日、携帯電話会社に望むことである。私たちは、携帯電話の禁止を求めてはいない。そうではなく、携帯電話が病気の最大の原因にならないようにするため、携帯電話技術を改良し、利用していく必要があるとしているのだ。【抄訳・渡海伸】

原文:The Case for Precaution in the Use of Cell Phones Advice from University of Pittsburgh Cancer Institute Based on Advice from an International Expert Panel

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