高周波電磁波がミツバチの帰巣に悪影響 ドイツの研究

左側が電波を曝露させた八つのコロニー(群れ)右側が曝露させない(対照群)八つのコロニー=論文より

 高周波電磁波(電波)がミツバチの帰巣能力に悪影響を与えるというドイツの研究者らによる実験を報告した論文が、6月に公表されました。ミツバチへの低周波電磁波による悪影響、高周波電磁波による悪影響は、これまでも指摘されていました。
 ホーエンハイム大学ミツバチ研究所のManuel Treder(トリーダー)、カールスルーエ工科大学通信工学研究所のMarcus Müller(ムラー)らによる学際的な研究です。
 実験は2020年7~9月と、2021年7~10月に、ホーエンハイム大学ミツバチ研究所で行われました。カールスルーエ工科大学通信工学研究所がこの実験のために、現実的な電磁放射を発生する装置を設計、製作しました。Wi-Fiで一般的に使用されている2.4GHzと、5.8GHzの電波を同時に放射するだけでなく、Wi-Fiと同じパケットを発生させると論文に書いているので、すなわちこの装置はパルス状の電波を出すのでしょう。
 図のように、曝露群のコロニー(群れ)8個と、対照群のコロニー8個とで比較しました(右上の図)。
 長期曝露と短期曝露の実験を行い、長期曝露は実験開始の約7週間前から曝露を始め、実験中は曝露を継続し、サンプリングしたハチには巣の外で追加で40分の曝露を行いました。短期曝露は、40分曝露させました。
 帰巣能力については、コロニーから500m離した場所にハチを移動させ、帰巣の成功回数を比較。成功したハチは長期曝露群95.2%に対して長期対照群が78.6%で、電波曝露に統計的有意な悪影響がありました。また、長期曝露群のほうが対照群よりも帰巣するのに20%余計に時間がかかりましたが、この差は統計的有意ではなかったとのことです。また、短期曝露の影響は見られなかったとのことです。
 産卵と子蜂の成長については、曝露群と対照群との間に、差は見られませんでした。
 成虫の寿命については、曝露させないで育てた成虫を、長期曝露群または対照群の巣箱へ入れて観察しました。寿命は前者の17.7±0.61日に対し、後者が19.0±0.68日とやや長命でした。ミツバチは通常、最初の7~10日間をコロニー内の比較的安全な環境で巣内作業に従事します。上記の通り高周波電磁波は帰巣に影響を与えることから、寿命についてはハチが採餌を始めてから影響を受ける可能性があります。そこで、ハチが集蜜を開始する通常の期間(11~29日目)の生存率を比較したところ、2群間に有意な差が認められたとのことです。
 論文は、「高周波電磁波は非致死的なストレス要因として作用し、ミツバチの帰巣成功率を低下させるため、採餌蜂の損失を引き起こす」「営巣地や社会性の程度が異なるため、野生のハチは電磁波の悪影響を受けやすい可能性がある。多くの野生ハチ種が絶滅の危機に瀕しているため、こうした知識の不足に早急に対処する必要がある。グローバル化し、相互に結びついた世界では、電磁波のない環境はほとんどない。電磁波曝露がハチや昆虫のコミュニケーション、学習、記憶、発達に及ぼす非致死的な影響について、早急に理解を深める必要がある」と述べています。【網代太郎】

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