米裁判所が自治体の基地局拒否権限を認める 「連邦法が規制を禁じているのは通話についてのみ」

ニューヨーク州の村、18の基地局の設置申請を却下

環境健康トラスト(EHT)のウェブサイトより

 米国ニューヨーク州フラワーヒル村が、同村の公道上への18基の「スモールセル(カバーエリアが小さい)」4G基地局設置を、条例に基づいて拒否しました。携帯電話事業者側は、同村の条例は1996年電気通信法違反だとして提訴しましたが、連邦地裁は、村の規制権限を認める画期的な判決を2022年7月に下しました。
 米国では、携帯電話基地局からの電磁波による健康影響の懸念や、基地局が街の美観を損ねるなどの理由から、基地局を独自に規制していた自治体がありました。しかし、1996年電気通信法が制定され、「州、地方自治体、またはその機関は、無線周波数放射の環境影響に基づいて、個人用無線サービス設備の配置、建設、および変更を規制することが出来ない」と規定されたことにより、自治体による規制が難しくなりました。
 フラワーヒル村周辺の4G通信が不十分だという携帯電話事業者ベライゾンの判断により、基地局設置会社ExteNetが2017年5月、基地局1基の許可を村へ申請しました。村は基地局規制条例を検討中だったため、申請への対応を一時停止していました。その条例は2019年に制定され、その時点でExteNetは18基の基地局を申請していました。そして、村と同社との協議や、ExteNetからの申請書の修正、複数の公聴会などの手続を経て、村はExteNetからの申請の却下を決定しました。
 却下の理由は、①小さな村に18の基地局を設置することは、美観や資産価値に大きな悪影響を及ぼす、②ベライゾンの既存基地局による電波エリアにギャップ(空白地帯)はなく大きな悪影響を正当化する理由がない、③ExteNetが18の基地局の実際の設置計画を提出せず、基地局の異なる位置の複数の案しか提出しない-などでした。
 ExteNetは、1996年電気通信法に基づき、村の基地局規制条例は個人向け無線サービスの実質的禁止であるなどと主張して、村を相手取り提訴しました。

速度向上は法律で保護されない
 地裁のBlock(ブロック)判事は、1996年電気通信法が規制を禁じているのは、携帯電話の通話サービスだけであり、既存の基地局によって村全体で電話をかけることができているとして、ExteNet社の訴えを退けました。ブロック判事は判決で「容量と速度の向上は、スマートフォンの時代には望ましい(そして間違いなく、利益を生む)目標だが、同法では保護されない」と述べました。
 フラワーヒル村の本件についての記事を掲載した環境健康トラスト(EHT)の法律アドバイザーであるRobert Berg(ロバート・バーグ)弁護士は「ブロック判事は非常に尊敬されているベテランの法学者であり、ブロック裁判官の判決は他の裁判所にとっても説得力があると信じている。この判決を関係者に広く普及させることを推奨する」と述べています。
 日本も同様ですが、スマートフォンのさらなる通信速度向上のために、特に都市部では、カバーエリアが小さい基地局がたくさん設置されていく傾向にあります。しかし、既存の基地局によって、日本のほとんどの場所で通話や通信は問題なくできています。私たちが近隣の基地局新設に反対してそれを阻止しても、携帯電話ユーザーに迷惑がかかることはありません。5Gの超高速通信などは、スマホのほとんどのサービスには無用の長物だからです。【網代太郎】

参照
Environmental Health Trust「VICTORY IN FLOWER HILL, NY: COMMUNITY BEATS WIRELESS COMPANY’S FEDERAL LAWSUIT AFTER DENYING PERMITS FOR 18 “SMALL CELL” WIRELESS ANTENNAS」2022年8月31日

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