NHKバラエティ番組が「意外な妨害電波」発生源を紹介 太陽光発電システムなど対策の不十分さ浮き彫り

 NHK総合テレビで10月20日に放送された「所さん!事件ですよ」で、私たちにとって身近な物も含む意外な物からの電波が電子機器の正常な動作を妨げたりする事例が紹介されました。いわゆる電磁障害(EMI:Electromagnetic Interference)の問題などを取りあげた番組であり、電磁波によるヒトへの影響については、一切触れられませんでした。それでも、興味深い内容でしたし、番組が明らかにした電磁障害への対策の不十分さは、ひいては私たちの健康に影響する恐れがあるのではないかと、筆者(網代)は考えました。なお、「所さん」は、この番組に出演しているタレントの所ジョージさんのことです。

GPSの不具合で飛行機が欠航
 番組で取りあげた最初の事例は、石川県の小松空港でのこと。離陸直前に機長が、GPSの電波を受信できていないことに気付き、欠航となりました。調べたところ、全国で小松空港周辺だけGPS受信の異常が起きていたため、同空港の近くで妨害電波が発生している可能性が浮上。総務省北陸総合通信局が、まずDEURAS(デューラス)というシステムで電波発生源の大まかな位置を特定。通信局の職員が現地へ行き、スペクトラムアナライザという電波測定器で詳しく調べました。その結果、工事現場のクレーン車に付けられたワイヤレスカメラが原因と分かりました。操縦席から吊り荷を見やすくして安全確認を確実にしようと、操縦者が自分で買って付けた海外製品でした。海外製の無線機器の中には、日本と周波数が異なり、電波も強力なため、国内での使用は違法となるものがあります。しかし、ネット上では堂々と販売され値段も手頃なため、購入する者が後を絶たないと番組は指摘。操縦者は「違法な電波が出ているとは知らなかった」「まさか空港まで影響するとは思わなかった」と番組の取材に答えました。
 生活環境中には様々な電磁波発生源があるということは百も承知ですが、それら発生源の中に、違法となるほど強い電波を出すものも決して珍しくはないことを、筆者は認識させられました。

ワイヤレスカメラが設置されていたクレーン(総務省のウェブサイトより)

 ネットで検索したら、2020年12月の出来事で、工事現場は小松空港から数km離れた小松市内でした[1]。また、DEURASについても調べました。電波の強さや到来方向の計測などを行う受信設備を備えた「センサ局」と、センサ局を遠隔操作する「センタ局」によって構成。センサ局は全国に347局あり、センタ局は全国11の総合通信局などに設置されています[2]。センサ局は電波を受信する施設なので、センサ局じたいから強い電波が出ていることを心配する必要はないでしょう(センサ局がセンタ局と通信するために携帯電話の電波を利用する場合はあるようです)。

防災無線への混信
 番組が詳しく取りあげた事例の二つ目は、埼玉県上尾市の防災無線でした。市内122カ所に設置されている防災無線のうち、1カ所で混信が起きていることが昨年11月に分かりました。スペクトラムアナライザで調べたところ、ある家の太陽光発電システムから出ている電波が原因と判明。その家の住民は、「まさか自分の家の太陽光発電が防災無線に影響を与えていたとは」と、とても戸惑っていたとのことでした。

取材拒否が続出
 「番組ディレクターは太陽光発電システムを製造販売するメーカーや設置業者10社以上に取材を申し込んだが、なぜかことごとく断られた」とのナレーションに、所さんも「答えたくないってこと?」といぶかしげ。
 結局、上尾市の事件とは関係がないと示すことを条件に、ある大手メーカーが取材に対応。メーカーの担当者は、太陽光パネルで発電した直流の電力を、家庭で使ったり電力会社に売ったりできるよう交流の電力に変換するパワーコンディショナーという機器から電波が発生すると、説明しました。秘密でもなんでもないですが、なぜ取材拒否が相次いだのでしょう。

番組で、太陽光発電システムから電波が出ることを説明。出演者らは一様に「知らなかった」。

 ディレクターが「電波というのは原理的に出てしまうものなのですか」と質問すると、メーカーの方は「はい、そうなんです。私たちメーカーとしては、無線機器やラジオ局が近くにある場合は太陽光発電システムの設置に関して十分気を付けてください、もしくは設置はできませんという注意を呼びかけております」と答えました。
 アナウンサーが「パワーコンディショナーから電波が発せられるって知ってました?」と問いかけると、出演者の木村佳乃さん(俳優)は「知らなかった」、所さんも「知らないよねえ」と返事。電磁波問題に常に関心を寄せている私たちとっては「常識」であっても、一般にはほとんど知られていないことを思い知らされました。所さんは「今日このテレビを見て気がついちゃった人もいるだろうね。ここから電波が出ていたんだ、うちが調子が悪いのはとか」とコメントしていました。「うちが」は「うちの家電が」という意味だったのでしょうか?

対応可能なのに、対応を求めない
 上尾市のケースでは、施工業者が、パワーコンディショナーの基板を取り替え、配線に妨害電波を抑える部品を取り付けて、混信が起きないようにしたそうです。そのような対応が可能であるのなら、トラブルが起きる前から、そうしておくべきだったのでは、と筆者は思いました。
 現在、太陽光発電システムを備えた住宅は全国で267万戸、全体の約9%の割合とのことです。東京都で新築住宅への太陽光発電システム設置義務化が検討されているなど、今後、さらに増えていくことが考えられます。
 番組が総務省に問い合わせると、「太陽光発電システムのパワーコンディショナーが混信原因だった事案が年間程度数件あることは認識している」「同様の事象が発生した場合には混信排除に向けた取り組みを行っていく」との答えでした。これに所さんも「総務省、何言ってるんですかね。やらなきゃダメに決まっているじゃないねえ」と苦言を呈していましたが、「同様の事象が発生した場合には」ということは、すなわち、影響が出てから、より正確には影響が判明した場合のみ、対応するということになります。言い方を変えると、事前の対応が可能であるにも関わらず、総務省としては、その対応を製造時に義務づけるつもりはない、ということです。
 番組で紹介された行政防災無線やGPSは、多くの人々に影響が出るケースであり、総務省の総合通信局が出動して電波障害の原因を調べました。しかし、これらは氷山の一角なのでしょう。たとえ、個人宅のテレビが壊れても、それが電磁障害のせいだとは、ほとんどの人々は思わないでしょうし、その疑いを持ったとしても、一市民による確証の無い要請を総合通信局は調べてくれないでしょう。
 メーカーがコストダウンのために、やればできる電磁波削減対策すら行っていない(だから後ろめたくて取材を拒否したのでしょうか)せいで、ますます環境中に増えている電磁波が、判明しているよりも多くの電磁障害トラブルを引き起こしていると考えられます。そして、それらの電磁波が電磁波過敏症の方々を苦しめたり、あらたな健康影響を引き起こしている一因にもなっている可能性は大いにある、と感じました。

車から閉め出される
 番組が最後に取り上げたのは、便利さの中の落とし穴と言えるトラブルでした(が、前の2例のように電磁障害が原因なのかどうかは、放送内容からは分かりませんでした)。
 ある男性が、無人レンタカーを借りました。スマホの専用アプリで予約し、スマホから出るブルートゥースという電波で自動車と通信してドアの鍵を開け、エンジンをかけるときはスイッチを押すだけなので、普通の鍵は使いません。
 男性は東京でレンタカーを借り、岐阜県の飛騨へ出かけました。旅館に宿泊し、車は旅館の駐車場に停めました。翌日、出発しようとしたら、車の鍵が開きません。男性はサポートセンターに連絡し、指示に従って電波を切ったり入れたり、アプリを再インストールしたり、あらゆる手段を尽くしましたが、事態は改善しませんでした。真夏の暑い日で、けっこうつらかったと、男性は振り返っています。1時間後、レンタカー会社が契約しているロードサービスが到着。特殊な工具でドアの鍵を開けようとしましたが、鍵をこじ開けると車の防犯機能が起動して瞬時に再ロックされてしまい、ドアを開けることはできませんでした。結局、レンタカーはあきらめて、タクシーや鉄道を乗り継いで帰宅しました。
 後日、レンタカー会社は「ある特定の条件下でシステムのバグが起きた」と説明、代車を用意すべきだったと男性に謝罪しました。レンタカー料金やかかった交通費も全額返還されました。男性は「トラブルが起きたのが旅館の駐車場だったのは不幸中の幸い。同じことが冬の山の中で起きたりしたら命に関わった」。
 レンタカー会社によると、こうしたトラブルが起きたのは1件のみで、システムのバグの解消後は同じような不具合は起きていないとのこと。所さん「便利なものは、それだけリスクもあると思いますよ」とコメントしていました。
 電波利用は便利かもしれませんが、故障を完全に避けることはできませんし、国内外からの意図的な攻撃にも脆弱です。便利は怖い、とあらためて感じました。【網代太郎】

[1]総務省「重要無線通信への妨害源を排除 ~ワイヤレスカメラによる混信~」2021年1月18日
[2]「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会電波監視計画」2018年9月20日

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