ドイツの自治体が健康リスクを理由に基地局用不動産賃貸の解約を求め提訴したが、裁判所は「リスクは契約締結時に知っておくべき」と認めず

 ドイツの自治体が所有する不動産を携帯基地局設置用に賃貸している契約について、健康リスクを理由に解除することを求めて自治体が提訴しましたが、ミュンスター地方裁判所は「原告の自治体がリスクを知らなかったとしても、原告が公法上の法人である以上、その責任は自治体にある」などとして、自治体の訴えを退ける判決を6月17日に出しました。
 英文記事[1]や判決文[2]によると、賃貸借契約は2018年3月に締結され、契約期間は15年間です。
 2020年5月に自治体の首長が交代し、同年11月に、契約を2021年5月31日で終了する旨、事業者側へ通知しました。その理由として、以下などを挙げました。

  • 携帯電話の放射線による健康への長期的影響(発がんリスク増加など)から、自治体は計り知れない(賠償責任の)リスクを負い、免責等もない。
  • 基準値以下でも起こりうる健康被害について自治体に情報が不足していた。
  • 契約締結時の5G規格の評価不足

 事業者の親会社であるドイツテレコムが、契約解除は無効であるとして拒否し、自治体側が提訴しました。
 判決は「公法上の法人である原告は、特に保護を必要とする私人ではない」「原告自身の提出資料によれば、国の制限値を守っていても移動無線設備の健康被害の可能性があるという議論は長年公になっていたし、『科学的根拠に基づく懸念』も契約締結前に知られていたという」「原告が行った決定は、原告自身の責任であり、被告へ転嫁することはできない」などと述べています。つまり、基地局で住民に健康被害が出たときに不動産所有者である自治体も責任を負うことを解約すべき理由にするのであれば、自治体たるもの契約締結時にそれを知っておくべきだった、と裁判所は言っているようです。結局、契約書にリストアップされている解約の条件はいずれも満たされていないので解約はできないと、裁判所は判断しました。
 なお、英文記事[1]には、自治体が敗訴したものの、基地局の不動産所有者も健康影響の責任を負う可能性を裁判所が明らかにした、と報じています。しかし、筆者(網代)がドイツ語の判決文をDeepLで翻訳して読んだ限り、裁判所自身がその可能性を認めたという記載はありませんでした。ドイツ語の情報を時々ご提供してくださっている電磁波研会員の方にも判決文を読んでいただきました。自治体が挙げている解約理由は理由にならないと裁判所は述べているが、裁判所自身が「不動産所有者が健康影響の責任を負う可能性がある」と認めた記載は見当たらないと、この方もおっしゃています。
 なお、判決文によると、この自治体と事業者との契約の中には「生命、身体、健康への被害による損害については、P(業者)は、法令の規定に従って賃貸人(自治体)に対して責任を負うものとする」という条項が含まれており、基地局による健康被害が発生した場合の業者側の責任について明記されています。
 ちなみに、日本において、基地局用に土地などを貸した「私人」が契約を解除して損害賠償や違約金を携帯事業者側から請求された事例はありません。【網代太郎】

[1]German court finds property owners can be liable for health impacts from base station antennas on their property
[2]判決文

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