日本臨床環境医学会学術集会で発表 当会の活動を紹介

 第31回日本臨床環境医学会学術集会で、当会(電磁波問題市民研究会)が初めて発表させていただきました。発表の著者は当会の事務局員(運営スタッフ)全員で、私(網代)が代表して発表しました。発表が長すぎて、時間切れで質疑応答を受けられず、反省いたしております。その後の懇親会では、私が自己紹介をする手間が省けてスムーズに交流できま、貴重な意見交換などができました。
 発表の内容をご紹介します。【網代太郎】


 電磁波問題市民研究会の網代と申します。
 私は母が化学物質過敏症だったことなどから、20年以上前から、本学会にはほぼ毎年参加させていただいていますが、私たちは研究者ではないので、学会での発表を考えたことはありませんでした。
 今回は、本学会の北條祥子先生から発表をおすすめいただきました。私たちの活動に若干でもご関心を持ってくださるとありがたいので、当会について紹介させていただこうと考えました。

当会の概要
 当会の目的は「電磁波に関する問題点を把握し、市民の立場から“疑わしきは回避する”という「予防原則」が確立するよう社会に提起し、かつそれが実現するように取り組みを行なう。」です(会則より)。
 会員は全国に約500名おります。一般市民、過敏症発症者、地方議員などさまざまですが、たとえば500名のうち過敏症発症者が何人いるとか、そのような内訳は把握しておりません。
 事務局は、事務局長である大久保の自宅で、千葉県船橋市にあります。
 運営は年会費3,000円やカンパ、物販収入等でまかなっています。物販は、電磁波問題を啓発するリーフレットなどで、何万円もするような電磁波防止グッズなどは、一切扱っていません。

当会設立の経緯
 1992年にスウェーデン国立カロリンスカ研究所の研究者がスウェーデン国内のデータを解析し、送電線から300m以内に住む子供が小児白血病を発症する相対危険比が、磁界曝露レベル0.1μT未満と比べて0.2μT以上で2.7倍になるとの結果を公表しました。送電線についての同様の研究報告はこれ以前にもありましたが、カロリンスカ研究所はノーベル生理学・医学賞を選定する機関として有名であることから当時、かなりのインパクトがありました。
 1995年、テレビ朝日系列の報道番組「ザ・スクープ」が「検証・電磁波」を放映、これで世間の電磁波問題への関心が一気に高まりました。大久保事務局長の知人であった、この番組の担当ディレクターは、番組史上もっとも反響が大きかったとおっしゃっていたそうです。
 市民の関心が高まる中、コンピュータによる合理化問題や消費者問題に取り組む有志らが電磁波問題の講演会などを開き、毎回、数百人単位を集めたそうです。
 そして、1996年10月、当会が発足しました。当初の名称は「ガウス・アクション」といいました。
 以上のような経緯ですので、当初は高圧送電線や発電所等からの超低周波電磁波問題が中心的なテーマでした。その後、携帯電話等の爆発的な普及により、現在では高周波電磁波も大きなテーマとなっています。

活動内容
定例会
 当会の活動内容として、まず定例会があります。毎月第3水曜日に、東京ドーム近くの「文京シビックセンター」で開いています。だれでも参加可能です。
 定例会では、当会の1カ月間の活動報告をします。そして、参加者からの質問、相談について、参加者全員で考えて、アドバイスをしたりします。
 都心なので電磁波がやや強い会場ですが、周囲に理解者を得にくい電磁波過敏症発症者にとっては、仲間や情報を得る貴重な機会です。また、当会のスタッフにとっても、実際に困っている方々の生の声を聞ける大事な機会となっています。

会報
 会員を対象に会報(ニューズレター)を2カ月に1回発行しています。基本は印刷物ですが、ご希望の方にはPDFをメールで送っています。
 会報には、電磁波による健康影響や対策に係る体験記など会員やその他の方々からのご寄稿、また、国内外の行政、立法、司法における電磁波問題に係る取り組み、対応事例の紹介や、また、国内外の研究報告の紹介などを掲載しています。

ウェブサイト
 会員以外へも広く情報発信するため、ウェブサイトを開設しています。会報記事の大部分は、会報発行の1~2カ月後にウェブサイトへ転載しています。

官公庁、企業との交渉
 役所や企業とへ質問状や要求書を送ったり、面談しての交渉なども行っています。特に会員の関心が強く緊急を要する事項などについて、随時実施しています。
 8月24日に衆議院第2議員会館で、携帯電話基地局問題に係る院内集会の開催を予定しています。当会スタッフも参加している実行委員会の主催です。
 また、パブリックコメントについても、随時応募しています。

相談対応
 当会の会員・非会員を問わず、全国からの相談に対応しています。

電磁波問題市民研究会への主な相談件数
(4月~翌年3月)

 主な相談内容としては、携帯電話基地局を阻止したい、スマートメーターを拒否したい、電磁波過敏症の方からは電磁波を防ぐ対策や医療機関を教えてほしいなどがあります。送電線、変電所、太陽光発電、メガソーラーの影響が心配、また、国の政策ですべての小中学生に電子端末を持たせてすべての教室にWi-Fiを整備するギガスクールについての相談などもあります。
 最近12年間の相談件数をまとめたグラフです。各年で特に多かったものだけ記録していますので、グラフの線が切れているからゼロ件だったわけではありません。
 電磁波過敏症についての相談は、ジワジワと増えています。
 スマートメーターに係る相談は、電力自由化された2016年以降、激増しました。
 楽天モバイルによる基地局設置が本格化した2020年は、携帯基地局に係る相談が特に多かったです。
 5Gに係る相談は、5G基地局が設置された後、体調が悪化したとの訴えもありますが、今のところは、情報を求めたり不安を訴えるものが多いです。

電磁波測定
 電磁波の発生源を正確に知ることができ、対策に役立つ可能性が大きいです。

講師派遣
 基地局問題を抱えている地域や、電磁波問題を学習したい地域団体、生協などからの要請に応じて派遣しています。

当会の成果-基地局阻止
 私たちの団体は組織としては小さいですし、そもそも、この種の活動で世の中を変えるということもすぐにはできませんが、それでも、いくつかの成果はあげていると思います。
 たとえば、先月まで295件の基地局計画を事前に阻止しました。一部、設置済み基地局の撤去も含んだ数です。
 計画段階の阻止と比べて、一度設置されてしまった後の撤去は難易度が高いです。
 「基地局を阻止したい」という相談に対して「裁判では阻止できない。周辺住民らに電磁波は決して安全とは言えないことを知ってもらおう」とアドバイスしています。基地局問題を訴えるチラシを自分で作り、周辺の住民へ、できればポスティングでなく手渡しで、と伝えています。当会の大久保事務局長を招いて、学習会を開くことをすすめています。地域の世論を高め、それを背景に基地局設置場所を携帯事業者へ貸している地権者を説得することができれば、基地局を阻止できます。
 携帯事業者が契約した地権者に対し、設置中止のときは違約金を求めると脅す場合もありますが、実際に要求された事例はありません。

当会の成果ースマートメーター
 スマートメーターは通信機能を持った電力量計です(電気だけでなく、ガス、水道もスマートメーター化の流れにあります)。通信は主に電波で行い、30分ごとの電力使用量データを電力会社側へ送信します。電気のスマートメーターについては国の「第4次エネルギー基本計画」で「スマートメーターを全世帯・全事業所に導入する」とされ、事実上の全戸強制とされました。
 中で円盤がクルクル回る旧来型の機械式メーターのことは、誘導型電力量計、またはアナログメーターと呼ばれます。
 当会が資源エネルギー庁、東京電力と交渉を重ねたり、全国の電力会社へ要求書を送るなどを続けた結果、アナログメーターも選べるようにするという目標は実現していませんが、事態は徐々に改善しました。
 最初は事実上の全戸強制でしたが、希望者についてはメーターから「通信部」と呼ばれる部品を外して、普段は電波を出さずに月に1回だけ検針員が持つ端末との間で通信するという対応をとるようになりました。しかし「電磁波で体調を崩すという診断書を示すこと」などの条件を付けられることも多くありました。結局、現在では、希望すれば無条件に「通信部」を外すという対応を電力各社はとっています。
 さらに消費者側が粘った結果、アナログメーターを使わせ続けているケースも多々あります。
 このように、十分ではないと言え、電力各社の態度を変えさせたのは、もちろん全国の多くの方々がスマートメーターにノーを突きつけたからではありますが、当会の地道な活動が貢献したところも大ではないかと、自負いたしております。

市民から医師、研究者へのお願い
 市民から医師、研究者の皆様へのお願を二つ申し上げます。
 一つ目は、携帯基地局やスマートメーターからの「弱い」電磁波で健康影響が出る可能性を否定しないでいただきたい、ということです。電磁波による体調不良について訴えても、まともに聞いてくれる医師は極めて少ないです。「電磁場不耐症(電磁波過敏症)はその発症メカニズムが不明であるのだから、化学物質と同様の仮定、たとえば「用量反応関係」などをナイーブに用いて解釈を行うべきではない」と、本堂毅先生も本学会で報告されています(会報第113号参照)。そもそも化学物質であっても、過敏症や環境ホルモン作用など、用量反応関係が当てはまらないケースもあると思います。
 二つ目は、電磁波過敏症の診断基準を作成していただきたい。化学物質過敏症の場合は、石川哲先生たちが診断基準を作ってくださったことが、病名登録を実現させた大きな力になったと思います。フランスのBelpomme(ベルポム。会報第100号101号参照)のように、電磁波過敏症のバイオマーカー(他覚的指標)について研究している方々がいることは、北條先生、水越厚史先生が本学会のジャーナルでも報告されています。そのような方々との交流なども、ぜひお願いしたいと思います。
 もちろん、研究者に一方的にお願いするだけでなく、私たち市民にも、市民が果たすべき役割があると思いますので、研究者、医師の皆様からの、率直なご意見、苦言などもいただければ幸いです。
 それぞれの立場で役割を果たしつつ良い連携のもと、電磁波に苦しむ方々が適切に支援されるように前進できると良いかなと考えております。

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