基地局問題院内集会(2023年8月)
1 貴省は、電磁波を環境汚染因子ととらえていますか。2010年、ISO(国際標準化機構)は企業を含めたあらゆる組織の社会的責任に関する指針「ISO26000」の中で、電磁波を環境汚染因子として明記しました。具体的な対策として、汚染源を特定すること、汚染を軽減すること、関連する健康リスクや汚染を減らすための対策について、地域社会と一緒に取り組むことなどが示されています。
I総合政策課課長補佐 環境省のIです。環境因子かどうかは環境省で定義が難しいと考えています。それを踏まえて公害っていうことで言うと、「環境基本法」って法律があり、そこでは環境の保全のうち、事業活動、その他、人の活動で生じる相当範囲の大気の汚染や水質の汚濁、土壌の汚染とかの形で取り決めをしており、これにより人の健康、または生活環境にかかる被害が生じるという形で定義をされています。こちらの定義では電磁波は現時点では、この環境基本法に基づく公害被害とは考えていないということです。電磁波の安全性については、総務省、厚労省からも説明がありましたが、国際的なガイドラインに基づき、総務省をはじめとする省庁において、それぞれ規制を行っていると承知をしており、関係省庁との連携の下で情報発信等を引き続きやらせていただきたいと思っております。
大久保 「環境基本法」にないからと、国民をばかにしないでほしいです。現行の「環境基本法」では公害の中に電磁波は入っていないということではなく、ISO26000では従来の環境因子に加え、電磁波も環境因子に加えられたと明記します。そういう新しいアプローチはしていないのですか。
I 現行の「環境基本法」には入っていませんが、今後、各省庁で基地局だけでなく、それぞれの省庁で規制をし、電磁界については知見を集約したものについて発表しており、それらを含め情報発信をしていくことが必要だと思っています。
2 公害の防止を所管している環境省は、電磁波を「公害」として位置づけてその予防のための取り組みを行うとともに、総務省とは異なる視点から電磁波による健康影響についての情報収集や研究も行うべきだと考えますが、貴省の見解をお示しください。貴省は、2018年(平成30年)4月、「身の回りの電磁界について」(環境保健部 環境安全課)において、私たちの「身の回りの電磁界」は安全だと、総務省の主張と同じことを繰り返しています。「強い電磁波に短時間被曝して温度が上がる熱作用」を防ぐことを念頭に策定された総務省の電波防護指針やICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)ガイドラインに依拠して判断するのでなく、「弱い電磁波を長時間浴びることで起こる非熱作用」にも目を向けるべきです。ICNIRPは非熱作用を否定しておらず、もっと研究が必要という立場です。基地局から出る電磁波の悪影響はまさに「微弱な電磁波を長時間浴びること」による被害です。電磁波を「公害」として位置づけ、基地局の野放しな設置に歯止めをかけ、被害の最小化に向けた取り組みに着手してください。
I 基本的に国際的なガイドライン等の見解に基づいて対応すると認識をしていますが、そういう情報発信についても、われわれとしてまとめ、勉強しながらやっていきたいと考えております。
3 野鳥類の急激な減少と基地局の増加の関連をどのようにお考えですか。貴省は,2016年~2021年の5年間、全国鳥類繁殖分布図調査を実施しています。それにより私たちに身近な鳥類であるスズメやムクドリなどの動向や、地域による減少率が明らかになりました。また最近は、スズメやカラスなど、地域によってはめっきり見かけなくなったという声も聞きます。2022年1月25日の東京新聞第一面に大きく「都心カラス激減」という見出しで、2021年はピークの7分の1になっているという研究調査結果が掲載されました。いずれも基地局からの電磁波が鳥類減少の原因としてあげられていませんが、4G5Gの基地局の設置が一気に進んだ時期でもあります。また例えば、渡り鳥に影響を及ぼす電磁波量は、ICNIRPガイドラインの1千分の1である、とするドイツの研究報告「Nature」誌オンライン版(2014年5月7日付けオルデンブルク大学の感覚神経学教授ヘンリク・モウリトセンHenrik Mouritsen)に掲載もあります。
T自然環境計画課係長 環境省のTです。全国鳥類繁殖分布調査、これは2016年から2021年に行われました。国内で繁殖する鳥類について現在の分布状況を明らかにするとともに、過去の調査結果との比較により繁殖鳥類、鳥類の分布の変化を把握するために行ったものです。1997年から2002年の間でも調査を行っておりましたが、これらの調査の結果によると、特に鳥類の分布の減少や個体数減少の要因として出てきているものは、農地などの生息環境の質、量などの変化、そして餌となる植物の減少これらの可能性が指摘されております。そのため、基地局の増加との相関関係は指摘されておりません。
4 鳥類の減少について、基地局との関連を含めて調査研究するよう求めます。
また、この20年間右肩上がりで増加している基地局の設置状況との関連を想定し、過去の全国鳥類繁殖分布図調査データと照らし合わせて公表してください。鳥類の全国的減少の原因の一つとして、この20年間の基地局の設置状況との関連が想定されます。過去の全国鳥類繁殖分布図調査データと基地局設置数の増加を照合していく作業は貴省が取り組むテーマではないでしょうか。
T 科学的知見に基づいて行われました全国鳥類繁殖分布調査において、鳥類の減少と基地局の増加の関係性にかかる指摘というものはございませんでした。ただ、環境省としては、環境省の持つ法律、環境省保全法などに基づきまして、自然環境の現状と変化を把握するために必要な調査については、今後も科学的知見に基づいて定期的に実施していく予定です。
5 基地局電磁波による生態系への影響について、「生物の多様性の確保」の観点から貴省として研究することを求めます。農薬やその他の生態系への影響を極力排除した状態にした土地と、基地局周辺の土地を確保し、長期間にわたってそれぞれの土地の比較したデータを分析することで、基地局電磁波が樹木や生物にどう影響するかをみる研究を貴省が取り組んでください。基地局電磁波について、総務省は「電波防護指針を守っていれば、人体への影響はありません」と言います。では、ヒト以外の動植物への影響はどうなのでしょうか。動植物だけでなくすべての生物は大きな自然のサイクルの中で見れば、すべて私たちの生活と繋がっています。小さな鳥や昆虫が生きていけない状況が続けばやがてヒトの命にも連鎖し関わってきます。基地局ができてから、野菜や花の形状異常ができるようになったという報告や、基地局周辺の樹木が枯れだしたという報告はいくつもあります。
「生物の多様性の確保」の観点からも、貴省はそうした出来事に真剣に向き合い、原因はなんなのか、電磁波は関係しているのか、あるいはないのか、調査研究する必要があるのではないでしょうか。このまま放置し、電磁波の影響を軽視すれば、生態系全体に取り返しがつかないダメージを与えている可能性があります。
T 環境省では、日本の生物多様性ですとか生態系サービスの状況を把握するために、生物多様性および生態系サービスの総合評価を過去に3回、実施しております。最新版は今取りまとめを行っています。この総合評価を学識経験者により行っていますが、基地局電磁波の生態系への影響に関する指摘というものはございませんでした。このため、環境省が指摘の研究に取り組むという予定はありませんが、今後も科学的知見に基づき、必要な政策を推進していきます。
大久保 総務省の基準とするICNIRPガイドラインの1000分の1で渡り鳥に影響を及ぼすという研究がありますが、これはご存じですか。
T はい、ご指摘いただきました論文は承知しています。こちらはヨーロッパコマドリを対象にした調査と理解しています。今回の全国野鳥繁殖分布図調査で増加した鳥類の中に、キビタキやセンダイムシクイという渡り鳥の個体数が増加している結果があります。そのため基地局が個体数の増加や、渡り鳥との因果関係は、一概にはちょっと難しいと考えています。
6 2003年9月発表のオランダ3省(経済、保健、通信)実施の「第3世代基地局影響調査」と同様の影響調査を、「4G・5G基地局影響調査」として日本でも総務省、厚生労働省、環境省の3省合同で行ってください。
S環境安全課課長補佐 環境省のSと申します。本件も調査も承知しております。ただ、先に総務省が答えたとおり、同様の理由で当省としても調査の予定はございません。
大久保 心がないよね。総務省だけでなくて、環境省としてそういう姿勢があるかどうかぐらいは示してくださいよ。
S オランダで研究されたことは承知しております。ただ、その後スイスでの再現実験がされておりますが、再現がされなかったこと、これを踏まえてオランダ応用化学研究機構も、一つ目の研究に懐疑的な結果が出ているということを示されており、当省のほうでも予定はございません。
7 電磁波の安全基準を、公害防止、環境保護を所管する官庁等が策定している国・地域はありますか。具体例でお示しください
S 総務省の令和3年度の報告。各国の人体に関する基準、規制の動向調査、報告書によると、ペルー共和国、ドイツ連邦共和国等において、環境に関わる役割を所管する機関が、ご質問の基準の政的機関の一つに掲げられていると承知しております。
大久保 日本もペルーやドイツを参考にして調査する意志はありますか。
S 日本政府では、国際的なガイドラインに基づき、総務省をはじめとする各省庁において、それぞれの規制が行われていると承知しております。
大久保 ペルーやドイツはなぜ調査をするのか。そのことを参考にして前向きに垣根を超えて調査することが大事なんです。【まとめ・鮎川哲也】